077 北国からの♡帰還♡
ノルドール王国の国王が私が頭につけている頭飾りを見て驚いたので、私はすぐに弁明した。
「申し訳ありません。これはスレン王子に頼んでお借りしていたものですが、すぐに外します」
「い、いや、それには及ばん。・・・失礼だがそなたの名は?」
「私はボルランツェル王国のドロシア・ダネル・ネル・クランツァーノと申します、陛下」
「ダ、ダネル。・・・やはりそうか!」
「どうしましたか、父上」とスレンが心配して聞いた。
「いや、シスター・ダネルの頭飾りには言い伝えがあってな、いつか王国に危機が訪れたとき、シスター・ダネルの生まれ変わりの聖女が現れて、頭飾りをつけて国を救ってくれるのだと」
「まさにその通りです、父上!」とスレンが叫んだ。
「ドロシアはその頭飾りをつけて光明の神の慈悲を示され、公爵の闇の力に縛られた多数の人々を助け出してくださいました」
「やはり、そうか。・・・余も先ほどまで闇の底に沈められているような状態だった。そこへ緑色の春の光が届き、闇の底から解放されて意識を取り戻したのだ」
「その緑色の光がドロシアの力です」
「そうであったか。・・・ドロシア・ダネル殿、その頭飾りはあなたに渡すために王宮で保管しておいたものだ。それを受け取り、多くの人々を助けてやってくれ」
「いいんだろうか?」私は頭に手をやって考え込んだ。助けられなかった人も大勢いるのに。
私がハラス将軍の顔を見ると、ハラスはうなずいた。
「ドロシア殿は光明の神の巫女だ。先ほど見せてもらった力は、その頭飾りを使って出せたのだろう?その頭飾りは、ドロシア殿がここへ来るのを待っていたのだ」
私はうなずき、「それでは、私が私の役目を終えるまで、お預かりすることにします」と国王に言った。
それからは国政の早急な立て直しと闇の教主の魔笏の封印が急務となった。
国王を始め、多数の王宮の人員が魔教徒に化せられており、私の活躍、すなわち光明の神の力のおかげで元の人間に戻れたが、皆体調が万全とは言えず、しばらくの休養が必要だった。
そこで国王の意見を聞いて、スレン王子を臨時の摂政に立て、公爵が出した無茶な政策をすべて撤回し、元の状態に戻すための新たな政策の発布を始めた。これにはハラス将軍、バラグッダ司令官、ダガルスス准将が補佐した。
一方、ボラス将軍らと私は、魔笏の封印に乗り出した。
魔笏を入れる適当な金属の箱がなかったので、急きょ鍛冶屋に行って魔笏が入るちょうどいい大きさの鉛の箱とその蓋を作り、さらにその鉛の箱がちょうど入る大きさの鉄の箱と蓋を作らせた。
「銀が魔除けになると聞いたことがあるが、さすがにこれだけの大きさの箱を作る銀が調達できない」とボラスがぼやいていた。
その間、魔笏自体は誰かが触らないよう、私とバストルとレクターとナレーシャとで、2人ずつ交代で見張りに立った。
魔笏からは未だに闇の力があふれてくるようだった。
「光明の神の力で無力化できるか試してみます」と私はボラスやリュー司令官が見ている前で言ってみた。
「闇の力を完全に消し去ることができるなら、それに越したことはない。試してくれ」とボラス。
「降魔障壁!」私は将軍職杖を振った。「降魔螺旋流!」
白い輝きを魔笏に放射するが、しばらく当てても魔笏の闇の力は封印できなかった。
私はシスター・ダネルの頭飾り、通称ダネラル・ティアラに指を当て、念じた。「春の妖精!」
ダネラル・ティアラの翠玉から緑色の光があふれ出し、私の体の周りを包む。その状態で将軍職杖を魔笏に向けた。「大いなる癒し!」
将軍職杖の先端から緑色の光がほとばしり、魔笏にふりそそいだが、やはり魔笏からあふれ出る闇の力を止めることはできなかった。
「私の力ではこの魔笏を無力化できません」
