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第八話 仮差押えの代金は300万円

「えっ・・・、差し押さえを先にやるんですか!?

しかも、追加で300万円払わないといけないって・・・マジ?」


弁護士との作戦会議。

これから始まる集団訴訟の計画を聞いて、予想外の手順に俺は驚いた。


ド素人の俺は、損害賠償請求とはこういう順序で行うものだと思っていた。


①民事裁判を起こす

②裁判に勝訴して賠償請求権が認められる

③被告が支払いに応じない場合、財産を差し押さえて回収する


これが一般のイメージで、実際にこうやって支払いがされるケースが大半だろう。

だが、それではいけないと弁護士は断言した。


「訴訟より先に『仮差押え』を行う必要があります。

でなければ、回収できる資産は残らないでしょう」


仮差押え。

法律用語では『保全手続』と呼ぶらしい。

簡単に言うと、訴訟の判決より前に相手の財産を差し押さえることだ。


仮差押えを加えると、手順はこのように変わる。


①仮差押えを行う

②民事裁判を起こす

③裁判に勝訴する

④本差し押さえを行って回収する


たとえ潤沢な預金や広大な土地を持った成金を訴えても、裁判終了時にその財産を回収できるとは限らない。

その前に預金が引き出されたり、土地が売却されている可能性があるからだ。

社会的に信用がある人間ならともかく、詐欺まがいの経営者ならその危険は大きい。


裁判に負けそうになったら、全ての財産を持ってトンズラ。

風呂敷に札束を包んで笑いながら逃げていく泥棒の姿が、俺の脳裏に浮かんだ。


金融庁から営業停止処分を受けた時点で、みんクレの未来は決まっている。

客から入ってくる金が途絶えれば、あとは出ていくしかない。


俺の2000万円を含む、投資家から集めた31億円の大半は、みんクレ親会社のブルーウォールジャパンの事業資金になった。

口座にはまだ残っているかもしれないが、時間が経てば消えていくだろう。


経営者の借金返済に使われるか。

従業員の給料や関連会社への支払いに使われるか。

隠し金庫や暗号資産にでも逃避させるか。


考えられる経路はいくらでもある。

倒産を見越した詐欺師は、間違いなく金を外に逃がす算段をしているはずだ。

もしかしたら、俺達のように訴訟を起こす相手を想定して、とっくに行動を起こしているかもしれない。


だとしたら、一刻の猶予もない。

すぐにでも『保全手続』を行って、口座が空になる前に財産を差し押さえなければいけない。

弁護士の提案は、的を射ていた。


「それにしたって、供託金300万円は高すぎないか?」


この大きな出費を前に、俺は溜息をついた。

裁判決着後の差し押さえと違い、仮差押えの場合は差し押さえる金額に応じた保証金を法務局に預ける必要がある。

万一間違いだった場合に資産を拘束された相手が損害を受けてしまうため、補填できるだけの賠償金を積まなければいけないのだ。


一般の債権回収の場合、供託金は20%程度。

俺達23人の請求金額は約1億円だから、メンバー全員の供託金は約2000万円

俺が拠出する分は、300万円になった。


「ここでもまた、ギャンブルをしなければいけないのかよ・・・」


一応みんクレの償還は続いているので、その分を使えば300万円はなんとか出せる。

いや、せっかく返ってきた分を再びみんクレ騒動に使うなんて、死んでも嫌だが。

でも、仮差し押さえしなければ財産を逃がされてしまうのだから、やっぱり出すしかない・・・


躊躇していれば、どんどん資金が流出して回収の可能性は低くなる。

戦うと決めた以上、腹を括るしかない。

俺は、なけなしの300万円を弁護士宛に送金した。

他の参加者も、きっと同じ気持ちだったろう。


かくして23人が2000万円の保証金をベットして、次のギャンブルは始まった。

差し押さえが成功すれば賠償金を確保でき、勝訴とともに供託金も返ってくる。

万一俺達が敗れることになれば、請求はおろか供託金の2000万円さえも奪われる。


引くに引けなくなった大博打。

結果はいかに。

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