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公爵令嬢は♡姫将軍♡から♡降魔の巫女♡になる  作者: 変形P
第1部 闇神殿編
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007 大道芸人の♡寸劇♡

父に黒衣の魔女のところに行ったことが知られていたため、私は事情を説明した。


「確かに、ヤバルに黒衣の魔女の住処を聞いて、ガンダルたちと赴きました。ベルベル様が魔女に私を呪わせたという看過できない噂を聞きましたもので」


「それで黒衣の魔女と会ったのか?やつは恐ろしい術を使うとの噂があるが・・・」


「はい、お父様。・・・黒衣の魔女に私を呪ったのではないかと詰問すると、魔女は黒いもやのようなものを私たちにぶつけてきました。それを何とかかわしてガンダルたちと反撃したところ、魔女の姿は消え、大トカゲの死体が残っていました」


「・・・それが魔女の正体と言うのか?」


「それはわかりません。・・・私たちは、ベルベル様が私を呪わせたという確証をつかめなかったので、そのまま帰りました。それだけです」・・・言っていないこともあるが、嘘はついていない。


「しかし無茶をするな。・・・ドロシアよ、お前はもっとおっとりしていて、そんなことができる娘ではなかったはずだが」私をじっと見つめる父親。


「海門での攻防や、魔女との出会いで、気を引き締めないといけないと考えを改めました。それだけです」


「そうか。・・・確かに国内、国外ともきな臭くなっている。将軍を名乗る以上、世間知らずの令嬢でいては困るが、無茶はするなよ」


「はい、お父様」私は会釈をして退室した。


父親との面会で気疲れしたので、私はさっそくスニアに軽食の用意をさせた。スニアの後に反抗的な目をしたスズが見習いメイドとして素直に従っている。スズはメイド服を着ていたが、小さいサイズの服がなくてぶかぶかだった。


「あなたたちも食べなさい。やせすぎだから」と、スニアとスズに命じた。


スズは食事をしろとの命令には素直に従い、スニアとともにテーブルに着いた。


そこへバネラたちが入室してきた。食べ物の匂いを嗅ぎ付けたのだろうか?


バネラたちにパンを奪われるのを警戒して、スズはあわてて両手に1個ずつパンをつかんだ。


残ったパンを食べ始めるバネラたち。私はライラに彼女らのお茶を入れてもらい、さらにバターを塗ったパンの追加を頼んだ。


「ところで、お嬢様が黒衣の魔女を倒したという噂ですが、街中では大道芸人がお嬢様の活躍の寸劇をしていて、平民たちに大人気だそうですよ」とロルネが恐ろしいことを言った。


「はあ?寸劇?」


「出入りの商人が話していたんですが、『ドロシア・クランツァーノ公爵令嬢がボルランド山の魔女を倒した顛末』という題目で、とてもおもしろい寸劇だったそうですよ」とペニアも言った。


実名入りかよ?


