第十九話 裁判を汚す欺瞞者
「潔く判決には従いたいが、子供達が投資家からの嫌がらせやストーカー行為を受けている。
原告だけでなく、私達の被害を救う裁判にもしてもらいたい」
この男は、いったい何を言っているんだろうか?
違法な事業で金を騙し取って訴えられておいて、逆に被害者気取り?
家族の心配をするぐらいなら詐欺などしなければいいし、全額返金して謝罪すればすぐに嫌がらせも止むだろう。
30億円を奪ってなお反省もせずに居丈高に開き直る態度に、俺は逆に感心してしまった。
生粋のトリックスターというのは、常人とは全く思考回路が異なるらしい・・・
みんなのクレジットの行政処分から始まった民事訴訟。
訴訟の提起から1年あまりの審議を経て、俺達は元社長のSと現社長のAの証人喚問に辿り着いた。
弁護士を代理に立てての裁判なので俺が直接法廷に経つことはなかったが、そこまでの道のりは険しかった。
誹謗中傷に耐えかねて仲間の一人が離脱し、集団訴訟には22人が参加。
まず原告側が投資の違法性と無効を主張し、被告側がそれに反論。
互いに書面を通じて主張と反論を何度か繰り返し、紆余曲折の末に互いの代表者が法廷に経つことになった。
行政処分から2年近く経ったことで、それぞれの会社は名前を変えていた。
みんクレはスカイ、融資先のBWJはテイク。
裁判を遅延するためか、それともインターネット検索から逃れるためか。
かつての面影がまったくなくなった会社に訴状を送り、俺達は賠償請求を行っている。
スカイ(旧みんクレ)が行ったのは、虚偽の説明を利用した集金。
ソーシャルレンディングの匿名性を利用して複数の企業に分散投資できるように見せかけ、親会社を含むグループ企業へ資金を横流しした。
さらにS社長の借金返済やキャッシュバックへの流用を行ったことで、二度の業務停止命令を受けている。
客観的に見れば、投資詐欺なのは明白。
しかし、Sはそれを頑なに認めなかった。
あくまで厳正な審査に基づく融資であり、「騙すつもりは全くなかった」と真向から反論し続けていた。
たとえ9割の資金を親会社に流しても、30億円の貸し倒れが発生しても、そこに違法性はないと断言した。
「私を信じて日本のフィンテックを信じて投資して頂いて、この結果を申し訳なく思う」
「融資先の匿名性は金融庁の政策ミスによるもので、投資家を騙す意図はなかった」
「金商法と貸金業法どっちを信じていいのか、監督官庁の指導が真逆だったので悩んだ」
「親会社へ融資が集中するのは初年度だけで、2年目からは次第に割合を落としていくつもりだった」
「お金が返せなくなったのは行政処分で信用を失い、担保である未上場株の価値が下がったから」
「融資先の上場が成功していれば、そのお金で返済できていた」
「私や子供も投資家に嫌がらせを受けた被害者だから、助けてほしい」
日本中に悪名が轟き、これまでの審議で散々不正を指摘されても、彼の厚顔不遜っぷりは全く変わっていなかった。
それどころか、ストーカー被害を盾に開き直り、逆に投資家側を責めてすらいた。
家族に対する嫌がらせは、確かに許されないことだ。
だが、その原因を作ったのは間違いなくS本人。
ポンジスキームで自転車操業を行わなければ、そもそも事件は起こり得なかった。
何百人という顧客に弁済せず自分の被害だけ救ってほしいとは、あまりにも虫の良すぎる話ではないか?
彼は官庁の指導に責任を転嫁しているが、他のソーシャルレンディング会社と比べてもみんクレの表記は杜撰で、とても説得力はなかった。
最大の融資先であるテイクだけ見ても完全に別々の説明で募集を行っており、これらが同一の企業と見抜けた者は皆無だろう。
・関東から東海地区までファミリー物件の開発を手がけるハウスメーカー
・都内を中心に不動産開発を手掛ける業者
・一都三県を中心に不動産開発を手がける業者
・関東圏、東海圏に展開する不動産開発を手掛ける業者
・都内に本店を置くM&A事業を営む会社
説明文もバラバラなら、名称はさらにバラバラ。
事業者Aや事業者Bといったアルファベット表記が並び、不動産ローンファンド、中小企業支援ファンド、M&Aローンファンドなど多種多様な案件があるように見せかけていた。
利率、運用期間、募集金額が全く異なる100以上の案件を見て、誰が同じ企業に融資していると気付くだろうか?
故意に表現を変えることで別々の会社・用途に投資しているように錯覚させたとしか思えない。
Sはこの錯誤を招く表記を「東京都の指示に従った」と証言したが、マスコミが東京都貸金業対策課に尋ねたところ、そのような指示をした事実は確認できなかった。
確かに日本の法律は借り手保護に傾いていて、その匿名性が出資者にとって不利に働いている事実はあるだろう。
だが、それは虚偽の説明で資金を集めて借金返済や親会社の事業に利用し、投資家に30億円の損害を与えたことに対する免罪符にはならない。
とはいえ、証言の自由は法廷において保障されている。
いくらサイコパスが詭弁を弄したとしても、論証なしにその発言を否定することはできない。
Sの自己弁護を俺達は一言一句精査して嘘を見抜き、契約の『違法性』を法廷の場で証明しなければ、損害賠償は認められないのだ。
欺瞞者の屁理屈に異議を唱えて、理路整然とした反論を!
虚偽に満ちた証言を論破し、真実を見つけ出せ!
どこかの推理裁判ゲームと似ているようで全く違う、22人の人生を賭けた論破合戦が幕を開けた―――




