番外編8:ランクSを除く異世界の英雄の奮闘
番外編8話です。
「──はぁ……はぁ……。……一体何体いるんだろ」
魔物によって廃墟と化した街。
その真ん中で、異世界の英雄の1人が息を切らす。
(…………僕にもっと力があれば……)
***
「港町『リーク』が1日で陥落した」
この言葉は、多くの人間に衝撃を与えた。
それは当然、異世界の英雄にとっても同様であった。
「── 港町リークは、もう既に人間が住めるような場所ではなくなってしまいました。沿岸部では、逃げ遅れた人が大変多く、かなりの死者も出ました。……今回、魔物に占拠されてしまった港町を取り戻すべく、Sランクを除く異世界の英雄の皆さまに力を貸していただきたく思います。生き残った者たちのためにも、どうか、よろしくお願いします」
ハント王国王女が、各地へと向かったSランクの異世界の英雄を除いた全員の前で、そう言った。
「もちろん、皆さま全員が戦闘に特化しているわけではごさいません。ですので、力を貸していただける人は後ほどこちらへお願いいたします」
そう言って、王女は退室する。
王女が退室すると、部屋には重たい空気が漂った。
「──なぁ……どうする?」
「一つの街が一瞬で壊滅したんだろ?……正直、行きたくなんてねぇよ……」
「……私も、そう思います」
「今回は分が悪すぎるんじゃないの……?だってランクSのチート野郎たちはここにはいないんだし……」
「……でもよ、俺たちが行かなきゃ誰がその街を魔物から奪い返せるって言うんだ?」
「それは……」
そんな中、1人の男子生徒が声を上げた。
「…………俺はやるぞ。絶対に街を取り戻してみせる。ランクSじゃなくたって関係ねぇ。俺たちはそもそも全員、異世界から召喚された英雄なんだろ?英雄が人助けしないでどうすんだよ!」
「……そうね……本当は迷うまでもなかったのかもしれないわ。あんたがやるなら、私もやるわ」
「よし。なら。行っても良い、行くべきだ、と思ったやつは一緒に王女様のところへ行こう!!」
***
スタブ王国に位置する港町『リーク』。
そこはかつて漁業によって栄えた、『人類の領域』の最も北の都市だった。
「……今も、行く場所のなくなってしまった人が大勢いるらしい。家族を失った人もいる。こんなことがあって良いのか?いや、違う!俺たちは何としてでもやつらを駆逐しなければならないんじゃないのか!!」
ハント王国の用意した、リーク近くの大型テントにて、平のクラスメートである加藤元気が大声をあげた。
王女の話を聞いて真っ先に「俺はやるぞ」と言った彼である。
ちなみに、元気は『ランクA・剣士』であり、物理攻撃特化型だ。体格が良く、坊主頭。横も縦もある。
彼の大声は、リークの救援に参加することになった19人が集まるテントへと響き渡る。
それを聞いて、テント内から「そうだ!」などと、大声が重なる。
「──で、作戦とかってもうあるの?見た感じ、あんたが指揮するのがよさそうだけど?」
そして、その大声に対し、一人の女子生徒が答える。
彼女の名前は、井上佐代子。彼女は『ランクB・狩人』であり、主に弓を使って戦う。
「……まだ敵の姿を見たことがないから何とも言えない。が、……おそらく俺たちにとって変に連携しようとするのは、逆効果なんじゃないかと思うんだ。」
「どういうこと?」
「俺たちの能力は、はっきり言って強すぎるぜ。俺はランクSではないけど、レベルが上がるたびに人間離れしていくのを感じるんだ。……そんな飛び道具みたいな俺らがいきなりまともに連携できるとは思えない。それに正直、多分俺らなら一人で十分戦える。回復役はとりあえずバランス良く配置するとして、なるべく少数で広範囲に渡ってカバーしないか?お前らはどう思う?」
「……おい、勝手に話し進めてんじゃねーよ。何勝手にお前が仕切ることになってんだぁ、加藤?」
元気が全員に意見を求めたその時、クラスの不良グループのリーダーである石川が立ち上がった。
石川は、髪を銀色に染めている。細いように見えるが、喧嘩は強い。
『ランクA・盗賊』だ。
