第5話:大激突
第5話です。大変遅くなりました。
「……ヨルカワ……先生……私……の生徒を……助けて……ください!!!」
俺は、寮への帰り道で、何故か顔が涙で濡れている2年Bクラスの担任──ポーラ先生に呼び止められた。
「詳しく、聞かせてください」
そんな、普段の彼女からは想像できないような差し迫った表情を、俺は重く受け止める。
「──じ……実は……」
時は、一回戦の第1試合後まで遡る。
「────さん──カ─ラさん──カルラさん!!」
スタジアムの医務室にて、数少ない【回復】の魔法属性を持つ2年Bクラスの担任──ポーラが、先程の試合で重傷を負った自身の生徒であるカルラに、必死に話しかける。
「…………」
だが、体中が先程の炎属性の魔法によって焼けてしまい、カルラは既に意識不明の状態だ。
「……!!……どうすれば……」
ポーラは、このレスト王国の魔術学校に来て3年のまだまだ新人であるが、その珍しい魔法属性【回復】や、持ち前の魔法力により、若くして魔術学校の教壇に立つまでに至ったのだ。
だが、そんな彼女でも、どうすればいいのか分からないほどに、事態は深刻だった。
「……どうして……」
何故か分からないが、【回復】魔法によって火傷を治そうとしても、大して治らないのだ。
普段ならば、簡単、とはいかなくても段々と治っていくはずの火傷なのに。
(……まずい……このままじゃ……!?)
ここままでは──彼女は死んでしまう。
(……どうにかして火傷を治さないと…………そもそも、何で私の魔法が効かないの?……簡単なものとそうではないものがあるとはいえ、死人じゃなければちゃんと回復できるはずなのに……なんで……)
こうしているうちに、どんどん火傷は治るどころか悪化していく。
(……まさか……何かが干渉している……?あの相手の子が使った魔法……確か、普通の『ファイア』だったはず……)
「……っ、だめ、分からない……!」
ポーラは、珍しく焦りの感情を表に出す。
瀕死の生徒の前でそんなことを言っているようでは先生失格だと、ポーラは思った。だが、それでもどうしようもないほど追い詰められていたのだ。
「──でも……やらなきゃ…………」
ポーラは、追い詰められても、懸命に【回復】をし続けた。
正直、奇跡的に回復しても、もう今までと同じ生活は送れないだろう。
どんなに優秀な回復魔法の使い手でも、焼けた肌、内臓、髪などを完璧に再生することなど、普通はできない。それに、どんな【回復】魔法使いであっても、心まではどうもできない。
(彼女の魔術師としての人生は……もう……)
──そして、それから数時間後。
「……え?……カ、カルラさ……」
ポーラの懸命な治療を、死神が嘲笑うかのように、カルラの呼吸は──止まった。
***
気がつけば、カルラの体は、もうだれか分からないレベルまで焼けてしまっていた。
むしろまだ心臓が動いているだけでも、奇跡だった。
それはすなわち『死』が、すぐそこまでやってきているのだ。
【回復】魔法の限界。それが近づく。
(そん……な……。ここまできたら……もう……私には……)
ポーラは確かに優秀な【回復】属性持ちの魔術師だが、大教会にいる最も優秀な聖者には及ばない。ここまで重症の人間を治せる人間など、そもそもほぼ存在しないなのだ。
(──何か、何か、この子を助ける方法があるはず………………あ)
そんな中、ポーラは、何故かある日のことを思い出していた。
(あれは確か……食堂で……2年Cクラスのイディア=エンブルさんが、あの王女メーレス様と食堂で突然喧嘩(?)しだした日……王女の魔法でかなりのけがをしたイディアさんを……)
「……あれ?」
ポーラは、そこで引っかかる。
よく考えてみると、その日、イディアはポーラの元へは来なかったのだ。
怪我をした人は、学校で【回復】属性はポーラだけなので、必ずポーラのところまで来るのに。
「……そう言えば……イディアさんの怪我を治したのって……!」
ポーラは、そう言いながら走り出していた。
(彼なら……!彼ならカルラさんを……!)
