082 ドロシアの♡恋愛♡
翌朝ザカン学園に登校すると、学園生たちが私を見て小声でざわつき出した。
私が顔を上げるとベンガルと目が合ったが、いつもベンガルの近くに座っているコナンドルが少し離れた席に座っているのに気づいた。
私はターニャの隣に座って尋ねた。「今日は何なのかしら?」
「小声で話しているから、私にも話の内容はわからないわ」
「そう?」・・・気にする必要はなさそうだ。
午前第1講は「修辞」だ。昨日の補習ではきれいな筆記体を書く練習をしたが、今日は文語体の文章の書き方だった。要するに古文だ。
この時代では正式な文書は文語体で書かれている。話し言葉では使わない文体だ。よく知らない単語が多く、文法も独特だ。はっきり言って何が書かれているのかよくわからない。
しかも1月休んでいたので基礎ができてない。先が思いやられた。
午前第2講は「音楽」だ。まだ楽譜が完全に読めないのに授業で扱う曲が変わっていて、しかも楽譜を読むだけでメロディーを歌わされる授業だった。
私は1月授業を休んでいたので歌うのは免除されたが、ターニャが「ラララ~」と歌うメロディーと楽譜の音符が合わなくてわけがわからなくなった。
昼食の時間に食堂でまた落ち込む。「今日もまったくわからなかった~」
「だから、私が教えてあげるわよ」とターニャが言ってくれるが、ターニャに教わる時間もない。
そこへバネラたちとミネアたちが食事をしにやって来た。
「ドロシア、聞きましたよ~」とにやにやしながら言うバネラ。
「何を?」授業についていけないことだろうか。
「昨日の補習で、メラニア王国の王子といちゃいちゃしてたんですって?」とロルネ。
「はあ?」そのように先生に注意されたけど、ほんとうにいちゃいちゃしていたわけじゃない。
「なんで家に帰ったときに教えてくれないんですか?おかげでみんなに何もマル秘情報を披露できなかったですよ~」と口をとがらすぺニア。
「なんであなたたちに私の行動をいちいち報告しなけりゃならないのよ?第一、ベンガルとは少しお話をしたけど、いちゃいちゃしてないわよ」
「ミラス様に慕われているのにほかの男に近づくなんて、かわいい顔してあの子、わりとやるもんだね~ってみんなが噂していましたよ」とバネラ。
「何よ、それ!?ちょっと話をしただけでそこまで言われるの?」
「ドロシアは今一番注目されていますからね、誰かと親しげに話すだけですぐに噂になるんじゃないですか?」とロルネが言った。
「いい迷惑だわ」
「下位クラスの男の子には話しかけないでくださいね」とミネアが口をはさんだ。
「ドロシアにぽーっとなっちゃうから」とユミナ。「私たちを見なくなっちゃう」
「何よ、それ?」
「今日はタマネギソースにしよーっと」とバネラたちの話題は既に移っていた。
午後の補習を受けるために一人で教室の席に座る。今日もベンガルが近くに座ったが、噂を気にしてか話しかけてはこなかった。
そしてミラスが反対側に座った。補習を受ける必要がないのになんでだろうと思う。
また教室の後ろの方でひそひそ声が聞こえた。私の噂だろうか?自意識過剰になっている気がしないでもない。
今日もナレーシャが私の後ろに座り、そっと囁きかけてきた。「今日ももてもてですね」
「もー、よしてよ」とナレーシャに囁き返す。
ミラスも噂を気にしているのか、私に話しかけてこようとしなかった。気を遣わずに補習を受けようと思う。
最初の補習は、さっきちんぷんかんぷんだった音楽だった。楽譜の基礎を再学習する。
先生が手風琴で音階を演奏する。それを小声で口に出してみる。何となく自分の出す音がずれているような気がした。ひょっとしたら私は音痴なのだろうか?
次の補習は「歴史」だった。ザカンドラ皇国の初期王権ができた頃の内容だった。明日の授業でどこまで時代が進んでいるかわからないが、「歴史」は何とか取り戻せそうな気がした。
多少展望が見えた気がしたところで補習が終わった。私が帰ろうと立ち上がると、ミラスが立ち上がって私の前を塞いだ。
「ドロシア、今日これから我が家に寄りませんか?」
とたんに教室の後ろの方がざわついた。
「いえ、申し訳ありませんが、今日は早く帰ります」
私が断ると、ベンガルがにかっと笑って席を立った。そのまま教室を出て行く。
私は後ろにいるナレーシャに、「じゃあ、また明日」と断って教室を出た。別にベンガルの後を追ったわけじゃない。
馬車に乗って寄り道してから貸家に帰ると、バネラたちがすぐに出迎えてきた。
「ドロシア、お疲れさま~」
「ほんとに疲れたわ。あなたたちは授業についていってるの?」
「何とかやってますよ~」と答えるバネラ。ほんとだろうか?ほんとなら私より優秀かもしれない。
「それより、今日はどうだったんですか?」とロルネが聞いた。
「どうって何が?」
「もちろん男ですよ~」と言うぺニア。嫌な言い方だ。
「誰とも話さず、何もなかったわ。さっさと帰ったの!」
「つまらないじゃないですか~。もっとみんなの話題になるようなゴシップを提供してくださいよ~」とバネラが言った。
「何でよ!?変な噂で注目されたくないわ!」
「だって、もてもてのドロシアは私たちの憧れなんですよ~」とロルネ。
「え?」
「ドロシアがもててもてて、世界で一番素敵な相手と結ばれれば、自分のことのように嬉しいですよ~」
「そ、そうなの?・・・私の幸せをそんなに願ってくれるなんて」ちょっと感激する。
「さあ、2階でお茶でも飲みましょう」と私を誘うバネラたちだった。
居間でくつろいでお茶をすすっていると、ニェートと人形を持ったスズが私たちの前に立った。
「お嬢様、新作のトリオ語り芸をしていいですか」と聞くニェート。
「いいわよ」
「スズで〜す」
「ニェートで〜す」
「ベルベル様でございます」とスズが人形に言わせた。ベルベルが参加するのが定番になったのか?
