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第8話:殺せない賢者、初めての依頼に挑戦する③

 第8話です。


 みなさん体調には気をつけてください。


 俺は昔から考えていた。


 ──生き物が"殺す"()()を持つのは、自分が弱いからではないだろうか?


 自分が圧倒的に強ければ、"殺す"覚悟など持つ必要は無いのだから。


 たから、俺は強くなるしかなかった。


            *


「お!出やがった。(おさむ)出番だぜ!」

「ああ、任せろ!」

 俺はゴブリンの方へと走っていく。

 そして、ゴブリンは俺が近づいてくるのに気づき、俺に対してナイフのような物で攻撃を仕掛けようとした。


 だが──


「スーパーダーク!」

「ギア゛ア゛ア゛!?」

 俺はスーパーダークでゴブリンの目をまず塞いだ。


「束縛レベル1!」

 そして、今度はまだ使ったことのない魔法を使用した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【魔法名】束縛レベル1


【効果】低ランクの魔物の身動きを取れなくさせる。


【魔力消費】5


【属性】光/状態異常

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

「グア゛!?」


 うまくいったようで、ゴブリンは身動きが取れなくなった。

 ──そして


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【報告】


 殺しを嫌う者が発動可能です。

 発動しますか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

(もちろん発動する)


 この瞬間、俺は体が軽くなるような感覚を覚えた。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【報告】


 レベルアップ 1→11


 体力 2640→2850

 攻撃力 25→34

 魔力 2633→2830

 防御力 35→65

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 ……かなり上がったな。正直言ってこのペースだとすぐに体力と魔力は10000に到達しそうだ。


「身動きは取れないようにした!もう攻撃してもらって構わない!俺は他の場所にいるゴブリンもどんどん無力化していくから、そのあとに続いてどんどん狩ってくれ!」

「おうよ!」


 龍太郎がすかさずゴブリンを斬りつけた。

 ゴブリンはその場に倒れて動かない。

(大丈夫そうだな……)





           ***




「……っぉぁ……うぇ……」


 やはりだめだ。

 魔物を倒すごとに毎回理由を付けてみんなの元から離れているのだが、戻している。


 俺が班長である以上、俺は弱音を吐くわけにはいかない。常に、いつもの俺でいなければならない。殺す時以外の俺でいなくては。


 ……俺は卑怯者だ。

 自分だけが殺す()()を持たずにいる。

 "魔物を殺すか、魔物に殺されるか"のこの世界で、自分は魔物を殺さない。殺す()()は仲間たちだけに持たせている。




           ***




 結果をまず言うと、俺は今日だけで計32匹のゴブリンを無力化させることに成功した。

 仲間たちは俺が無力化したやつ以外も狩るそうなので、もっと数はいっているはずだ。

 今日だけでかなりの数のゴブリンを無力化できたので、当然レベルはものすごく上がった。


 ……というより、上り過ぎな気がする。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】夜川 平(よるかわ おさむ)


【レベル】321


【体力】9015


【攻撃力】345


【魔力】9000


【防御力】995

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 これが俺の今のステータスだ。ステータス偽装は発動していない。


 まさか俺も1日でここまで上がるとは思っていなかった。これが異世界の英雄のステータスの上り方なんだろうか?それともこの世界ではレベルが上がりやすいのか……?分からないことだらけだ。




            *




「さて、2日目が終わりいよいよ明日が最後なわけだが、今のところ何匹討伐できているんだ?」

「えーと、ちょっと待って下さいね」

 そう言って愛花は、自分のバッグの中に入っている袋を取り出した。


「ゴブリンの討伐証明部位は"耳"ですからね。ちゃんと取ってありますよ」

 魔物には、それぞれ討伐証明部位があり、それをギルドに持っていけば討伐したとみなされるわけだ。いちいち魔物の死体を抱えてギルドに行くのは無理だからな。


「うーん……、数えるの面倒くさいです」

「おい」


「私が数えます。貸してください。」


 委員長が数えてくれるようだ。


「えーと……、45匹です」

「数えるの早いな……。さすが委員長」

「いえ、これくらいすぐです。それよりも、私が思っていることが一つあります」

「ん?何だ?」


 なにやら立山さんが改まって話し始めた。


「私たちと夜川君では力の差があり過ぎるんです」

「え?」

「私と三河(みかわ)君は昨日もゴブリンの討伐に向かいました。しかし、結果狩ることができたのは4匹程度でした。今日も、夜川君が無力化してくれたのを除くとおそらく10匹も狩れていないんです。つまり、私たちは夜川君に頼り過ぎになっています」


