第9話:殺せない賢者、休暇を楽しむ?
遅くなりました、第9話です。
皆さん体調には充分気をつけて。
──どんな人でも何かと繋がっている。
"殺す"という行為は、その繋がりを絶ってしまうことを意味するのだと、俺は思っている。
*
俺たちは、ギルドが運営する宿で一夜を過ごした。
ギルドが運営しているだけあって機能性に優れた宿だった。疲れていたのもあってよく眠れた。
そして朝起きると、朝食を食べに全員で食堂に向かった。
「今日は自由行動ってことで良いんだよな?」
龍太郎が早速聞いてきた。
「ああ。今日は一人一人自由行動だ。パーティメンバーといるときはなかなかいけないような場所や店だって行ってくれて構わない。ただ一応18時までにはまたこの宿に集まるようにしてくれ。朝食を食べたら早速解散だ」
「あの〜、ちょっと良いですか?私とみ未来ちゃんは今日一緒に買い物にいこうと思ってるんですよ〜」
「それがどうかしたか?」
俺が聞くと、愛花は子供が大人からお小遣いをもらうときのようにわざとらしい喋り方をする。
「えーーと、ですね〜。『買い物』するわけじゃないですかぁ、お金もう少し貰えませんかね?」
「なるほど」
そういえばせっかくの休暇なのに必要最低限のお金しか渡していなかったからな。
「無駄使いはするなよ」
「はーーい」
「龍太郎もこれ」
「おっ、サンキュ」
さて、今日1日どう過ごすとするかな。
*
俺たちは朝食を食べた後、それぞれ分かれた。
「結局、何するかな」
とりあえず市場でも見にいくか……。
俺は、ギルドから市場の方へ歩いていく。
途中、美味しそうな串焼きの屋台があったのでそれを買って食べた。美味しかった。
──食べ歩きをしている内に市場に到着した。
「やっぱり王都の市場だけあってなかなか活気があるな」
市場にはものすごい数の人がいた。元の世界の都心並だ。
そんな中、俺は少し気になる店を見つけた。
(あれって武器屋か?)
翻訳魔法によって自動的に翻訳されているため、この世界の文字はしっかり読める。
『武器・アクセサリーのダイナ商店』と書いてある。
「ちょっと入ってみるか」
武器はすごく興味があるからな。
「おう、いらっしゃい」
店の中には、40代くらいの大きい男がいた。風貌からして、どうやら彼がこの店の店主らしかった。
(……おお)
店の壁いたるところに剣や弓など、様々な武器が置いてある。
中でも俺が気になったのは杖だ。
俺は魔法職だから杖があると良いのではないだろうか。
もっとも、今は杖は使っていない。というより持っていない。
王女様から龍太郎は剣を、愛花は神聖な武器(?)を、委員長は杖をもらったらしいが、俺は何故か何も渡されなかった。
これってもしかしていじめだろうか。
「お?兄ちゃん杖に興味があるのか?」
店主さんはフレンドリーに話しかけてくれた。
「あ、はい。自分は魔法職なので」
「そんな固くしなくて良いぞ。ちなみに職業は何だ?」
「あ……賢者だ」
「けっ、賢者!?兄ちゃんそれは冗談きついぜ」
「……何かおかしいことを言ったか?」
「賢者っていったら伝説級の職業だろ?それこそ異世界から召喚された英雄とかじゃなきゃ……」
ここで男は固まってしまった。
「黒い髪に黒い目……、ちょっと変わった顔立ち、賢者……、何故だか分からない隙のなさ……、まさかお兄ちゃんあの異世界の英雄か?」
「ああ、そうだ。ステータス・オープン」
いずれ皆に知れ渡ることなんだろうし、まぁ良いか。
俺はステータス(偽装中)を男に見せた。多分武器屋には見せた方が良いだろう。
「おいおいマジかよ……。こりゃとんでもない客が来たもんだな……」
「俺は賢者なんだが装備品を持っていないんだ魔法職の知り合いは装備品を貰ったのに俺は何故か貰えなかったんだ。なんとなくこの武器屋に行った方が良い気がしたから来てみたんだ」
これも『感覚強化』の効果だろうか?
