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第二四話 仮初めの勝利

「原告らの請求はいずれも理由があるからこれを許容し、ここに判決する。被告らは連帯して原告の請求する各金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」


口頭弁論の終結日。

幾度もの審議の末に導き出された結論が法廷に響き渡る。


約三年に渡る、みんクレ(スカイキャピタル)と投資家の法廷闘争。

その決着は、22人の投資家の『全面勝訴』で終わった。

これまでの争いの経緯と裁決の内容が、裁判長の口から告げられる。


「被告スカイは貸付金の審査の段階から親会社や関係会社への貸付を予定していたにもかかわらず、ウェブサイトにおいてファンドが複数の不動産事業会社等に貸付を予定しているかのような表示を行った。貸し倒れのリスクが分散しているかのように誤解を与える表示をした上で、顧客に対して取得勧誘を行った。

また、借り入れた資金は不動産事業等の収益から返済する旨を記載しているが、実際には償還期限が到来していない他のファンドの出資金を充当していた。


貸付先から不動産・有価証券の担保を受け入れ、返済が滞った場合には担保権の実行により回収を図る旨を契約書面に示しているが、実際に設定された担保の大半が親会社の未公開株式となっており、中には担保が設定されていない融資も存在している。

グループの信用リスクが顕在化した場合には価値が大きく毀損される有価証券を担保しているほか、担保がないものが存在しているにも関わらず、ファンドの貸付金が保全されているような誤解を与える表示をして顧客に勧誘を行った。


被告Sはテイクの社員に指示を出し、ファンド出資金を自身の預金口座や債権者に送金させていた。

一部の会社はグループの他の会社を引受人とする増資を行っているが、それは貸付及び借入が繰り返された後に充当されている。


スカイは『分散投資』をメリットとして、広く投資を募集していた。不動産の取得資金、分譲住宅建設費用、飲食店の開業費用、治療院の短期ローンなど、多様な借り手が存在するかのような表示をしていた。

それを閲覧した一般の投資家は広く社会から資金需要のある事業者を募り、多様な資金使途のために貸し付けていると理解するのが自然である。『分散投資』は信用リスクを分散するために多様な投資案件が用意されており、その中から選ぶことができるという意味に理解される。


ところが、実際には3件を除く全ての貸付先は、被告Sが実質的に支配するグループ会社で占められていた。貸付の大部分はテイクの未公開株式や代表者の個人保証が担保となっていた。しかも、貸付先や資金使途について厳格な審査をした形跡はうかがわれない上、テイクから毎月多額の資金がグループ会社に流れていた。グループ会社の信用リスクが顕在化した場合には他の会社も返済が困難になり、担保となっている未公開株の価値も毀損され、債券の回収が困難になると言わざるを得ない。

スカイと貸付先は経済的な一体性を有しているため、信用リスクが分散していたとは認められない。したがって、被告の『分散投資』という表示は真実に反し、投資家に誤解を生じさせるものと言うべきである。スカイは初年度からグループ向けの融資比率を90%とすることを計画していたから、実態に反しているのを認識した上で故意に行ったと認められる。


このような計画を監督官庁が肯認していた証拠はなく、グループ以外の借入申込者からの提出資料も残されていない。被告が主張するような行政指導を客観的に裏付ける証拠もない。貸金業法の規制の観点から貸付先の匿名性が求められたとしても、同一の貸付先について殊更に別の対象であるかのような誤解を招く表記は正当化されない。したがって、被告の主張はいずれも採用することができない。


スカイのホームページ上の勧誘分限が全体として実態に反するものになっていた以上、全ての勧誘について不法行為責任を負う。被告Sはスカイが業務を行っていた当時の代表取締役であるから、原告に対して不法行為責任を負う。スカイ以外の被告らは勧誘が虚偽であると認識していなかったと主張するが、意図的に実態に反する表示をしていたのは明らか。被告Sの指示の下、スカイの募集と貸付に協力したと言うべきである。


原告は被告の不法行為により、請求にある損害を被ったと認められる。また、弁護士に委任して本訴訟を提起することを余儀なくされたことから、弁護士費用の請求も認められる。

よって、原告の請求を認容することとして、ここに判決する」


まさに完全勝利。

俺達原告の主張は全面的に認められ、被告の主張は悉く却下された。

過失相殺も案件の除外もなく、全てが違法な勧誘として判断されて無効になった。


判決文を聞き終えて、俺はそっと胸をなでおろした。

宿敵Sとの長い長い争いが、とうとう終わったのだ。


法外な報酬に釣られて2000万もの大金をつぎ込み、行政処分の知らせに絶望し、怒りのままに仲間を集って集団訴訟を始めたあの日々が懐かしい。

途中で被害者の会にスパイを送り込まれたり、差し押さえに失敗したり、お見舞金に惑わされたり、コロナに審議を遅延させられたり、信じていた相棒と喧嘩分かれもしたが、紆余曲折の上にようやく判決まで辿り着いた。

軽い気持ちで投資を始めた時には考えもしなかった艱難辛苦の道程で、周囲から石を投げられるようなこともあったが、ついに俺達の正義が社会に認められたんだ・・・


あとは判決の通り執行を行い、損害の回収に進むのみ。

被告側がどれだけ回収に応じるかはわからないが、法廷が認めた以上露骨な妨害はできないだろう。


俺達は勝訴の旗を掲げて、後に続く訴訟組や泣き寝入りをしていた被害者に伝えた。

何百人という被害者が、詐欺グループの敗北に湧き上がった。

しかし、勝利の喜びは長くは続かなかった。

被告Sは最初から自分が負けることを読んでいて、それに備えていたのだ。


つかの間の勝利に浮かれる俺達のところに、残酷な知らせが届く。

弁護士から届いたメールは、俺の脳髄を貫いた。

目に飛び込んできたのは、たった一言。


「Sが控訴しました」


どうやら、俺達の戦いはまだ終わっていないらしい。

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