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公爵令嬢は♡姫将軍♡から♡降魔の巫女♡になる  作者: 変形P
第1部 闇神殿編
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001 メイドを♡調教♡

この作品は、前作「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」とちょっとだけ関係がある、まったく別の物語です。


「お嬢様、ドロシアお嬢様!」耳元でうるさい声がする。


「ああ〜、お嬢様!何てことでしょう!」


あまりにも大きな声だったので、目が覚めてしまった。いい気分で寝ていたのに・・・。


「何騒いでいるの、ライラ?」私は横になったまま目を開いてメイド長のライラに話しかけた。


「ああ、お嬢様が気がつかれた。神よ、感謝します!」


寝ていただけなのに何を大げさな、と思って上体を上げると、何と床の上に寝ていた。


公爵令嬢ドロシア・ダネル・ネル・クランツァーノとあろう者が。


そう、私は公爵令嬢。ここ、ボルランツェル王国のクランツァーノ公爵のひとり娘だ。今は亡き母が現国王の妹であったため、公爵令嬢でありながら王位継承権がある。順位は第8位と低いけれど。


そのとき、自分の左頬に液体が流れるのを感じた。汗かと思って手でぬぐってみると、べとっとした血だった。


左側の頭部に痛みを感じる。どうやら、倒れて頭を打ったようだ。


私はライラに支えられてソファに腰を下ろした。


ライラは40歳くらいの未婚女性で、私の母に仕えて10年、私に仕えて12年経っている。ちなみに私は16歳。つまり私が5歳の頃から仕えている。経験豊富で、他の下級メイドの指導的立場にあるメイド長だ。


「今、医者を呼んでおります。しばらくお待ちください」とライラが言った。


私は何も答えなかった。なぜなら、私から少し離れた床の上に、一人の下級メイドが平伏していたからだ。


「その者は何をしているの?」とライラに聞く。


「先ほどお嬢様が急に倒れられたときに、お嬢様のすぐ後に控えていた下級メイドのスニアです。お嬢様が倒れた方向から、スニアがお嬢様に突き当たったか、あるいは押し倒したと思われ、処遇を決定するまでそこに平伏させておるのです」


私は意識を失う前の記憶を思い出そうとした。室内をスニアを従えて移動しているときに突然胸の痛みを覚えた、ということまでは覚えている。


「わ、私ではありません。私は何もしていません」


下級メイドのスニアは平伏したまま泣き叫んだ。


下級メイドとは平民から取り立てたメイドで、主に汚れ仕事を担当する。下級メイドに対する上級メイドは、下級貴族出身の令嬢がなり、主に主人の身の回りの世話をする・・・ということになっているが、上級メイドは主人、つまり私とおしゃべりして一緒にお茶を飲むくらいのことしかしないので、実際は身の回りの世話も下級メイドが担当していた。


つまり、下級メイドの一部が主人の世話、残りが掃除や汚物(つまり大小便など)の処理をしていた。屋敷にはトイレはなく、もよおしたときは部屋の隅にあるおまるでするか、庭の灌木の影でするのが、貴族であっても王族であっても常識だった。


貧しいこの国で平民の娘が貴族の下級メイドとして仕えることは栄誉であり、かつ、(平民の中では)高給取りになることを意味し、憧れの職業だった。特に私のような令嬢や貴婦人に仕える場合は、性的な奉仕を強要されるおそれがないので、平民の娘たちから特に羨望されている。


スニアは今年仕え始めたばかりの15歳の少女で、立ち居振る舞いが平民にしては良いということで、私の身の回りの世話係に大抜擢された。もちろん今はまだ見習いの段階だけど。


「あなた以外に誰がお嬢様を突き倒せるというの!?」とライラがさらにスニアを責め、ライラは突っ伏したまま泣き出した。


「お待ちなさい、ライラ」と私はライラを制した。


「スニアは何もしていないわ」


「ほんとうですか、お嬢様?・・・しかし倒れられたところには足が引っかかるような物はありませんが」


「倒れたときのことは覚えているわ。・・・ちょっとね、心配事があったので足がもつれただけよ」


「そうですか?・・・わかりました。スニア、立ちなさい。お嬢様からのおとがめなしということになりました」


スニアは涙に濡れた顔を上げた。


「ありがとうございます、ご主人様」


平民のスニアにとって、私に叱責され、万が一にも職を失うことになったら、単なる稼ぎ口を失うこと以上の不名誉になるらしい。実家に帰ることもできなくなる。


「スニア、この件はあなたの責任ではないけれど、あなたには別のことで不満があるわ」


「え?」再びスニアの顔に恐怖が浮かぶ。


「あなたが私の元に来てもう一月も経つというのに、まだお茶を満足に淹れられないじゃない」(一月は月の満ち欠けが一巡する時間で20日間)