「……随分とでしゃばってんじゃねーかよぉ?俺はなぁ……あのクソチビにいいようにされてイライラしてんだよ。本当なら今ここで全員殺しちまいたいくらいによぉ?なあ?俺はな、ここに来たのはよぉ、魔物を思う存分ぶっ殺してやるためなんだぜ?」
「……」
「……だからよぉ、ほんと、お前みたいなのがいるだけで、本当に、イライラすんだよー、なあ、分かるだろ?」
「……」
「俺はなぁ、あれから俺とは思えないくらい努力したんだぜぇ?『何を』とは言わねぇけどなぁ……俺は林のバカみたいにはならねぇんだよ」
それを聞いて、元気の表情が変わる。
元気は、何かを察したのだ。
「……石川……別に俺が指揮を取らなければいけないと言うことはないけどな…………お前にだけは任せるわけにはいかないと思うのは俺だけじゃないだろ?…………!?」
元気がそう言った瞬間のことだった。
「……っ!?」
「へっ……!」
元気に向かって、石川が短刀を振りかざしたのだ。
振りかざした短刀は、ギリギリのところで元気に避けられたが、元気は短刀を避けたせいでその場に倒れ込む。
石川はすかさず、倒れ込んだ元気の首元に短刀を突きつける。
「……なんだなんだぁ?リーダーづらしてた剣士様もこんなもんなのかぁ?」
「……お前……」
「へっ、剣士様の無様な姿が見られたことだし、まぁ、ここから俺は好きにやらせてもらうとしよう。じゃあな、リーダー気取りの剣士様」
そう言って、石川は嗤いながらテントから出て行った。
***
「一体なんなんだ、あいつは……?」
石川がテントから去っていった後、元気はため息をついた。
「…………あいつの言っていたことが少し引っかかったんだけどなぁ……まぁ、俺らのすることは変わらない。取り敢えずあいつ抜きで作戦会議ってことで良いか?」
「……それはそうだけど……あんた、大丈夫だったの?」
「……ああ、まぁ、俺もかなりレベルが上がってるから、実際は死ぬことはない。不意打ちだったから大勢を崩しちまったがな。……取り敢えず、早く決めようぜ」
──少し経って、大体のプランが決まる。
攻撃役の3人と防御役の1人、そして回復役の1人が大体同じエリアにいるように配置することになった。
現在、攻撃役の誰を街のどの部分に配置するのか、話し合いが行われていた。
「──で、このあたりなんだが、ランクAのお前に頼もうと思ってるんだが、できそうか、工?」
「……そ、そうだね」
一方、大きなテントの中で、ひときわ小さい、弱弱しい声を出す少年が一人。
「た、多分……大丈夫。やるよ」
彼の名前は西上工。彼は『ランクA・加工師』である。
「──おいおい……本当に大丈夫なのか?命に関わるかもしれないんだぜ?元気、本当にこいつに任せるのか?」
「……っ」
「──いや、問題ない。ここは工に任せよう」
「あ……うん!頑張るよ!」
「おう、ランクAは貴重だからよろしく頼むぜ、工。」
***
──そして、冒頭へと至る。
「──はぁ……はぁ……。……一体何体いるんだろ」
既に、リークへ到着してから1ヶ月半が経過していた。
しかし、未だ全ての魔物を駆逐するには至っていなかったのだ。
(……でもまさか、ここまで多いなんて……しかも、今までレベル上げのために戦ったどの魔物よりも、めちゃくちゃ強い……)
魔物たちは、一匹一匹が予想よりも強かったのだ。
おまけに、無数にいる。1ヶ月半が経って、ようやく減ってきたのが分かるくらいだった。
(どんどん増殖でもしているのだろうか……)
「──でも、頑張るしか、ない」
工は、なんとか自分の負の感情を抑える。
「……よしっ」
──こうして、心を入れ替えた数日後のことだった。
ランクS英雄夜川平が、魔物の大群に勝利したと言う報告を受けたのは。
***
──そこからは早かった。
仲間の1人の勝利により、やる気がぐんと上がったリーク救済組は、残りの魔物を全て倒すことに成功したのだ。
それは、19人が現地に向かってから、2ヶ月が経った日のことだった。
―番外編8 完―
お読みいただきありがとうございます。
なるべく2日に1回更新していきたいと思います!!




