049 ターニャとの♡友情♡
お酒はちょっとアルコール度数が高くなった野イチゴワインだった。そしてソースがかけられ、脂が滲み出るステーキをいただく。
「こんなおいしいお肉を食べたことがないわ!」私が思わず叫ぶと、みんなに笑われた。
「ボルランツェルにはろくなお肉がないの?」とロッテラが意地悪そうに聞いた。
「は、はい。主に乳牛を飼っていますので、牛肉の質はあまりよくありませんの」と下手に出ておく。
「やはり超高級料理店にお誘いしておけば良かった」とパルスが残念そうに言った。バネラ・チーズが出ないなら、行ってみたかったよ。
「ミラスがつれて行った店だと十分満足できなかっただろう?」
「そんなことありませんよ!」と反論するミラス。
「ねえ、ドロシア嬢、昨夜の晩餐はおいしかったでしょう?」
「ええ、つれて行ってもらった家庭料理屋もとてもおいしかったですよ」とミラスの顔を立てておく。
「おいしいお料理が食べられる国は、文化が発展している素晴らしい国ですね。皇帝陛下のご威光かしら?」
「そうじゃな。わしの代になってから国はより富み、軍備も充実し、芸術や食文化も隆盛を誇っておる」
「さすがです。国民は幸せですね」一飯の恩義は返しておこう。
皇帝はうれしそうに笑った。「他国の令嬢にわしの業績を正当に評価されると、嬉しいものだな」
「そ、そんなこと、当たり前すぎてわざわざ言うまでもないことですわ!」とロッテラがあわてて言った。
「そうですわ!言おうとすれば、そんな一言では言いきれませんわ!」とミララ妃。
「皇帝陛下の偉大さは私どもが一番良くわかっています」とメイヤー第1皇后が冷たく言い放ち、ターニャを除く女性陣が私をぎろりと見た。こえー。
「食後酒とチーズの盛り合わせでございます」給仕の言葉で私に対する敵意がいったん途切れる。さすがプロだね、給仕さん。
「今日は気分が良いから、客人からチーズを選ばせよ」とご機嫌な皇帝。
給仕が私にチーズを盛った皿を見せる。予想通りほとんどが茶色いバネラ・チーズだ。私は匂いが少なそうな白いチーズを取った。
徐々に室内にバネラ・チーズの匂いが立ちこめる。私が苦手なことを知っているミラスとパルスは心配そうに私を見るが、2人ともバネラ・チーズを取っていた・・・。
私は食後酒をあおった。アルコール度数の高いブランデーだった。口から火が出る思いをしたが、酔いでチーズの匂いをごまかそう。
一気に顔が熱くなる。チーズの臭いは気にならなくなったが、頭がふらふらしてきた。
「ドロシア嬢、大丈夫ですか?」とミラスが聞いてきた。
「私、酔ってしまいました」とミラスに言う。
そのとき、私の隣に金髪の女の子が座っているのに気づいた。ターニャだ。
「ターニャ様、今日は楽しかったですね」とターニャに話しかける。
その場の空気がなぜか変になった。
「ドロシア、あなた何を言ってるの?」と近くにいた女性が声をかけてきた。
「私、酔ってしまいました」この女性は誰だっけ?と思いながら言った。
「ねえ、ターニャ様。私は明日国に帰らなくてはなりません。ターニャ様とお別れをしてしまいます。それを考えると、私、とても寂しいです」とターニャに言う。
ターニャの硬い体を抱きしめると、なぜかかたんという音がした。
「ドロシア・・・」
「また会えるかしら?会いたいわ。だって、ターニャ様のことが大好きなんですもの」
「ドロシア・・・」
「ほんとうに大丈夫ですか?」と、ミラスだっけ?近くにいた男性が私に声をかけた。
「私、酔ってしまいました」
「それは見ればわかります。そろそろ帰りましょうか?」
「私、ターニャ様をつれて帰りたい」と言って私はターニャを抱く力を強めた。
「おお、そこまで彼女を好いてくれるのか。差し上げたかいがあった」と別の男性が言った。
「つれて帰ってもいいですよ、その子は」と近くにいた男性が私に言った。
「うれしいわ・・・」
「ドロシア殿」と私の向かいに座っている男性が話しかけてきた。
「もう一度聞こう。この国、ザカンドラ皇国をどう思う?」
「この国は豊かでほんとうに素晴らしい国ですわ。ですから、その豊かさを守るため、この国を戦場にしてはなりません。近隣の国々とは仲良くしていただきたいわ。もちろん、ボルランツェルとも」
「あなたのお国も豊かではなくって?金がたくさん採れるじゃない?」と、その男性の近くに座っている女性が聞いてきた。
「金は多少は採れるようですが、国全体を潤すほどではありません。少なくとも私は、金の装飾品など母の形見のネックレス一つと、形見の指輪一つくらいしか持っておりませんわ」
「あら、そうなの?案外つまらないわね」
「一方、ザカンドラ皇国には無尽蔵の黄金がありますわ」
「ほう、それはどこにあるのじゃ?」と向かいの男性が聞いた。
「それは国土全体に広がる小麦畑です。見渡す限りの畑に黄金色の穂が実る。それは多くの富を生みます。これを金鉱と呼ばずして何と呼べばいいのでしょう?」
私は再びターニャを抱きしめて話しかけた。
「ねえ、ターニャ様。それに比べてボルランツェルは、細々と酪農をしてその日暮らしをしているような国。そんな国にターニャ様はほんとうに来てくれるのかしら?」
「絶対行くわよ、ドロシア!」
「うれしいわ、ターニャ様」
「大丈夫なの、その子の頭?」と別の女性が言った。
