第1話:旅行の始まり
第4章第1話です。
ついに夏休みが始まった。
そして1週間後には、生徒たちとの旅行が控えている。
「宿泊先も問題なさそうだな。ルートも問題ない。……はずだ」
学校の職員室では、俺を含め全教員が、自らが引率する旅行の準備に追われている。
それは俺も例外ではない。
「……よし、そろそろ寮に戻るか」
仕事を一通り終えたので、席を立った。
すると、後ろから声をかけられる。
「あ、ヨルカワ先生。修学旅行のことなんですけど……」
彼女は4年Aクラス担任のアクア先生だ。
魔術戦大会では、俺とエキシビションマッチで戦ってくれた。
同い年(今年で俺も彼女も18)であるためか、それなりに仲良くやれていると思う。
「なんでしょう」
「私たちのクラスも、ルーアに行くことになったじゃないですか」
「はい」
数日前に、4年Aクラスもルーアへ行くことが決まったらしい。
どうも、1年から3年までは違う場所に行っていたそうだが気分を変えたいとの意見があったとか。
それにしても、彼女は随分若い時から教卓を取っていたみたいだ。
俺が言っても仕方ないだろうが、苦労したんだろう。
「私の友達がルーアに住んでいるんですが、実は最近、ルーア周辺の治安が悪化しているみたいなんです。特に夜の繁華街や、その周辺の闇市場のようなエリアです。ヨルカワ先生のクラスも気を付けて下さい」
そう言って、アクア先生が俺に地図を渡す。
そこには、生徒に行かせないように注意すべきエリアに複数の印が書かれていた。
「ありがとうございます、アクア先生。助かります。今度何かあったら言ってください」
「いえっ、お役に立てたなら、幸いです」
そう言い残して、彼女は職員室を後にした。
***
「──さて、皆さん。旅行の始まりです。楽しんでくださいね」
現在俺は、レスト王国王都の南に来ていた。
レメディから神聖ミナ教国のルーアへと行くためには、その間にある平原を突き抜ける必要があるのだが──
「……電車?」
通信魔法にて、王女様への定期報告をしていた俺は、教国への道順について聞いたのだが、どうもこの世界には『電車』があるらしい。
「はい。ハント王国が所有するデンシャです。その昔、先代の異世界の英雄が、その技術を伝えたと言われています。現在は量産されているので、主に平原を横断するのに使われています」
「なるほど」
ということがあり、俺たちはこの電車にて平原を抜け、神聖ミナ教国へと行くことになったのだった。
「──ヨルカワ先生、私たちとトランプしませんかー?」
「何言ってるんですか、先生は僕たちと魔法理論をですね……」
「あ、何言ってんだ、先生含め俺たちは戦うしかないだろ!!」
「え、ちょっと、先生困るでしょ……」
電車に乗って少しすると、話し声が聞こえてくる。
いや、電車内で戦うって言ってるやつは一体誰だ……?
というか……気分が悪い。完全に酔った。
この世界には、乗り物酔い薬がないので最悪だ。
酔い止め魔法とかないのだろうか?
「……トランプと魔法理論はやろうな……」
俺は若干の乗り物酔いを感じながら、生徒たちの席へと向かった……。
***
レメディを出発し、少しすると平原が現れる。平原は草木が生え茂り、ところどころに村のようなものや、比較的無害な魔物の群れなどが見えた。
平原をそのまま進んでいくと、途中で城壁のようなものが見えるようになる。この城壁は『スタブ帝国』のもので、この国はかの魔物大発生の被害地である港町リークを有する。幸い首都は内陸側であり、直接的な被害はうけていない。そのため何とか国として成り立っているという状況だ。
そして、さらに進んだ先に神聖ミナ教国があるというわけだ。
レスト王国の真南は『火山帯』。真北は海。真西は平原となっているため、必然的にこのルートを通ることになる。
なお、レスト王国の真東には『霧の森』があり、一般の人間は立ち入ることができない。この霧の中に入って戻ってきた人間が報告されておらず、危険なためだ。
***
「2人ともー、暗殺依頼が来たぞー」
仄暗い店の片隅。
中年の男が2人の若者の元へとやってくる。
2人は少年1人と少女1人であり、2人とも見た目は10代ほどに見える。
「……またですか……?あの、そろそろ……」
「了解しました。」
「あ、ちょっと……!」
若干おどおどしている少年を全く意に介さず少女の1人はその依頼を了承する。
「てなわけでー、こいつが今回のターゲットだ。こいつは上玉みたいだぞー」
そういって中年の男がターゲットの情報が書かれた紙を2人に配った。
「……なるほど、ターゲットは17歳の男性……?僕らと同い年じゃないですか」
「情報は一通り目を通しました。相手が誰であろうと、依頼をこなすだけです」
「え、まじ?イケメンじゃん!!」
そんな中、新たに少女1人が乱入する。
「……うわ」
その少女を見て、少年が顔を引きつらせる。
「あーそうそう。今回、絶対に失敗できないから、こいつも呼んだんだよ。まぁ、正直なんやかんや言ってもこいつは優秀だからな」
男は、頭を掻きながらそう呟く。
「……?依頼を失敗するとまずいのはいつものことではないんですか?」
「あーそれなんだがー。今回は依頼主が別格なんだよ」
「……別格?」
「そう、今回の依頼主は────教会、だからなー」
-第1話 完-
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