表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/157

第25話:殺せない賢者、考える。

 第25話です。火曜日の分です。





 いろいろあって疲れた俺たちは、冒険者ギルドからそのまま宿へと戻り夕食を食べていた。


 ──のだが


「………………」

「………………」

「………………」


 食堂の、俺たちがいるテーブルだけ異様に暗い空気が流れていた。

 


「あ……まぁ、みんな生きていて良かった。今回はたまたまよく分からない上位魔人?とやらに遭遇してしまったが、そんなことはそうそうないだろう。うん……」


 俺は皆んながなぜ全員黙って食事をしているのかが良く分からず、取り敢えずこの雰囲気を何とかしようとしていた。



「…………そうですね」


 だが俺の話に反応を示したのは立山だけで、その立山もすぐにまた黙ってしまった。



(……本当に何なんだこの空気……何でみんな黙ってるんだ?いつもならもっと楽しく食べてるのに……。……俺か?俺のせいなのか?……いや、俺は何もしてない。してないばすだ。じゃあ一体なんだ?)


 俺は必死に考える。

 しかし分からない。

 これで誰か死んだとかだったらみんなが暗くなる理由も分かる。

 でも今回、全員生きて帰ってこれた。

 少なくとも最悪の結果は防げたはずだ。



「あ……俺は体調が優れないから部屋に戻る。」


 結局理由が分からないので聞いてみようかとも思ったが何となくそんな雰囲気ではなかったので、この場から早く脱出したかった俺は、そのまま寝室へと向かっていった。




           *




 (おさむ)がいなくなった食堂にて──。


「さて……、(おさむ)君がいなくなりました。これで()ができますね。ミルスさん、ルックくん、リーフちゃん、黙っていてくれてありがとうございます」


 そう切り出したのは立山だ。


「はい。……この話は夜川くんに聞かれない方が良いですから」


 愛花が立山に同意する。

 だが、


「……はぁ……別に俺はあいつ(おさむ)がいたって良いと思うぜ。むしろいた方が良かったんじゃねーか?……っていうかなんで隠すんだよ?別に隠さなくても良いだろ?」


 そう言ったのは龍太郎だ。



「……私は彼には言うべきではないと思ってるわ。理由は単純。彼がこの話を知ったら、ほぼ100%止めるでしょうから」


 立山が龍太郎に説明する。


「私もそう思います。静かで暗い雰囲気の空間が苦手なことも含めて私は(おさむ)くんのことを良く知っていますから」


 そして、愛花が付け足しする。

 実は、さっきまで異様に暗い空気が流れていたのは(おさむ)1人だけを部屋に戻させるためだったのだ。


 (おさむ)は意外と暗い雰囲気の所が苦手なのである。



「はぁ……、で、じゃあその話って何だよ?俺だけまだ聞かされてないみてーだけどよぉ」

「それはごめんなさい。貴方に話すタイミングがなくて……」

「ふーん……」


「で、その話なんだけど、実は──




            *




 (おさむ)の部屋にて。



(結局みんなのあれはなんだったんだ?ミルスさんやルックたちまで黙って俯いていたが……。本当に何かあったのかもしれないな)


 (おさむ)は、自室のベッドに横になりながら頭を働かす。


(……ああ、そういえばルックやリーフにまだちゃんとお礼言えてないな。2人とも頑張ってくれたみたいだし、何か送ろうか?2人には何も報酬がないもんな。お小遣いだけだと味気ないし……まぁ、それは明日オフにしたし明日考えるか)


 2人が愛花たちにお茶?を飲ませている光景を思い出す。


(……今度俺も飲んでみたいな、あのお茶(?))


 (おさむ)は、ゆっくりと起き上がる。


(……疲れてるからすぐ眠れるかと思ったが、そうでもないらしいな)



 そして、そのまま部屋をぼーっと眺めていた。



(俺がこのゲームみたいな世界に来てから何日たったんだ?正直、密度が濃すぎて何日だか分からなくなるな……全く。えーと、……確か……この世界に来て……まず王城で1日泊まって、その後…………………。……そうか今日でトータル7日目か。ちょうど1週間じゃないか)


 (おさむ)はふと、思い出した。


(そう言えば……妹と母さんは元気にしているだろうか?……俺がいなくなった所で特に問題はないだろうが、まさかもう一生会えなくなるかもしれないとはな。……いや、俺が稼いでいたバイト代はなくなるか……月に10万ちょっとを家計の足しにしていたからな。口座に膨大な貯金をしておいて正解だった)





 ──俺には1つ下の妹がいる。


 現在高校1年生。

 妹は、そこまで運動が得意ではない俺とは違い、運動全般が得意で、特に得意な陸上のスポーツ推薦により高校に入った。


 そのため、妹は部活に出なくてはならず、バイトができない。さらに、妹が入学したのは俺とは違って私立の高校なので余計に金がかかる。


 特にやることがなかった俺は、妹の高校生活においての費用を含め、家計のためバイトを増やして稼ぐことになったのだ。ちなみに、前にも言ったが母親の負担を減らすために中学生のときから家計簿は俺がつけていた。


 