「酔っぱらっているだけですよ。・・・さあ、ドロシア嬢、そろそろ帰りましょう」
メイドが来て私を立たせてくれた。私の横に座っていたターニャは、その男性が立たせてくれた。ターニャの手を握りながらふらふらと歩き始める。
「ドロシア、あなたの気持ちはよくわかったわ。明日の朝、見送りに行くから待っててね」と誰かが言った。
「ええ、待ってるわ」私はそれだけ言って部屋を出て行った。
そこからどう歩いたかはわからない。気がついたら馬車の中で、向かいにミラスが座っていた。
「あ、ミラス様・・・」
「気づかれましたか?水をどうぞ」
皮袋から木のコップに入れてくれた水を飲み干す。柑橘水だ。すっとする。
そのとき隣に等身大の人形が置いてあるのに気がついた。
「こ、これは何?」
「お忘れですか?公爵家のドッテンからもらった人形ですよ」
「そ、そうでしたわね。・・・私、晩餐の終わり頃を覚えていないのですが、何か粗相をしませんでしたか?」
「いいえ、ターニャは喜んでいましたよ」
「そ、そう?」
それならいいが、と思っていると、まもなく馬車が櫓に着いた。
ミラスに馬車から降ろしてもらい、別れのあいさつを言っていると、同行していた侍従が人形を担いで降ろした。
待ち構えていた櫓の侍従に人形を渡す。目を丸くするが、何も言わずに5階まで運んでくれた。
5階でメイドに人形を託す。ようやく7階にたどり着いてドアを開けると、出迎えてくれたメイドたちが人形を見て、やはり目を丸くした。
「何ですか、これ?」と聞くニェート。
「公爵家のご子息からいただいたの」私は新たに入れてもらった柑橘水を飲みながら説明した。
「見て」と言って人形を抱え、口を動かす。
「こんばんは。私、アフロードと言うの」裏声で話す。メイドたちに大受けだ。
「私の必殺技を見せてあげる」裏声で言って人形の胸を露わにする。
「お、お嬢様!?」あわてるスニア。
「おっぱいパンチ!」背中のボタンを押すと胸の一つが飛び出して床に落ちた。
ベッドの上で笑い転げるニェートやバネラたち。この光景をドッテンに見せてあげたい。
「これはニェートに預けるわ」と言って人形をニェートに渡した。
「今日のお食事はいかがでしたか?」
「なかなかおいしかったわよ。もっとも最後にほかの人たちがバネラ・チーズを食べ出したから、匂いをごまかすために強いお酒を一気に飲んで酔っぱらっちゃった」
今思い出すと冷や汗が出る。余計なことを言ってなければ良いが。・・・外交問題に発展したらどうしよう?
馬車で送ってくれたミラスの態度から、あまり大それたことはしでかしてないように思えるけど・・・。
「明日はボルランツェルに帰るから、もう寝ましょう」と言ってみんなにも就寝を促した。
昨夜酔っぱらったせいか、翌朝は早く目覚めた。まだみんな眠っている。ニェートが人形と寝ているのを見たときはぎくっとしたが、少しずつ昨夜のことを思い出してきた。
「さっさと国に帰ろう」そう思って部屋の片隅で、一人でおまるを使った。
「あ、お嬢様、おはようございます。今朝は早いですね」スニアが起きてきた。
その声でバネラたちも起きてくる。
「バネラ・チーズの夢を見てました」とバネラ。私はどきっとしたが、
「昨夜はバネラ・チーズは食べていないわよ」としらばっくれた。
「今日は帰国の日よ。はりきって起きましょう!」
みんなで残った最後の荷物を片づけ、馬車に載せておく。その後、朝食を食べに行って帰ると、まもなくミラスとターニャが馬車でやって来た。
「ドロシア、おはよう」私を見るなり抱きつくターニャ。
「お、おはようございます。どうかしたんですか?」
「昨夜聞いたドロシアの気持ちが嬉しかったの!」・・・私は何を言ったんでしょう?
「これをお土産にあげるわ」と言って木の箱を手渡してきた。
「何かしら?」
「昨日食べたコンフェイトの詰め合わせよ」
「まあ、ありがとう!」
「それから、これは友情の記念にあげる」ターニャは指輪を2個差し出した。
2個とも同じ銀色のリングで、小さな紫水晶がはまっている。指輪は完全な輪ではなく、紫水晶の向かい側が開いていて、ここでサイズを調整できるようになっていた。
「これは子どもの頃にばあやからもらったペアの指輪なの。仲のいい友だちができたらお互いの指につけなさいって。・・・だから、何年も前にお兄様につけてって頼んだけど断られちゃって」
男向きの指輪じゃないからね、ミラスも嫌がったのだろう。
「ありがとう」私はお礼を言い、ターニャとお互いの右手の薬指にはめ合った。
「ドロシア殿!」と櫓の外からナナンダの声がした。
「ターニャ様、ちょっと失礼します」
ターニャに断って外へ出て、赤銅軍の出立予定をガンダルとともにナナンダから聞いた。そのとき、スニアが馬車から出て近づいて来た。
「お嬢様、何のご用でしょう?」
「え?・・・私は何も言っていないけど」
「いえ、ターニャ様に言われまして」
「え?ターニャ様はどこ?」私はあわててあたりを見回した。
皇帝一家のある晩餐のメニュー
Apéritif(食前酒):黒イチゴ酒
Entrée(前菜):牛肉の蒸し焼き(ローストビーフ)
Soupe(スープ):小麦粉の練物入り野菜スープ(パスタスープ)
Vin(食中酒):野イチゴワイン
Viande(肉料理):仔牛のステーキ
Fromage(チーズ):盛り合わせ
Digestif(食後酒):ブランデー




