第二一話 最強のファーストアロー
審理内容を小説に落とし込もうとしたら、とんでもなく時間がかかりました。
できるだけわかりやすくかみ砕いたつもりですが、元が相当難解な内容なので許してください。
<登場人物の解説>
原告:スカイ(みんクレ)に資金を騙し取られた22人の投資家
被告スカイ:虚偽の説明で投資を募った会社
被告テイク:集めた資金の大半を使い込んだスカイの親会社
被告S:スカイとテイクの元社長であり、事件の黒幕
<原告の主張>
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被告スカイ(旧みんなのクレジット)は、ホームページ上に真実に反する表示をして違法な勧誘を行った。
スカイと融資を受けた他3社はテイクの100%子会社であり、被告Sとともに共同不法行為を実行した。
民法に基づき、被告に投資金と遅延損害金の連帯支払いを求める。
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原告代理人である弁護士の宣誓により、俺達の請求が始まった。
ここから俺達はスカイが行った虚偽を一つ一つ指摘し、その不法行為を証明することになる。
この決戦に挑むために、俺達が用意した武器は三つ。
それは投資を始める際の説明に示されていたが、事実と異なっていた部分。
そして投資家を誤信させ、ポンジスキームに誘導した証拠でもある。
これがバトル漫画であれば弱い武器から順に使って最後の切り札で逆転するものだが、あいにくこの法廷闘争はノンフィクションだ。
最も有力な証拠を最初から全力投球して、一気に勝負を決めさせてもらう。
第一の矢にして、最強の矢『ブンサントウシ』を俺達は撃ち込んだ。
「被告はホームページ上で投資のメリットとして『分散投資』をうたっていました。それは一般的に信用リスクが分散されているという意味に理解されます。貸付先がファンド毎に異なっていて、あるファンドで信用リスクが発生したとしても他のファンドにはそのリスクが及ばないと考えられます」
これは投資家なら周知の事実。
『卵は一つの卵は一つのカゴに盛るな』という投資格言があるように、投資家は性質や値動きの異なる複数の金融資産に分散運用することで、安定的な運用成果を目指すものだ。
分散投資というなら、業種や地域の異なる事業に対して出資を行い、リスクを分散していなければならない。
同一の会社に集中して投資するなんてもっての他だ。
「ところが、実際には投資資金は分散されるどころか、100%親会社で被告Sが実質的に支配するテイクとそのグループ会社に集中的に流用されていました。被告が勧誘に用いた『分散投資』との説明は真実に反しています!」
弁護士の示す証拠とともに、俺達の第一矢は法廷に突き刺さった。
しかし、被告側は動揺した素振りすら見せない。
この審理に至るまで十分すぎる時間があったので、被告側も当然あらかじめ提出された答弁書に対して入念な準備をしていたのだろう。
あちらの弁護士が立ち上がり、俺達の供述に対して即座に反論を繰り出してきた。
「分散投資とは、『期間』や『利率』の異なる複数のファンドに投資できるという意味だ。ホームページ上でもその旨を明示しており、借り手が別とは記載していない。親会社やグループ会社に集中的に貸し付けたからといって、用いていた『分散投資』の意味に反するものではなく、投資家を誤解させるものでもない」
なんだ、この屁理屈は・・・
融資先が全て同一だとしても、時期や利回りが違えば分散投資になるのか?
確かに投資にも時間分散という考え方はあるが、同じ企業が異なる利息で借りたらリスクが分散できるという説明は無理があるだろう。
投資家からすればすぐにバレる詭弁でも、その道に詳しくない裁判官に見抜けるのかはわからない。
稚拙な言い訳も、経験のない素人には通じると思っているのかもしれない。
この無理のある弁解に対して、原告は即座に反論した。
「被告の表記は通常の意味と異なり、誤解を招いています。原告はスカイの勧誘文からファンドの信用リスクが分散されていると誤信して投資を行いました」
だが、被告は全く考えを曲げようとしなかった。
「原告はファンドの条件等を確認していたのだから、貸付先が同一である可能性が相応にあると認識していたと考えるべきだ。
それにも関わらず投資したなら、各ファンド間で貸付先が異なるという意味での分散投資という認識をしていなかったことになる」
なんという勝手な解釈・・・!
