第17話:殺せない賢者、悪夢と告白に向き合う。
第17話です。
気がつくと、目の前には暗い空間が広がっていた。
「……ここはどこだ?」
落ち着いて辺りを見回す。
空は暗く、明かりは殆どないが、何故か前はよく見える。
ここは広原のようだ。
たくさんの植物が生きている。
だが、動物はいない。
いつもなら、あちらこちらにいる虫すら一匹もいない。
俺は確か、宿で寝てたはず……。
自分の置かれている状況を上手く飲み込めない。
(頭が上手く回転しない……)
ぼーっとしていて、上手く考えがまとまらない。
──そんなときだった。
「あれは……?」
俺の視線の先に、何か四角い物体が現れた。
生き物には見えない。
しかし、その四角い物は自分から近づいてきた。
(何だ……?魔法か?)
何故だろうか、それが何かおぞましい物に思えてきた。
だんだんと近づいてくると、それが何なのか分かった。
棺か……?
ゲームやテレビで見たことがある。
死者を入れる『あれ』だ。
何でこんなところに?
……というかここはどこだ?
棺は、どんどん近づいてきた。
そして、ついに俺の目の前へとやってくる。
……?
不意に、棺が開いた。
「オ……サ……………………ム…………………!ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
棺の中から、何かが出てきた。
その何かは、とてつもなく大きな声で雄叫びをあげる。
(こいつは……!?)
何故だろうか?何故か分からないが、俺は、"それ"が自分が仲間に倒させたゴブリンだと瞬時に理解した。
「……っ!?」
そのゴブリンは、俺が後ろへ逃げようとすると、その瞬間に俺の足に噛み付いた。
「ぐっ!?あ゛あ゛あ゛あっ!!?」
足に尋常ではない痛みが走る。
「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャハッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ゴブリンは、そのまま足を噛みちぎった。
「あ゛っ!?」
痛みに耐えられず、俺は叫ぶ。
ゴブリンは何を思ったか、俺から一旦離れた。
そして──
「……!」
新たなゴブリンが現れた。
「「「「「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
一体、何だ、これは……!?
数分後。
俺は意識を手放した。
*
「……っ!?」
朝5時過ぎ、俺は目覚めた。
「……夢、なのか……?」
俺は自分の手と足が存在しているか確認する。
「夢……か……」
何だったんだ……。
こんなリアルな夢を見たのは何年ぶりだ?
幼いころはよく刺される夢とかなら見ていたが……今日のは別格だった。
「……あのゴブリンは……俺たちが」
『殺した』。
「罪悪感……なのか?」
俺としても、本当なら意思疎通のできない魔物だって殺したくはない。
(……俺に何か、もっと力があれば……)
「……それにしても」
最悪の目覚めとはこの事だろう。
「早いけど、もう寝れそうにないな……」
結局、俺は何もせずにぼーっとしながら朝のひと時を過ごした。
*
午前7時。
ようやく起床の時間になったので、俺はみんなを起こしに行った。
班の中で一番早起きなのは俺と委員長なので、男子は俺が、女子は委員長が起こすことになった。
なお、子供2人は委員長が起こすとのことだ。
「さて、と、起こしに行くとするか。」
俺の部屋の右隣はミルスさんの部屋で、左隣は龍太郎の部屋だ。
ミルスさんは何となくもう起きている気がしたので、まずは龍太郎を起こすことにした。
俺は龍太郎の部屋のドアを開けた。
「おーーい、龍太郎起きろーー!」
俺は龍太郎を起こすため、ベットの真横から大声で叫ぶ。
パーティを組んでから知ったことだが、龍太郎はかなり大声じゃないと全然起きない。
なので、起こすのも一苦労だ。
「はぁ……、しょうがない」
俺は、龍太郎の頭にチョップした。
かなりの衝撃を加えたので、龍太郎は目を覚ました。
しかし──
「あ〜……、もう一眠りさせてくれぇーー」
そう言って、龍太郎は起きたと思ったらすぐさま二度寝を始めた。
「だめだな、これは」
こうなってしまうと、しばらくは起きないと本人が言っていた。
だから、龍太郎は一旦諦めて俺はミルスさんの部屋へと向かった。
*
時刻は7時5分。
規則正しそうなミルスさんならもう起きていそうだが念のため。
俺はドアをノックしながら呼びかける。
「ミルスさんー、開けますよー」
そして、俺はミルスさんの部屋のドアを開けた。
はずだった……
「あっ!?」
「え?」
部屋にいたのは、ミルスさんではなかった。
青髪碧眼なのは共通しているが、ミルスさんより背が小さい。
というか、目の前にいるのはミルスという男性ではなく、1人の少女だった。
「あっ……、すみません……、間違えました」
俺はすぐさま謝罪しドアを閉めた。
(おかしい……、確かミルスさんの部屋は俺の部屋の隣だったはず……、一体あの少女は誰だ?)
「やっぱりこの部屋で合ってるよな……?」
どういうことだ?
昨日のうちにミルスさんがいなくなったのか?
訳がわからない。
その時──
俺が今開けた部屋のドアが静かに開かれた。
「あっ……、オサム殿……、ちょっと良いですか?」
部屋から出てきたのは、俺が起こそうと思っていたその人だった。
「あれ?ミルスさん、さっきのは誰ですか?」
「……ちょっと入って下さい」
俺はミルスさんが言うとおりに、部屋へ入った。
部屋の中には、さっきの少女はいない。
「オサム殿……、できればここでの話は他言無用でお願いします」
「あ、ああ……はい」
彼はいつになく真剣な表情だった。
「……実はですね……私……『両性』なんです……」
「…………?」
思考停止したのは久しぶりだ。
「それはどういうことですか」
「実際に見てもらう方が良いですね。ちょっと待って下さい」
そう言って、ミルスは自分で魔法を解除する。
「魔法を解除しました」
「…………」
「これが私のもう一つの姿、声なんです」
175cmほどだった身長は160cmほどになり、低めでかっこいい声は高くて可愛い声になっていた。
「……つまり?」
「実は……」
ミルスさんは、静かに語り始める。
「私は生まれつき男にも女にもなることができました」
*
ミルスさんは、俺に自身の秘密について教えてくれた。
どうやら、ミルスさんは『性別転換』という固有魔法を持っていて、魔法を解除すると女に、魔法を発動すると男になるらしい。
魔法を使っていると微量だが魔力を消費し、体力も奪われるため、夜寝ているときは魔法を解除しているらしい。
ただし、魔法を使わない状態が長く続くとかえって体調が悪くなるんだとか。
「黙っていて申しわけありませんでした。しかし、騎士団で舐められないためには常に男として生きている必要がありました。騎士団では女性差別がまだ残っていますから……」
「なるほど……」
この世界ではまだまだ女性差別とかあるのだろうか?性別で物事を判断するのは浅はかだが。
でも、元の世界でもいたか。
「じゃあ、一応聞くが俺はどうすれば良いんだ?」
「先程も言いましたが、他言無用でお願いします。さっきはたまたま魔法を解除していましたが、いつもは男として生きています。私は男として生きていこうと決めていますから、オサム殿にもこれからも男として扱って欲しいです」
「分かった。そう言うことならそうする」
「感謝します」
「気にするな。じゃあ朝起こすのは俺で別に良いか?」
「はい。とは言え、私は比較的早起きですから多分起こされることはないとは思いますが」
「それもそうだな」
ー第17話 完ー
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