表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/157

第7話:殺せない賢者、初めての依頼に挑戦する②

 2日後と言いつつ1日後になりました。




(うっ……)

 頭が痛い。

 ……ここはどこだ?


 俺はたしか──


「あっ、やっと起きましたね!方向音痴さん」


 なんだそれ……


「あれ?愛花か……ここは?」

「村長さんが紹介してくれた村の宿屋です。(おさむ)さんが突然倒れたのでみんなでここまで運んできました」


 そうだったのか……


「……そうか、すまなかった。龍太郎と委員長は?」

「今もまだゴブリンを倒してますよ多分。(おさむ)くんをここまで運んだらそのまま畑に戻りましたから。(おさむ)くんの分まで頑張るそうですよ。まぁ、でもそろそろ6時なので2人とも帰ってくるんじゃないんですかね」


 そうか……、俺の分まで2人がやってくれているのか……。


 明日は頑張らないとな。

 ゴブリンを倒し……


 ん?


 待て。

 俺は生き物を殺せないのに、今までどうやって依頼を達成しようとしてたんだ?

 そういえば……倒れる直前に何か聞こえたような……


「ステータス・オープン」



──

 報告


 洗脳が解除されました。


 洗脳を解除したことにより


 『洗脳耐性』


 を獲得しました。


 洗脳の詳細はこちら→詳細

──



 ……洗脳?いつの間にされていたんだ?



──

 <詳細>


【洗脳ランク】S


【内容】・魔物の命を奪うことの躊躇いがなくなる。

    ・戦うことを恐れなくなる。

    ・魔物に対して殺意をわかせる。

──



 これは……。

 いつ誰がこんな洗脳を俺にかけたんだ?

 そして何故あのタイミングで洗脳が解けたんだ?


 そもそもこれは、かなり危険な洗脳じゃないか?

 まるで魔物と戦うのを強制させるための洗脳だ。


 とは言え──


「ひとまず洗脳は解けたし、まぁ良いか」

「何か言いましたか?」

「いや、なんでもない」




            *




 ──時刻は深夜2時。


 俺は戻った仲間と宿屋の食堂で夕飯を食べたあと、部屋でずっと考え事をしていた(村長は男子1部屋女子1部屋の計2部屋を無料で使わせてくれた)。


 ちなみに、同室の龍太郎は部屋に入ると、疲れたのかすぐに寝てしまった。悪いことをしたと思いつつ、明日は俺も頑張らないと、と決意する。


(でも、生き物を殺せない俺がパーティの役に立つにはどうしたら良いのだろうか?)


 龍太郎が寝たあとも、ずっと考えていた。


(攻撃しない役としては回復役や盾役があるだろうけど、回復役は愛花がいる。盾役は賢者の俺じゃむいてないだろう。そうなってくると、やはり俺は攻撃役に回らなければならないだろう。となると、殺傷力のない魔法で相手を無力化できればそれが一番だ。知性があって分かり合える可能性があるのならば俺は絶対に殺さないし仲間にも殺してもらいたくはない)


 だが、そんなことも言っていられない状況は必ずある。そんなときに俺はどうするべきなのか。

 現にこの村の人間はゴブリンに村を荒らされ、冒険者を頼るほかない。ゴブリンを駆除できなければ自分たちが淘汰されてしまうのだ。


 俺は正直、虫も殺せない。

 元の世界にいた時から、『殺し』を考えるだけで心が締め付けられ、気絶しそうになった。

 これは正直、心の癖のようなものなのかもしれない。

 少なくとも俺には意思のある魔物を自分の手で殺すことができるイメージが全く沸かない。


 例えば、ほぼ知性のない魔物──それこそ今回のゴブリンのような魔物は仲間に倒してもらえばその場は凌げるかもしれない。

 だが、殺しを自分ができないからと言って残酷な行為を自分の分まで仲間にやらせるというのは、それこそ倫理的にどうなんだろうか?

 俺も、なんとかごまかしごまかしでもみんなの役に立ちたなければならない。


 ここで、俺は自分のステータスボードを開いた。



──

 <固有スキル>


 

 ・手加減(LV.1):相手のHP.が1割以下であり、自分

         の次の攻撃で相手が死亡する場合

         発動可能。相手のHP.を1だけ残し

         て気絶させる。


 ・殺しを嫌う者(LV.1):相手を殺さずに無力化した

            場合に発動可能。自分のLV.

            を10上げる。

            ただし、相手を殺した場合

            に獲得できる経験値が減少

            する。

──



 俺は30分ほどこの画面を眺めていた。

 これらを使って、まずは仲間のサポートからでもできないだろうか。


 特に"殺しを嫌う者"はかなり重要なスキルだ。


 相手を殺してしまうと経験値の入りが悪くなるが、それを差し引いてもすごい。"相手を無力化する"の基準が分からないとは言え、相手を無力化したと認められればレベルを10上げることができるからだ。

 ゲームとかだと、レベルが上がれば上がるほどレベルが上がりにくくなるが、このスキルは10固定で上げることができるのだ。

 しかも、殺しを嫌う者(()()()1())ということは、スキル自体も進化するということではないだろうか?

 そういう風に考えると、俺の能力はかなり恵まれているのではないか?


 少し希望が見えてきた。これをうまく使えば、ステータスを簡単に上げられるだけではなく、仲間がけがをするリスクを圧倒的に減らすことができる。



「……」

 ただ、一つ気になったことがあった。

 ステータスボードには、"相手"を殺さずに無力化と書いてあるのだ。

 この"相手"というものの定義は何だ?

