003 メイドと♡温泉♡
第5軍が王都に帰還する途中の町で一泊する。ここには貴族専用の大きな宿があった。温泉の国ボルランツェルだから、当然、温泉施設がある。
私たちは宿に入ると、さっそく入浴することにした。
私と一緒にお風呂に入るのは、世話係のスニアと3馬鹿上級メイドだ。
3馬鹿には今まで私が甘い顔をしていたため、友だち同然の感覚でさっさと服を脱ぐと、私よりも先に浴室に入って行った。ちなみに我が国では、貴族といえども入浴は全裸でする。
スニアは私の体を流すため、下着姿で浴室に入ろうとしたが、私はそれを制した。
「スニア、あなたも一緒に入浴するから全部脱ぎなさい」
とたんにスニアは顔を赤らめた。
「で、でも、お嬢様のような大貴族と一緒に入浴するなんて・・・」
固辞するスニアだったが、私は容赦なくスニアの下着をひんむいた。
恥ずかしがって胸と下腹部を手で隠そうとするスニア。そんなスニアの前で全裸になった私は、何も隠そうとせずスニアに向き合った。
「女どうしだから恥ずかしがる必要はないわよ」
「は、はい・・・」主人である私の命令に従って手を下ろすスニア。その体をまじまじと観察する。
スニアの胸は小さく、わき腹にはあばらが浮き出ていた。お尻は小さく、手足も細すぎるほどに細い。
「あなた、ちゃんと食べているの?やせすぎよ」
「はい、きちんと朝と寝る前にいただいております」体を見られて恥ずかしそうな顔をするスニア。
「お昼は?おやつは?」
「そ、そんなぜいたくはとても・・・」
「もう少し食べた方がいいから、今夜は私と一緒に食べましょう」と言うと、
「そ、そんな、めっそうもない・・・」とスニアは尻込みした。
「食べないと私みたいな豊満な胸にならないわよ」
私はそう言って自分の乳房を両手でつかんだ。私は若干小柄だが、胸は豊かで、この年でもう両手で包み隠せないほど胸が大きかった。思わずにんまりとしてしまう。
「どうされましたか、お嬢様?」とスニアが心配そうに聞いた。
「何が?」
「今までのお嬢様は胸が大きいことを気にされていて、服がきつくなるとか、殿方にじろじろ見られて恥ずかしいとか言っておられましたのに・・・」
私は今までの自分の言動を思い出した。確かについ最近までそう思っていた。でも、なぜか今はこの豊満な胸が嬉しい。愛おしい。自慢したい・・・。なぜそういう気持ちになったのか、自分でも不思議だった。
「胸はやっぱり女の象徴だから、恥ずかしがらなくていいと思い直したの」そう言い訳してスニアの手を引いた。
「さあ、入浴しましょう」
浴室に入ると温泉のお湯で満たされた広い湯船の中で、バネラ、ロルネ、ペニアがお湯をかけ合いながらはしゃいでいた。あのお馬鹿たちは、水浴びと間違えている。
けしからんことにこいつらの胸は私よりも豊満だった。3人とも、片方の乳房だけで小玉スイカぐらいの大きさだ。栄養が頭に行かず胸に集中しているのか!?
