第十五話 加害者のお見舞い
詐欺に騙された人は、その後もまた同様な詐欺に引っかかりやすいと言う。
詐欺師は一度支払った相手に強く執着して、二度も三度も請求を繰り返すそうだ。
お金を奪われて泣き寝入りしたからといって、それで被害が終わるとは限らない。
2018年2月、みんクレは30億円の債権を正体不明のサービサーに売却。
俺の出資金も97%が貸し倒れとなり、雀の涙ほどの残高が残った。
貸借関係が消滅したから、今後一切の返金は見込めない。
あとはもう裁判で白黒付けるだけと思った時、とんでもない連絡が届いた。
おそらく、過去のどんな詐欺事件でも起こったことのない珍事。
30億円の債務を踏み倒した翌月に、融資先の会社が『調整お見舞金』を発表したのだ。
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「みんクレ社の行政処分による営業停止から債権譲渡に至る経過の中で生じた投資家の皆様の投資損失額に相当する部分の金額について、『調整お見舞金』として支給させていただきます」
皆様へ送金するための入力フォームを開設いたします(氏名、住所、会員番号、損失金額等)。
フォーム開設後、必要情報をご入力頂き、弊社からの連絡をお待ち頂ければ、個別にご連絡をさせていただき、順次支払を開始させていただきます。
なお、弊社に対し訴訟・紛争を提起されている方については支払対象外としますので、支給を希望される場合は、訴訟取り下げ後に入力頂きますようお願い申し上げます。
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「なんなんだ?わけがわからない!」
「騙し取った会社がお見舞い?」
「借金を踏み倒しておいて、今度は弁済するってのか?」
突然の奇天烈な提案に、俺達は困惑した。
お金を返す気があるなら、融資元のみんクレを通じて償還するのが筋。
経路を無視して直接被害者に返金するのは、ソーシャルレンディングの仕組み上あり得ない。
全ての投資家が一括で損失になったのに申し込んだ人のみに返金するなんて、不平等にもほどがある。
さらに金融商品取引法39条において、業者が顧客に与えた損失を補填することは禁じられている。
はっきり言って、滅茶苦茶な提案だ。
既にカモになった投資家を、また別の手口に嵌めようというのか?
この発表を受けて、被害者の対応は大きく二つに分かれた。
一方は、「これ以上騙されてたまるか」と無視する者達。
もう片方は、「ダメもとで試してみよう」とお見舞い金に申し込んむ者達。
もちろん、俺は前者だ。
申し込み条件に『訴訟の取り下げ』がある以上、徹底抗戦を望む俺に選択肢はない。
こんな見え見えの罠・・・じゃなかった、本当に支払われるかもわからないものを待つより、係争を通じて正規の手順で取り戻すほうがいいに決まってる。
しかし、申し込む者の気持ちもわからないわけではない。
既に債権は正体不明のサービサーに移ったから、いくら待っても償還される可能性はない。
賠償請求しても回収の見込みが低いなら、そりゃ蜘蛛の糸に一縷の望みをかけたくもなるだろう。
普通に考えて、このお見舞金とやらが払われる可能性は極めて低い。
法律的にも無理があるし、そもそも返金の意志があるならこんな事件に発展していないだろう。
ならば、なぜこのような発表をしたのか?
いくつか仮説を立ててみることにした。
すぐ思いついたのは、以下の四つだ。
①訴訟人数を減らす
係争中の者は対象外なので、訴訟件数を抑える効果は見込めるだろう。
既に訴えている者が取り下げる可能性は低いが、これから提訴しようとする者はお見舞い金のほうに流れるかもしれない。
どちらにするか迷ってくれるなら、資金を逃がすまでの時間も稼げるだろう。
②被害者を分断する
Sは被害者達の結束を警戒しているらしく、5ch掲示板はたびたび荒らされている。
被害者の会にも、差し押さえを行った訴訟組を快く思っていない者が少なくない。
お見舞い金に申し込むか否かで被害者を二つの派閥に分けることで、互いに争うように仕向けているんじゃないか?
③支払いの意思を見せる
刑事告訴された時のために備えて、使える証拠を作っているのかもしれない。
実際には支払わなくても公の場で文面を残しておけば、騙す気はなかったと主張できる。
支払う気が全くない相手より支払う意思を示している相手の方が、裁判官の心証も良くなるだろう。
④もう一度カモにする
申し込みには『氏名、住所、会員番号、損失金額等』といった個人情報を入力する必要がある。
みんクレは腐っても金融庁の認可業者なので顧客のプライバシーを保護する義務はあるが、親会社がそれを守る理由はない。
誰とは言わないが、行政処分が決まってすぐ差し押さえを仕掛けてくるヤバい会員もいる。
そういう危険人物を省いて、申し込んだ人を再度罠に嵌める気かもしれない。
Sは最近流行りの仮想通貨取引業者を作ったそうだから、そちらに誘導する気だろうか?
本人が直接やらなくても、『何度も騙されてくれるカモ』リストを作って他の業者に売ることだって考えられる。
どれかが奴の企みなのか、あるいは全部なのか、それとも全く別の狙いがあるのかはわからない。
だが、いずれにしても調整お見舞い金が満額支払われて、すんなり被害者が救済されることはあるまい。
むしろS一味が新たな事業を立ち上げている以上、二次被害が心配になる。
もはや事態は俺の損失がどうとかいう話ではなくなっている。
奴等は30億円を奪っても満足せず、次の獲物を狙っていると考えるべきだ。
俺が始めた民事訴訟。
ナユが計画している刑事訴訟。
厳正な裁きをもって詐欺師の息の根を止めない限り、悪事の連鎖は止まらない。




