036 闇神殿での♡戦闘♡
あたりが明るくなっていた。私は石畳の床の上に倒れていた。体は押しつぶされてはいないようだ。
そのとき私はスズがどうなったか心配になった。
「スズ、スズ・・・」
私の周りには岩などはほとんど落ちていなかった。そして私の足元にスズが倒れていた。
「スズ、スズ!?」
「姫将軍殿、ご無事ですか?」私の手を引いてくれたバストルが、私の頭の方から呼びかけてきた。
「私は大丈夫よ。それより、スズを助けて!」
「ひ、姫将軍殿!・・・こ、これは?」バストルが驚きの声を上げた。
私が上を見上げると、私の真上3ヤールくらいのところに直径10ヤールくらいの大きさの黄金色に輝く光の盾があった。そして半ば透けて見える光の盾の上に、たくさんの岩が乗っかっているのが見えた。
「これも神の力ですか?」とバストルが言った。
私はすぐに悟った。この黄金色の光の盾が、天井が崩壊して落下してきた岩を支えていること、そしてこの盾はまもなく消えてしまうことを。
「バストル、そして動ける人は、私の光の盾の下に倒れている人を安全なところまで引きずり出して!」
私のすぐ近くにパルス将軍やガンダルが倒れていたが、私の声で起き上がってすぐに倒れているスズと何人かの兵士を救い出し始めた。
スズが意識を取り戻し、安全なところまで引きずり出されると、「お嬢様、もう少しよ、がんばって!」と叫んだ。
何人かの兵士は体の一部が岩の下敷きになっていたが、パルスたち、無傷な者が急いで引っ張り出してくれた。
「助け出せる者は全員助けたぞ!」パルスの声が響いた。
「バストル、最後に私の腕を強く引いて、上に岩がない、安全な場所まで!」
バストルが両腕で私の両手を握り、振り回すようにして私の体を岩の下敷きにならないところまで放り投げた。同時に自分も体を横転して、安全圏まで逃れた。
その瞬間光の盾が消失し、その上に乗っていた岩(崩壊した天井のがれき)が轟音を立てて床に落ちた。
ほこりが舞う中、私は気力を振り絞って起き上がった。上を見ると、天井が崩落したところに大穴が開いて、太陽の光が差し込んでいた。
「ドロシア様!」「降魔将軍殿、ご無事ですか!?」ナレーシャとラッケルが私の身を案じて駆け寄って来た。どうやら天井が崩落したのは、私たちが侵入したところの直上だけらしい。
「私は大丈夫よ!敵は天井を攻撃して私たちを生き埋めにする気よ!気をつけて!!」
そう叫ぶ私の体の周りに再び白い輝きが現れて回転し始めた。同時に、黒いもやの塊が再び天井を狙って飛んできた。
右腕を振り切って白い輝きを飛ばす。そして黒いもやの塊と衝突してどちらも霧散した。
私の体の周りを回転する光の輝きは少しずつ大きくなっていった。今度は天井でなく、私を狙って黒いもやの塊が飛んでくるが、回転する白い輝きに衝突して霧散した。
別のところから、私の後方にいたパルスたちを狙って黒いもやの塊が飛んで来たが、私が腕を振って白い輝きを飛ばし、仲間に当たる前に黒いもやの塊を消失させた。
「パルス将軍、バラグッダ司令官、私が敵の攻撃を引きつけて防御するので、兵士を散開させて!」
「了解した」「承知!」
地下神殿のところどころに落ちている岩に隠れながら、前進していく兵士たち。バストルとレクターは盾を構えて私の前、回転する白い輝きの内側に立ち、白い輝きで防御できない物理的な攻撃に備えた。スズは私の傍らに寄った。
様々な方向から私目がけて黒いもやの塊が飛んで来るが、それらはすべて回転する輝きで防御した。私以外の方向、つまり天井や他の兵士目がけて放たれた黒いもやの塊は、私が白い輝きを投げて空中で霧散させた。
私に攻撃していた何人かの魔教徒や魔女は、忍び寄った兵士の攻撃を受けて倒され始めた。
そのとき突然、私の前に砂龍が現れた。
レクターが砂龍乗り目がけて槍を投げると、槍は私の白い輝きをまとって飛んで行き、黒いもやの盾を貫通して砂龍乗りに刺さった。倒れた砂龍乗りから逃れる黒いサソリを、バストルが駆け寄ってその剣で突き刺した。
