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公爵令嬢は♡姫将軍♡から♡降魔の巫女♡になる  作者: 変形P
第1部 闇神殿編
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008 神話と神と♡大道芸♡

大道芸人の寸劇の影響もあって、私の虚名は広く知られるようになったようだ。しかし寸劇の中の、魔女が国王の命を狙うというセリフはやはり問題があったようで、国王から直々に王宮へ来るようお達しがあった。


私はライラだけをつれて王宮に上がった。


国王の執務室に通されると、そこにはレンダ第2王子とロンダ第3王子が待っていた。


「お姉様!」「ドロシアお姉様!」


2人の王子が私の元へ駆け寄って来た。2人とも小さい頃から一緒に遊んだ仲で、未だに姉と慕ってくれる。さすがに第1王子のランダは私のことを「従姉殿」と呼ぶけれど。


「お姉様はすごいんですね!魔女をやっつけられたんでしょう?」ロンダがまだあどけない顔をして聞いてきた。


「そのことは国王陛下にお話ししに来たのだけど、あなたたちも聞くの?」


「ええ、是非お願いします!」


そこへ国王が侍従をつれて執務室に入って来た。私はドレスの裾をつまんであいさつをする。


「ドロシアよ、こちらに来なさい。・・・王子たちも」


「はい」「はい」「はい」と私たちは返事をして国王のそばに寄った。


「さっそくだが話を聞かせてもらおう。・・・街中で大道芸人が寸劇をしているのを知っておろう?」


「はい」


「その中で気になる言葉を聞いたので、お前に話を聞こうと思ったのだ」


「はい、では最初からお話しします。・・・ことの始まりは先日の祝勝会の会場でのことでした。私は友人から、誰かがボルランド山に住む黒衣の魔女に私を呪わせるよう依頼したという噂があることを聞きました」


「何と!?」と国王が驚きの声を発した。「その呪いは効かなかったのか、それとも呪われる前に魔女を倒したのか?」


「実は、先日の戦の前に私は自分の屋敷の中で急に意識を失って倒れたことがあったのです。・・・命は無事でしたが、あれが呪いの一撃だったのかも知れません」


「無事で何よりだった・・・」国王と王子は心底心配そうな顔をした。


「このまま放っておけば、再び呪われて今度は命を落とすかも知れません。そう考えて、第5軍のガンダル副将軍と手だれの女兵士2人を連れて魔女が住むボルランド山の風穴に行きました」


「・・・無茶なことをするな」


「父にもそう言われました。・・・魔女は私の無事な姿を見て驚愕し、再度攻撃して来ようとしましたが、ガンダルと2人の兵士の力を借りて何とか撃退しました」


「寸劇ではお前が不思議な力を使ったとか、私の命を狙ったとか言っていたそうだが?」


「国王陛下、私はただの娘で人智を超えた力など持っておりません。魔女の仲間の仕返しを怖れ、ガンダルたちが魔女の力では私を倒せないという噂を広めるために話を作ったのでしょう」


あの“光の手”は私が自在に使える力ではない。そんな力を持っていると国王に思われたら、その力を使ってみろと言われるだろう。そして力が使えないと拒み続ければ・・・妙な憶測を呼びかねない。


「それから魔女は、国王陛下のことには一言も触れませんでした。陛下の命を狙っていたというのは、大道芸人が劇を盛り上げるために勝手に言ったことでしょう」


「そうか。・・・それなら良いが」と国王が言った。


「ところで、私は魔女の存在を今回初めて知りましたが、この世界の中に魔女という存在は他にもいるのでしょうか?」私は疑問に思っていたことを国王に尋ねた。


「魔女の存在については、神殿の教主に話を聞いた方が早いだろう。ここへ来るように頼んである。しばし待ってくれ」


国王はそう言うと、レンダ王子とロンダ王子に自分たちの部屋に戻るよう命じた。


「えー!?もっとお姉様のお話を聞きたいのに・・・」不満を口にするロンダ。


「お前たちにはまだ早い。さあ、ここから出て行きなさい」


二人は残念がったが、父親とはいえ国王の命令を無視するわけにもいかず、それぞれの侍従に促されて執務室を出て行った。


代わりに入って来たのが神殿の教主である。「教主」とだけ呼ばれ、名前は聞いたことがない。


教主はぼろ切れのような褐色の布を身にまとっていた。この神殿の教義は『清廉』である。宗教は信者が増え、組織が巨大になると得てして腐敗するものだが、この神殿の初代教主は、教主自身はもちろん、その下で神殿に仕える司教たちにも財産の所有を禁じ、代わりに国王が彼らの生活を保障する体制を考え出した。


