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公爵令嬢は♡姫将軍♡から♡降魔の巫女♡になる  作者: 変形P
第1部 闇神殿編
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002 初めての♡戦勝♡

メイド長のライラと下級メイドのスニアを引き連れた私は、馬車で公爵邸を出て王宮に向かった。


王宮に着くと顔パスで中に入り、広い謁見の間に入ると、第1軍から第5軍の副将軍と幕僚が並んでいた。私はライラとスニアを謁見の間の入口に残し、第5軍の先頭に立った。


第1軍は王都防衛軍キャピタルディフェンサーズで、国王が将軍(司令官)を兼任する近衛大隊である。第2軍は重装騎兵軍ヘビートルーパーズ、第3軍は重装槍兵軍ヘビースピアラーズ、第4軍は重装歩兵軍ヘビーインファントリーズで、それぞれ第1〜第3王子が将軍を務める。


私が率いる第5軍は機動迎撃軍スイフトインターセプターズと呼ばれ、軽装の奇兵、つまり装備がしっかりしていない兵士の寄せ集めで、敵の不意を討つような戦術に使用される使い捨ての軍隊だ。


本来なら第5軍の将軍は上級貴族かその御曹司が務めるが、誰もなりたがらず、どうせお飾りならばと私にお鉢が回ってきたわけだ。


第1王子ランダ、第2王子レンダ、第3王子ロンダはみな私より年下で、それぞれ14歳、12歳、9歳だ。3人とも礼儀はしつけられているが、ぼんぼん育ちで頭の回転はあまり良くない。


3人の王子が第2〜第4軍の先頭につき、国王が現れると、その場にいる全員がひざまずいた。


国王が椅子に座り、その横に軍務大臣のダイバルディー公爵がつく。ちなみに私の父のクランツァーノ公爵が国務大臣を拝命している。


「将軍並びに副将軍に告ぐ!」とダイバルディー公爵が口を開いた。


「隣国ザカンドラ皇国の軍隊がほぼ全軍で鉄門前に集結した。我が軍も第2軍から第5軍までの大部隊をもって敵軍を迎撃する!」


この宣言を聞いて、各軍の副将軍とその幕僚たちが歓声を上げた。


ボルランツェル王国は空に切り立つボルランド山の中腹に広がる盆地を領土とし、盆地を囲む外輪山が国境となっている。高地で寒冷地でもあるので農作物の生育にはあまり適さず、国土の大部分を牧草が覆い、酪農が営まれている。


そんなボルランツェル王国の特産は、金鉱と温泉である。金の埋蔵量が多いので、国王や上級貴族はかなり裕福な生活が続けられた。その一方で、ボルランツェル王国は古来より金鉱の略奪目的でしばしば近隣の国々の侵攻を受けてきた。


しかし外輪山が天然の要塞となり、これまで他国に占領されることはなかった。


他国との交易路は2か所の外輪山の切れ目で、南側の大きな交易路は、国境を鉄門アイアンゲートで封鎖することができた。鉄門とは高さ20ヤールの木製の門で、表面を鉄板で覆われている(1ヤール=約90センチ)。この鉄門を閉めると、敵軍の侵略を阻むことができた。


もう一つの交易路は西側の海岸に通じる峠で、急峻な坂道を昇ったところに高さ3ヤール程度の木製の門、通称海門(シーゲート)を閉められるようになっている。


海門の高さはわずか3ヤールだが、外側の坂道の下から見上げると、高さ10ヤールに感じる地形を生かした門だった。坂道が急であることから、こちらの道から敵軍が侵攻してくることはほとんどなかった。


今回の戦は、隣国ザカンドラ皇国の全軍が鉄門前に押し寄せているということだったが、鉄門を突き破ることは破城槌ラムボックを用いても極めて困難で、ザカンドラ皇国軍の動きはただの示威行動と思われた。我が軍の迎撃も、鉄門の内側から大声をかけるだけで、しばらく対峙すればいつものように敵軍が引き上げて戦が終わることになる。


「これより第2軍以下は鉄門前に進軍する。何か質問はないか?」


進軍と言っても鉄門の内側で整列するだけだ。・・・しかし、いつもなら鉄門に攻めてくる敵は1大隊程度。それに対して我が軍は、どうせ交戦することはないので、1つか2つの軍を配置する程度だった。


鉄門を破れないというのに、なぜ敵は全軍に近い大軍で来たのだろう?