「やはり封印するしかなさそうだな」とボラス。
そこで鍛冶屋で作ったばかりの鉛の箱を持って来た。
私が大いなる癒しをそそぎながら、ボラスたちが火かき棒2、3本を使って器用に魔笏を持ち上げ、鉛の箱に入れた。
その上に鉛の蓋を置く。大きさがぎりぎりなので、蓋の上からハンマーで叩いて閉めた。これをさらに鉄製の箱に入れ、同様にして鉄の蓋を閉めた。これで闇の力は外に漏れなくなった。
「それで、この箱をどうするかだ」と腕を組むボラス。
「地中深く埋めるとか、火山の火口に放り込むとか、海中深く沈めるとか、口で言うのは簡単だが実行は難しい。何より、箱がやたら重くなって、1人では動かせない」
「箱のそばにいたいとも思わないですしね」とリュー司令官も言った。
「とりあえず鍵のかかる部屋を借りて、その中に入れておこう。その後のことは、ザカンドラに帰るときに考えよう」とボラスが言った。
これで私の仕事は一段落したので、王宮を出て自分の馬車に戻った。連合軍の馬車は、王都の中の広間に移動して停められていた。
「王都の中を歩き回っていいのでしょうか?」と、ライラが私に柑橘茶を入れながら尋ねた。
「ざわついてはいるけれど、一応安全よ。外から来た私たちには好意的みたい」
「何か食料とか、おみやげとか買えるといいのですが・・・」
「なら、みんなで行ってみる?」
私はライラ、スズ、バストル、レクターをつれて街中に繰り出した。ザカンドラ皇国から持って来た予備の綿布を抱えながら。何せ私たちの国で流通している貨幣が通用しないので、何かを入手するには物々交換しなければならなかった。
私は念のためにダネラル・ティアラとドロシアン・プラストロンを身につけたままだったが、ショールとバンダナを巻いて隠して外出した。
店はほとんどが露店のようで、王都の大通りに沿ってたくさん並んでいる。
まず見たのが毛皮を扱っている店だ。白い水鼬や貂や白熊の毛皮を売っていた。ライラは綿布をいくつか見せて、言葉が通じないながらも身振り手振りで話しながら物々交換を持ちかけた。
綿布は貴重というかほとんど入手できないようで、3倍くらいの大きさの毛皮と交換し、さらにお釣りももらっていた。このお釣りの要求は、ライラの情熱で何とか相手に伝わり、しかも納得させたようだ。
お釣りでもらった通貨は金属の塊をそのまま叩いて棒状にしたものだった。銀色の金属だが、銀なのかどうかはわからない。
私が巻いていたショールとバンダナにも興味を持たれたが、装身具を隠しているので物々交換は拒否した。
お釣りを持って近くの食料品を扱っている店に行く。売っていたのは何かの動物の干し肉と干し肝とイモの葉っぱだった。ライラがまた粘り強く交渉して干し肉をかなり多めに買った。軒先に雪ウサギの死体が吊るされていたが、買ったのがウサギの肉かはわからない。
さらにイモの葉っぱも買った。緑の野菜は貴重だ。
バネラたちへのおみやげとして、別の店で骨を削って作った笛を5個買った。スズの分を含めてだ。笛と言ってもピーッと鳴らすだけのもので、メロディーは吹けない。
大量の毛皮や肉をバストルとレクターに抱えてもらって馬車に帰ると、ライラがさっそく干し肉とイモの葉を使ったスープを作ってくれた。それをバストルたちと一緒に5人でおいしくいただいた。
闇の教皇を倒してから数日後に私たちはザカンドラ皇国に戻れることになった。
国政の補佐のためハラス将軍とバラグッダ司令官はまだしばらく残るようだが、私たちはボラス将軍に率いられて帰還する。
別れ際にスレンとオノンが私に会いに来た。
「ドロシア、おかげで国と両親が助かったよ。ありがとう」
「ドロシア、ほんとうにありがとう。あなたのことは忘れないわ」
「2人ともザカン学園にはもう戻らないの?」