今のところ、教主や司教たちの目に見える腐敗は起こっていない。


「教主殿、よく来てくださった」国王が自ら教主を出迎えた。


精神的上位者として、国王ですら教主に頭を下げることもその体制の中に組み込まれている。財産の代わりに権威プライドを神殿が得たのである。


「国王陛下よ、健やかなれ」と教主がいつものあいさつをした。


「教主殿、この娘が国務大臣クランツァーノ公爵の一人娘のドロシアです。このたびの魔女騒動の渦中に巻き込まれております」


「お主が魔女を倒したと言われているご令嬢か?」


教主は優しそうな顔をした老人で、穏やかな口調で私に尋ねた。


「いえ、私は・・・」と、国王にした説明を繰り返した。私自身には特別な力がないことを強調して。


「ところで教主様。魔女という存在はこの世の中に大勢いるのでしょうか?」


「それには我が神殿に伝わる神話から説明せねばならないじゃろう」と教主が話し出した。


「神話によればこの世界は無の中に突然生みだされたのじゃ。そしてこの世界を統べるべく、数多の神々が集い互いに争った。その中で勝利を収めたのが光明の神じゃ。他の神々はこの世界から駆逐されていったが、暗黒の神だけは光明の神の光が届かぬ闇の中に身を潜め、この世界に留まってしまったのじゃ。


 この世界に人間が生まれ、当然の如く光明の神をあがめ、その教えを広める司教たちが神殿を作った。しかし一方で、暗黒の神は影や闇の中から一部の人間をそそのかし、どこかに闇の神殿を作らせたようじゃ。その闇の神殿に仕える者を魔教徒とか魔女と呼び、暗黒の神が持つ呪いの力を分け与えられているらしい。


 ・・・確かなことは我らも知らないが」


「そうでしたか・・・」光明の神の話は小さい頃から聞かされ、私たち国民は光明の神をあがめてきた。しかし暗黒の神の話を聞くのは、スズの言葉以外では初めてだった。


「魔教徒や魔女は闇の中に潜み、通常は我々に干渉してくることはない。しかし一部の魔女は闇の神殿を離れ、暗黒の神の力を使って呪いなどを請け負っているという噂じゃ。


 そのような魔女が何人いるのかはわからぬ。だが、どこの国でも真実か虚偽かわからぬ魔女の噂は絶えない。・・・このボルランツェル王国にその魔女がいたとは、痛恨の極みじゃ」


教主は顔の前で印を切った。宙で指を「@」のように動かすのである。


「だが、暗黒の神に仕える者は光明の神が忌み嫌うもの。通常は普通の人間が魔女を倒すことは難しいが、お主の場合は光明の神が力を貸したのかもしれぬな」


私は教主の説明になるほどと思った。私自身は普通の人間だが、あのときだけ神が力を貸してくれたと考えればつじつまが合う。もっとも、光明の神がなぜ私に力を貸してくれたのか、その理由はわからない。


「助けていただいた光明の神には感謝し、祈りを捧げます」と私は教主の前で同じように印を切った。


「公爵令嬢よ、健やかなれ・・・」教主は国王に一礼して執務室の出口に向かった。


「教主殿、ご足労をおかけした」と国王は帰っていく教主をねぎらった。


「さて、ドロシアよ」と、教主が出て行った後で国王が私に話しかけた。


「教主殿の言葉が真実だとすれば、お前は神に見込まれたということになる。・・・出家して、修道院にでも入るか?」


「修道女、あるいは巫女になれということでしょうか?・・・でも、今後も神が私に力を貸してくれるかわかりませんし、クランツァーノ公爵家を継ぐことも考えねばなりませんから、出家は厳しいかと」