「軍務大臣殿」と私は挙手をした。


「何かな、ドロシア嬢?・・・いや、ドロシア将軍」


「鉄門に進軍するのは第4軍までで十分ではないでしょうか?我が軍は念のため海門の警護に当たりたいと思いますが?」


ダイバルディー公爵は自分の軍策に異議を唱えた私に対し一瞬不快な顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻した。


「確かに、ドロシア将軍が敵軍と対峙するにはまだ早いかもしれぬ。・・・良かろう、第5軍は西境の海門の警護に当たるがよろしかろう」


ダイバルディー公爵は私が怖じ気づいて、戦場から離れた地に行きたいと思ったことだろう。私が国王のお気に入りの姪だから無下にはできないとも考えたに違いない。


「私の分不相応な申し出を快くご認可くださり、ありがとうございます。・・・ところで万が一、海門にも敵軍が攻めて来ましたら、適当に追い返してよろしいでしょうか?」


「ああ、かまわぬ。善処するがよい」と言ってダイバルディー公爵はにやりと微笑んだ。


全軍への指示が終わって謁見の間から退出すると、ガンダル副将軍が不服そうな顔をした。


「姫将軍殿、敵軍に背中を見せるとは情けないですぞ!」


「何言ってるのよ、ガンダル。進軍ったって鉄門の内側で声を上げるだけじゃない。そんなの意味はないわ」


「ですが、ほかの将軍や副将軍は、姫将軍殿が女だから怖がって逃げ出したとしか思いませぬぞ!」


「あいつらが私のことをどう思うかなんて、どうでもいいわよ。それよりガンダル、何かおかしいと思わない?」


「・・・おかしいとは?」


「敵の軍事力では全軍そろったとしても鉄門の突破は難しいと思うわ。・・・仮に鉄門を打ち破る新兵器でも開発したのなら、全軍を控えさせておくとしても、これ見よがしに我々に見せるはずはないわよ。我が軍を集結させておいたら、せっかく鉄門を突き破っても国内への侵攻が難しくなるから」


「単なる示威行動では?」と聞き返すガンダル。


「それならなおさら私たちが鉄門の内側にいる意味はないわよ。・・・これ見よがしに全軍を集結させているってことは、陽動作戦じゃないかしら」


「陽動作戦とは?」


「全軍隊の注意を鉄門に引き付けておいて、その間に海門を別働隊が破って、一気に国の内部に攻めて来ようと思っているかもしれないってことよ。そして我が軍が気づいて急行する前に金鉱山を襲って金を略奪すれば今回の進軍の元は取れるし、鉱山を埋めたりすれば我が国に少なくない損失を与えることができる。別にこの国を征服しようと思って攻め込んでくるわけじゃないわよ」


「しかし別働隊とは!?・・・そんな余剰戦力がザカンドラ皇国軍にあるでしょうか?」


「我が国の金を狙っている国は少なくないわ。どこかの国と手を結んだということも考えられるわね」


「なるほど。・・・姫将軍殿は私なんぞよりはるかに軍略を講じられますな」


「とにかく、無駄に終わってもいいから、第5軍は海門に急ぎましょう!」


「了解じゃ、姫将軍殿!」


ガンダル副将軍が足早に去って行く。私は控えていたライラとスニアを呼んだ。


「海門まで進軍するから準備をして」スニアが青ざめるが、ライラは顔色一つ変えずに頭を下げた。


ガンダル副将軍が第5軍の兵士約200人を整列させる頃には、ライラが私の乗馬と大型馬車1台を用意していた。馬車の中にはライラ、スニアらメイドと、私たちが寝泊まりするのに十分な寝具や衣服や様々な用途の布が納められていた。


