第6話:試練
第6話です。
愛花が第11階層に転移されたのと同時に、未来、龍太郎もそれぞれ第12階層、第13階層へと転移された。
~第12階層~
「……え、ちょっと!?愛花、三河君!?」
突然の衝撃と暗転に、動揺する未来。
~第13階層~
「……はぁ?めんどくせ!!」
砂埃を被ったことにより、それをはらうのをめんどくさがる龍太郎。
それぞれの試練が始まった。
***
~愛花(第11階層)~
「……試練?……というか、回復の神様!?」
「そうですよ。私はこの世界の属性神。回復の神『ルーラ』。貴女は回復属性ですから、私の管理下にあるのです。貴女が魔法を使えるのも、私のサポートがあってこそなのですから」
「な、なるほど……」
「というわけで、試練を始めたいと思います。順を追って説明するのでよく聞いてください」
回復の神『ルーラ』は、手を大きく広げた。
「まず、ダンジョンについて。ここから先、つまり第11階層より後は、各属性神による、『適応者』を見極めるための試練となります。そして、その試練をクリアした暁には、私たち属性神から、神の力の一部を与えられ、同時にこのダンジョンから出ることができます」
「なるほど……じ、じゃあ、その試練をクリア出来なかった場合はどうなるんですか?」
「死にます」
ルーラは、笑顔で即答した。
「……やっぱり」
「というより、私が始末します」
「え……」
「試練を乗り越えられないものには生きる権利などありませんから。この世界の管理者の一人である私に見限られれば、それで終わりということです」
「……」
「というわけで、さっさと試練を始めましょう。北愛花さん」
***
第11階層、通称『無限回復エリア』。
その試練の内容はいたってシンプルだ。
【試練内容】12時間、回復神の攻撃を受け続ける。最後まで耐えて生存した場合、クリア。
すなわち、この試練は回復魔法を駆使することがカギとなる。
攻撃を受けても、異世界の英雄の回復魔法は強力であるため、理論上回復魔法をかけ続ければ耐えることができる。
ただし、それは相手があくまで普通の人間である場合に限る。
相手が回復神とは言え、神族であるため、その能力値は計り知れない。
そして、回復神の合図で試練が始まる。
まず回復神ルーラは、自身の魔力によって『何か』を作り出した。
「……まずは、小手調べといきましょうか。『魔法騎士』、彼女を攻撃しなさい」
ルーラに魔法騎士と呼ばれた『何か』は、だんだんと『何か』から『騎士』へと姿を変える。
全身黒い巨人が、同じく巨大な黒い馬に跨っており、手には剣のようなものを持っている。
「……っ!?うわっ!?」
愛花は、様子をみていると不意をつかれた。
彼女の数センチ横に、数メートルの剣が通過する。
不意を突かれても反応できたのは、おそらくこのダンジョンでレベルを上げ、ステータスが大幅増加しているためだろう。
だが、魔法騎士の攻撃が一回で終わるわけがない。
「……っいたあ゛!?」
数十発同時に操られる剣のうち数本が、愛花の腕と足に命中した。
愛花は今まで経験したことのないタイプの痛みに、思わず跪く。
切られた箇所を見ると、既に血が噴き出していた。
「ひっ…………」
思考が揺らいで、なかなか纏まらない。
だが、今すぐに回復魔法を打たなければ、自分は出血多量で死ぬのだと悟った。
「『フル・ヒール』!!」
そのため、とにかく考えるよりも先に回復魔法を放った。
「……ふむ」
その愛花の姿を見た回復神ルーラは、少し感心した。
たいてい、回復職と言うのは単騎では脆いものだ。
回復職は基本的に、『自身を守る力』を持たない。
回復職である『僧侶』や『治癒師』などは、物理攻撃力が低い代わりに魔力は高い場合が多いが、一方で、自身の属性の影響で回復属性の魔法しか使うことができない(『僧侶』や『治癒師』が持つ『回復属性』は、回復魔法を使うことができる属性であり、通常生き物は生まれつき一つの属性しかもっていないため、それはすなわち回復魔法以外使うことができないということになる)。
(……魔力から見て、確か最近異界から召喚された英雄か。ハント王国はまれに異界から英雄を召喚しているが、一体何をしようとしているのか)
「……しかし、粘ってはいるようですが、所詮はただの人間といったところ。限界が見えている」
愛花は必死に回避と回復を繰り返しており、既に1時間以上粘っているのだが、そもそも体力が底をつきそうになっている。また、魔力もだんだんと回復量を使用量が上回り、とてもじゃないがあと11時間持つとは思えない。
「……終わらせてあげましょう」
確かに、自身の予想は上回った。
だが、それでも足りない。
これでは、試練を乗り越えたとは言えない。
(まぁ……この攻撃を耐えることができたら、せめて命だけは見逃してやろう)
ルーラは、魔法騎士に、必殺の一撃を要求した。
──次の瞬間、辺りは閃光に包まれた。
***
「……」
──あれ?