乗り手を失った砂龍は斜めにそれて行く。しかし赤銅軍の兵士が次々と現れて砂龍を仕留めていった。
残った魔教徒たちは神殿の奥に集まって攻撃していたが、側面にいた青銅軍と黄鉱軍から無数の矢を撃ち込まれた。魔教徒たちは黒い障壁で防御していたが、徐々に力尽き、一人また一人と倒れていった。
最後の魔教徒が倒れると、攻撃が途絶えた。
「全滅させたか!?」近くに寄って来たパルス将軍が聞いた。
「とりあえず攻撃してくる敵はいなくなったようだが、これで全部か?」
しかし私の周りの白い輝きは消えなかった。
「パルス将軍、まだ敵はいます。私の周りの白い輝きが消えないのがその証拠です」
「だが、そこが神殿の奥だぞ。行き止まりだ」とバラグッダも言った。
「お嬢様、まだ闇の教主が現れていません!」スズが私の手を引いて叫んだ。
「闇の教主?」
「闇神殿の高位司教です。魔教徒よりも強い力を持っています」
「パルス将軍、まだ強い敵がいるそうです!奇襲に備えて!」
私がそう叫んだ瞬間、神殿の奥の壁が轟音をたてながら崩壊した。神殿の床に大きな岩のかけらが落ちていく。
「下がれ!」パルス将軍が叫ぶ。
崩れた壁の向こうから黒衣に身を包んだ老人が現れた。その体の周囲に黒い瘴気をまとっている。
「あれが闇の教主よ!」とスズが叫んだ。
闇の教主は黒い瘴気をタコの腕のように動かし、足元に転がっている大きな岩を持ち上げた。そしてそれをものすごい勢いで放り投げてきた。
飛んでくる大岩を盾で受け止めようとした一人の兵士が、一瞬で後方に吹き飛ばされた。これまで魔教徒や魔女が放ってきた黒いもやの塊とは威力が桁違いだった。
そして、物理的な攻撃を防げない私の白く輝く障壁はまったく役に立たない。
私の内心の動揺に気づいたのか、闇の教主が私目がけて大岩を放ってきた。私の前でバストルとレクターが盾を構えるが、とても防げないだろう。
そのとき、私の体の周りを回っていた白い輝きが私たちの前に集結し、円盤状に回転する輝く盾を構成した。もちろんその盾では岩を防ぐことはできない。
次の瞬間、白く輝いていた盾が黄金色にその輝きを変えた。
直撃する大岩。しかしその大岩は黄金色の盾に衝突して粉々になって四散した。私やバストルたちには何の衝撃もない。
さっきの天井の崩落も黄金色の障壁で落下を防いだ。黄金色の輝きは物理的衝撃も防御できるようだ。
しかも黄金色の盾は円盤状に高速で回転している。この回転が岩を粉々にしたのだろう。
「バストル、レクター、私が守るから前進して!ほかのみんなは私の後に下がって!」
盾を構え、武器を装備したバストルとレクターがじりじりと前へ進む。私の黄金色の盾が2人を防御する。
闇の教主は次々と岩を私にぶつけてくるが、そのすべてを黄金色の盾が粉砕した。そして大岩が足元からなくなったとき、レクターが闇の教主目がけて槍を投げた。
その瞬間、黄金色の輝く盾は白い輝きに変わり、その白い輝きを貫通して飛んで行ったレクターの槍も白い輝きを帯びていた。
白く輝く槍が闇の教主の胸に突き刺さる。苦悶する闇の教主。
すかさずバストルが剣を構えて躍り出た。その体と剣にも白い輝きが宿る。
バストルが剣を一閃すると、闇の教主の首が飛んだ。闇の教主の周囲にわずかに残っていた黒い瘴気が霧散する。
しかし、闇の教主はよろめいたものの倒れず、体から巨大な翼を出した。蝙蝠の翼のような、細い骨の間に膜を張った黒い翼だった。
もう一度バストルが切りつけようとするが、闇の教主は翼を大きくはためかせて宙に浮かび上がった。その姿は頭のない蝙蝠そのものだった。
翼をはためかせながらふらふらと少しずつ高度を上げる蝙蝠。
それを見てパルス将軍が叫んだ。「あれを射ろ!」
後方から多数の矢が放たれる。その一部は蝙蝠の体に命中したが、私の周りに落ちて来る矢もたくさんあった。
「危ないっ!」ガンダルが私とスズを盾で守ってくれた。敵を倒したのに、味方の矢が当たって死んだら元も子もないよ!
