第3話:殺せない賢者、早くもトラブルに巻き込まれる。
少し遅くなりました。
俺たちがいた王城があるのは、このハント王国の中心部に位置する王都"キラー"の中でも一番中心に近く目立つ位置だった。首都のどの位置からでも王城がはっきりと見えるようにデザインされている。
王城の門を出ると、真っ先に見えてきたのは貴族たちの大きな家だ。王女様が言うには、王都は王城を囲むようにまず貴族たちの家があり、さらにその周りに市場や平民たちの家があるらしい。また、平民たちのエリアに小さな貧民街もあるらしい。そこには奴隷商もあるとか……。
王城と貴族のエリア、貴族のエリアと平民のエリアにはそれぞれ壁があり、普通平民は貴族のエリアに入るときは特別な許可がいるという。また、平民は基本王城には入れず、貴族も許可がなければ入れない
が、しかし俺たち異世界の英雄とその仲間は特例としてこの3つのエリアを自由に移動できるようだ。エリアを移動する際には、王女様から貰った王家の紋が描かれた小さな板を門番に見せれば良いそうだ。
エリアといい、堂々と差別を見せつけるのは、何も悪いと思っていないのだろう。
気分の良いものではないので、強制してきたらこちらも抵抗させてもらうかもしれない。
ちなみに、この世界の住民には「近々」俺たち異世界の英雄が召喚されることが伝わっているらしい。
*
俺たち5班は、貴族のエリアを超えて市場のある平民のエリアへとやってきた。
当たり前と言ってしまえば当たり前なのだが、冒険者ギルドは平民のエリアにある。
平民のエリアの中でも端の方にあるそうなので、俺たちは冒険者ギルドに行くついでに町を見て回っていた。
「かなり活気があるな」
「そうですね。いつもこんな感じなのでしょうか?」
そう言ったのは、俺たち5班のメンバーの1人"北 愛花"だ。俺と愛花は幼なじみで割と仲が良い……と俺は勝手に思っている。
せっかくだから、5班のメンバー4人を紹介しておこう。……誰にだ?
まずは俺、"夜川 平"。平と書いておさむだ。俺の父が、世界『平』和を願ってつけたらしい。はっきり言って俺には荷が重い。ちなみに妹の名前も世界平和から来ている。
職業は賢者で、この班のリーダーをやることになった。あとの説明は省略する。
2人目は"北 愛花"。
女子で、職業は僧侶。回復魔法を使えるらしい。ランクはAだ。
最近あまり話していなかったが、小さかったときはかなり仲が良かった記憶がある。高校に入ってあまり話してくれなくなった気がする。
3人目は"三河 龍太郎"。男子で、職業は剣士。ランクはAだ。
正直、あまり関わったことがないのでどんな人間かはよく分からないが、雰囲気だけだと悪い人間では無さそうに感じる。
そして最後は、"立山 未来"。女子で、職業は魔法使い。ランクはA。
彼女は女子の学級委員であり、クラスの女子のまとめ役を担っていた人物だ。真面目でお堅い学級委員のイメージがある。そのせいか、みんなからは"委員長"と呼ばれている。
それにしても、班長は立山の方がふさわしいと思う。人をまとめるのは絶対に立山の方が得意だ。
でも、王女様に言ってもランクが優先だと言う。
何かあったときに実力行使できるようにするためだそうだが、本当にそれで良いのだろうか?
