第十七話 救世主の脅迫
「もう誰も信じられない・・・!」
俺は絶望した。
どうして、こんなことになってしまったんだ?
「スパイは許せない」と言っただろ?
「必ず奴を有罪にしてみせる」と約束してくれただろ?
そんなお前が、なんで俺を裏切るんだよ?
なあ、ナユ・・・
おかしいだろ、こんなの・・・
刑事訴訟はナユとヤマさんに任せ、俺は民事訴訟に集中していた。
というか俺も刑事告訴に加わろうとしたが、進行中の訴訟と利益相反の可能性があるため断られていた。
彼等は特定のメンバーだけが入れる専用の掲示板『刑事訴訟の会』を作り、Sを訴える準備を進めていた。
会の設立者ですら入れない壁の向こうで彼等が何を話し合っていたのかわからないが、熱意溢れる彼等のことだからきっと成し遂げてくれるだろうと楽観していた。
後で思い返せば、その甘い考えこそが組織の危機を招いていたのだろうが。
全てが順調に進んでいると思っていた最中、事件は起きた。
それは間違いなく、会を立ち上げてから最大の事件。
―被害者の会の代表が、Sを『脅迫』したのだ―
仲間から急報を聞いた俺は急いでブラウザを立ち上げ、みんクレ親会社のHPを閲覧した。
トップページには、謎の脅迫文(?)が掲載されていた。
そこには被害者の会代表による要求メールが記載されていた。
全文は長いため割愛するが、要約すると以下のようになる。
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我々二人は被害者の会代表であり、みんクレへの刑事告訴を目前に控えている。
しかし、調整お見舞い金に関して思う所があり、損害金1億245万円を支払うのであれば告訴を取り止めてもいい。
支払えば代表は辞任し、刑事告訴や行政への通報、マスコミへの暴露といった活動は取り止める。
この交渉に関しては互いに秘密保持条項をつけ、返金及び報酬受け取った時に全て完遂されたと認識する。
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この要求を会社側は拒否。
『違法な恐喝』にあたると判断し、被害届の提出・刑事告訴を検討すると書かれていた。
俺は絶句した。
開いた口がふさがらないとは、まさにこのことだ。
悪い夢でも見ているのだろうか?
どういうわけか俺達被害者の会が融資先を恐喝し、Sの詐欺を訴えるはずが逆に刑事告訴される立場になっていた。
もちろん、会としてこのような請求を行う方針はなかった。
Sと裁判外で交渉を持ち掛けるつもりは全くない。
なのに代表が脅迫メールを送り、1億円あまりを請求したことにされている。
確かに俺は集団訴訟で23人分の賠償金を求めているが、裁判所を通した請求なので違法性はない。
刑事告訴の会の代表で、今回要求を送ったとされるのはナユとヤマの二人。
Sのスパイを追放したナユが告訴を捨てて、Sに闇取引を持ち掛けたというのだろうか?
とても信じられない。
文章も彼の日頃の文体とはかけ離れているし、実態と異なっている部分が多い。
2人だけがSと話を付けても他のメンバーは納得しないし、会の閉鎖も被害届の取り下げもできない。
1億円もらっても被害者全員は救えないし、どうやって分配するのかも謎。
しかもメディアとの契約や議員への相談、スポンサーなど、ありもしない材料も記載されている。
Sがスパイを使って入手した情報を元に、代表をハメるための脅迫文をでっち上げたのだろうか?
あるいは本当にあの二人が自分達だけ助かるために、Sに取引を持ち掛けたのか?
この時点ではまだ判断が付かなかった。
金のためなら人は平気で裏切ることは既にわかっていたが、それでもこの展開は納得いかない。
個人的にみんクレと交渉するのは当人の勝手だが、会の代表の名前を使えば組織の全員に迷惑がかかるからだ。
それだけは決して許されない。
事態を重く見た俺は、被害者の会の掲示板にログイン。
既に怪文書は広く出回り、掲示板は炎上していた。
急いでナユあてにチャットを開き、厳しく問い詰める。
「この脅迫文はいったい何なんだ?」
「信頼していたのに、お前まで俺を裏切るのか?」
しばらく喧嘩のような問答が続いた後、俺はこの不可解な事件の真相を知ることになる。