私──何してたんだっけ?
……ここは?
……私は確か、回復の神様と戦って……。
「……ああ……私、死んだんですか……」
体の感覚がない。
自分に五感が残っているのかどうかすら分からない。
ただゆっくりと、どこか底へと落ちていく感覚がある。
「……あ」
そんな中、私の視界には──走馬灯が流れる。
「……はは、こんな時まで、あの人の姿ばっかり映りますね」
走馬灯は、これまでの人生が映し出されるが、その欠片それぞれの最後は、必ず一人の人物にたどり着く。
「……この記憶は……」
***
──3年前。
平、愛花、共に14歳。中学2年生。
2人は近くに住んでいるため、毎朝2人で中学へと通っている。
「……はぁ……やばいかもしれないです」
「……ん?急にどうした?」
「平さん、よくぞ聞いてくれました!」
「あ、ああ……」
「実はですね。今度私、小説の賞に応募しようかと思ってまして。ただ、その内容が少し不安なのです」
愛花は、かばんから原稿用紙を取り出す。
「そうか。愛花、お前国語得意だもんな」
「ええ。私が平さんに対抗できるのは国語くらいしかないですし。私これでも、文章でいくつか受賞してますから!!」
愛花が最近特に本気で文を書いていることは、平も知っていた。
小説家になることは、愛花の小さい頃からの夢だった。
「で、俺はどうすれば良いんだ?」
「簡単です。この文章を読んで、感想を聞かせて下さい。そして……」
「そして?」
「……私を、励まして下さい」
「励ます?どういう意味だ?」
平は愛花に真意を尋ねる。
「……実は私、親から小説家になる夢を諦めるよう言われてるんです。だから今回、せめて選考を通らないと強制的に諦めさせる、と。ほら、私の親、厳しいじゃないですか」
愛花は俯いた。
そして、平の手を握る。
「私がこうやって平さんと一緒にいられるのも、平さんが誰よりも優秀だからこそです。平さんといれば、自分の娘も優秀になる、と思っているんですよ。ただ、今回失敗して、成績も落ちるようなら、今度はもう会わせないなどと言ってきます」
愛花の声が、今までないほどに弱くなった。
「愛花……」
「だから、お願いします。私の『夢』をかなえるためにも……協力してください。お願いします……。それに私は……」
だが、最後まで言い切る前に、平は愛花の手を引き上げた。
「えっ!?」
「愛花」
「は、はい」
「────」
愛花にだけ聞こえるくらいの声量で、一言呟く。
「……っ」
「だから、心配するな。もし困ったことがあったら、俺が何とかしてやる。俺はこう見えて、そこそこなんでもできるからな。まぁ、この文章も、俺がちゃんと確認しておく」
そう言うと、平は原稿用紙を手に取り、歩みを始めた。
「……はい!」
それに続いて、愛花も歩みを始まる。
──1か月後。
小説大賞にて、14歳の若さにして入賞を果たした人物が現れることになる。
***
……そうだ。
私はまだ、成し遂げていない。
私はずっと、あの人の隣に立ちたかった。
だから、こんなところで終わるわけにはいかない。
「……」
-第6話 完-
お読みいただきありがとうございます。
第4章まで、あと1話です。
また投稿ペース早められそうです。