匿名の募集を見て、貸付先が同一なんて判断ができるものか。
いや・・・しかし、こちらの注意不足と言う意味では、痛い所を突かれたかもしれない。
実際にファンドの中には担保や事業内容等の条件が被っているものがあり、よく比較すれば同一の会社の可能性を考慮して投資を控える可能性もあったかもしれない。
被告の主張の正当性を認めるわけではないが、2000万円もの大金を扱う者として反省すべき点があるのは否定できない。
だが、そんな後悔をしている暇はない。
俺達はこの戦いに挑んだ以上、何としても被告の不正を証明し、勝訴を勝ち取らなければいけないのだから。
そのための証拠は、既にこの手にある。
裁判に先立って俺達22人は全て募集ページの内容をPDFにスキャンし、それぞれの案件の表記をまとめていた。
そこには当然、融資金の大半を使い込んだ親会社に対する記述もある。
みんクレがいかに実態を隠して投資を煽ったのか知らせるために、原告側はその多様な表記名を裁判官の前に並べた。
「被告はファンドの募集において、同一の貸付先であるテイクについて、
・関東~東海地区まで、ファミリー物件の開発を手がけるハウスメーカー
・都内を中心に不動産開発を手がける業者
・関東圏に展開する都内の投資会社
・都内に本店を置くM&A事業を営む会社
などと、同一の事業者を指すとは理解できないような表記を意図的に使い分けていました。
また、他のソーシャルレンディング事業者が募集時に貸付先が過去の別ファンドと同一の場合にはその旨を表示しているのに対して、スカイは追加募集・二次募集などの表示をせず、別の事業者であるかのような表記をしていました。これらに照らせば、被告が匿名性を利用して信用リスクの分散ができていると誤解するよう、意図的に仕向けたことは明らかです!」
これは流石に投資に詳しくない裁判官にも効いたはずだ。
並んだ投資先の名称はまるで全く異なっていて、別の企業と判定されるように意図的に仕組まれていたとしか思えない。
だが、俺達の渾身の一撃に対しても被告は動じることなく、あらかじめ用意していた反論の資料を提示した。
「スカイは当初からグループ会社に貸し付けることを目的に設立されたものではない。広く融資先を募集し、営業停止になるまでに少なくとも72社から融資の申し込みを受けていた。しかし、申込者の決算書や事業計画書から収益性・業績・財務状況等について審査した結果、その大半は融資が不可能と判定された。融資可能と判定されたのはわずか5社であり、最終的に実行に至ったのは3社だけだった。多数の融資申込者に対して厳格な審査を行った結果なのだから、『分散投資』を装ったものではない」
・・・72社!?
そんなに沢山の会社がみんクレに高利で融資を申し込んだって言うのか?
被告側は融資を検討した資料を示して正当な審査が行われた力説したが、俺は全く信じていなかった。
日本中に公募して多くの企業から申し込みを受けたところで、身内以外を故意に蹴落とせば箔付けにしかならない。
そもそも知り合いに声をかけて名義を貸してもらえば件数は増やせるのだから、本当に72社の申し込みがあったのかも怪しい。
被告はさらにこう続けた。
「間接融資型のソーシャルレンディング、貸付型クラウドファンディング等と呼ばれる構造のファンドにおいて、運営業者は貸金業法の規制により投資家に対して貸付先を特定し得る情報を提供してはならない。匿名の募集については監督官庁からの指導に従ったのであって、貸付先が別の業者であるかのように誤信させようとしたわけではない。よって、被告に欺罔の故意はない!」
客観的に見れば不可解な表記も、官庁の指示として責任を否定する被告。
こちらの主張に対して譲る気は一切ないのは誰の目にも明らかだった。
原告の第一矢はS一味に届いたものの、その心臓には至らず、奴等は堂々と撃ち返してきた。
何度も計画倒産を繰り返してきた策士だけあって、自己弁護を行うのはお手の物らしい。
分散投資の見解を語っただけでは、この虚偽の衣を打ち破るにはいささか力が足りないようだ。
だが、まだ戦いは始まったばかり。
奴等の詐欺を日の下に晒すために、俺達は『第二の矢』を弦につがえた。
第二矢・第三矢もできるだけ早く投稿したいと思うので、評価とブクマをしてお待ちください。




