084 墳墓公園の♡ピクニック♡
今日はお休みの日だ。ピクニックに行く日だ。よく晴れ渡った一日になりそうだった。
地面に敷く毛布や飲み物、日傘などを用意する。飲み物は瓶詰めのワインとジュースだ。もちろんアフロードも馬車に乗せる。
今日は嫌な予感はまだしないが、念のためドロシアン・プラストロンとダネラル・ティアラと将軍職杖を入れた籠を馬車に持ち込んだ。
まもなくターニャとミラスが馬車でやって来た。
「ドロシア、おはよう。今日はよろしくね」とターニャが私の腕に自分の腕を絡めてあいさつしてきた。
「ターニャ、来てくれてありがとう」ターニャの後ろでミラスがもじもじしている。
ターニャは私の後ろにライラの姿を認めると、つかつかと寄って行った。
「ライラ、今日はよろしくね」
「は、はい。・・・よろしくお願いします」ターニャに声をかけられて面食らうライラ。ライラはサプライズの意味を知っているのだろうか?
「おほん、ド、ドロシア、今日はよろしくお願いします」とミラスが妙に改まってあいさつしてきた。
「ミラス、来てくれてありがとう」にこっと微笑むとミラスが頬を染めた。
「今日は私をそちらの馬車に乗せてね。それから、内城壁を出る前に、以前つれて行ってもらった家庭料理屋に寄ってね。そこにお弁当を頼んでいるの」
「わかりました、ドロシア」
「そして墳墓公園まで先導をお願いね」
「もちろんです。さあ、馬車にお乗せしますよ」
いつもだとミラスが私の手を取って馬車に乗るのを手助けしてくれるが、今日は私の背後に回ると、私の腰を持って体を持ち上げてくれた。
「あ、ありがと・・・」面食らう私。
「どうですか?男は力強いでしょう?」男性の良さをアピールしたいのかな?
「お兄様、私のドロシアに気安く触らないで!」とターニャが文句を言った。兄妹で私の取り合いをしないでくれ。
馬車に乗り込むと、ターニャが両手首に銀の腕輪をしているのに気づいた。首には蒼玉のネックレスをかけている。
「あら、素敵な腕輪ね」
「この前持って来た木の杖はお父様に取られちゃったから、何か代わりになるものがないか探していたらこれを見つけたの。この腕輪には光明の神の紋様がぐるっと刻まれているから、何かになるかなと思ってつけて来たの」
光明の神の紋様とは「@」のような図形だ。その紋様が腕輪にたくさん刻まれていた。
馬車が貸家を出ると、途中で家庭料理屋に寄っていくつかの籠に詰められたお弁当を受け取った。いい匂いが漏れるので、バネラたちがよだれを垂らしながら凝視していた。
当然お弁当はミラスの馬車に乗せる。
「ミラスのおかげでお弁当作りをすぐに引き受けてくれたわ」
「こういう店は、男の方が顔が利きますからね」・・・今日はやけに「男」を強調するミラスだった。
馬車は内城壁を出、帝都の西門を抜けて北西方向に続く道を進んだ。
「今日行く墳墓公園って、いつ頃のお墓なの?」とミラスに聞く。
「ザカンドラ皇国の初期王権ができた頃は、先住民族との戦いがよくあったそうです。第4代皇帝が戦いの傷がもとで亡くなったときに、ザカンドラ皇国の威光を示すために大きな墳墓が作られました。ザカンドラ皇国はこんな大きなお墓が作れるほど国力があるんだぞ、と周辺諸国に誇示したわけですね」
「へー」
「それが契機となって以降の皇帝も亡くなるとこの墳墓の墓所に葬られ、墳墓はますます整備されて公園のようになっていったそうです。ただし第16代皇帝は、畑しかない平野の真ん中に葬られるのを嫌い、帝都内の王宮の横に霊廟を建て、以降の皇帝は霊廟に埋葬されるようになったのです」
「そうなんですか」