どうやらこのスキルは、自身の善悪などを見分ける感覚を研ぎ澄ますものらしい。
数ある武器屋の中でこの武器屋が一番良いと思った。
「何となくって……、ま、まぁ、ゆっくり見ていってくれ。魔法職なら杖を持つのは常識だからな。杖を持つだけで魔法の威力が桁違いになる。杖無しでも戦えるレベルのやつなんてそうそういねえからな。なんならオーダーメイドも受け付けてるぞ」
やっぱり杖って必要なのか。王女様何で俺にはくれなかったんだ?……って言うか杖の有無でそこまで差がでるのか……。
それにしても、オーダーメイドか……、多少値は張るだろうがその方が良いかもな。
「やっぱりオーダーメイドの方が後々良いか?」
「まぁそうだな。値段は高くなるが自分に合った杖を使うかどうかで大分魔法の習得とかが変わるからな。コツが掴み易くなるんだと。あと自分に合わせたやつ作った方が結局長持ちするしな」
「そうか……、ちなみにオーダーメイドっていくらくらいなんだ?」
「物によるが……、杖だと材料費込みで大体1500000メイから3000000メイってとこだな。」
「……」
予想はしてたけどかなり高いな……。
店頭に置いてあるのは何百万メイから千メイくらいまで様々だが、オーダーメイドになるとみんなそんなに高いのか。
「今は払えそうにないな。生活費を全て叩いてでも買いたいわけではないし」
ここで店主さんがこう言った。
「……?別に一括で払う必要なんてないぞ。あんた異世界の英雄なんだろ?なんなら出世払いでも構わない。どうせそのうち大金持ちになるんだからな」
出世払いか……。
本当に俺はそんなに稼ぐ人間になるんだろうか?
「じゃあ、俺専用の杖を頼む」
「おう、まかせな!」
その後、俺は杖の性能の方向性など、細かいことをたくさん聞かれ、話しが終わったのは午後3時だった。
オーダーメイド品は明日にはできているというので、明日も休暇にしておいて良かった。
*
俺は店から出ると、どこかでお茶でもしたいなと思い喫茶店のような店を探していた。
「どこかに安くて良い店はないだろうか。……あ、またあの店にでも行くか」
という訳で、俺はスラム街へと向かうことにした。
もちろん現在地を確認しながらだ。
前回、俺は方向音痴であることが発覚してしまったが、俺はあくまで地図を見て新しい場所にいくのが苦手なだけで前と大体同じ道を行くくらいならできるはずだ。
……できるはずだ。
*
結論から言おう。
俺はがっつり道に迷った。
自分でも何故だか分からない。
気づくと俺は全く知らない場所にいた。
「なんでこうなった……?」
とりあえず、周りの人に現在地を聞くしかない。
俺は、近くを歩いている細身の優しそうな男に声をかけた。
「すみません、ここってこの地図のどのあたりか教えてもらっても良いですか?」
「ええ、構いませんよ。少し地図を見せて下さい」
そう言われて、俺は地図を男に手渡した。
「えーーと、このあたりですね」
男が指差したのは、俺が予想もしていなかった場所だった。
"スラム街中央広場"──つまりここはスラム街で合っていたのだ。
そして、俺が前に行ったあの店の近くだった。
道順は全く違うが、奇跡的に近くまで辿り着いていたのだ。
「ありがとうございました」
「いえいえ。この辺は物騒ですから気を付けてくださいね」
そう言い残して、男は笑いながら去っていった。
良い人だったな。あの人に聞いて良かった。
*
俺はやっとの思いであの店にたどり着いた。
王女様からもらった腕時計を見ると、時刻はすでに4時を超えていた。
「さあ、入るか……」
精神的にも肉体的にも物凄く疲れた。メロンソーダでも飲もう。そして休んだらすぐ帰ろう……。
そんなことを考えていたその時だった。
ドスッ!!
「おらっ、金出せや!」
店の近くの路地裏から大声が聞こえてきた。
何だ……?
「やめて下さい!」
「金くらい持ったんだろ?痛い目に会いたくなけりゃとっとと出せよ!」
カツアゲか?
こんな疲れているときに……。
……様子を見てみるか。
*
俺が路地裏をこっそり覗き見しているとはつゆ知らず、男は少女から金を巻き上げようとしていた。
少女は身なりがとても良い。どこかの貴族か何かだろうか。……でも何故スラム街なんかにいるんだ?
男の方は、黒い服を着てフードをかぶっているのでよく見えない。
ただ……、男の声は聞いたことがあるような気がする。
「おらっ!てめぇ貴族かなんかだろ?金くらいいくらでも余ったんだろうが!」
「それは出来ないです!このお金は大事な事に使うんです!騎士団を呼びますよっ!」
少女がそう言うと、男は笑い出した。
「騎士団とか……、マジで笑える。所詮俺には敵わないってのになぁっ!」
男が笑っていたそのとき──
「そこまでだ!!!」
俺とは反対方向から、防具に身を包まれた青髪の美青年がやってきた。
「あ゛っ!?何だてめぇ!」
「私の名は"ミルス・アライヴ"。このハント王国の王国騎士団副団長だ!少女から金を巻き上げようとする貴様を許すことはできない!」
「ふっ……、ふっふっふっハッハッハッ!」
「貴様……、何がおかしい!」
「てめぇら凡人は俺たちには敵わねーんだよ!!この異世界の英雄様にはなぁ!」
そう言って男はフードを取り顔を見せ、同時にステータスボードを表示した。
「うわ……」
俺は思わず声を漏らした。
フードを取ったその男は、俺のクラスメートだったのだ。
あいつの名前は"林 国夫。クラスの不良グループの1人だ。
まさかクラスメートとこんな所で会うとは……。
何故あいつはカツアゲなんてしているんだ?
