第20話:殺せない賢者、新メンバーとの初依頼をこなす③
ついに20話です。少し短め。
俺たちは、王都地下下水道のさらに奥へと進んでいた。
「やっぱり少ないよな……?」
「どうかしましたか、オサム殿?」
「いや……、大毒ネズミの数がやけに少ないと思った。ミルスさんはそのときいなかったから知らないと思うが、前に依頼を受けたときのゴブリンの方が数が圧倒的に多かったんだ。だが、受付のミレイアさんはゴブリンより多いと言っていた。おかしいと思わないか?」
俺たちは王都地下下水道に入ってから今に至るまで、最初みんなで倒した一匹を含めてもまだ二匹しか見ていない。
「そういえば……!たしかに言われてみればおかしいです。たしか、本来大毒ネズミという魔物は群れを作ると聞いたことがあります。なんでもあの巨体が大勢で襲ってくるから危険度がゴブリンよりも高いんだとか」
ミルスさんは思い出したように言った。
(……じゃあ、なんでこいつらは一匹ずつで行動しているんだ?そもそもここまで二匹しか出会わなかったのはなんでだ?)
「ミルスさん、何か"異常事態が起こってる"とか聞いたことはないか?」
俺は、昨日まで王国騎士団にいたミルスさんに尋ねる。
「異常事態ですか……。少なくとも最近、何か異常事態があったという報告は受けた覚えはありませんね……」
「そうか……まぁ考えても仕方がないな。もう少し奥まで行ってみよう」
「そうですね」
「あっ、あの……!」
俺とミルスさんがとりあえず奥に進もうと決めたとき、突然後ろのルックが話しかけてきた。
「……ん?ルック、どうかしたのか?」
「じ、実は……その……、スラム街で流行ってた噂があって……」
「噂?」
「は、はい。僕たちのいたスラム街は様々な人が行き交います……、だから情報は他の地域に比べて多く飛び交います。僕たちの元主人の男はスラム街でそれなりに有名なやつだったみたいで……、そいつ経由でいろいろな情報を耳にしました。その中の一つにこんな噂があるんです。『王都地下下水道には魔人が住み着いている』と」
「魔人?魔物とは違うのか?」
「はい。魔人とは、人間と魔物が混ざったような存在の種族で、独自の集団を形成しています。その多くが人間を超越した魔力を持つとか。過去には魔人が人間の国に侵入して、多くの命を奪ったこともあるそうです。確かそのときはたまたま異世界から召喚された英雄の方がその魔人を倒したらしいですが、英雄の方にも甚大な被害が出るほどの力だったと言われています。」
魔人か……。
何度か漫画やラノベで見たことがあるな。
所謂強キャラというやつだ。
「そんなやつがここにいるのか?だとしたら良くないな。」
「はい……」
っていうか、前から気になってたんだが、過去に召喚された英雄って今何してるんだろうな。元の世界に帰る魔法は開発されてないのだからまだ帰ってはないだろうし。
……とは言え、過去っていうのも何年前か分からないからもう死んでいるのかもしれないが。
王女様にでも今度聞いてみるか。
「で、その魔人っていうのがもしここにいたとして、大毒ネズミの数と何か関係はあったりしそうなのか?」
「申し訳ありませんが……僕には何とも……」
「あっ、そのことですが、私から一つ良いですか?」
ミルスさんが割って出てきた。
「何だ?」
「昔、魔人についての資料を読んだことがあります。その資料には、確か『魔人は魔物から恐れられている』と記されていました。」
魔物から恐れられている?
「何故だか分かるか?」
「諸説あります。何せ魔人をそもそも見たことがある人がほぼいないので。ある専門家は『魔人は魔物を唯一の食糧としているからだ』と言っています。また別の専門家は、『魔人は魔物の意思に関係なくその行動を完全に操ることができるからだ』と」
なるほど……。
それなら、たしかに魔物である大毒ネズミが魔人から逃れるため、王都地下下水道にあまりいなくなるのにも説明がつくな。
「でも、ギルドではそんな話は聞かなかったな」
「あっ、それはおそらくギルドには情報が行ってないのではないでしょうか?この情報はあくまで噂なので」
俺がちょっとした疑問を口にすると、ルックがそう答えた。
「でもだとしたらちょっとまずいよな?これでますます、ここに魔人がいる可能性が高くなった。ここに長居するのはやめた方が良いかもしれないな」
「そうですね……。もし魔人が本当にいたとしたら、いくらオサム殿がいても私たちだけでは勝てないかもしれません。あまり長居はしないほうが良いでしょう」
「じゃあ、早く愛花たちと合流しよう。ここにしばらくいるにしても、みんなでいた方が安全だ」
「ですね」
俺たちは、元いた方向へ戻ることにした。
なお、先頭を歩くのはもちろんミルスさんだ。
俺は絶対に先頭を歩かない。
*
それにしても……。
「この世界にも電話みたいなのがあれば良いんだがな。」
「デンワ?それは異世界の道具なのですか?」
ミルスさんが聞いていた。
「ああ。俺たちが元いた世界には遠くにいる知り合いと連絡を取り合える道具があるんだ。俺たちがいた国ではほぼ全ての人が持っていたな」
俺が説明すると、ミルスさんは驚いた顔をした。
「そんな物が……!この世界にも『通信魔法』という物がありますが、その魔法を使うことができる者はほぼいないです。実質、一般人が遠くの人と話すことは不可能なんですよ!?それなのに……、そのデンワという道具はどうやって作るのですか?」
ミルスさん随分と興奮しているな……。
異世界の道具に興味があるのだろうか?
「悪いが俺は分からないな。作り方までは学んでない。研究系の職の英雄が作ってくれると良いんだが」
「そう……ですか……」
「あっ、着いたな」
そんなことをしているうちに、先程二手に別れた場所にたどり着いた。
「ここからは愛花たちが向かった方へ行くことになるな。念のため注意しつつ行こう」
俺がミルスさんと子供2人に改めて注意を促したちょうどその時だった。
俺たちのいる所に、誰かがはぁっ、はぁっ、と無理矢理息をしながら全力疾走してきた。
「あっ!!!……たっ、はぁっ……、大変です!!」
その誰か──痩せ細った少年は、俺たちを見ると、目の色を変えて、遠くから大声で話しかける。
(誰だ……?)
「はぁっ、はぁっ……うっ……はぁっ……」
その少年は、まるで慣れない持久走をやらされたときのように息切れしながらも、俺の前まで来ると、俺の目を見る。
「はぁっ……あなた……オサムさん……はぁっ……ですよね?僕は……アイカさんたちに助けられた者……です!あなたの仲間たちが……今戦って……いるんです……アイカ……さん……たちは……、僕たちを守っているので……、はぁっ……、防戦一方になってます……。アイカさんたちが助けを……呼んでいます!!」
その少年から発せられた言葉は、俺が思い描いていた最悪の事態の、更に上をいくものなのかもしれなかった。
ー第20話 完ー
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