立山本人は何故か俺が班長で良いと言っている。
──という感じで、この第5班は男子2人女子2人の計4人というわけだ。少し不安があるとすれば愛花以外とはまともに話したことすらないということだな。
いや、正確には立山とは話したことはあるが……。
何というか、学校関係の話だからな。
昔『色々』言われた記憶がある。
まあでも、これから一緒に生活するわけだし、どのみち仲良くしていくしかない。
***
だいぶ歩いた気がする。
王女様から貰った地図を頼りに冒険者ギルドを目指しているわけだが、意外と遠い。王都って広いんだな。
「はぁ〜、疲れましたね〜……」
愛花が不満気にそう言った。
「地図で見る限りあともう少し歩く必要がある。じゃあこの辺で一旦休むか」
班長の俺が休憩と言わないと、休憩しづらいだろうからな。
「賛成〜」
「賛成です」
龍太郎も委員長も賛成してくれたみたいだな。
「じゃあ、どっかの店で休まないか?幸いお金はあるし。この世界の飲食店がどんななのかきにならないか?」
「そうですね、この辺に手軽な店があると良いんですけど……」
「あそこなんてどうだ?」
俺は道を挟んだ向かい側にある店を指指した。よくある喫茶店のような店だ。
「良いと思います」
「良いんじゃね」
「はい」
というわけで、俺たちは店に入った。
***
店に入ると、意外にも元の世界の喫茶店と大差なかった。
「いらっしゃいませ。4名様ですね?そちらのテーブルへどうぞ」
俺たちが席に座ると、店の人がメニューをくれた。店の人はみな亜人だった。この世界に来て初めてみる亜人に、少し胸が高まった。
そういえば、王女様が言うにはこの国の通貨は"メイ"と言うらしい。
王女様の話からすると、1メイ=1円というところか?多少の違いはあると思うが。
「さて、王女様からかなりお金は貰っているからみんな好きなものを頼んで良いぞ」
一応お金の管理は俺がしている。
元の世界にいたときから家計簿は俺がつけていた、ということもあって班員から任せられているわけだ。
(って言うか、この店安いな)
みんな思い思いの物を頼み、頼んだ物がきた。
「おー」
俺はメロンソーダを頼んでみた。
そう。この世界には元の世界にあったソフトドリンクが結構ある。どうも、前に召喚された勇者が伝えたとかなんとか。
「うん、普通に美味いな」
よく再現できている。俺の好きなアーストリー社のメロンソーダに似ている。何と10メイだった。元の世界と照らし合わせると10円くらいだ。……安い。
ちなみに、他の3人も他のソフトドリンクを頼んでいる。強いて言えば立山が甘いジュースを選んだのは少し意外だった。
本人曰く、脳を使うと糖分が必要になるから毎日甘いジュースを飲んでいるのだそうだ。
***
俺を含め班員全員がジュースを堪能していたそのとき、店の入り口付近から大声がした。
「おいおい、亜人が店やってるって噂を嗅ぎつけて来てみたらマジでやってるぜ。食べ物に毛でも入ってんじゃねーの?」
「おい、見ろよ、あの首輪。この店奴隷が普通に食事に来てるぞ!」
「亜人が店を営業すること、奴隷が飲食店を利用することはこの国ではたとえスラム街であっても禁止されているはずだ。店長が亜人だとルールすら守られてないんだな」
「……っ、うるさい!あんたら国はいつもはこのスラム街のことなんて気にも止めないくせに!ここはこのスラム街の人たちの憩いの場なんだよ。とっとと出て行ってくれ!」
何やら言い合いをしている。
……って言うか、ちょっと待って欲しい。
今の会話からだと、ここがスラム街とことになるわけだが、俺たちはスラム街を通っていないはず。道を間違えたのか?
「ねえ、あれって王国騎士団の制服じゃない?」
「えっ、うそなんで?」
そう聞こえてきた。あの3人組は王国騎士団員(?)なんだろうか?
