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第二話 分散投資という幻想

キャッシュバックの複利効果を利用すれば、年利は20%超え。

見逃すにはあまりにも惜しい。


だが、いくら利回りが高いといっても、ハズレの案件を引いたら目も当てられない。

融資先は匿名のためどんな会社かわからないが、どうやら不動産や中小企業が多いようだ。

高金利で金を借りるということは、結構資金繰りの厳しい会社のはずだ。

2000万円を投資した先が万一にも倒産することがあれば、こちらも破産しかねない。


悩みながらホームページを確認する俺の目に、一つの語句が飛び込んできた。


―分散投資-


みんクレは、投資家に資金を分散して投資するように勧めていた。


相場には「卵は一つの籠に盛るな」という格言がある。

一つの個別銘柄に資金を集中すると失敗した際に全財産を失うので、投資先を分散してリスクを抑えろという意味だ。


もし融資先にヤバい企業が含まれていても、一点張りでなければダメージは小さい。

仮にそのうち1割が破産して回収不能になったとしても、利益がそれ以上あれば損失をカバーできるだろう。


都合の良いことに、キャンペーンは時期や案件毎に分かれていた。

条件に合わせて小口の出資を繰り返すだけで、異なる企業に分散投資することができる。

さらに投資するたびにキャッシュバックが得られ、次の企業に融資する原資になるときた。


まさに最高の作戦。

有頂天になった俺は、次々と投資に踏み切っていった。


キャンペーンの条件を確認し、最も割りが良い案件に10~100万円程度を出資。

次のキャンペーンが来たら、それに合わせてまた資金を投入。


最終的に投資したのは、約40案件。

出資金額の合計は、2000万円を超えていた。


最初のうちはここまでつぎ込む気はなかったが、気が付いた時には止まれなくなっていた。

何度も投資を繰り返し、キャッシュバックと利息が少しづつ振り込まれるうちに、すっかり歯止めが効かなくなっていたのだ。


―分散投資でリスクヘッジしているから大丈夫―


こんな言い訳が、俺を暴走させていた。


俺の見通しでは、みんクレが二年間事業を継続すれば、安全に逃げ切れる計算だった。

当時の元本割れはゼロ件。

仮に危ない融資先が含まれていても、すぐに全部デフォルトするとは思えない。

二年ぐらい稼げば十分な金が貯まるから、そのうちに撤退すればいいと考えていた。


だが、それの見通しもまた甘かったと言わざるを得ない。

後の金融庁の発表でわかったことだが、みんクレの投資先は俺が想定していた「資金繰りが苦しいハイリスクな企業」ではなかったからだ。


実態は、想像より遥かに悪かった。

サイト上では「不動産ローンファンド」や「中小企業支援ローンファンド」と表示されてたが、それは民間の不動産会社でも中小企業でもなかった。


金が流れたのは、親会社のブルーウォールジャパン(現テイクオーバーホールディングス)。

なんと資金の95%以上は債務超過に陥っていた親会社と、身内のグループ会社に流用していたのだ。


ブルーウォールジャパンはみんクレの株主であり、代表取締役とその親族が経営する会社。

投資先のプライバシーを守るための匿名制度を利用して、グループ会社を一般の企業のように見せかけていたのだ。

身内以外の企業も申し訳程度に含まれていたが、その融資額は5%にも満たない。

もしもそれをあらかじめ知っていたら、俺も他の投資家も一切投資しなかっただろう。


顧客側がいかに案件を分散しても、融資先が同一企業では全くリスクヘッジにならない。

結果論だが、本当に疑うべきは高すぎる利回りではなく、HPで執拗に勧められた『分散投資』。

まるでリスクが分散可能であるかのように見せかけて、投資家を安心させる手口だったのだ。


「ソーシャルレンディングなら一般企業への貸付に違いない。

ハイリスクな案件が混じっていたとしても、分散投資でリスクを抑えられる」


そう思い込んで匿名性の罠に気付かなかった時点で、欲ボケた俺は敗北していたのだろう。


その後一年も経たずに、金融庁から行政処分が行われた。

作戦は完全に失敗。


一割どころか全案件の償還が停止して、俺は全てを失った。

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