表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

第十六話 金は信頼より重い

前回更新から間が空いてすみません。

読者の応援があれば続けていきたいと思います。

「スパイが見つかったので、退会させました」


突然ナユから連絡を受けた。


退会させられたのは、先月被害者の会に入った男性。

彼はみんクレのスパイで、掲示板の情報をSに流していたらしい。


工作員が被害者に紛れ込んでくるのは想定していたので、入会前に簡単な身元確認を行っていた。

確認に使ったのは、みんなのクレジットの口座画面。

口座に記載された本名と投資履歴を見て、本当の被害者であるか判断していた。


連絡を受けた俺は、すぐに彼が入会時に提出した資料をチェックした。

データを見る限り特に違和感はない。

俺達と同じように数百万円を投資していて、償還を遅延されていた。


口座画面を加工して投資家を装ったのか?

まずそれを疑ったが、どうもそうではないらしい。

彼の投資自体は本物で、債権売却によって資金を失うことになった。

俺やナユと同じ被害者であることは間違いない。


だが、同じ被害者だからといって信頼できる相手とは限らなかった。

被害者が加害者側に『寝返る』ことも、現実にはあるのだから。


彼は掲示板の書き込みや共有ファイルから裁判などの重要情報を抜き取り、Sに送信していた。

以前2chに会の情報らしきものが流出していたことがあったが、それも彼の仕業だったのかもしれない。


なぜ仲間を裏切り、敵に売ったのか?

それはお金を取り戻すためだ。


「被害者の会の情報を流せば、お前の金だけは返してやる」


こんな甘言で唆されたらしい。


「俺ならいくら金を詰まれたって仲間を裏切ったりしない!」


俺の中に燃える正義感はそう叫んでいるが、実際はどうなんだろうか?

目の前に二千万円の札束が積み上げられていたとして、首を横に降ることができるだろうか?

誰にも知られずこっそりメールを送るだけで諦めかけた投資金が返ってくるなら、心が動くこともあるんじゃないか?


仲間を売るのは絶対に許せないが、動機は理解できる。

会員の目的はみんな同じだからだ

命の次に大切な種銭を取り戻すためなら、悪魔にだって魂を売るだろう。


仮に集団訴訟が上手くいって賠償が全額認められたとしても、実際の支払いに移るのは数年後。

破綻寸前の会社に、賠償するだけの資産が残っている保証はない。

だったらSの言う通りにした方が、金を取り戻せる確率は高いのでは?


そう考えた結果、彼はSの走狗になった。

裏切ることに良心の呵責があったかはわからないが、顔も知らない掲示板の仲間よりもお金の方が重要だったのは間違いない。


スパイとして働いた結果、彼は金を取り戻せたのか?

確証はないが、おそらくNoだろう。


先日の『調整お見舞金』に申し込んだ人は沢山いたが、実際に受け取った人は誰もいない。

外部のサイトに支払いを受けたという情報もあったが、おそらくサクラ。

100名を超える被害者の会にいないのだから、本当に支払われていないのだろう。


詐欺師が騙し取った金をむざむざ返すわけがない。

スパイが発覚して会を追い出された彼も、散々利用されてあっさり見捨てられた可能性が高い。


「もしかしたら、他にもスパイがいるんじゃないか?」


そう思って掲示板とメンバーをさらっと確認したが、どうせ根絶できないので諦めることにした。

民事訴訟・刑事訴訟の重要事項はごく一部のメンバーだけが入れる専用掲示板でしか閲覧できないから、外に漏れる心配は少ない。

掲示板の消去やメンバーの追放が行われたら大惨事だが、それができるのは管理者だけ。

管理者権限を持つ俺とナユさえしっかりしていれば、工作員に好き放題されることはないだろう。


けれど、その考えも甘かった。

中学生の頃に一度だけ女の子からもらったバレンタインチョコレートより甘かった。


金の魔力は信頼よりも重く、妖女のように人心を惑わせる。

このちっぽけな裏切りは、次に来る大事件の序章に過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