第一話 聖アリステラ大教会、その聖堂にて
光が収束し、再び真央に視界が戻った時。
彼は隙間なく並べられた石畳の祭壇の上であった。
「お、おおっ。ついに――ついに女神さまが、我らに勇者を使わして下さった!」
感激に打ち震える老人が、下げていた頭を上げて号泣する。その頭頂部は見事なまでに、輝いている。老人は純白の下地に金銀で装飾された豪奢なローブを身に纏っており、まるで河豚のようにでっぷりと張り出た腹の贅肉の上には胸に下げていた数々の勲章が乗っかっていた。
いや、彼だけではない。その場にいる老若男女の全てが、彼と同じような服装と肉体で以て真央の前に跪き、脂汗と共に祈りを捧げていた。
どう考えても人類の危機とは程遠い目の前の光景に一瞬呑まれかけながらも、彼は一先ず目の前の老人に声をかける事にした。
「あの、すみませんご老人。あなたはいったい……?」
「おお、勇者様!」
彼は伸ばしても居ない真央の手をがっちりと掴み、興奮と共にぶんぶんと腕を振った。その際に弛んだ皮膚の下に溜まった肉と脂の腐ったような悪臭と、それを誤魔化すかのような甘ったるい濃厚な臭いが鼻をつく。が、流石にそれを初対面の方に行うのは失礼だと理解する程度の分別は真央も持っていた。
「儂はピエール・マクガロフと申します。世界を創造せしめたもうた偉大なる女神アリステラ様に仕える、敬虔な使徒でございます。この聖アリステラ大教会では、恥ずかしながら教皇の座を頂いておりまする」
目の前の老人がまさかの宗教の頂点だったことに、真央も驚かされる。
恐らく目の前の彼と話す言葉が同じである以上、真央には女神が自動翻訳の能力をつけてくれていたのだろう。ならば、教皇という位も地球と同じ意味として素直に受け取っても良いに違いない、と彼は考えた。
「俺は――いえ、私は夕霧真央と申します。姓はユウギリ、名はマオです。この度は不詳の身ながら女神の剣として、この世界の人類を救うために召喚されました。マクガロフ殿、どうかよろしくお願いいたします」
「マクガロフ殿、などとそのような! 女神さまに選ばれし勇者様なのですから、どうぞピエールとお呼びください!」
「は、はい……」
余りの勢いに押され、つい納得の意を示してしまう真央だった。
「ですが、私にとっても年上の方を呼び捨てにするのは心苦しいのです。なので、せめてピエールさんと呼ばせてください」
「分かりました。全ては勇者様の御心のままに。――何をしておるか! 勇者様のご降臨であるぞ! さっさと湯浴みと宴の用意を行い、女神様の使徒を歓待せんか!」
「「「「は、はいっ!!」」」」
慌てて、周囲の人間たちが杖を支えにぷるぷると震えながら立ち上がった。そして鈍重な足音を響かせながら、急ぎ俺たちがいる大聖堂から姿を消していった。
「では、僭越ながら勇者様には今しばらく宴の用意が終わるまでお待ちいただかなくてはなりませぬ。故に、それまでは湯浴みで疲れを落とされるのがよろしいかと」
「は、はあ……これはどうも」
教皇の勢いに流されるまま、真央は彼の提案に頷く事しか出来なかった。
彼が金の蛇が巻き付いた鈍器のような杖で石床を叩くと、薄いベールを羽織った女性たちが外から三人入ってくる。この世界において初めて真央が目にした、標準体型に近い女性たちである。顔は薄い布で隠されているためよく分からないが、その体つきは確実に一級品のそれである。
彼女らは真央たちの目の前までくると、しずしずと片膝を床につけて頭を下げた。
「勇者様、これらはこの教会の修道女です。未だ道半ばの者たちではありますが、小間使い程度の事は出来ますので何かあれば遠慮なくお申し付けください」
ぐふふっ、と嫌な笑みを浮かべるピエール教皇に嫌悪を示さないよう最大限注意を払いながら、真央は感謝の意を述べた。
「いえいえ、礼など、勇者様の義務に比べればとてもとても……。ではお前たち、ここに居るのはこれから我らを救ってくださる勇者様だ。丁重にもてなすように。何かあれば――分かっているな?」
びくっ、と彼の言葉に三人の女性たちは体を竦ませる。
……今はとりあえず、彼女らにさっさと風呂場に連れて行ってもらうとしよう。
「では、お三方。よろしくお願いします」
「うむ、お前たちは勇者様を大浴場へお連れし、身体を丁寧に磨いて差し上げろ。わかったな?」
「は、はい。では勇者様、どうぞこちらへ……」
三人の中で最も年長な、恐らく真央と同年代の女性が顔を下げたままゆっくりと立ち上がり、その手で聖堂の外を指し示した。それに続いて他の二人も立ち上がり、彼女の後ろに音を立てず厳かに並んだ。
「それではピエールさん。一度失礼します」
「はい、勇者様。それでは後程、食堂の方でお会いいたしましょう」
彼と別れる事に安堵しながら、真央は彼女らの後に続いて石畳の間を脱するのだった。
なお、彼女らは所謂ブラなどの下着をつけていないのか、特に同年代の女性は一歩踏み出すごとにその暴力的な巨峰が魅惑的に揺れており、童貞の真央は必死に目を逸らそうとしながらも、ちらちらとそちらへ目を向けてしまうのであった。