「ねえ、お嬢様。お昼を食べてから街中へ見に行きましょうよ、お忍びで」と提案するバネラ。


「そうですね。いっそこのまま昼食に切り替えて、早く食べて行きましょうよ」とロルネも言った。


「あなたたち、立て続けによく食べられるわね?」とあきれたが、私も寸劇の内容には興味があった。どんな風に演じられているのか、チェックしておかないといけないだろう。


「ライラ、悪いけど昼食の準備を早めるよう台所に伝えて。・・・そして、みんな一緒に食べましょう」


急がせた昼食の用意ができたのは一刻後だった。メニューは、茹でたウズラの肉の薄切りに野菜のスープ、そしてバターを塗ったパンだった。


さっきパンを食べたばかりというのに、バネラたちはがつがつと食べ始めた。スズやスニアもおいしそうに食べていたのは良かったが。


そして外出の準備が終わったのは、さらに一刻後だった。


外出着に着替えた私は馬にまたがり、バネラ、ロルネ、ペニア、スニア、スズ、ライラは徒歩で後に続く。


お忍びなので兵士などの護衛はつけない。王都の街中なので、さすがに治安の心配はしなかった。


「ライラも来るの?」と、自分の外出の準備をすませたライラに聞いた。


「ええ。私もお嬢様の活躍を知りたくて」・・・いいけどね。


屋敷を出てみんなが街の広間に着いたのはさらにその半刻後だった。広間の噴水の前で、大道芸人が寸劇の準備を始めていた。


「さー、もうすぐ『ドロシア・クランツァーノ公爵令嬢がボルランド山の魔女を倒した顛末』の寸劇を始めるよ!」と、大道芸人のかしららしい中年男が宣伝していた。


その周りに寸劇の噂を聞きつけた平民が大勢集まっている。私のように馬に乗って後から見ている人も何人かいた。どこぞの貴族だろうが、知らない顔だった。


そのとき、大道芸人のかしらの横にいた小さな男の子が手に持っていた鍋を棒で叩いた。「ぐわん」という音が響く。


「さー、寸劇の始まり始まりー!お代は見てから払っておくれ」


噴水の前がステージで、その左側に黒い布をまとった男が現れた。顔に墨で何本も線を引き、しわが多い老婆のつもりと思われる。


そして右側から赤い布を身にまとったおばさんが現れた。木でできた剣と盾を持っている。その後に大道芸人のかしらが鍋のふたを持って移動した。


「やい、ボルランド山の魔女よ!お前は多くの善人を呪い殺しているそうじゃないか!?王命を受け、このドロシア・クランツァーノ公爵令嬢がお前を倒しに来たー!」とおばさんが叫んだ。


あのおばさんが私か。・・・観客たちのほとんどは私の顔を知らないから、私を中年女と誤解するんじゃないだろうか?


「そうじゃ、わしがボルランド山に住む魔女じゃ!」と黒い布をまとった男が言い返した。


「何あれ!?」とスズが文句を言う。


「わしは何人もの人間を呪い殺してきた。お前の母親もわしが殺した!」


私はそのセリフを聞いて不快感を覚えた。私の母が死んだことまで寸劇に組み込んでいるなんて・・・。母は病死と聞いている。呪い殺されたわけではないと思う。


「次に狙うのは王の命だ!」


・・・王の暗殺なんて、大道芸人の寸劇でも不快に思う貴族がいるんじゃないかと心配になる。もちろん本物の黒衣の魔女は、王の命を狙うなんて一言も言っていなかった。


「国王のため、国民のため、私はお前を許さない。ガンダル、行け!」


ガンダル副将軍の名前まで出している!と思った瞬間、鍋のふたと木の剣らしき物を持った大道芸人のかしらがおばさんの前に進んだ。


「魔女よ、死ね!」そう叫んで大道芸人の頭が剣を何度も切りつける。


それに対し黒い布をまとった男は杖で応戦する。何度も武器で切りつけたり、防御したり、かわしたりと殺陣が続き、観客たちはやんややんやとはやし立てた。


「何やってるんだ、ガンダル!?」


「早く魔女をやっつけろ!」


しばらく応戦が続いて場を盛り上げると、黒い布をまとった男が後に下がって両手を前に突き出した。


とたんに大道芸人のかしらが後方へ飛ばされたように下がって、地面にうずくまった。


「何だ、今の不思議な力は!?」と言う大道芸人のかしら


「あれが魔女の呪いの力!?」とおばさんも言った。


「ガンダルー、情けないぞー」と観客が叫んだ。ガンダルにはこの芝居を見せられない。


「わはは、わしには剣は利かぬ。公爵令嬢よ、王より先にお前を始末してやる!」


黒い布をまとった男が再び両手を前に突き出す。しかしおばさんは木の盾を前に出し、何か見えない物を振り払うそぶりをした。「ていっ!」


「な、なぜだ!?わしの呪いの力が通じぬ!」叫ぶ黒い布をまとった男。


おばさんは木の剣を頭の上に振りかざした。


「私は神の力を得た魔女殺しテューズドソルスィエール。人呼んで降魔将軍エグゾジェネラル!お前の力は通じない。代わりに私の神の力を受けろ!」


そう叫んでおばさんが木の剣を振り下ろすと、離れたところにいた黒い布をまとった男が苦しんで倒れた。


「見よ、神の力を!」そう叫んでおばさんは観客の方を向いた。


「私は降魔将軍エグゾジェネラルドロシア・クランツァーノ!ボルランツェル王国の平和は私が守る!」


観客たちは喝采した。しかし私はそんな大見得を切ってはいない。若干血の気を失って馬上で茫然としていると、大道芸人たちが袋を持って観客の間を回り始めた。見物料を催促しているようだ。