「は、はい・・・。申し訳ありません」


「私が医者の手当を受けたらお茶を飲むから、淹れなおしなさい」


「は、はい。わかりました・・・」


ようやく医者が来て私の頭をうやうやしく診察した。どうやら倒れた際に頭をこすって少し皮膚が切れたらしい。ちょうど髪の生え際なので、傷痕が残ったとしても目立たず良かったということだった。


どうやって傷口を塞ぐかと聞いたら、どろどろした臭いにかわのような物が入っている壷を持って来た。これを傷口に塗って塞ぎ、後は自然に治癒するのを待つようだ。


その汚らしいどろどろを直接私の額に塗ろうとしたので、私は医者を制止し、ライラにクェルを持ってくるよう言った。クェルとは透明な蒸留酒で、アルコール度数がかなり高い。


私は受け取ったクェルをハンカチに浸すと、ライラが持った手鏡を見ながら傷口を拭いた。もう血は止まっていた。かなり小さな傷だった。


そのどろどろを塗らなくても大丈夫と思い、医者を下がらせた。


「お嬢様、治療を受けなくて大丈夫ですか?」


「あんな得体の知れない物を塗られてたまるもんですか」と私は言い返した。


「酒精には血を止め、傷口が腐らないようにする作用があるから、この程度の傷ならこれで十分よ」


戦争と縁が切れないこの国で、負傷兵の、あのどろどろで塞いだ傷口が腐るのを以前に見たことがある。一方、クェルを浴びて酔っぱらった傷病兵の傷が、膿まずに治ったのを見たこともある。深い傷なら傷口を塞ぐ治療も必要だろうが、私の額の傷程度なら、クェルで拭いた方が早く傷は治るだろうと考えた。


そのとき私はふと疑問に思った。どろどろで塞いだ傷が腐りやすいこと、クェルで逆に腐りにくいことはこの目で見ていた。しかし傷の治療まで考えたのは今が初めてだ。今までの自分だったら何の疑問も抱かずに医者の治療を受けていたに違いない。


自分の言動に違和感を持ったが、わからないことを考えるのはやめて、小さなテーブルに付随した椅子に座った。


「スニア、お茶!」


「は、はい!ただいま!・・・」


スニアがティーカップとティーポットを載せた銀のお盆を運んで来た。緊張のあまりお盆の上でカップやポットがかたかたと揺れている。


震えながらスニアがテーブルの上のお盆を置くと、ティーポットが震動で倒れ、お盆の上にお茶があふれ出た。


「スニア!」怒るライラ。しかし私はライラの叱責を制した。


「スニア、もう一度淹れなおしなさい」


「はい・・・」お茶がしたたるお盆を持ってスニアは引き返して行った。


「申し訳ありません。何度もお茶の出し方を教えているのですが・・・」とライラが謝った。


「ライラ、あなたの指導に文句を言っているわけじゃないのよ。スニアに足りないのはお茶の出し方の練習ではなく度胸なの。そしてそれは、私を相手に練習をしないと克服できないものよ」


「恐れ入りました、お嬢様。・・・一つお聞きしてよろしいですか?」


「何、ライラ?」


「今までのお嬢様はメイドの失態を笑って許しておられましたが、急にどうなされたのでしょうか?」


私は今までの記憶を呼び覚ました。確かに今までの私は、人の言うこと、することをただにこにこして肯定するだけだった。


「さっき、頭を打ったせいかしらね」


「お嬢様!?」


「そして頭を打つはめになった心配事のせいね。公爵令嬢だからといってへらへらしていても、事態は何も解決しないことに気づいたのよ」


再びスニアがお茶を運んで来た。そしてまた同じような失敗をした。私は「もう一度やり直しなさい」と命令した。


お盆を片づけて立ち去ろうとするスニアのお尻を平手で叩く。スニアはきゃっと言って体を伸ばした。


「今度も失敗したら、またお尻を叩くからね」


顔を赤らめて引き返して行くスニア。お尻を叩いた感触はあまり柔らかくなかった。栄養が不足しているのだろう。下級メイドの食事でも、一月も食べていれば少しは肉付きが良くなるはずだが。


