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第6話:殺せない賢者、初めての依頼に挑戦する①

 遅くなりました。





 試験を終えて俺たちは冒険者ギルドの広間にやって来ていた。


 王都冒険者ギルドは、1階が酒場になっている。その酒場の端に階段があり、2階へと繋がっている。2階は、受付のカウンターや掲示板があり、依頼を受けるために来た冒険者はここに集まるわけだ。


 俺たちが今いる広間は、ギルドの3階にある。

 ここは簡単に言ってしまえば冒険者たちの休憩スペースで、ここには受付で呼ばれるのを待っている人もいる。俺たちもここを利用していた。


 2階と3階は吹き抜けになっていて、3階から2階の受付が見えるようになっている。そのため、待っているスペースがあまりない2階ではなく3階で待つ人が多いらしい。


「えーと、"オサム"さん!準備が完了しましたので受付までお願いします」

「おっ、呼ばれたみたいだな。一応みんなも来てくれ」




   ***




 俺たち4人は、受付へとやってきた。


(おさむ)です」


 この世界の人は苗字を持っていない人も多いため、冒険者ギルドでは名前だけ登録しておけばOKだ。

 あと、王女様から『一般人が混乱するといけないから、まだ異世界の英雄であることはなるべく言わないようにしてほしい』と言われているので、冒険者ギルドの受付嬢やガランさんには異世界の英雄であるとは言っていない。


「あっ、オサムさん。合格したんですね!まさかあのガランさんを倒すとは思いませんでした」

「それはガランさんが手加減をしてくれたおかげですね」

「……手加減?」

 何故か受付嬢の人は納得のいかない顔をしていた。


「普通に考えてレベル1の俺がAランク?の冒険者に勝てるわけないですからね」

「?は、はぁ……?、あっ、そうそう、それはともかくまずは冒険者カードをお渡ししますね」


 そう言って受付嬢は日本のポイントカードのような紙を俺たち全員に一枚ずつくれた。

 その紙──冒険者カードには、俺の名前や冒険者ランクなどが書かれていた。


「なくさないようにして下さいね?再発行にはお金がかかりますから。あと、皆さんは新人なのでランクGからスタートすることになります。たくさん依頼をこなすことでランクは上がっていき、最高はSランクです。皆さんは一発合格の期待の新人ですから、ぜひランクAやSを目指して下さいね」


 その後、俺たちは冒険者ギルドの決まりごとなどについて説明を受けた。


「──という感じです。何か質問はありますか?」


「俺は大丈夫だけど、みんなは何かあるか?」

「私は大丈夫ですよ。冒険者について大体わかりましたし」

「おう、まあ何とかなんだろ!」

「私も大丈夫です。ルールなどはあらかた把握できました」


 よし、みんな大丈夫そうだな。


「では、これで説明は終わりです。早速ですが今日依頼を受けますか?受けるのであればおすすめの依頼を紹介します!私はみなさんの担当に任命されましたので」


 あっ、そうだったのか。


「期待されている冒険者にはスムーズな依頼の受注のために担当が付くんです。あっ、そういえばまだ私の名前言ってませんでした!私の名前は"ミレイア"です。覚えていて下さいね」


「ミレイアさん、いろいろありがとうございます。じゃあ早速依頼を紹介してもらって良いですか。まだ早いので」


 みんなの許可も取りつつ、俺はミレイアさんから依頼を紹介しておらうことになった。

 ちなみに、パーティメンバーから依頼の決定などは一任されている。一番ランクの高い俺が大丈夫そうな依頼なら別に良いらしい。そのため暇になったパーティメンバーは冒険者ギルドの酒場を見に行った。


「そうですね……、みなさんは今最低ランクのGなので、Fランクの依頼まで受けることができます。オサムさんはかなり強いのにレベル1ですから、レベル上げがてらFランクの魔物討伐依頼を受けてみてはいかがでしょうか?」


(なるほど、確かにレベル上げは必須か。でも、初めての依頼が自分より一つ上のFランク……しかも討伐って大丈夫なのか?採取とかにしておいたほうが良いような気がするんだが……)

 俺的には初めての依頼はさすがに簡単な採取依頼とかの方が良いと思っていたんだが……。


「うーーん、確かに普通の人には初めての依頼は簡単なやつを紹介するんですけど……、ある程度強い人には討伐系の依頼を紹介してます。強い人には討伐の経験を積んでもらってもっと強くなってもらいたいので」


