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第四話 絶望の行政処分

2017年の年末は、驚くほど平穏に過ぎていった。

世間はクリスマスに浮かれていたが、俺の心はずっと曇り続けていた。


いつ止まるかと心配だった高配当は、問題なく支払われていた。

キャンペーンは『クリスマススペシャルボーナス』を称し、性懲りもなくカネを配っていた。

毎回毎回スペシャルと言っていたのでは、何が特別なのかわかったものではない。


金融庁の査察は行われたようだが、それから2ヶ月近くが経っても何の動きもない。

ということは俺の懸念は杞憂で、監査は無事終了したのだろうか?


既に持てる限りの弾を撃ち尽くした俺には、もうすることがない。

というよりも「できることがない」と言ったほうが正しいか・・・


新規投資は停止し、ただ償還の日を待つことにした。

いずれ何らかのトラブルが起きてみんクレが倒産することになろうと、損益分岐点に到達した後なら問題ない。

あとは少しでも長く続いてくれることを祈るばかりだった。


しかし、そんな俺の淡い期待は早々に打ち砕かれた。

翌年に証券取引等監視委員会が検査結果を発表し、関東財務局を通じて『行政処分』を勧告したからだ。


<株式会社みんなのクレジットに対する検査結果に基づく勧告について>

出典:関東財務局HP


平成29年3月24日


2.事実関係


株式会社みんなのクレジットは、当社ウェブサイトを通じて、匿名組合の出資持分の取得勧誘を行い、その出資金により貸付事業を行っている。

なお、平成28年11月末現在、償還期限が到来していないファンドは、56本、出資金約17億6000万円である。

今回検査において、当社の業務運営の状況を検証したところ、以下の問題が認められた。


(1)金融商品取引契約の締結又は勧誘において重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為


ア 貸付先について誤解を生ぜしめるべき表示をする行為


イ 担保について誤解を生ぜしめるべき表示をする行為


(2)当社の業務運営について投資者保護上問題が認められる状況


ア ファンドの償還資金に他のファンド出資金が充当されている状況


イ 当社のキャンペーンにファンド出資金が充当されている状況


ウ S代表がファンド出資金を自身の借入れ返済等に使用している状況


エ 甲グループの増資にファンド出資金が充当されている状況


オ ファンドからの借入れを返済することが困難な財務の状況


勧告を受けた関東財務局は、3月30日に一ヶ月の業務停止命令と業務改善命令を下した。


要約するとこうなる。


・貸付先は虚偽で、ほとんどがグループの関連会社

・担保は未公開株式で、融資先が倒産すれば紙屑

・ファンドの償還金、キャッシュバックは投資金の流用

・S代表の借金返済、グループの増資にも流用

・財務状況からして返済は困難


見事な役満だ。

麻雀やってたら確実に勝てるぐらい。


多少のトラブルは覚悟していたが、事実は予想を遥かに超えていた。

銀行から融資が難しいハイリスクな会社も混ざっているだろうと思っていたが、そんなレベルの話ではなかった。

「経営者の借金返済に使った」って、詐欺以外の何でもないだろ・・・


業務停止命令が下ったことで、自転車操業は間違いなく破綻する。

一ヶ月後に経営が再開したとしても、信頼を失った会社に投資が集まるとは思えない。

親会社や借金返済に流れた金は、まず返ってこないだろう。

俺が長年かけて貯めてきた2000万円は、詐欺師の胃袋に吸い込まれてしまった。


だが、動揺しても仕方ない。

三つの前兆があった時点で、何か起こるのはわかりきっていたことだ。

どんなに絶望的な状態でも、俺は俺のできることをするしかない。


勝負はまだ終わっていない。

むしろ、ここからが本番だ。

一度目の賭けは負けたとしても、もう一つの賭けがある。


―そう、『裁判』という真剣勝負が、まだ残っているじゃないか―


償還によって返金できないなら、損害賠償請求で取り戻すしかない。

金融庁・関東財務局が不正を明らかにした以上、民事訴訟で勝つのは難しくないはずだ。

こうなったら、徹底的に争ってやる!


実際は素人が考えるほど簡単な話ではなく、後々甘い考えを反省することになるが、他に選択肢はなかった。

俺は携帯を開いて、『司法の専門家』に相談することにした。


先生は元気だろうか?

こんなテンプレ詐欺に巻き込まれたことを伝えたら、「また余計な仕事を増やしやがって!」と叱られるだろうか?

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