***
俺は、ポーラ先生と共に大怪我をしたという生徒がいる場所まで走りながら、詳しい状況を聞いた。
少し経って、俺とポーラ先生は、スタジアムの治療室へと到着する。
「これは」
ポーラ先生の話通り、既に呼吸が止まっており、もはや一刻の猶予もない。もうそろそろ10分が経とうとしているだろうか。
「私が、なんとかします」
「お願いします……どうか」
ポーラ先生は、祈るようなポーズをして、こちらを見ている。
「──『フル・ヒール』」
俺は、とりあえず俺が使える中でもかなり上位の魔法を使用する。
魔力量はかなりあるので、その辺は惜しみない。というか、あり得ないようなレベルアップをしたわけで、魔力を気にするという概念など俺にはもう存在しなかった。
その甲斐あってか、少女の体はみるみるうちに再生していく。
焼けて爛れてしまった肌も、体を飛び出してしまった内臓も、失われた髪も全て。
同時に呼吸も再開された。
だが──
「……?」
(……何か、様子がおかしいな。体のやけどはしっかり治っているはずなんだが)
彼女のやけどは確かに完全に治っている。
だが、彼女の表情は険しいままだ。
『回復したばかりだからまだ険しい』というよりも、何かが解決していないような感じがする。
「……『鑑定・弱』」
─────────────────────
【魔法名】鑑定・弱
【効果】対象の状態を表示する。
【範囲】対象1体
【魔力消費】200
─────────────────────
俺は、彼女の状態を確認するべく、最近獲得したばかりの『鑑定・弱』を発動した。
「……これは」
─────────────────────
【対象】少女
【対象の状態】状態異常:やや強力な呪い
─────────────────────
「……呪いか」
と、なると──
「『解除』」
取り敢えず、これをつかってみるか。
その名前の通り、状態異常を解除する万能な魔法だ。
かなり強力な魔法だ。
これで治らないとすると、どうしたものか。
俺は少し不安になる。
「──────あ……れ……?……ポーラ先生?」
しかし、俺の不安とは裏腹に少し経つと彼女は目を覚ました。
「……嘘……良かった……カルラさん!!死んじゃう……かと……うう……!!」
ポーラ先生は、泣きながらカルラという生徒に抱きついた。
抱きつかれた本人は、やや困惑気味だったが。
(取り敢えず良かった)
女子生徒の状態を確認したが、異常はなかった。
ただ、そもそも何故呪いの状態異常にかかっていたのか、全く分からない。
そのためそれについてポーラ先生に聞いてみたが、先生も全く心当たりがないという。
先生の推測では、どうも2年Aクラスとの試合中に何かがあったのではないか、と言うことらしいが……。
(はぁ……確か俺の生徒は明日2年Aクラスと戦うんだったよな?……念のため、保険をかけておくか)
一通り考えたので、俺はその場から立ち去ろうとしたのだが(かなりお腹も空いていたので)、ポーラ先生に呼び止められた。
ちゃんとお礼が言いたいと、先生は言って俺を離そうとしなかった。
だが、本当に疲れていた上に空腹であり、魔法も使って割と限界に近かった俺は、お礼を言われるほどのことはしていないと言ってそのまま寮へ帰ろうとしたところ、何故か今度はポーラ先生は俺についてきた。
そして何故か、治療を終えた女子生徒もついてくる。
「……えーと……どうしたんですか?」
俺は、疲れながらもポーラ先生に話しかける。
「──ヨルカワ先生。ご飯まだでしたよね?取り敢えずご飯、いきましょう。そこで話したいことが山ほどあるんですから!!当然おごります!!カルラさんも来て!」
「はぁ……分かりました……」
(……まぁ、いいか……)
***
「──さて、皆さん!!!!いよいよ大会2日目です!!!!」
司会の大声が、スタジアムに響き渡る。
いよいよ大会2日目──すなわち、例の対決のときである。
スタジアムの控え室には、既に選手がスタンバイしている。
「──良いか、お前ら。とっとと潰すぞ」
2年Cクラスに勝負をふっかけた2年Aクラスの大将が、Aクラスの残りの代表選手全員を睨みつける。
「……いいか、しくじったら容赦しねーからな?どうも詳しくは聞かされてねーがこの魔道具にも欠点があるらしい。……とにかく相手を潰すことだけ考えろ、良いな?……特にフレイ。お前、昨日は随分とやらかしてくれたよなぁ?」
「……あ、あはは……すみません……」
「……試合中の不慮の事故は殺人にはならないとは言ってもなぁ……殺したら普通に失格なんだよ。メーレス様のためにならなきゃ意味ねーんだよ」
***
「──さて、みんな、聞いたわね?」
「……はい」
「……うん」
「ええ」
「……うん」
2年Cクラスの大将──イディア=エンブルが、2年Aクラスとは対照的に、仲間を少し心配するような眼差しで見つめる。
「どうやら、この試合、簡単にはいかないかもしれないわ。昨日夜急にヨルカワ先生が部屋に入ってきたときには……おどろいたけど…………とにかく!!本当に注意してよね!!」
「──さぁ、皆さん、いよいよ第二回戦の開幕です!!!!!!!!!」
ここで司会の声が、待合室に響いた。
全員、顔を見合わせる。
「じゃあ、やるわよ!!!!!!」
「「「「おーー!!!!!」」」」
―第5話 完―
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遅れてすみませんでした。