「機会があれば戻りたいという気持ちもあるけれど、あまり授業に出られなかったし、しばらくは摂政として国のために働かなければならないし、復学するのは難しいと思う」
「国が落ち着いたらお礼に行くから、それまでお元気でね」
闇の教主の魔笏は荷車に積み、厳重に結わえつけた後で、私の馬車で引いていくことになった。
「ドロシア殿には申し訳ないが、万が一暗黒教の者が襲って来ても、ドロシア殿なら対処できるから」とハラス将軍に言われた。
「その代わりに、ザカンドラ皇国に戻るまでは、我々がしっかり護衛します」とボラス将軍も言った。
「それで、帝都に着いたら、魔笏をどうするのですか?」
私の質問にハラス将軍とボラス将軍が目をそらした。
「ま、まさか、私が住んでいる貸家に置くと言うんじゃないでしょうね!?」
「その箱の上に封印用の銅像でもしつらえよう。また、貸家の向かい側の家を借り受け、護衛兵を常時配置させる。貸家の周りにも護衛兵を立たせ、あるいは見回らせよう」
家の周りを護衛兵が常に巡回する。・・・よっぽどの要人か危険人物と思われそうだ。
「でも、貸家ですからね。いつかは私も出て行きますよ」
「そのときは、どこへ行くにせよ、銅像ごと運ばせよう」
「やめてください!」と文句を言ったが、聞き入れてはもらえなかった。
どんよりした気分でノルドール王国の王都を後にする。スレンたちやノルドール兵が盛大に見送ってくれたが、気分は晴れなかった。
数日後には峠に続く山道にさしかかり、ノルドール王国に来たときには馬で駆け下りた山道を馬車でゆっくり登った。
崖崩れが起こった場所では、山道の上の岩がおおむね片づけられており、馬車で問題なく通過できた。
3日がかりでノルザック峠まで登り、国境守備軍の砦に着く。そこでまた1泊する。
峠から南東の方角を見ると、空に伸びるあの黒い筋はそのままだった。
「あれ!?」とスズが叫んだ。
「どうしたの、スズ?」
「あの黒い筋の一番上が膨らんでいる!」
目をこらしてよく見ると、今まで上から下まで太さが同じだった黒い筋の一番上に丸い膨らみが生じているように見えた。
「あれは何かしら?ここからではよく見えないけど」
「わからない。でも、闇の力が増しているような気がする」
スズの言葉に私も不安を覚えたが、今すぐに異変が起こりそうでもなく、しばらくは静観するしかなかった。
それから数日かけてようやくザカンドラ皇国の帝都に戻った。私の貸家までパルスとミラスがついて来た。
「お嬢様、お帰りなさい!」とスニア、ニェートやバネラたちが迎えてくれた。
ニェートと抱き合うスズ。1月ぶりの再会にみんなが喜んでくれたが、パルスとミラスが見守る中、バストルとレクターが重そうな金属の箱を抱えて来たので、みんなが目を丸くした。
「何ですか、この箱?」と尋ねるバネラ。
「えーとね、触っちゃいけないものよ」と、とりあえず言っておく。
闇の教主の魔笏が入っている金属の箱は、エントランスの片隅に置いた。
「ここに銅像の台を設置するようにしよう。直ちに手配する」とパルスが言った。
「何ごとですか?」と尋ねるスニア。
「ここにね、銅像を作って置くことになったの」
「へー」と言うバネラたち。「銅像なんて、ボルランツェルのお屋敷にもないのに、どういう風の吹き回しかしら?」
「それでは明日さっそく手配しますから、今日はゆっくりお休みください」とミラスが言って、パルスと一緒に帰ろうとした。
「あ、祝勝会はハラス兄さんが帰ってから行います。私たちとの会食も予定しておきますから、楽しみにしてくださいね」とミラスがさわやかに言って家を出て行った。
別に楽しみじゃないけどね、と心の中で思ったが、もちろん口に出しては言えなかった。