意外なことに上級メイドのバネラ、ロルネ、ペニアも同行を希望した。


「あなたたち、これから戦場に行くのよ!」と忠告したが、


「でも、国外に出るわけじゃないし」とバネラ。


「兵士の後にいるし」とロルネ。


「お嬢様と一緒にいるから平気です」とペニアが言った。


「勝手にしなさい!」と3馬鹿トリオに言う。まあ確かに、身の危険が及ぶことはないだろうけど。


私が率いる第5軍が国土の西の端、海門に着くのに丸3日かかった。狭い国土だが、馬車でのんびり移動しているとそれなりの日数がかかる。


既に冬が近づき、雪がちらほらと舞い始めていた。私たちは馬車の中にいても寒さが身にしみてきた。


「寒い〜。帰りたい〜」弱音をはくバネラ。


「帰りたいなら、一人で歩いて帰りなさい!」と言い返すと、


「お嬢様は最近怖くなりました〜」とペニアが文句を言った。


「前はみんなで仲良くラメダ茶を飲んでいたのに・・・」とロルネ。私は無視した。


海門に近づいたときにガンダル副将軍の斥候の連絡が入った。


「姫将軍殿の見立て通り、海門の向こう側に兵士の一群が確認されましたぞ!」このときのガンダル副将軍は、私を尊敬する顔になっていた。


「さすがですじゃ、姫将軍殿。敵の奸計をたやすく見破るとは!」


「ほめるのはいいから。敵軍の様子はどう?」


「我らと同数の200人くらいの兵士が坂の下にいるそうじゃ。大木を荷車に乗せ、海門を破壊するための破城槌ラムボックを作ったようじゃが、海門までの坂道がきつくて手こずっておる」


海門までの急坂が自然の防壁になっているのだ。しかし、坂を利用した攻略法もある。


「ガンダル副将軍、この近くに温泉の源泉があったわね?近くの平民の家から桶をできるだけ集めて、源泉の熱湯を汲んで海門に集めて!」


「何をする気ですかな、姫将軍殿?」


破城槌ラムボックが使えないとなると、必ず敵兵が海門に接近してくるはずよ。敵軍も手ぶらじゃ帰れないでしょうから。・・・そこで接近してきた敵兵に熱湯を浴びせるのよ!」


すると私の後からひぃぃ〜という声が聞こえた。振り返ると、バネラ、ロルネ、ペニアが抱き合って震え上がっていた。


「そんなことをしたら、敵とはいえひどいことになりますよ〜」


「何て恐ろしいことを考えるの、お嬢様は?」


「でも、敵が海門を破って国内に入ってきたら、あなたたちは殺されるか、慰み者にされるかのどちらかよ」と私が言うと、


「敵に情けをかける必要はありませんね!是非熱湯をかけてやりましょう!」と、3馬鹿が態度をひるがえした。


すぐにガンダル副将軍の部下が走り回り、荷車に熱湯をくんだ桶を山積みして集まってきた。


私は海門の内側の足場に上がり、外側を見下ろした、破城槌ラムボックを使うのをあきらめてロープに結んだ大きな手かぎを持った兵士が何人か接近して来た。


あの手かぎを海門に刺し、ロープを引いて力づくで門を倒す気だ。この場合は坂の存在が海門を引き落とすのに都合がいい。


手かぎはかなり重そうで、遠くから投げることもできず、兵士が持って来て海門の外壁に直接刺そうとしていた。


「熱湯投下!」私の指示で桶を持っていた兵士が真下の敵兵にお湯をふりかけた。


あたりはたちまち湯気で覆われるが、お湯が落ちる勢いと坂の傾斜のおかげで敵兵が倒れ、悲鳴とともにころげ落ちていくのが視認できた。敵兵はすかさず起き上がって再接近しようとするが、ぬかるんだ坂の土に足を取られ、なかなか坂を上がれないようだった。