 ああ……確かに俺は32匹無力化したが……。


「でも無力化するのと殺すのは全く違うだろ。()()には精神力もいるし、それにサポートなしで戦うんだ、それは普通じゃないか?むしろ、俺は」

「そうでしょうか……。ただ、私たち3人と夜川君に圧倒的な差があるのは事実です。夜川君はランクSで私たちはランクA……、この差だけはどうしようもありません」


 なるほど……、確かにランクの差は大きいのかもしれない。この世界に来た日の夜、ランクAの石川がランクSの高野にボコボコにされたらしいからな。同じレベル1だとランクSの方が強いのは事実なんだろう。王女様も言っていたし。


「……確かに俺の能力は強いのかもしれない。だが、俺は班長を任されているんだ。王女様から、何かあったとき班員を守れなければいけないと言われている。俺だってまだ殺しができない分助けてもらってるんだから、別に班員1人だけで手柄をたてる必要もないだろ」

「それはそうですが……」


 立山は自分が役に立っていないと思っているんだろうか?

 そんなことは全くないんだが……。


「まあ、どちみちレベルがもっと上がればどうなるか分からないだろ。そういえば3人はレベルどれくらい上がったんだ?」

「ふふふ……、見て驚かないで下さいよ!生き物殺さない方向音痴さんなんかよりぐんっとレベル上がってるはずですよ!なぜなら私は三河君と立山さんにずっと張り付いてましたからね!一緒に戦ってるパーティメンバーには経験値が入りますから。単純計算で夜川君より10匹くらい多く討伐に関わってることになりますからね」


 そう言って愛花はステータスを自慢気に俺に見せた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:北 愛花(きた あいか)


 レベル:57


 体力:1240


 攻撃力:59


 魔力:605


 防御力:161

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おー、かなり上がったな」

「ふふ、ちなみに方音さんはどうだったんですか?」

「方向音痴をそうやって略してるやつを初めて見たが……、とりあえずこれが俺のステータスだ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前:夜川 平(よるかわ おさむ)


 レベル:32


 体力:2658


 攻撃力:95


 魔力:2600


 防御力:280

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 これでもステータス偽装を使っている。


「な゛!?レベルは私の方が25も高いのに……。ランクの差がここまで酷いなんて……!」


 ……やっぱりステータス偽装を使って正解だったな。


 どうやらランクSとランクAには本当に差があるらしい。

 正直申し訳ない。




            *




 その後、俺たちはステータスを共有した。

 とは言っても、俺のステータスは偽装されているが。


 いやまてよ、班員の3人ももしかしてステータス偽装使ってたりするんだろうか……?

 ……まあ、考えてもしょうがないか。




            *




 俺たちのゴブリン退治も3日目──つまり最終日だ。

 3日目の午後3時までが期限だそうなので、今午前11時30分くらいだから、あと休憩含めて3時間半ってところか。


 それにしても、かなりの数のゴブリンを討伐できたんじゃないだろうか?

 俺が無力化したやつだけでもこの2日で100匹程度いる。


 まぁ、俺は無力化するだけで討伐はしていないのだが……。


「……それにしても、かなりレベル上がったな」


 なんと今の俺のレベルは1()0()1()1()である。

 たった2日でこれはいくらなんでも上り過ぎだと思う。

 これが"チート"というやつなんだろうか?