「おい、そこの奴隷。法律を破ったらどうなるか知っているよな?その場で死刑だ!」
そう言って、王国騎士団員?の男は入り口付近の席に座っていた子供に切りかかった。
その瞬間──
「そんな小さな子供に切りかかるなんて、何を考えているの!」
俺の前から学級委員が飛び出した。
そして、いつの間にか委員長は杖を握り、男の前に立って子供を庇っている。
「なっ……、俺の剣を防いだだと!?」
どうやら委員長は、防御系の魔法を使い子供と自分を守ったようだ。
もう魔法使えるようになったのか……。
俺はまだ魔法を使ったことすら無いんだが。
俺がそう思っていると、男の1人がこう言った。
「お前は一体何だ?この奴隷の所有者か何かか?」
「いえ、違います。でも、子供が目の前で切られそうになっているのを見逃すことは出来ません」
「ほう、お前は奴隷を人間扱いしているのか、この国で。面白いやつだ」
男はそう言いながら嗤うと、次の瞬間委員長を蹴り付けていた。
「うっ!」
彼女はさっき飲んだものを吐き出しそうになりながら倒れる。
「反吐が出るぜ。ガキが一丁前に大人にものを言ってんじゃねーよ。決めた、これは王国騎士団の決定だ。ここにいるやつ皆殺しだ。おら、お前らやるぞ!」
男はそう言うと、仲間と共に近くの客に剣を向けた。
「流石にこれは……」
この国の奴隷制度がどうなっているのか詳しくは知らないが、子供に剣を向け、しまいには俺たちの仲間を傷つけた。
全員……特に他2人は今にも飛び出しそうになっていた。
だが、今の俺たちのレベルは1だ。おそらくあの男には敵わないだろう。
だからここは真剣に、この場を『切り抜ける』方法を探すしかない。
「……」
俺は静かに席を立った。
他の2人が俺を見ているが、2人には動かないように言った。
「すいません。少し良いですか?」
そして、男が気付いた。
「あ゛っ?今度は何だ。お前そいつの保護者か何かか?」
「私たちこういう者なんですが」
そう言って、俺は王女様から貰った例の板を見せる。すると俺の予想通り、男の様子が変わった。
「今回は何もなかったということには出来ないでしょうか?私たちとしても荒ごとを避けたいので。……そうしてくれないのであれば……残念ながら、良くないことになるかもしれませんね……」
俺は、最大限言葉に含みを持たせた。
同時に、顔もまるで嗤っているかのようにした。
声のトーンは出来るだけ下げて、余裕を演出する。
「……わ、分かりました。ではこの辺で……」
俺のそのような態度が功を制したのか、そう言ってリーダー?の男が去っていくと、それと一緒に残りの2人も去っていった。
***
「……?……さっきの男は?」
立山が目を覚ましたようだ。
「さっきの男たちはもういないですよ」
「何があったんですか?」
「まぁ、いろいろあったんだ……」
俺がやったのは言ってしまえばただの脅迫である。しかも、昔かなり練習したタイプのだ。
王女様から貰った例の板は、おそらく国の重要な来賓であることを証明するものなんじゃないだろうか?
ならば、それを利用しない手はない。
「夜川君が何とかしてくれたんですよー」
「そうだったんですね。感謝します」
「いや、別に感謝されるようなことはしていない」
俺たちがそうやって話していると、亜人の店長や奴隷の客たちがやってきた。
全員「ありがとう」「助かった」とお礼を言ってくれた。
何かお礼がしたいとも言っていた。
「なら、また何か飲みに来ても良いか?ここってスラム街の人たちの憩いの場だって言ってたけど……」
「そんなことで良いんですか……?ええ、またいらしてください。サービスいたします」
「……あっ、そうそう……あとできれば現在地を教えてほしい。どうやら俺は大分重症方向音痴だったみたいだ」
店中に笑いが起こった。
***
「教えてもらった通りに来たわけだが、ここが冒険者ギルドか」
「ええ、そうみたいですね。これからは夜川君にだけは地図を絶対に持たせません。夜川君のせいでこんなに歩かされたんですからね!」
「あ、ああ、すまなかった……」
あの後、俺は愛花に割と全力で怒られた。普段温厚な愛花が俺から地図を力ずくで奪ったのを見て、自分の無力さを感じた。
「じゃあ、入るか」
そして俺たちは、ついに冒険者ギルドの扉を開いた。
ー第3話 完ー
お読みいただきありがとうございます。
次回は登場人物紹介(1)にしたいと思っています。
本編の続きは次の次の回からを予定しております。