 そして、ここからが大事なのだ。何故我が家が俺のバイト代をあてにしなければならないほど金欠なのか。それは、簡単に言えば父親がいないからだ。


 俺の父親は、俺がまだ3歳くらいのときに事故で亡くなったらしい。


 それで俺の母親は1人で俺と妹が大きくなるまで育ててくれた。それについては感謝しかない。


 母親はアルバイトをしていて、正規社員ではない。そのため給料はあまり多くなかったのだ。

 そのため、幼いときから母親の内職を手伝っていた。



 俺が高校生になってからはバイトが解禁されたので、俺はいくつかのバイトを掛け持ちし、月にかなりの額を稼いでいた。投資もやっていた。

 そのお金のうち、10万ちょっとくらいを家のために使い、その残りを俺の趣味代や妹のお小遣いにした。ただし、投資のもうけは全部貯金していた。


 バイトを休むのはテスト前の1週間だけにして、とにかくお金を稼ぐことに重点を置いていた。

 特にやることはなかったので、そこまで苦痛ではなかったし、むしろいろいろな経験ができて楽しかった。


 



 ──とまぁ、元いた世界での暮らしを紹介したのだが、よく考えたら俺がいなくなって大丈夫だろうか?

 お金は実はさほど問題はないのだが、それ以外は不安だ。




「…………」

 俺はついさっきまで、幼いころ友達の家でやらせてもらって憧れたゲームの世界にそっくりなこの世界に来れたことに、多少は喜んでいた。

 しかし冷静に思い返すと、元の世界に未練がないと思っていたのは間違いだったのかもしれない。


「…………帰る方法を探すか」


 この世界に来てまだ日が浅い。だからまだまだよく分からないことが多い。そのためまだ自分がこの世界で何を目標として生きていくのか決めていなかった。

 しかし今、細かいことはこれから考えていくにしても、大筋の予定は決まったのではないだろうか。



 まず、俺はこれからこの世界を知らなければならないのだろう。

 そして、いつか元の世界へと帰る方法を見つける。

 それが例えどんなに複雑な魔法だろうがなんだろうがやる価値がある。


 俺の日常を取り戻すために。




           *




 〜???にて〜


「ねえ、聞いた?ベノムちゃんが負けたらしいよ。しかも、ただの人間に!」


 そう話すのは、青い服に身を包んだ女性だ。


「ふーーん。でもあいつって上位魔人の序列3位じゃなかった?よっぽど油断したのかしら?」


 そして、あまり興味無さそうに聞いているのが修道服のような物を着た女性である。


「それがね、そうでもないらしいの。ベノムちゃんが全力でも勝てない人間だって上位魔人序列1位のレイクくんが言ってたの!!しかも、自分でも倒せないかもしれないから逃げてきたって!!」


 青い服の女性がそう言うと、修道服の女性は目の色を変えた。


「……あんた……それ本当?」


「うん!そうなの!」


 嘘ではないと分かると、修道服の女性の顔が青白くなった。


(……冗談でしょ……冗談だと言って……レイク様が倒せない敵ですって!?そんなやつが人間側にいるとしたら……)


「どうしたの、ミス?顔色悪いよー?」


「むしろあんたはなんでそんなに冷静なの!?いくら貴女が上位魔人のさらに上の魔人王(デビルキング)だからって……貴女実力だけみればレイク様とそこまで変わらないじゃない!!」


 ミスと呼ばれた修道服の女性は、青い服の女性に怒鳴りつける。


「厳しーなーミスちゃんはー、私なら大丈夫だってー、もしその人間を襲ったって勝てるからー。なんてったって私は魔人王(デビルキング)の1人・暴虐の王"アトラ・タイラント"様だからねっ!」


「………………(本当に大丈夫なの……?)」


 アトラの言葉とは逆に、修道服の女性──上位魔人序列2位・運命の王"ミス・フェイト"は、得体のしれない不安で頭がいっぱいになってしまっていた。




           *




 一方のその頃。

 人間の領地内にて。



「あらっ、どうしたの?こんな時間に?」

「申しわけございません!しかし、報告しないわけにはいかないのです!!」


 男があまりに切羽詰まった表情で言ってくるので、話しかけられた女もただことではないのだと察する。


「……何かあったの?」

「…………はい!対象にかけられていた()()()()が解除されたようです!!」

「……なっ…………」


 それを聞いて、女は絶句する。


「……誰かは分かるの?」


 そして、男に質問した。



 しかし


「いえ……残念ながら。対象のうちの誰か1名が解除したことしか分かっておりません。現時点では誰かまでは……」



「そう…………」


(……これはまずいかもしれないわね…………早急に手を打たないと。()()()()のことに支障をきたすおそれがあるわ)



「……人物の特定を急ぎなさい。できるだけ早く!!そして私の元まで連れてくるのです!!」


「はっ、了解いたしました!」


 そう言って男は部屋から去っていった。



「……まさか()()を解除するなんて……そんなことがありえるの?……狙ってやったのだとしたら我々の敵対者に間違いないわね……」





 ー第25話 完ー

 お読みいただきありがとうございます。


 さて、今回でひとまず第1章の本編は終了となります。ここまで読んでくださった人、本当にありがとうございます!


 次回は登場人物紹介、次次回はおまけを予定していて、その後第2章をスタートする予定です。


 pv、ブックマーク、ポイントありがとうございます!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