「ねえ、知ってる?ドロシアお嬢様は男性にもてもてなんだって」とスズ。
「ほんと?すごいね」と称賛するニェート。
「はしたないざます」とベルベル様。
「誰にもててるの?」と聞くニェート。
「えっとね、ミラス皇子でしょ、パルス皇子でしょ、リュー司令官でしょ」
「はしたないざます」とベルベル様。
「それに昨日はメラニア王国の王子にもてたんだって。バネラさんが言ってた」
「はしたないざます」とベルベル様。
「それで一体お嬢様は誰が好きなの?」とニェートが聞く。・・・おいおい。
「ドロシアは尻軽で男好きざます」とベルベル様。おい!
「誰が好きだと思う?」と聞くスズ。
「えーとね、ランダ王子?」とニェート。
「意外なところでガンダル副将軍ざます」とベルベル様。おい!
「正解を発表します。・・・お嬢様は実は男ではなく、女の子が大好きなんです!」とスズが言った。おーい!
「え?まさか私?」とバネラ。語り芸に参加するんかい!?
「ターニャ様じゃないの?」とロルネ。やっぱり参加するんだ。
「やっぱり私かしら?」とぺニア。勝手に言ってろ。
「ドロシアはマザコンだからライラさんざます」とベルベル様。今度のピクニックにつれて行かないぞ!
「正解は、闇神殿にもノルドール王国にもつれて行ってもらった、私、スズで~す!」とスズが言った。
バネラたちからぶーぶー文句が出る。
「もう、ええわ!」とニェートがスズを叩いて終わった。
「あなたたち、いいかげんにしてよね」
えへへと頭をかくニェートとスズ。
「ライラに見せる芸の準備はできてるの?」
「そちらは任せて!」とニェート。大丈夫かな?
「何の話ですか?」と背後にライラがいて話しかけてきたのでびびった。
「な、何でもないわ。・・・あら、何?」ライラが何かが入った小鉢を出してきたので、話題をそらすために聞いた。
「砂糖菓子のコンフェイトです」
「あら!前にターニャにもらった高級なお菓子ね?」
「市場に行ったら安く売ってたので買っておきました」
お茶を淹れ替えてもらい、コンフェイトを一粒口に入れる。ターニャにもらったコンフェイトよりは崩れやすいが、それでもおいしく食べられた。
お茶を飲むとバネラたちが寄って来た。
「お嬢様、ひとつもらってもいいですか?」
「いいわよ」と私が言うと3人が一度に手を出して、指の間に数粒ずつつかんで取り、一度に口に入れた。
「ひとつって言ったじゃない?何でがばっと取るのよ」と文句を言うと、
「ひとつかみって意味ですよ」と答えながらがりがりかんでいた。
「そんなに食べると夕食が入らなくなるわよ」
「大丈夫ですよ、夕食は別腹ですから」
別腹って、デザートとか間食に使う言葉じゃないの?
「ところで、今度のピクニックに特別なお弁当を用意するというようなお話でしたね。うちで作るんじゃないんですか?」とバネラが聞いた。食べることについてはよく覚えているな。
「ええ、たまには普段食べないようなごちそうもいいんじゃないかと思ってね、前にミラスにつれて行ってもらった家庭料理屋にさっき寄って、特別に外へ持っていけるお料理を頼んだの」
「そんなお願いをよく聞いてもらえましたね。あまり料理屋ではお弁当なんて作ってもらえないんじゃないですか?」とロルネ。
「ミラスの名前を出したら一発でオーケーしてくれたわよ。私の顔も覚えていたみたいだし」
「ミラス様のおかげですね。少しはミラス様にいい顔をしてあげたらいいんじゃないですか?」
「そうねえ・・・」確かにミラスにはいろいろお世話になっている。
「当日はミラスも来るって言ってたから、何かお礼をしないとね」
「抱き着いてぶちゅーっでいいんじゃないですか?」とぺニア。
「やめてよ。その場のお礼ですまなくなるじゃないの」
「でも、八方美人をしていると、今に事件が起こりますよ」とバネラ。
「事件って何よ?」
「ドロシアを取り合って刃傷沙汰とか・・・」
「そんな、まさか・・・」
「それを避けるには」とバネラが言ったので私は注目した。
「さっきスズが言ったように、自分は女の子が好き、特に私、バネラが大好きだと宣言すればいいんですよ!」