スニアと入れ替わりに3人の上級メイドが入ってきた。


「お嬢様、ごきげんうるわしゅう・・・」


へらへらと私に対して何の畏敬の念も抱いていないような馬鹿娘たち、バネラ、ロルネ、ペニアだ。3人とも男爵令嬢である。・・・しかし私はついさっき頭を打つまでこの3人を親友のように思っていた。


「お嬢様、花を摘んできました」


バネラが白い十字架のような小さな花を3つほど私に突き出した。


この花のことは良く知っている。建物の日陰のじめじめした地面に這うようにして生長する植物で、葉はハート形をしており、小さい十字架形の白い花をつける。繁殖力が強く、日陰のいたる所に成育していた。そして、とても臭かった。


花の名前はラメダと言ったが、頭の中にドクダミという言葉が浮かんだ。うん、ラメダよりもドクダミの方がふさわしい、と思った。


「ありがとう、バネラ」バネラたちに悪気がないのは知っていた。ボルランツェル王国は寒冷地で、簡単に入手できるのはこのドクダミ、じゃないラメダの花くらいだったからだ。


「お礼にあなたたちの髪に飾ってあげる」私はそう言って、臭いラメダの花を3人の上級メイドの髪に刺してやった。


「みんな、とってもお似合いよ」と言うと、3人は臭い匂いを振りまきながら喜んでいた。


そこへスニアがまたお茶を運んできた。


まだがたがた震えている。


スニアはテーブルの上にお盆を置き、震えながらティーポットを持ち上げた。そしてカップにお茶をそそぐ。・・・お茶の半分くらいはカップにそそげたが、残りの半分は受皿ソーサーにこぼしていた。


「も、申し訳ありません」そう言いながら頬を染め、お尻を突き出すスニア。・・・こいつ、変な趣味に目覚めたんじゃないかと疑った。


「まだまだだけど、今日はここまででいいわ」


私は受皿ソーサーごとカップを取ると、受皿ソーサーにこぼれたお茶をカップに移して飲んだ。


うん、ドクダミ、じゃないラメダの臭いがする。このお茶はラメダの葉を乾燥させて煎じたハーブティーだった。甘味はついていない。


くさっ、と思いながらお茶を飲み込むと、一人のメイドがやって来た。


「ガンダル副将軍がお見えですが、お通ししてよろしいですか?」


「いいわよ」と私が答えると、すぐに鎧に身を固めた初老の男性が入ってきた。


「ドロシア様。・・・姫将軍殿。国王陛下が全軍を招集されました。至急ご用意をして王宮に参りましょう」


「わかったわ。・・・ライラ、軽甲冑ライトアーマーの準備をお願い」


私が指示すると、ライラは一礼して準備をするために下がった。


「ガンダル副将軍、すぐに行くから第5軍を整列させておきなさい」


「は、かしこまりました」ガンダル副将軍は一礼して引き返して行った。


そう、私は公爵令嬢でありながら、ボルランツェル王国第5機動迎撃軍の指揮官たる将軍だった。もちろん軍事の才能や経験があるわけではなく、王族や上級貴族がお飾りとして軍隊のトップにつくのがこの国の慣例だ。実際の軍隊の指揮は副将軍が執る。


私はライラが用意した裾の短い略式用ドレス・・・足首が見えるか見えないかくらいの長さ・・・に着替え、革製の胸当クィラス小手ガントレットをつけた。足には長い軍靴ブーツを履き、頭に鉄製の飾鉢金ティアラをつけた。


あまり防御力は高くないが、前線に出て白兵戦をするわけではない。


最後に将軍職杖ジェネラル・スタッフを手に取ると、ライラとスニアを引き連れて部屋を出た。


登場人物


ドロシア・ダネル・ネル・クランツァーノ 主人公。公爵令嬢。第5軍(機動迎撃軍)将軍。


ライラ 主人公に仕えるメイド長。アラフォー。


スニア 主人公に仕える下級メイド。主人公の1歳年下。


バネラ・ララ・デルシア 主人公に仕える上級メイド。男爵令嬢。


ロルネ・ロロ・ベラニア 主人公に仕える上級メイド。男爵令嬢。


ペニア・ラパ・カルネロア 主人公に仕える上級メイド。男爵令嬢。


ガンダル副将軍 第5軍(機動迎撃軍)の副将軍。初老の男性。



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前作の「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」を公開中です。
こちらを読まれると本作の隠れ設定が理解できます。
よろしくお願いします。
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