王国騎士団副団長(?)の彼も困惑している。
「異世界の英雄だと……?それなら何故こんなところで犯罪を起こしているんだ!」
「何故?一応目的がないわけじゃないが、一番は楽しいからに決まってんだろうが。この世界の人間は俺たちより明らかに弱いからなぁ、俺みたいなやつにはまさに天国みたいな場所だぜ。」
「なんだと……?」
王国騎士団副団長のミルス?さんは明らかに怒っているな。
いや、俺もどうかと思っている。彼が怒るのも当然だろう。
……ただ、林は確かランクBだ。勝てるのだろうか?この世界の人間と比較するととんでもなくステータスが強化されているはずだ。
確か職業は暗黒騎士だったと思う。
「だからよお、とっとと逃げた方が良いと思うぜ?どうせ俺には勝てないんだからよ?」
「……どうやら話をしても無駄なようだな。だったら実力でどうにかするまで!」
そう言って、副団長の彼は林に近づき拳で攻撃しようとした。良い動きだ。しかもかなり早い。いくらなんでも殺すわけにはいかないから剣は使わないようだが。
しかし……
「それがどうした?」
林は拳をそのまま受けた。
しかし、攻撃は何かに遮られ、林はびくともしない。
「なっ!?」
それどころか、攻撃した本人が反動でそのまま倒れる。
「ぐはっ……!?」
ミルスさんが衝撃で倒れると、それを待っていたかのように腰にある剣を取り出して切りつけた。
腹部から大量の血が流れる。
彼はそのまま意識を失った。
「ひえっ」
カツアゲされていた少女は、そのすきに逃げていった。
「はっ、この程度かよ。子供が逃げちまったか。やっぱりこの世界のやつらは脆くてしょうがねぇ。……まぁでも、そういや人を殺しても経験値が入るってあいつが言ってたらな、試しに殺してみるか。俺らは異世界の英雄なんだから少しくらい許されるだろ」
そして林は、彼ににとどめをさそうとした。
「林、いい加減にしたらどうだ?」
「あ゛っ?」
俺はすでに飛び出していた。
さっきの攻撃は距離が遠すぎて防ぐことが出来なかったが、今度は間に合った。
「なんだ、てめぇかよ夜川。邪魔してんじゃねぇぞ、とっとと失せろ!!」
「それは出来ない。お前の行為は流石に見過ごせないからな」
「……ちっ、面倒だな。だったらかかってこいよこちとらランクBの暗黒騎士だせ。レベルもかなり上がったしなぁ」
「ランクBの暗黒騎士だぜ」と言われても、俺は何て反応すれば良いのだろうか。
「そんなこと言ったら俺はランクSの賢者だ。戦ったら俺が勝つんじゃないか?」
「ふんっ、確かにランクSはすごいのかもしれねぇけどなぁ……、俺の固有スキルの前ではどいつも無力なんだよっ!!」
固有スキル?
この自信、一体どんなスキルなんだろうか。
「教えてやるよ、どうせ防ぎようがないんだからな。俺の固有スキルは"闇の契約"。闇属性の魔法以外ではダメージを受けないって効果だ。そして、攻撃した相手への反動も大きくなる。物理攻撃も無効だしほぼ弱点はない。唯一闇属性魔法だけはダメージが通るが、俺は暗黒騎士だから闇属性の耐性がある。──つまりだ、俺は相手がどんだけ強かろうが勝てるってわけだ!!」
闇属性魔法以外のダメージがゼロになる固有スキルか……、やはり異世界の英雄の能力はケタ違いなんだな。
ただ……
「ならこれでどうだ?」
『マスターダーク』
「っ!?なんだこれ!?」
マスターダークは、ハイパーダークよりも更に強力な魔法で、魔力消費はなんと1000だ。
ここでさらに──
『束縛レベル2』
これで完全に林の身動きを封じた。
束縛はレベル1だと魔物のみが対象だが、レベル2に進化したことによって人間相手にでも使えるようになった。
「よし、取り敢えずこれで良いか」
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【報告】
殺しを嫌う者を発動しますか?
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(ああ、しておこう。)
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【報告】
人間を無力化することに成功したため、殺しを嫌う者がレベル2に進化しました。
殺しを嫌う者(レベル2)
→相手を、殺さずに無力化したときに発動可能。自分のレベルを20上げる。
また、人間を無力化した場合、レベルを30上げる。
ただし、相手を殺した場合獲得経験値が減少する。
〉〉〉レベルが上がりました。LV.1161→1191
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「相変わらず変にレベルが上がるな……」
それはさておき、早くミルスさんの治療をしなくては。
こんな時、回復魔法も使えて良かったと思う。
ー第9話 完ー
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