第13話:殺せない賢者、騎士団長と戦う。
第13話です。
俺は、ミルスさんに連れられて第1訓練場の見学に来ていた。
第1訓練場は、第2訓練場とは別の棟にあり、受付のすぐそばだった。
(ちゃんと地図を見ていたはずなんだが、だんだん自分に自信が無くなってくる……)
「オサム殿!あれが我ら王国騎士団が誇る伝統ある訓練法です!」
ミルスさんが俺に説明する。
1人が魔法を使い、もう1人が剣でその魔法を切っている。そして、切ることができたら今度は切った方が魔法をい、もう1人が剣で魔法を切る。これを延々と繰り返す。
魔法をただの剣で切ることは、想像を絶するほどの技術、経験が必要になるという。
「第1訓練場には全員成績、素行共に優秀な者が集められ、成績は今ひとつだが素行は良い者は第3訓練場に集められる。逆に、素行が良くない者は第2訓練場に集められるというわけだ。オサム殿が絡まれていたのはそのせいだな。……騎士になること自体は家が良ければ簡単だったりもする。先程オサム殿に絡んでいたヤツも、家はかなりの金持ちだからな」
「なるほどな。だから試合に負けたらサンドバッグにするとか訳の分からないことが通るわけか……」
「同じ騎士として耳が痛い……」
まぁどこにだってああいう奴はいるからな。
俺のクラスの中にすらいるのだから。
「あっ、見てくれ!あの人が我ら王国騎士団の団長にして"人類最強"と呼ばれている人だぞ!」
ミルスさんが指を差した先にいたのは、身長が2メートル近い大男だ。
(……あの男、かなり強いな。所詮素人の俺ですら分かるほどのオーラだ。この世界では相手になる人間はいないと王女が言っていたSランクの英雄でも今の段階では勝てないだろう)
ただ、人類最強なのかは分からないが。
俺が見ていると、その人と目が合った。
人類最強だというその男は、俺を見るやいなや、訓練をすっぽかしてこっちへやってきた。
「君がミルスを助けたという異世界の英雄か?」
「そうです」
大男から発せられるオーラで萎縮しそうになるが、なんとか耐えて受け応えた。
「そうか。俺はこの王国騎士団団長の"ヴァレル・マーダー"だ」
どうやらこの人はヴァレルさんというらしい。
……何故か知らないが俺のことをずっと眺めている。
「団長、どうかしましたか?」
ミルスさんが団長に話しかけた。
「……いや?異世界の英雄とやらがどれほどの力なのかと思って見てみただけだ」
「そうでしたか!改めて紹介しますね、彼が私を助けてくれた"オサム"殿で」
「ふんっ、くだらん」
「す……えっ?」
ミルスが言い切る前に、ヴァレルさんが言葉を発した。
「くだらないと言っているんだ。ミルス、お前はザコどもとは違って少しはやる男かと思っていたが……お前を助けたのがこの程度の奴だとはな。お前もたかが知れているな」
「えっと……、それはどういう……」
「はぁー……」とヴァレルさんは続ける。
「この程度のザコに助けられるような、お前という男に失望したんだよ。もう良い、お前は今日でクビだ。もう二度とここに来るんじゃねー」
「えっ……」
「お前の家──確かアライヴ家は王に逆らって爵位を剥奪されたんだっけか?」
「は、はい……」
「で、家を何とかまた再建させるために騎士団に入ったんだってな。……確かに騎士団に入って優秀な成績を収めた騎士の家には爵位が与えられることもある。没落貴族として騎士からバカにされてもめげずにお前は随分と手柄を立ててきたらしいな」
「……」
ミルスさんは何も言わなかった。
「逆境を乗り越えてきたお前に俺は"もしかしたら"と思ってこの王国騎士団に5人しかいない副団長にお前を任命した。だが、結果はどうだった?」
ここでヴァレルさんは一拍おく。
「お前のその正義感と実践での集中力には期待していた。今回お前が致命傷を負ったと聞いた時は驚いたよ。そして同時にお前を助けたという男がどんな男なのか気になった」
ヴァレルさんは俺に目を向け、言った。
「しかし、逆に驚かされた。まさかこんな弱者に助けられるとはな!確かに普通よりはできるのかもしれないが、その程度だ。それに、ミルスに致命傷を与えたとかいう異世界人。あいつも別にお前の実力が俺の思っている通りなら、お前に致命傷を与えるほどの実力はない」
ここで、再びミルスの方へ目を向けた。
「つまりは、結局のところお前にはそこまで実力がなかったということじゃないか。もしくは相手を舐めていたのか?中途半端な実力を持って正義感を振りかざす奴はいらないんだよ。騎士団の邪魔になるだけだ。」
「わ、私は……」
「鬱陶しい。どうしても騎士団に残りたいなら第二訓練場にでも行くんだな。お前が第一、三訓練場に入ることはこれより認めない。これは団長としての決定だ」
「そんな……」
「分かったなら、とっととそいつを連れて出ていけ。そいつを見ていると何故だかイライラする」
「は、はい……」
*
〜夜川平視点〜
(ハイペースで話が進んでるな……)
話が進みすぎて何がなんだか分からなくなってくるな……。
ミルスさん騎士団クビになったのか?