大道芸人のかしらの横にいた男の子が袋を持って私の方に近づいて来たので、私は財布から銀貨を1枚出し、ライラに渡した。ライラが男の子の持つ袋に銀貨を入れると、その男の子はにっこりと微笑んだ。


「こんなにいただいてありがとです。お嬢様、寸劇はいかがでしたか?」


私は本人と知られたくなかったので「まあまあね」と答えておいた。バネラたちには余計なことをしゃべるなと合図を送った。


そのとき、寸劇を見に集まっていた観客たちの一角で騒ぎが起こった。


「ガンダルだ!ガンダル殿だ!」という声があちこちから轟いた。


声のした方に目をやると、私と同じように馬に乗って観劇していたガンダルの姿が見えた。


「ガンダル殿、先ほどの寸劇の内容は事実ですか?」と、ガンダルの横で馬に乗っていた貴族らしき男が聞いた。


「おおむね事実じゃ」とガンダルが答えた。


「わしは並の兵士には遅れをとらないが、あの魔女にはわしらの攻撃は通じなかった。姫将軍殿が不思議な力で魔女を倒したのじゃ」


正直なガンダルの言葉に周囲の平民たちがどよめいた。


「寸劇では再現できとらんかったが、姫将軍の体から白い光が発せられ、魔女を消し去ったのじゃ」


それを聞いていた観客たちから歓声が沸き起こった。


「すごいぞ、ドロシア様は!」


「公爵令嬢は本物の神の御使いだったのか!?」


「この国は神に守られている!」などという声が次々と上がった。


私は居心地が悪くなって、みんなに帰るよう促した。


「えー?この状況で、『私はここにいるぞー』って宣言しないんですか?」とバネラが言った。


「この状況だからこそ言えるわけないじゃない!さっさと帰るわよ」


馬の向きを変えようとしたそのとき、ガンダルが叫んだ。


「そこにおられるのは姫将軍殿ではないですか!?」


その言葉を聞いて観客たちが一斉に私の方を見た。さっき銀貨を渡した男の子も私の顔を見上げた。


「え?・・・あれがドロシア様?まだ若く美しい貴婦人じゃないか・・・」


ざわめく観客たち。彼らは大道芸人のおばさんとのギャップに戸惑っているようだった。


「行くわよ!」と私がバネラたちを再度促したとき、大歓声が起こった。


「ドロシア様ー!」


「降魔将軍!」


「姫将軍様ー!」


私は振り返らずに馬を進めた。その横をにこやかな顔をしているスニアと、不満げなスズと、茫然としているライラが歩く。バネラたちは少し遅れて歩き、ときどき振り返っては観客たちに手を振っていた。


「ああ、恥ずかしかった・・・」私は屋敷に帰るとそうつぶやいた。


「でも、ほとんど事実そのままでしたね」と嬉しそうなスニア。私がはやされて喜んでいるのか?


「お嬢様にそんな力があったなんて、私存じ上げませんでした」と感慨深げなライラ。


「私も知らなかったわよ」と答えておく。


「なんだ、あの魔女を演じた男は!?私はあんなにしわが深くなかったぞ!」とスズはずっと文句を言っていた。魔女が倒されたという寸劇の内容より、そちらの方が気に障ったようだった。


「事実そのままの寸劇でしたねー」とバネラが不思議そうな顔をして言った。


「なぜあの大道芸人たちはお嬢様がしたことを詳しく知っていたのでしょうか?」


みんなお前たちが言いふらしたからだろ!と私は思ったが、気疲れしたのでもう何も言わなかった。


「ところで、小腹がすきましたね。何か食べましょうか?」とロルネが言い、バネラとペニアも賛同した。


あれだけ食ったのに、まだ食うんかい!?私は心の中でロルネたちにツッコんだ。


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前作の「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」を公開中です。
こちらを読まれると本作の隠れ設定が理解できます。
よろしくお願いします。
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