すぐに坂の下から増援が来る。普通の戦場ならここで矢を射かけるところだが、矢の軸である矢柄の原料となる木の枝がこのあたりの植生では手に入りにくいので、矢は貴重品であった。少なくとも残数を気にせずに射ることはできなかった。


敵兵は何回か矢を射ってきたが、急坂を見上げて矢を射かけているので勢いを失い、海門に当たって跳ね返っていた。


攻撃の合間に海門に近づこうとする敵兵に、またもお湯をふりかける。そのうち私は妙なことに気づいた。さっきから何度も熱湯をふりかけているはずなのに、敵兵が大やけどを負った様子がまったく見られないのだ。


おかしいと思って近くの桶の中に手を突っ込んでみると、・・・寒空の下を桶に入れて運んできたので、海門に着いたときには入浴してちょうどいいくらいの温度になっていた。


これでは敵兵を温めてあげているだけじゃないの!?


日が暮れてきたので敵兵も後退し、我が軍も見張りを残して野営することにした。


「熱湯を浴びせると怖いことを言っておきながら、寒気に震える敵兵に温かいお湯をかけてあげるなんて、お嬢様は何てお優しいんでしょう」とバネラが言った。


私は当てが外れて気落ちしていたので、バネラの言葉は無視した。


翌日も同じように攻防する。昨日よりも敵兵の人数が減っているように感じたが・・・。


今度は冷水を浴びせてやろうかとも考えたが、普通の川は源泉より遠くにあったので、やむを得ず今日もお湯をくんで敵兵にふりかけた。お湯をかけるだけでも敵の攻勢をけっこうそげることがわかったからである。


翌日はさらに敵兵の数が減っていた。もうあまり執拗に海門に近寄って来ようとしなかった。


そして4日目になると、敵兵の姿が見えなくなった。夜になって斥候を出すと、多くの鎧や武器が打ち捨てられており、敵軍があわてて撤退していたことがわかった。


5日目はそれらの武具を回収しつつ、敵軍の様子を探った。鎧の文様から敵軍はザカンドラ皇国ではなく、海側にあるメラニア王国の軍隊であることがわかった。ザカンドラ皇国と手を組んでいたのだろう。


その後も斥候を出してメラニア王国の様子を探らせたところ、意外なことがわかった。


寒空の下で我が軍が温かいお湯を浴びせ続けたので、敵兵は湯冷めをして風邪を引き、それが全軍に蔓延したとのことであった。お湯なので侮っていたらしい。結局戦を続けられなくなり、武具も持てずに置き残したまま、ほうほうの体で退却したのである。


こうして我が第5軍は緒戦に勝ち、王都に凱旋することになった。


登場人物


ランダ・ダンラ・ダダ・ボルランツェル ボルランツェル王国第1王子。第2軍(重装騎兵軍)将軍。主人公の従弟。


レンダ・レン・ダレ・ボルランツェル ボルランツェル王国第2王子。第3軍(重装槍兵軍)将軍。主人公の従弟。


ロンダ・ルンダ・レレ・ボルランツェル ボルランツェル王国第3王子。第4軍(重装歩兵軍)将軍。主人公の従弟。


ボルランツェル国王 第1軍(王都防衛軍)将軍を兼任。主人公の叔父。


ダイバルディー公爵 ボルランツェル王国軍務大臣。


クランツァーノ公爵 ボルランツェル王国国務大臣。主人公の父。


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前作の「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」を公開中です。
こちらを読まれると本作の隠れ設定が理解できます。
よろしくお願いします。
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