「ちなみに第15代皇帝までは、埋葬されるときに家来や兵士たちが殉死して、墳墓の墓所の周囲に円を描くように殉葬されたと言われています」
「殉死って何?」
「皇帝の後を追って死ぬことですよ」
「え〜、何それ?こわい!」と私は悲鳴を上げた。「生きているのに無理矢理死なせられるの?」
「そういう慣習だったみたいですよ。もちろん今はそんなことをしませんから、安心してください」
やがて馬車は墳墓公園のすぐ隣にある町に着いた。墳墓は今でも管理され、その職員と物見遊山で訪れる旅人を目当てにした宿場町が発展したものらしい。
私たちの馬車は町を素通りし、墳墓公園の前の馬車の停車場に着いた。ここで馬屋に馬と馬車を預け、公園内を散策するのである。
墳墓は思っていたより立派なもので、直径200ヤールくらいの小高いお椀型の墳丘が中央にあった。日干し煉瓦で組み立てられた巨大建造物らしいが、表面は石灰を練ったものが塗られており、日光を浴びて白銀に輝いていた。
「10年おきに表面を塗り直しているんです」とミラスが説明した。
「今も大切に管理されているんですね」
墳丘の周囲の直径400ヤールの範囲は家来や兵士が殉葬された場所で、長さ1ヤール、幅半ヤールくらいの大きさの石版が無数に同心円上に並べられていた。
その周囲の直径1000ヤールの範囲には草木が植えられ、人口の池や川が作られ、遊歩道沿いに四阿がところどころに建っていた。管理人と衛兵の詰め所もある。露店もいくつかあった。
紅葉がきれいな遊歩道を散策したり、池に小舟を浮かべたりしている人々がいる。ほんとうに国民の憩いの場のようだ。
私たちは中央の墳丘が見える芝生の上に毛布を敷き、その上に料理や飲み物を並べた。もちろんアフロードも座らせておく。
料理はキッシュやブルーベリーパイ、水気少なめのビーフシチュー、牛肉の蒸し焼き、パン各種、ポムの砂糖漬けなどで、普段食べる食事よりも豪勢だった。
携帯用の革製のコップに野イチゴワインや黒イチゴジュースをついで配った。
「さあ、みんな乾杯しましょ」私が言ってみんながコップを持つ。
「えー、今日はザカン学園に入学してから3か月目となり、途中北国への遠征などがありましたが、冬が来る前に一度ピクニックをしようと思いみんなを誘いました」
私は左隣にいるターニャの方を向いた。
「ターニャ、いつも仲良くしてくれてありがとう。ターニャと一緒だから毎日がとても楽しいわ」
「ドロシア・・・」感無量となるターニャ。
私は右隣のミラスを見た。
「そしてミラスも、いつも私たちを助けてくれてありがとう。とても感謝しているわ」
「ドロシア・・・」ミラスも嬉しすぎて泣きそうな顔をしている。
私は向かいに座っているライラの様子を見た。私たちを見ていてとても楽しそうだ。
「そして、ライラ」私はライラに話しかけた。
「えっ?」驚くライラ。
「ライラには私が小さい頃からお世話になっています。いつもほんとうにありがとう」
「えっ?えっ?」茫然としているライラ。私の言っていることが理解できないかのように。
「今日はね、私のライラに対する感謝の気持ちを伝えたくてこのピクニックを企画したの」
私はライラの目をまっすぐ見つめた。
「私はライラのことをお母様のように愛しているわ。これからも、ずっと私のそばにいてね」私も感極まって目から涙があふれてきた。
「お、お嬢様・・・」声を震わすライラ。
「わ、私は、奥様に、お嬢様のお母様に大変良くしていただきました。そのご恩に報いるためにお嬢様のお世話係になりましたが、そのうちにお嬢様にお仕えすることそれ自体が私の喜びとなり、お嬢様は私の宝物となりました」