「・・・冗談だ、本気にするな」と国王は言って笑ってみせた。


「だが、お前の噂が国内だけでなく、国外にまで広まると、いろいろな厄介ごとに巻き込まれるかも知れぬな。覚悟が必要だ」


「そうですね・・・」と言って私は考え込んだ。「どんな事態になろうとも、この国や国王陛下のためになる道を選びますわ」


私の言葉に国王は大きくうなずいた。




その後すぐに王宮を出て帰路につく。私は考えを巡らせた。


黒衣の魔女と対戦したとき、私はつい思わず降魔の巫女と名乗ってしまった。あのときは調子に乗っただけだが、ここまで大ごとになろうとは考えが及ばなかった。


街中の広間を通る。今日は大道芸人の寸劇はしていないようだった。人目につかないように馬で一気に駆け抜けたい気持ちだったが、徒歩のライラが同行しているのでそれはできない。あのとき広間にいて私を見た人が今はいないことを願って、こそこそと馬を進めた。


「あ、公爵のお嬢様!・・・いえ、降魔将軍様!」


突然私を呼びとめる声がした。私がおそるおそる声がした方に振り向くと、そこには大道芸人のかしらの横にいた男の子が立っていた。


「あら、あなたは・・・」


その子は私を見上げて目を輝かせていた。手には何やら布にくるんだ荷物を持っている。


「あなたは大道芸をしていた人のお子さん?」


「いえ、おかしらはおいらの親じゃないです。親戚です」


「そ、そうなの?・・・今日はお使い?」


「いえ、その・・・」その男の子はもじもじした。「あの、少し一緒に歩いてお話していいですか?」


「いいわよ」大道芸人の一員にしてはあまりすれていないと思った。一緒にいても悪さはしないだろう。まだ、小さい子どもだし。


「あなたの名前は?それから年は?」私は馬をゆっくりと進めながら男の子に聞いた。


「おいらの名はニェートです。年は10歳です」


微笑みながら話すニェート。10歳なのか。もう少し年下に見えた。


「ニェートは親戚の大道芸人と一緒にいるの?ご両親は?」


「親は死にました。・・・おいらはほかに養ってくれる人がいなかったので、親戚のおかしらにいやいや引き取られたんです」


「そうなの。・・・子どもなのに苦労してるわね」


「大道芸人の一座に加わったことは苦労じゃありません。大勢のお客さんの前で芸を披露して、楽しく笑ってもらうのはやりがいのある仕事です」


ニェートが嬉しそうに話し出したのは微笑ましかった。


「それは良かったわね」


「ただ、おかしらとはお笑いの方向性が合わなくて、けんかして追い出されちゃった・・・」


私はびっくりしてニェートの顔を見た。


「ど、どういうこと?・・・お笑いの方向性って何?」


「おかしらたちの芸は、曲芸のようなことをしたり、こないだ観てもらったような寸劇をして観客の笑いを取っています。どれも体を張った芸で、それはそれでいいんですが、おいらは語りだけで観客を腹の底から笑わせるような、そんな芸をしてみたいんです」


「語りの芸?・・・それはどのようなものかしら?」


「おいらが考えた語りはこういうのです」ニェートは一人芝居を始めた。


「『ちょっと、隣の奥さん、旦那さんの下着を拾いましたよ』


 『あら、そうかい?ありがとよ』


 『それにしても旦那さんの下着はでかいですね。腰回りが俺の2倍もある。履いてみたけどぶっかぶっかでずり落ちます。一体毎日どれだけ食わせてるんですか?』


 『・・・』


 『あ。奥さんはやせてますよ。・・・それにこの下着、尻のところがすり切れて穴が開いてますよ。屁のこきすぎじゃないですか?』


 『大きなお世話だよ!それにこれはあたしの下着だよ!』」


私は思わずぷっと吹いてしまった。それに気づいて嬉しそうな顔をするニェート。


「お嬢様・・・」たしなめるように声をかけるライラ。私はおほんと咳ばらいをした。


「ちょっと、下品すぎるわね。居酒屋の酔客相手ならともかく、私のような貴族やお金持ちには変な顔をされるわよ」


「そ、そうですか?」納得いかない顔をするニェート。


「それよりおかしらとけんかして、あなたはこれからどこへ行くの?」


「どこかで野宿して、おかしらの怒りが冷めるのを待ちます」と、寒風にさらされながらニェートが答えた。


登場人物


ニェート 大道芸人の一座の子ども。


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前作の「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」を公開中です。
こちらを読まれると本作の隠れ設定が理解できます。
よろしくお願いします。
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