そのとき自分の思考に疑問がわいた。“スイカ”って何?・・・自分の頭の中に唐突に浮かんだ知らない言葉に首をかしげてしまった。
頭を振って疑問を振り払うと、私はスニアとともに湯船につかった。温かく若干硫黄の臭いがする熱いお湯につかると、体の汚れだけでなく旅の疲れも癒される・・・。
「うふ~~う」と思わず声が漏れたとき、バネラがロルネにかけようとしたお湯が私の顔にかかった。
「あ~、お嬢様~、すみませ~ん」と頭をかくバネラ。
私は湯船の中ですっと立ち上がると、次の瞬間、両手をフル回転して3馬鹿メイドにお湯をかけまくった。
「風呂場で遊ぶな!」
悲鳴を上げて逃げ惑うバネラたち。その後を追いかけてお湯をかけまくるが、少ししたら馬鹿らしくなってスニアのところへ戻った。
湯船の縁に腰かけると、スニアがラメダ袋で背中をこすってくれた。ラメダ袋とは文字通りラメダの乾燥した葉を詰めた布袋で、これをお湯に浸してから体をこすって垢を落とすのだ。
ラメダ茶を飲んで、ラメダ袋で体をこすって・・・。体中臭くなりそうだが、意外なことに体にラメダの臭いがつくことはなかった。不思議なものだ。
塗れた体を拭いて部屋着を着て、スニアとともに宿の寝室に戻る。
ライラがテーブルの上に今日の夕食を並べてくれていた。
宿の料理はホロホロ鳥のお腹にラメダの葉を詰め込んで焼いたもので、これにバターを塗って食べる。またラメダかと思うが、ボルランツェル王国は高地で酪農が盛んなため、バターやチーズは豊富に食べられるものの、野菜や果物はあまり採れず、生長の早いラメダの葉が何にでも使われるのである。
私がテーブルの席に着くと、横にスニアが給仕をするために立った。反対側には同じようにライラが立つ。
「スニア、今日は隣に座りなさい。一緒に食べましょう」私はやせたスニアの体を思い出して食事に誘った。
しかしスニアは尻込みして拒否した。「と、とんでもない。お嬢様と一緒に食事だなんて!」
「そうですよ、お嬢様。我々メイドはそういう教育を受けておりません」とライラが口をはさんだ。
「確かにスニア一人が私と一緒に食べるのは抵抗があるでしょうね。なら、ライラも一緒に食べましょう」
私はライラの方を振り向くと片手を伸ばしてライラの胸をわしづかみにした。そのままもみもみする。
「な、何をなされるのですか、お嬢様!?」
「ライラは人並みに胸があるのね。・・・スニアは少しやせ過ぎだから、栄養を摂らせたいの。いいから座って」
「わかりました。お嬢様がそこまで言われるのなら」とライラが答えた。
「スニア、椅子に座りなさい。私も座るから」ライラが言って自分も椅子に座った。
それを見てスニアもしぶしぶと従う。
私はナイフでホロホロ鳥の胸肉を大きく3切れ切り取ると、3つの皿に移し、バターをたっぷりと塗った。また、ホロホロ鳥の腹の中のラメダの葉を付け合わせに盛りつけた。客人への肉の切り分けは主人の仕事だ。
「どうぞ、ライラ、スニア」
「ありがとうございます、お嬢様」ライラが頭を下げる。
「あ、ありがとう・・・ございます」スニアも頭を下げた。
「さあ、食べましょう」
私はバターを塗ったホロホロ鳥の肉をほおばった。芳醇な脂と肉のうまみが口いっぱいに広がる。なかなかうまい。
付け合わせのラメダの葉も、ホロホロ鳥の脂を吸い取ってしっとりとし、独特の匂いもなくなっておいしいと思った。
ライラとスニアも肉を食べ切ったようだった。
「おかわりを入れるから皿を出して」と言うと、
「すみません、お嬢様」とライラが言ってしずしずと皿を出した。
しかしスニアはフォークを置くと、手を膝の上におろした。
「どうしたの、スニア?遠慮しなくていいのよ」
「いえ、お嬢様。・・・遠慮しているのではなくて、こんないいお肉をいただいてお腹がいっぱいになってしまったのです」
最初は遠慮しているのかと思ったが、ほんとうに満腹を感じているようだった。そう言えば、普段食べ慣れないいい肉を食べたら一切れでお腹がいっぱいになったというお笑いのネタがあったな。なんとか探検隊だったかな?
お笑いのネタ?探検隊?・・・またしても妙な言葉が頭の中に浮かんで首をひねった。
私とライラはそのまま食べ続け、スニアにももう一切れだけ食べさせた。
そのとき、バネラ、ロルネ、ペニアが室内に乱入してきた。今まで浴室で遊んでいたのか?
「お嬢様、私たちもお相伴してよろしいかしら?」とロルネが小首をかしげながら聞いた。かわいいふりをしているつもりなのだろう。
「いいわよ。私たちは食べたから、後は骨まで食べていいわよ」と言うと、我先にと肉を切り分けてがつがつと食べ始めた。貴族令嬢のたしなみなどどこにも見られない。
私はスニアにラメダ茶を出すように言った。この臭く甘味のないお茶も飲み慣れるとおいしく感じられてくる。
また、私は首をひねった。私は生まれてからラメダ茶以外飲んだことがないのに、なんで今さら慣れるなんて言うのだろう?