 いつから俺は異世界転移物の主人公になったんだろうか。

 まぁ、ランクSのやつはきっとみんなこんな感じなんだろう。

 それに、自分が強くなるということは決して悪いことではないからな。いざってときに仲間を守れなければ班長失格だ。


「あと3時間……、気合入れていくか!」




            *




 そして、ついに初仕事が終了した。

 俺は結局、あの後の3時間で計15匹を無力化することに成功し、それにより俺のレベルは1161になった。早くもインフレしている。


「お疲れ様でした。冒険者のみなさん。貴方達のおかげでゴブリンの数がかなり減ったと聞いています。全部で159匹の討伐と聞きました、この数はこの依頼を定期的に冒険者に受けてもらうようになってから初めての数字です。初依頼と聞きましたが、誇ってください。報酬は冒険者ギルドの方で受け取りができるはずです。本当にありがとうございました。ぜひまたこの村にいらしてくださいね」


 最後に村長がこう言ってくれた。

 そして俺たちは、村を後にしたのだった。




            *




「みなさんよく頑張りましたね!3日で159匹のゴブリンを討伐したなんて初めて聞きましたよ。これが報酬の79500メイです」

「ありがとうございます」


 俺にとって初めての給料だ。元の世界ではバイトとかは特にしてなかったからな。なんか感慨深いな……。


「方向音痴さん、何ボーーっとしてるんですか。さっさと受け取って終わりにしましょうよ」


 おっと、感動してつい突っ立ってしまっていたようだ。


「悪い、初めてこの世界で自分が稼いだお金を貰ったもんでな」


 俺はお金を受け取った。


「オサムさん、お疲れ様でした。──ところで、次の依頼のリクエストとかはありますか?」

「あ、班員と相談したんですけど、初めての依頼で疲れたから1日か2日くらい休暇を取ろうかと思ってます。依頼を受けるのはその後で良いですか?」

「あっ、全然構いませんよ。じゃあ2日後くらいにまた来てください。それまでに良い依頼がないか探しておきますから!」

「じゃあ俺たちはこれで」

「はい!また……!」


 ここでミレイアさんが何か思い出したような顔になった。


「そういえば、パーティ名って決まりましたか?」

「あっ……」


 そういえばパーティ名を決めたんだった。

 ……本当にあれで良いんだろうか?


「あ……、パーティ名は……、」


 俺はさりげなく委員長の方に目を向ける。

 本当にあれで良いのか?


 ……立山は目を逸らした。


(おい)


「どうかしましたか?」


 ミレイアさんが聞いてくる。


「あっ、いや、このパーティ名って後から変えたりできますか?」

「え、ええ、まあ変えることはできなくはないですけど……?」

「じゃあ仮のパーティ名ということで良ければ登録お願いします。えっと……パーティ名は"異界・生物保護英雄団"……です」


 単純に恥ずかしい。

 自分で"英雄団"とか言うか普通。


 ──いや、確かに異世界の"英雄団"ではあるんだけれども。

 愛花が絶対に"英雄団"を入れろと言ってきたので俺と立山は渋々入れた感じである。


 ……ただ、俺と立山もネーミングセンスが無いことが判明したので、もう終わりのような気はするが……。

 ※龍太郎は論外。

 

 さて、ミレイアさんの反応はいかに……。


「異界・生物保護英雄団……、……良いと思います!」

「え」

「少なくとも今期の新人パーティの中では一番良いです!」

「え」


「それに、オサムさんは少し調子に乗ってる弱い新人とは違うんですから自信持って下さい!異界・生物保護英雄団、良いと思います!」

「あっ、はい……」


 強引に押されてしまった。

 まぁ、これで良かった……のか?


 ……っていうか今期の新人どんだけヤバイんだ?


 まさか俺のクラスメートじゃないだろうな……。

 ……弱いっていうから違うか。


「これで正式にオサムさんのパーティは登録されました。これからもよろしくお願いしますね!」

「あ、はい」


 ──こうして、俺たち第5班は"異界・生物保護英雄団"というパーティ名でギルドに正式登録されたのだった。



 -第8話 完-

 お読みいただきありがとうございます。


 間違いなどがあれば指摘していただけると嬉しいです。


 

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