……?もしかして俺のせいか?
一応Sランクの英雄ってことになってるんだが、弱者と言われてしまった。やはり団長は俺のことが弱者だと言えるくらい強いということか。
ただ俺が助けたというだけでミルスさんがクビになってしまうとは。
話の勢いが凄すぎてヴァレルさんに何も言うことができなかったが、流石にミルスさんがかわいそうだ。
見たところミルスさんはまだ俺とさほど年も変わらないのではないかと思う。そんな若さでここまで登りつめてきたというのに……。
あのヴァレルとかいう男……そんな簡単に人を解雇するのは良くないと思う。本当に。
「は、はい……」
なんかミルスさんが俺を連れて出ていく流れになった。
「オサム殿……。申しわけありません、行きましょう」
ミルスさんは俺を連れていこうとする。
……何がなんだかよく分からないが、少なくともこの状況はミルスさんにとって良くない状況なのは分かる。
それに、俺はヴァレルとまだまともに話してすらいなければ対戦をしたわけでもない。
俺のことを弱者、雑魚などいろいろと言ってくれたが、そこまで悪口を言われる筋合いはない。
それに、ミルスさんは強かった。
ミルスさんは確かに林に負けたが、林の固有スキルが騎士とは相性最悪というだけで動きはミルスさんの方が圧倒的に良かった。固有スキルがなければ間違いなく勝っていたのはミルスさんだっただろう。
……とは言え、それを言ってもこの団長は信じなさそうだ。団長とミルスさんの話を聞いていると、団長は人の話を聞くような性格とは思えないしな。全体的に自分勝手で早とちりだ。本当にこんなやつが人類最強なのか?
言ってもだめなら、俺が証明するしかない。
俺がミルスという男を助けたに相応しいと団長に認めさせる。
そうすればきっとミルスさんはクビにならずに済むのではないだろうか?
ミルスさんは良い人だ。
それは昨日と今日で良く分かった。
そんな良い人を、俺は助けたい。
*
「なあ、俺と勝負しないか?」
「あ゛っ!?」
ヴァレルは俺を睨みつけた。
「さっき俺のことを弱者だの雑魚だの言っていたが、それを訂正してもらいたくてな」
「はぁぁ?何言ってんだてめぇ。お前ごときのためになんで俺が戦わなきゃいけないんだ」
「もし俺が勝ったら、俺がミルスさんを助けるに相応しい人間だと認めてくれ。それとも、異世界の英雄である俺と戦うのが怖いのか?人類最強なんだったら俺ごとき軽くあしらえるはずだよな」
少し煽ってみた。
「はっ、言うじゃねーか。俺はな、生まれつき他人のステータスが見えるんだ。てめぇのステータスは確かにそこらの一般騎士よりは高いが騎士団のエリートたちには到底及ばない。結果の分かりきっている勝負なんてしてもしょうがないんだよ」
「なら別に良いじゃないか、俺が本当に弱いならミルスさんをクビにすれば良い。でももし俺があんたに勝ったなら、ミルスさんが俺に助けられたのも納得できるだろ?俺はあんたに模擬戦を申し込む。これを拒否するのは勝手だが、俺はあんたを俺ごときの挑戦すら受けない臆病者だと思うだけだ」
「……お前、少し調子に乗ってるみたいだな」
本当に、こういうやつは簡単に挑発にのるな。
「……良いだろう。その挑戦受けてやる。異世界の英雄だかなんだか知らないが、調子に乗ってるガキには教育が必要だ」
「ち、ちょっと、オサム殿!!」
ミルスさんが突っかかってきた。
「どうした?」
「どうしたじゃないですよ!!私のことは良いのでこの試合をやめて下さい。私はオサム殿が戦っているのをほぼ見たことがないですが、いくらオサム殿──異世界の英雄でも団長には勝てません!!それに……」
「?」