蝙蝠は体に多数の矢を受け、床に落ちていった。
「攻撃中止!」パルス将軍の号令で矢が飛んで来なくなった。
「ドロシア殿、ご無事か!?」
「ドロシア様!?」
「降魔将軍殿!?」
パルスやナレーシャやラッケルやバラグッダが私の元に駆けつけた。
「ご無事か!?」再び尋ねるパルス。
「流れ矢で死にそうな目に遭いましたよ」と文句を言っておく。
「とりあえず脅威はなくなったようです」気を取り直して立ち上がって言う。私の体の周りから白い輝きが消えてしまったので、魔教徒たちの攻撃はもうないだろう。
青銅軍のリーム司令官と黄鉱軍のリュー司令官も寄って来た。
「降魔将軍殿、我々も見ていましたが、神のお力に感嘆しました。そしてそこにいる女戦士たちも見事な戦いぶりであった」
ほめられたバストルとレクターが顔を赤らめて照れ笑いしていた。ちょっと女らしい。
「それでは負傷者の手当をするとともに、闇神殿に何か残っていないか捜索することとしよう」とパルスが言った。
「私たちは地上に引き上げてよろしいでしょうか?」と私は聞いた。
「うむ、ドロシア殿には大変お世話になった。退かれて休まれるが良かろう。・・・もし何かお宝でもあったら、後でお分けいたす」
私は愛想笑いを浮かべて一礼した。
「ガンダル、我が軍の負傷状況を調べて!そして地上に出て治療をしましょう」
「はっ!」ガンダルが部下に指図をした。私はスズを抱きかかえながら、バストルとレクターをつれて地上に通じる階段に向かった。
「これで暗黒教は壊滅したのかしら?」とスズに聞く。
「本拠地を移していなければ、これで魔教徒の組織は壊滅したと思う。でも、私は暗黒教の上層部にいたわけではないし、闇神殿を出てから500年経っているので、ほかに魔教徒が何人いるのか、闇の教主がほかにもいるのか、まったくわからないわ」とスズが言った。
「どんな組織だったの?それもわからない?」
「昔聞いた話では、最高位が闇の教皇。でも、会ったことも見たこともないので実在しているかわからない。その下が闇の教主、その下が闇の司教で、私たち平の魔教徒や魔女が最下位にいる。もちろん闇の力を持たない従僕たちが別にいるけれど」
「闇の教皇か。存在するのかしら?・・・それに、闇の教主もさっきの一人だけなら助かるけど」
「野に下った魔教徒や魔女が何人かいるかもしれませんが、そんなに大勢ではないと思う」とスズが補足した。
私たちが階段を昇って地上に出ると、第5軍の兵士たちが徐々に集結してきた。
「姫将軍殿、重傷者は20人余り、ほとんどが天井からの落石による負傷です」とガンダルが報告した。
「治療はできそう?」
「折れた腕や足に添え木をして安静にしておくしかありません。何人かは助からないと思います」
「そう・・・」私は苦しむ兵士たちを思ってうつむいた。
「あと、行方不明者が20人近くいます。あの落盤の下敷きになったと思われます」
私は天を仰いで嘆き、彼らが神の御許に招かれることを願った。




