第十三話 詐欺師に天罰を
「皆で一丸となってS一味と戦い、社会的な制裁を与えましょう」
これが新たに被害者の会のリーダーとなった、ナユ氏の方針。
そして、俺を含む100人以上の被害者の新たな活動目標だ。
俺が会を立ち上げた動機は、あくまで民事訴訟を通じて投資金を取り戻すこと。
個人的に金融庁への通報ぐらいはしたが、それ以上の活動はしてこなかった。
しかし、ナユやヤマさんを始めとする心強いメンバーが加わったことで、被害者の会は活動の幅を大きく広げることになった。
ナユは行動力に溢れ、ヤマさんは聡明で、半ば諦めかけた俺達に新しい策を提示してくれた。
ナユの求める社会的制裁とは何か?
それは世間にみんクレの悪事を公表し、『刑事訴訟』で刑罰を与えることだ。
みんクレが業務を停止した後も、S一味は多数の企業を立ち上げていた。
今度は新しい融資会社に加え、仮想通貨交換業者を運営するらしい。
次から次へとよく詐欺のネタが沸いてくるものだが、これ以上被害者が増えるを防ぐためにも、俺達は行動を起こさなくてはいけない。
<被害者の会の活動>
・公的機関への通報
・メディアへの拡散
・民事訴訟(第二陣)
・刑事訴訟
新体制に移った俺達は、皆で一斉に公的機関へ通報を行った。
対象は金融庁、関東財務局、消費者センターだ。
ナユが通報文書のテンプレを作り、それを各メンバーが公的機関のHPに投稿。
残念ながら行政の腰は重く、金融庁は是正命令を下すだけで具体的な改善には結び付かなかった。
だが、今後の不正を防ぐために圧力をかけることはできたはずだ。
次のターゲットは、マスコミだ。
豊田商事や安愚楽牧場のような巨額の投資詐欺事件に比べると、みんクレ事件は世間の認知度が低い。
そこでメディアに頼んで、事件を取り上げてもらうことにした。
思い当たるテレビ局や新聞社に連絡を取ると、いくつかの会社から色良い返事が届いた。
真っ先に記事にしてくれたのは、ネット上で有名なYニュース。
記事が掲載されても、「騙される奴が悪い」と中傷するコメントも少なくなかったが、俺達も負けじとコメントを行って拡散に努めた。
また、ゴシップに強いT経済は民事訴訟の内容を紙面に掲載してくれた。
極めつけは、テレビ局の2社。
みんなのクレジットを中心とした詐欺事件を扱う番組を設け、その中で被害者の会員のメンバーにインタビューを受けてもらうことになった。
事件が大々的に報道されれば、ソーシャルレンディング業界全体を巻き込む不祥事は白日の下に晒されるだろう。
新たに集まったメンバーは、第二陣の集団訴訟を行うことになった。
俺達第一陣は直接弁護士に依頼したが、今度は訴訟ポータルサイトを利用して広く参加者を集める。
被害者の会以外からも応募が殺到し、955人の応援者と227名の参加者が集まった。
総被害額は、なんと5億4970万円だ。
そして、何よりも大事なアクションが『刑事訴訟』。
これだけは、絶対に外せない。
民事訴訟は私人の争いや利害の衝突を解決調整するものであって、犯罪として裁くことはできない。
刑罰を示して圧力をかけなければ、俺達同様裁判を引き延ばされるだけで終わってしまうだろう。
有罪になって禁固刑や罰金刑が下されるだけ、直接被害者に救済が行われるわけではない。
しかし、減刑を目的として自主的に返金をするケースもある。
税金の返還や被害回復給付金支給制度によって、被害者を助けられるかもしれない。
S一味の罪状とは何だろうか?
出資者を騙した、詐欺罪か。
自身の借金返済に出資金を利用した、横領罪か。
自己利益のために他人の財産を侵害する処理を行った、背任罪か。
判断に迷って尋ねた俺に、ナユは自信を持って答えた。
「とっておきのネタがあります。
今は詳細は言えませんが、必ず裁きを受けさせてみせます」
その後彼はヤマさんを含む数人の会員を引き連れて、被害者の会の分派である『刑事訴訟の会』を立ち上げた。
情報漏洩を防ぐために掲示板を分け、少数のメンバーだけで告訴の準備を進めることにした。
別の裁判との利益相反の可能性から俺は一線を引き、二人を信頼して後を任せることにした。
しばらくして、アセットカフェ分科会がみんクレへの刑事告訴を目的とした活動を開始。
ナユは秘密裏にソーシャルレンディングの情報共有を目的としたサイト『レンダータウン』を設立。
社会全体がこの醜悪な事件を認知し、詐欺師に罰を受けさせるために動き出した。
まさに順風満帆。
このままの勢いで勝訴を勝ち取って、あの男に40億円の返金を迫ろう。
そう思った矢先、とんでもない知らせが飛び込んできた。
それは、誰もが恐れた最悪の結末。
悪名高きバルクセール。