 相手が魔物じゃない……例えば人間だとしたら、レベルを上げることができるのだろうか?


 それに、2つ目の文にも引っかかる。

 "ただし、相手を殺した場合に獲得できる経験値が減少する。"

 この書き方だと、"相手"にもし人間も入るのだとしたら『人間を殺した場合にも経験値が入る』ということにならないか?

 考えたくはないが、もし人間を殺した場合に経験値が入るのだとしたらそれを利用して弱い民間人を狙うやつがいてもおかしくない。


 もちろん、この世界の普通の人間はそんなことしてまで経験値を稼ごうとはしないと思うが……、異世界の英雄は別だ。この世界に愛着のない異世界の英雄が魔王を倒すという大義名分のもとに殺人をしだすことも無くはないかもしれない。


 ……とりあえず、人間を殺した場合にも経験値が入るかもしれないということは黙っておこう。





            *




 時刻は朝7時。俺とパーティメンバーの3人は食堂へとやってきていた。


「昨日はすまなかった。今日は頑張るから許してくれ」


「おう、でも頑張りすぎてまた倒れんなよ。愛花が言ってたぜ、お前虫も殺せないんだってな。俺てっきりお前サイコパスなのかとおもってたぜ」

「夜川君のおかげで冒険者になれたんですから別に大丈夫です」


 俺が謝まると、2人はそう返してくれた。

 今まで関わったことはほぼなかったが、本当に良い人たちだと思う。

 ……サイコパスは気になったが。


「それで、今日の予定についてなんだが、一つ良いか?」

「夜川君が地図を持つ予定がないならそれで良いです」

「そんなに俺の道案内は酷かったのか……」

「ええ、酷いとかそういうレベルじゃないです。だってあんな複雑な道の間違え方他の人じゃ真似できませんよ!」

「そ、そうか……。あ、それでなんだが、まず俺がゴブリンを拘束したい。俺の固有スキルは少し特殊だからな。」

「えっと……、確か"殺しを嫌う者"でしたっけ?」

「よく覚えてるな。"相手を殺さずに無力化すると通常の倍の経験値が貰えるかわりに、相手を殺すと貰える経験値が半分になる"という能力だ」


 俺はステータスボードを見せた。

 

「確かそうでしたね」


 俺は今スキル"ステータス偽装"を使用しているため、他人にはステータスボードの内容が少し違って見えている。また、王城でステータスの共有を行ったときも"感覚強化"が働いた(?)ことによりステータスを偽装したため、立山は本当とは少し違う内容を覚えていたわけだ。


「というわけだから、まずゴブリンの動きを封じるのをなるべく俺にやらせて欲しい。かなり強力な高速系魔法があるから問題ないはずだ。申し訳ないが、もう少し慣れるまで時間が欲しい」

「そうか、分かったぜ。なるべくお前のところに集めるわ。じゃあとりあえず昼までゴブリン狩りってことで」

「ありがとう。囮は任せてくれ」


 本当なら、ゴブリンであっても殺したくはない。

 命を奪うということは、『全ての繋がりの一部分を切ってしまう』ことだと思うから。

 だが、今の俺には全ての敵を殺さずにどうにかなるほどの力はない。だから、せめて最低限の犠牲ですむようにしたいと思っている。


「決まりですね。」

「回復は私に任せて下さい〜。」


 俺たちのとりあえずの戦い方が決まった。




           *




「あっ、そう言えばまだ私たちパーティ名決めてませんね!」

「あー……、そう言えばミレイアさん言ってたな。」


 パーティでギルドに登録する際には、パーティ名を登録しておくとなにかと便利なのでみんなしているらしい。まぁ、分かりやすいしな。


「じゃあさ!"龍太郎第一団"なんてどうだよ!」

「ダサいです。というか貴方リーダーじゃないでしょ」

「すみませんが却下でお願いします」

「うん、もうちょっとみんなの要素が入ってるやつにしよう」


「ちっ、なんだよ。せっかく名案だと思ったのによ」


 いや、迷案ではあるが……。


「じゃあ、みんなの案を一つづつ紙に書いて、あとで投票しましょうよ!」

「良いんじゃないか?」


 というわけで、俺たち全員紙に自分の案を書いた。

 一応、誰が書いたかは分からないようにしてある。


「じゃあ、一斉にオープンするぞ。はいっ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドラゴン・タロウ・チーム


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 光の英雄団:方向音痴(osamu)撲滅隊


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 異界守護団体五班


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 生物保護団


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「………………」

 「えーと、この中から選ぶってことで良いんですね?」

 「あ、ああ……」


 (個性…………いや……俺が言えたことではないか……というか……)



 「愛花、何だ方向音痴(osamu)撲滅隊って!」

 「えっ、なんで私が書いたってバレたんですか!?」




 「えーと、気を取り直して、結局どうしますか?」

 「あ、ああ、そうだな。一応投票するか?」

 「それなんですが、みんなの案を合体してみては?」

 「なるほど……。ならどう合体させれば良いと思う?」

 「私的には……」




            *




 結局、パーティ名を決めるためだけに午前をほとんど使ってしまった。



 そんな俺たちのパーティ名はこれに決まった


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 異界・生物保護英雄団


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……本当にこれで良いのだろうか?



 「まぁ、とりあえずはこれで良しとするか……?」


 ちなみに、龍太郎の案は却下された。

 

 

 ー第7話 完ー

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新はーー日後と言っても、多分ずれるので言いません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