「団長は、模擬戦をすると相手を壊してしまうんです。肉体的にもそうですが特に精神的に……。団長と戦うと実力が違いすぎて自信をなくしてしまい、剣が持てなくなってしまうんです!これまでも何人もそのような状態になってしまっています。しかも、団長が"教育"という言葉を使ったとき、最終的に相手が生きていることの方が珍しいんです!!騎士は人を殺してもある程度は許されますから」
……騎士道精神ないんだろうな。
「まぁ……、何とかなるだろ」
「オサム殿!?」
「話は済んだか?幸いここは訓練場だ。とっとと始めるぞ。おらっ、お前ら模擬戦だ!!!!」
団長がそう言うと、周りで訓練していた騎士たちが一斉に訓練場から出る。
騎士たちは訓練場から出ると、ガラスの向こう側からこちらを見つめていた。彼らは観客なのだろう。
「ミルスさんも向こうで見てて」
「良いから私の言うことを聞いてくれ!いくらオサム殿でも団長には勝てない!!」
「ミルスを連れていけ!!」
団長が騎士数人に命令し、ミルスを訓練場の外へと強制的に連れ出した。
団長は、木刀を俺に渡した。
「さぁて、ガキには教育が必要と言ったな。どんなのが良いか選ばせてやろう。そうだな、一瞬で終わらすのはだめだ。教育としてつまらないからなぁ。ああ、そうだ、魔法を使っても構わないぜ。使えるもんならなぁ」
こいつ……、負けるという考えがそもそも頭にないんだな……。
使えるもんなら?どういうことだ?
「言っておくが俺は教育を受けるつもりなんてない。とっとと始めるぞ」
「チッ、良いだろう。ならばフルコースでいかせてもらう」
審判の騎士1人が俺たちの真ん中に立った。
「では始めます……始め!!!!」
審判はすかさず後ろに下がる。
そして、俺は自身に身体強化魔法を発動する。
魔力消費はなんと5000だが、相手は人類最強だという話だから手加減はしない。
(身体機能完全強化!!)
おお。凄い……、周りの景色が全て止まって見える。
さっき使った魔法とは比べ物にならないほどに。
当然、団長は石になったのかと思うくらい動かない。
「……」
俺は剣を団長に叩きつける。
攻撃魔法を使っても良かったが、団長に負けを認めさせるにはこっちの方が良いと思った。
木刀を叩きつけられた団長は、そのまま地面へと倒れた。
俺は感覚を元に戻した。
団長は動かない。
どうやら気絶しているようだ。
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殺しを嫌う者
レベル1221→レベル1251
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(これでもレベル上がるのか……)
*
私は今日、信じられない光景を目の当たりにした。
ヴァレルはあれでも、強者の中で人類最強ではないかと言われている男だ。
私にはオサム殿が何をしたのか全く見えなかった。
普通に考えて人間にそんな動きは無理だ。
身体強化系の魔法だろうか?
これが異世界の英雄……。
「あっ、……、オサム殿?」
「ミルスさん……何かあったのか?顔青いぞ?」
どうやら私の顔は今青いようだ。
それもそのはずだ。
私は、オサム殿の戦いを見て、オサム殿が怖いと思ってしまった。
これほどまでに恐ろしい動きをしておきながら、息を乱してすらいない。
私は、どこか異世界の英雄について誤解していた。異世界の英雄は文字通りこの世界を救ってくれる英雄たちなのだと。
しかし、
(もしも、オサム殿レベルの異世界の英雄が人類の敵に回ってしまったら……)
考えるだけでも恐ろしい。
異世界の英雄とはそういうものなのだと、私は気づかされた。
ー第13話 完ー
お読みいただきありがとうございます。
だんだんと見てくれる人が増えていって嬉しいです。