 ……まあ、一応英雄だから、そうか。


「分かりました。なら、レベル上げをするのにちょうど良い討伐依頼とかってありますか?」

「そうですね……」


 ミレイアさんは資料をすごいスピードで確認している。


「……!ありました。これなんてどうでしょう!」


 依頼書を俺に見せてくれた。

 そこにはこう書かれていた。


──

【依頼名】畑を荒らすゴブリンの討伐


【依頼のランク】F


【報酬】1体につき『重銀貨1枚(=500メイ)』


【場所】ホールド村の畑


【期間】3日


【依頼者】ホールド村村長

──



「なるほど」


 王女様が確か一番弱い魔物の一つと言っていたな。


「このフック村っていうのはどこにありますか?」

「フック村は王都の近くの村です。ここから歩いて30分くらいで着きますよ。受けるのであれば地図をお渡しします」


「なるほど……、なら問題なさそうだな」

「では依頼受注ということでよろしいですか?」

「ええ、お願いします」

「はい!分かりました。これが地図です。返却の必要はありませんので安心して下さい。」

「助かります」

「いえいえ、お気をつけて。頑張って下さいね!」


 よし、頑張るか。




            *




 ここで、少しこの世界の通貨について説明する。

 この国の通貨である"メイ"は日本でいうところの円にあたり、1メイ=1円くらいの感覚である。

 また、メイについてもう少し詳しく説明すると、


──

 1メイ=銅貨1枚


 5メイ=重銅貨1枚


 10メイ=銅貨10枚


 100メイ=銀貨1枚


 500メイ=重銀貨1枚


 1000メイ=銀貨10枚


 一万メイ=金貨1枚


 十万メイ=金貨10枚


 百万メイ=白金貨1枚


 一千万メイ=白金貨10枚


 一億メイ=聖金貨1枚

──



 といった具合である。

 ※同じ硬貨は一度の会計で100枚まで使うことができる。




            *




 俺たちは、依頼を達成するべく王都の外へとやってきていた。

 王都の城壁を越えると、見渡すかぎりの広原が広がっており、その中にいくつかの村が見える。

 目的のホールド村はどうやら本当に近いようで、歩いていたらもうすぐそこにまで迫っていた。


 ……ちなみに、地図を持っているのは当然俺ではなく愛花(あいか)と委員長だ。

 愛花は俺が地図を持つのをなんとしてでも阻止しようとしてきた。

 もっとも、自分が方向音痴なのは前回で良く分かったので、自分から地図を持つことはないのだが。


「着きましたよ!ここがホールド村らしいです」

「おお、本当に近いな」


 まだギルドから30分弱しかかかっていない。


「誰かさんが地図を持ってないので当然です」

 くっ……、むかつくが言い返せない……。


「……そんなことより、まずは依頼者に話を聞きに行くぞ」

「はーーい」


 俺たちは、村の人に声をかけて村長の家の場所を教えてもらった。

 どうやら、村長の家は村の中心部にあるらしい。


「いよいよだな。……少し緊張してきた」



 村長の家の前に立つと、ふと、何かが頭をよぎる。

 ……なんだろうか?何か忘れている気がする。

 何か大事なことを……。




            *




「どうも、村長の"ホール"です。今回はこの村に来ていただきありがとうございます」


 俺たちは、村長のホールさんからこの村のことや、最近ゴブリンが畑を荒らすようになっていることを教えてくれた。


「──ですから、みなさんには畑を荒らすゴブリンをなるべく多く討伐してもらいたいのです。今回、期限は3日とさせていただきました。ですので特に急ぎの用事が無いのであれば、3日間この村に滞在していただき、なるべく多くのゴブリンを討伐していただきたいと思っているのですが、大丈夫でしょうか?」


「はい、特に用事はないので大丈夫です」

「では、村の宿代などはこちらで出させていただきますので、討伐もそうですが、ぜひ村を楽しんでいって下さい」

「ありがとうございます」


「よっしゃあ!早速ゴブリンぶっ殺しに行こうぜ!」

「そうですね」


「まずは畑に行ってみましょう」

「あ、ああ……」


 なんだこの違和感は?

 俺は、ゲームのようなこの世界を楽しんでいたが、これで良いのか?何か大切なことを忘れていないか?




            *




 畑にて──


「うわっ、ひどいなこれ」


 荒らされてるなんてレベルじゃない。

 もはや畑であることが分かるかどうか──そういうレベルだ。


「こんなことをするなんて許せません!ゴブリンを根絶やしにしてしまいましょう!」

 愛花(あいか)かなり怒っているな。


「あっ!いました!あそこ見て下さい!」

 突然愛花が大声をだした。

 みんなの視線が愛花の指さした方向にあつまる。


「あれがゴブリン……」

 視線の先にいる魔物は、肌が緑色で人間よりは小さい魔物だった。要するに、よくラノベとかでみるゴブリンである。


「!」

 どうやらゴブリンもこちらに気付いたようだ。

 その瞬間、こちらへと走ってきた。

 手にはナイフのような物を持っている。


「みんな気を付けろ!ナイフのような物を持っている」

 一応班員に注意を促す。


「おらっ!」


 剣士である龍太郎が、持っている剣でゴブリンを攻撃した。

 しかし、ゴブリンは躱して戦闘能力がない愛花を狙ってきた。


(こいつそれなりに知性があるのか……!)

「スーパーダーク!」

 俺は、愛花を守るためにゴブリンの視界をまず塞いだ。

 そして、動けないゴブリンを()()()と魔法を発動しようとした。




 ──その時だった


「ぐ!?ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


 何だこれ!?頭が割れそうだ

 あっ……?

 何なんだこれ。早くゴブリンを()()()()と……






 ……あれ?……()()


 俺が……殺す?


 そうだ、ここはゲームの中じゃない。現実だ。それなのに、何で俺は何の躊躇いもなく生き物を殺そうとしているんだ?


 あれ……?いつからだ?


 いつから俺は生き物を殺せるようになったんだ?



 ドサッ



 俺は、気付くと地面に倒れていた。

 そして、意識を手放した。


──

【報告】


 洗脳が解除されました。


 また、洗脳を解除したことにより、


 『洗脳耐性』


 を獲得しました。

──



 ー第6話 完ー

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新はおそらく2日後です。

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