ライラの目からも涙があふれて出ていた。
「それだけでも幸せなのに、このような場を設けていただき、さらに私にそのようなお言葉をかけていただけるなんて、私はなんて幸せ者でしょう!」
ライラはエプロンに顔をうずめて泣き出した。みんながつられて涙をこぼす。
そのとき、バネラのお腹がぐぅ〜っと鳴った。思わず全員がバネラを見る。ライラもエプロンから顔を上げて、バネラを見つめていた。
「バネラ〜!」
今度はロルネのお腹が鳴った。そして間髪入れずにペニアのお腹も鳴った。
「あなたたちは〜!」私があきれ、バネラたち3人が頭をかいた。
みんなが笑い、ライラもくすくす笑っていた。
「さあ、もう泣かずに笑いましょう。そしてごちそうを食べましょう!・・・ライラ、いっぱい食べてね」
「はい!」と威勢良く答えたのはバネラだった。
みんなが笑いながら思い思いに料理を小皿に取る。
「ライラ、今日は私たちのお世話はいいから、しっかり食べてね。さもないとバネラたちに食べ尽くされちゃうわよ!」
「もぐもご、どういう、もぐ、意味ですか〜?」口いっぱいに頬張りながら文句を言うバネラ。
「そのままの意味よ。・・・あ、このパイはおいしいわね」
「キッシュもおいしいわ」とターニャ。
「パンに牛肉の蒸し焼きをはさんで食べるとおいしいわよ!」とロルネ。
「ポムの砂糖漬けもとても甘いわ」とライラも喜んでいた。
「このように野外で食事をするのも楽しいですね」とミラスが私に話しかけた。
「そうね。でも、もうすぐ冬が来るから、あまり外出できなくなっちゃう」とターニャが言った。
「雪の降る日は暖かい家の中で、窓から雪を眺めながら、温かい料理を食べるのも楽しいわよ」と私が2人に言った。
「是非、またみんなで一緒に楽しいお食事をしましょう」と言ってミラスがさわやかに微笑んだ。
「それでは、ライラさんのために考えてきた語り芸をします!」とニェートが叫んだ。
スズもアフロードを抱いて立ち上がるところだった。
「私のために?」驚くライラ。
「そうです!お嬢様にライラさんを喜ばせる芸を考えるよう言われました!」
「お嬢様、感激です」と私に改めてお礼を言うライラ。
「ニェートもスズもありがとうね」
照れ笑いをしながらニェートとスズとアフロードが並んだ。そしてニェートが何かを言おうとしたとたん、「きゃー」という悲鳴が近くで上がった。
悲鳴がした方を見ると、遊歩道を散策していた人々がこちらへ向かって逃げて来るところだった。その向こうを見ると、兵士たちを殉葬したところの石版がめくれ上がり、地中から何かが立ち上がっていた。
土の塊のようにも見えるが、人の形をして、こちらに向かって歩き始めている。
「ドロシア!体が!」ターニャが叫んだ。そのとき、私は自分の体が白く輝いているのに気がついた。
「スニア、胸飾りと頭飾りと将軍職杖を!」
「は、はい!」スニアが傍らに置いていた籠を持ち上げる。
今日は軽甲冑を着ていないが、ドレスの上にドロシアン・プラストロンを、頭にダネラル・ティアラを装着した。そして将軍職杖を手に取ってみんなの前に出た。
「降魔障壁!」私が将軍職杖を振ると、すぐに白銀の輝きが私の周りを回転し始める。
「ドロシア、私に息を吹きかけて!」突然ターニャが抱きついてきた。
「え?」
「私も一緒に戦うわ!」
振り切ることもできず、しかたなくターニャに息を吹きかける。何度か試したが、ターニャの体が白く輝くことはなかった。
「最後の手段よ!」苛立つターニャが叫んで、自分の唇を私の唇に押し当てた。




