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翌日、私は王妃教育をするために邸を離れた。
元平民として育ってきた私にはいろいろ詰め込まないといけないことがあるとかで暫くは王宮に泊ることになった。
お姉様からもカール様の婚約の許可を貰えたし。
ああ、もちろん邸を出る前にしっかりとお父様にお姉様のことは頼んでおいたわ。
お姉様を本館に住まわせることと、アンナではなくもっと明るい気の利く専属侍女にすることをお願いしておいた。
これで、お姉様も少しは明るくなると思うの。折角、綺麗なんですもの。笑ったら、きっとモテると思うの。
私はウキウキ気分で王宮へ向かった。
まず、最初に王様に挨拶をする。私の王妃教育は王妃様が直接してくださるとのことだったのでその場で王妃様との顔合わせもすませた。王妃様の名前はドロテア様。大きく開いた胸元を大粒のエメラルドが飾っていた。さすがは王妃様。威厳が違う。
次に王宮内の案内もされた。それから、王宮での専属侍女になるシーラ様とミリー様、護衛騎士のガナッシュ様を紹介された。
ミリー様は王妃様の親戚の方で、今回私の為に特別に登城。一時的の私の侍女としていろいろとフォローをすることになっている。
良かった。王妃様もお優しそうな方で。
カール様に会えると思ったけど、カール様は暫く執務で忙しいみたいで折角同じ一つ屋根の下に居るのに会えないのはがっかり。でも、仕方がない。カール様は王子様で忙しいんだから。我儘は言えない。
「ミリー様、シーラ様、ガナッシュ様。これからよろしくお願いいたします」
私はこれからお世話になるので当然と思っておじきをした。すると、なぜか戸惑うような気配を頭上から感じた。
コホンッ。とミリー様が咳払いをした。私は頭を上げて三人を見る。
「マリアナ様、私たち三人はあなたに仕える身。どうぞ、呼び捨てにしてください」
「ですが、私はみなさんよりも年下ですし」
「年齢を考慮されることは決して悪いことではありません。けれど、貴族社会では年齢よりもまず身分です。上の者が下の者に頭を下げたり、ましてや使用人に敬称を付けるなどもっての外です」
「ですが、私は教わる身です」
私の言葉にミリー様はため息をついた。なぜかその姿が私と会話をしている時にお姉様が時折見せるため息と被って見えた。
「マリアナ様を指導されるのは王妃様であって、私たちではありません」
「まぁ、そうですが。身分で人を判断するのは、私は好きではありません。年配の方はやはり敬うべきだとも思いますし」
「お里が知れる」
「あ、あの」
ミリー様が小さい声で何か呟いたみたいだけど、私の耳には届かなかった。問いかけなおす私にミリー様は笑顔を見せてくれる。
「マリアナ様のお考えは分かりました。王妃教育は明日からになります。今日は、お疲れでしょうからどうぞ、ゆっくりとお休みくださいませ」
「あ、はい」
良かった。私の言ったこと、分かってくれたんだ。
意見をするなんて生意気かなって思ったけど。身分が全てではないし、そういうのは間違っていると思う。下位の貴族の方でも年配の方は敬われるべきものだもの。
悲しいことにお姉様や先ほどのミリー様たちのことも含めて、身分が全てだと考えている貴族が大半。
私は平民だったから、貴族に無理を言われて困っている店員や、貴族に暴力を振るわれている人を見たことがある。
きっと、身分が全てだと、自分は特別なんだと思っている貴族が、私が王妃になることで少しでも減ればいいと思う。
「よし!明日から頑張ろう」
私は気合を入れて、今日の所は言われた通り明日に備えて休むことにした。