先日気を失ったとき以来、どうもおかしな考えが頭に浮かんで困る。頭を打った後遺症なのだろうか?
そのときバキバキという音がした。音がした方を見ると、バネラたちがほんとうに骨をかじっていた。
「ほんとうに骨まで食べるの?」とあきれていると、
「こんなおいしい肉、実家じゃ食べられないですし、お嬢様のお屋敷でもそうそういただくことがないので・・・」と、ペニアが言い訳をしていた。
確かにこの国は金の採掘で潤ってはいるが、下級貴族や平民全体に富が行き渡るほどではない。
「お嬢様のメイドになれて嬉しいですわ」とバネラが言って、他の2人もうなずいていた。食べ物目当てとはいえ、こうまで言われるとこの3馬鹿メイドもかわいく思えてくる。
私はライラとスニアをつれて寝室に戻った。
スニアの世話で寝間着に着替え、ベッドに入る。
「お嬢様、今日はありがとうございました」とスニアがお礼を述べた。
「いいのよ、気にしなくて。明日も一緒に朝食を食べましょう」
そう言うとスニアは少しだけ嬉しそうな表情を見せた。
翌朝、私は約束通り朝食の席にスニアとライラを招いた。バネラたちもちゃっかり席に着いている。
この国の朝食は、甘味がついていないビスケットのような硬めのパンにバターを塗ったものだ。これをラメダ茶で流し込む。この国では甘味料は貴重品なので、公爵令嬢の私でも滅多に口にできない。・・・ここで“ビスケット”という聞いたことがない単語が頭に浮かんだが、もう無視することにする。
パンにバターをたっぷり塗ってライラとスニアに食べさせる。今日のスニアは昨夜と違ってけっこう食が進むようだ。
「おいしい、おいしいです」と歓喜の声を上げながら私よりも多めに食べていた。
「屋敷に戻っても一緒に食事をしましょうね」
「でも、他のメイドの目が・・・」とスニアは及び腰だったが、機会を見て食べさせようと思った。
朝食が終わると馬車に乗って王都に帰る。
王都からの便りで、鉄門前に集結していたザカンドラ皇国軍は、私たちがメラニア王国軍を追い払ってまもなく、何も行動を起こさずに帰って行ったとのことだった。
一応、戦に勝ったということで、第5軍が王都に戻り次第、王の御前で戦勝報告を行い、その後祝勝会を催すという話だ。
「お嬢様、祝勝会が楽しみですね」とバネラ。
しかし戦に勝ったのはいいが、私たちの戦果を皆がどう思うか心配だ。特に、ダイバルディー公爵が。
私の家、クランツァーノ公爵家はボルランツェル王国の建国当時からの忠臣で、王や貴族からの信頼が厚い。一方、ダイバルディー公爵家は、50年ほど前のザカンドラ皇国との戦で武勲を上げた侯爵が、恩賞で貴族の位を上げてもらったもので、公爵家の歴史が浅い。
それをどうのこうのと言う貴族はほとんどいないが、現在のダイバルディー公爵自身がやたら気にして、クランツァーノ公爵家を勝手にライバル視しているのだ。
しかもクランツァーノ公爵家は昔から王族との婚姻関係があるが、ダイバルディー公爵家はまだ姻戚ではない。ダイバルディー公爵は娘を王子の誰かに嫁がせたいと熱望しているようだが、その娘は第1王子ランダよりも7歳も年上の21歳である。
7歳の年の差に加え、その娘の前に立ちふさがる障壁が私、16歳のクランツァーノ公爵令嬢である。
私は従弟のランダ王子の婚約者ではないが、そうなる可能性はダイバルディー公爵の娘よりは高い。そこでクランツァーノ公爵家だけでなく、私に対してもダイバルディー公爵のやっかみが向けられているのだ。
「やれやれ」と思いながら私たちは王都に帰還して行った。




