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第二三話 信頼のファイナルアロー

もうちょっとだけ、いや、もうしばらく続くんじゃよ

これが最後の一撃だ。

傲岸不遜に弁解を続ける輩に全ての矢を撃ち切って、騙された投資家の怒りと決して折れない覚悟を見せつけてやろう。


第三の矢の名は『タンポ』。

担保とは債務不履行に備えて差し出される不動産や高級品であり、貸し倒れが起きた際は売却することで損害を補ってくれるものだ。

銀行が融資を行う際にも、借入額に応じた物的担保(土地など)や人的担保(連帯保証人)などが要求される。

個人が出資人となるソーシャルレンディングにしても、その保証なくして軽はずみに金を貸すことはあり得ない。


みんクレは元々「全案件に十二分な担保を備えている」と約束して投資を勧めたが、実際に債券が焦げ付いた時には全く役に立たず、被った損害は補填されなかった。

投資家の元に返ってきたのは元本のたった3%、サービサーに二束三文で債権を売り払った譲渡金が分配されただけだ。

担保で安心安全を保証しておいて顧客の信頼を裏切った罪は、ここで断罪されなければならない。


「被告は契約締結前交付書面において不動産や有価証券の担保を表示し、返済が滞った場合には担保権の実行により貸付金の回収を図る旨を示していました。しかし、実際は担保を差し入れていないか、差し入れた場合でもその内容はテイクの未公開株式でした。テイクの株価は4万円と評価されていましたが、これは被告らによって恣意的に設定された業績予測に基づくものであり、正当な根拠はありませんでした。テイクがグループ会社へ貸付して資金繰りをしていた状況からすると、いずれかの経営が行き詰れば他の会社も資金繰りが行き詰るのは明らかです。いずれの企業で出資金の償還が不能になった時点でテイクの企業価値が大幅に毀損されるので、その株式は担保として機能しないことになります。

したがって、ファンドからの貸付金が担保により保全されているとの表示は真実に反します!」


テイクが差し出した担保の最大の問題は、その大半が『自社株』であったことだ。

一部に価値の怪しい絵画や土地もあったが、それは事業停止命令を受けた後にこっそり売却されたらしい。

それが貴金属や一等地とは言わないまでも、上場企業の株式や債券であれば、いざという時に換金して投資家への返金に回すこともできたろう。

しかし、融資先企業の未公開株では全く介入に期待できない。


会社の売上が伸びず採算が悪化しているなら、それに応じて企業価値(株価)も低下しているはず。

融資の返済もできないほどに追い込まれているなら、その会社の株価も当然下がり、無価値に近くなっていると考えるのが自然だ。

上場しても誰も買わないような株に4万円という高値を付けて担保にするなんて、詐欺も同然だろ・・・・・・!


その指摘に対して被告は新たな資料、株価算定報告書を持ち出して回答する。


「投資したファンドに担保が設定されていないものは存在しない。4万円の評価は、株価算定の専門家である公認会計士が一般的な手法であるDCF法によって作成した株価算定報告書に基づく合理的なものだ。また、11月には10万円に評価替えをしたのも、10月の株価算定報告書を根拠とする合理的な価格である。テイクとグループ会社の間では多額の売掛金が発生するような取引はないから、仮にグループ会社が事業の失敗により資金不足に陥っても、直ちにテイクの財務状況が悪化し、企業価値が毀損されることはない。各社は主な事業が異なるから、いずれかの事業が不況に陥ったとしても、直ちにテイクの事業が不況に陥って企業価値が毀損されることにはならない。

よって、担保に関する表示には何ら虚偽はない!」


驚いた。

4万円どころか、10万円にまで上げていたのか。

こんな自転車操業で延命している非上場会社に10万円なんて、過大評価にもほどがあるだろう。

いったいどんな会計士にお駄賃を掴ませたら、こんな愉快な株価算定報告書をデッチあげてくれるんだろうか?

裁判に勝つためとはいえ、ここまで周到に根拠資料を用意するSの用心深さには、呆れを通り越して尊敬の念すら覚えてしまうほどだ。


あちらが4万円と言おうが10万円と言おうが、企業価値を高く見せつけるために作られた都合の良い数字を受け入れることはできない。

グループ会社の事業が分かれていようが、投資家から奪ったSの金で繋がっているのは変わらない。

彼らの事業が止まった時に換金ができないのであれば、それは担保として機能しないのだ。


「原告はスカイから勧誘された際、担保である未公開株の価値が暴落するリスクの説明を受けていません。貸付金が確かな担保によって保全されているものと誤信して投資しました」


「十分な担保があるなら、金融機関から超低金利で借りられる。利息制限法の上限に近い高金利の借入をせざるを得ないのは十分な担保を有していないからだと、投資経験のある原告なら容易に認識することができたはずだ。一部の募集には担保に『貸付先企業の自社株式』と明記されているから、原告が担保について誤信していたとは言えない」


インタビュー記事では十分すぎる担保があると安全性をアピールしておいて、今更それを翻すのか。

確かに投資においてリスクとリターンは比例するから、高利回り(ハイリスク)の商品に安易に手を出した俺の愚かさは否定できない。

だが、いくら一般論で投資家の責任を追求したところで、顧客を騙して身内の企業に金を流した責任からは逃れらないぞ。


「貸付先企業の株式という表記では、出資金をグループ会社の運転資金に集中的に流用するとは読み取れません。原告は事実を誤認させるために意図的にこのような表示をしたのです!」


「担保に『有価証券』と表示し、実際にテイクの株式を担保に取得している。外部の公認会計士が行った株式の評価に基づいて担保価値を決定したのだから、故意に騙したわけではない!」


ああ言えばこう言う。

どこまでも続く応酬と、決して意見が交わらぬ平行線。

原告と被告は一度も合意しないまま、討論は白熱していった。


主な三つの指摘に加えて、何点か議論を続けた。

スカイと他会社の一体性、S元社長から続くカネの流れ、過失相殺の可否など。

俺達は用意した全ての矢を撃ち切ってこの激戦は幕を下ろし、閉廷を迎えた。

被告がその違法性を認めることはついぞなかったが、相手がどんなに容疑を否認してもそれは大きな問題ではない。

最終的に判断を下すのは裁判官。

俺達投資家の証言と集めた証拠が裁判官の耳に届いて、良心に基づいた裁定が下されることを期待するばかりだ。


反省すべき点は沢山あり、腹立たしいことは星の数ほどあるが、それでもやれるだけのことはやった。

あとは数回の審理で事実確認をしたら、判決が確定するだろう。

既に国から二度の行政処分を受けて、ポンジスキームの判例にも当てはまっていることを考えれば、裁判員が買収でもされない限り原告側の勝訴は揺るがないはずだ。


「Sの野郎に振り回される日々も、やっと終わるのか・・・」


一息ついて、疲弊した俺は床に倒れ込んだ。

緊張の糸が切れたのか、その日はぐっすりと眠れた。


しかし、その安息は長く続かなかった。

数日後に届いた弁護士からのメールに、俺は目を白黒させた。


「なん・・・だと・・・これは本気なのか?」


そこに待ち受けていたのは、詐欺師が仕掛けた新たな罠。

―――蛇よりも遥かに執念深いSの悪あがきは、まだ終わっていなかったのだ。

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