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短編

今だけは……

作者: 牧田紗矢乃

「夢なんて見てる暇があるならさ、ちゃんと前見なよ」


 あなたはそう言って笑う。


「ちゃんと見てるって」


 そう返した矢先、ひび割れて剥がれたアスファルトの穴に自転車の前輪が落ちた。

 ハンドルを取られてよろめくとあなたとの距離が近くなる。


 ほら見たことか、とあなたはまた笑う。

 ただそれだけの放課後。

 ただそれだけの帰り道。

 ただそれだけなんだけど、本当に幸せなんだ。


「将来の夢」なんて大それたものは実はなくて。

 先生や両親が「夢を持ちなさい」としきりに言うからみんなが納得しそうな「夢」を掲げてみている。


 強いて言うなら、五年先も十年先もあなたと一緒にいられたらいいなって、ただそれだけ。

 ただそれだけなんだけど。

 それが一番難しいんだよね。


 ーー東京の大学に進学する目標は変わらないの?


 聞きたいけど、聞く勇気が出ない。

 うちはそんなお金はないからって去年から何度も釘を刺されている。


「バイトしてお金貯めて、東京までついて行こうかな」


 ……なんて言ったらあなたはどんな反応をするんだろう。

 きっと、「そこまでしてついて来なくていいよ」って言うんだろうね。

 離れていても友達だよって。でも、距離が離れたら心もどんどん離れていっちゃうんだ。


 知っているから苦しいしもどかしい。




 今夜、隕石が地球に衝突するかもしれない。

 明日、私が事故に遭うかもしれない。

 明後日、あなたが病に倒れるかもしれない。


 自転車のタイヤがアスファルトの溝に落ちるように、些細なきっかけで世界はガラリと変わってしまうから。

 考え出したらキリがなくて不安で胸が張り裂けそうになる。


 あなたは「考えすぎだよ」っていつものように笑ってくれるかな?


 けれど、もしこれがあなたとの最後の時間になるとしたら。

 もしこれがあなたが最後に見る私になるとしたら。

 やっぱり笑顔の私を覚えていて欲しいんだよね。


 だから今だけは笑っていよう。

 今だけは。

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