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覗き見る影  作者: 真波馨
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解答篇


「碓氷さん、どういうことですか。幽霊の正体が今日分かるって言っていましたけど、こんな昼間に幽霊が出るんですか。しかも、凧揚げ大会の会場に」

 貴佳少年は首を斜めに傾けて碓氷を仰ぎ見た。空高く昇る太陽の光に、眩しそうに両目を眇めている。

「貴佳くんの部屋を覗いていたのは、幽霊なんかじゃないんだよ」

 河岸から吹き込む風で乱れる髪を押さえながら、碓氷は少年に微笑みかける。

「でも、出っ張りもパイプも何もない壁を伝って窓から部屋を覗き込むなんて、人間にできっこないじゃないですか」

「そう。だから影の正体は人間じゃない」

「だったら」

「影の正体はね――あれだよ」

 碓氷はほっそりとした指で上空を示した。雲ひとつない、清清しい冬の青空が二人の頭上に広がっている。そしてそこには、色形の様々な凧たちが風に乗って気持ち良さそうに揺蕩(たゆた)っていた。

「凧?」貴佳は空を埋め尽くす凧の群れをしばらく眺めていたが、その視線を碓氷へとスライドさせる。

「貴佳くんの部屋の窓に毎夜のように張り付いていたのは、人の形そっくりに作られた凧だったのさ」

「まさか! どうして夜に凧が揚がっているんですか」周囲で凧揚げを楽しむ客の喧騒に負けぬよう、貴佳は声を張り上げた。

「理由はあくまで僕の推測だけど、もしかしたら貴佳くんの近所にも凧揚げ大会に参加する子どもがいたんじゃないかな。そして、本番である今日までに凧揚げの練習をしたかった。でも、練習しているところを人に見られたくなかったから、人目につかない夜にこっそり凧を揚げていたんだ」

「どうして見られたくなかったんですか」

「たとえば、凧を上手に揚げて家族をびっくりさせたかったとか。友だちとどっちが上手く凧を揚げられるか競争することになっていて、近所に住む友だちに練習しているところを見られたくなかったとか。あるいは見られたくなかったわけではなく、昼間は練習する時間がなくて夜しかできなかったのかもしれない。理由はいくらでも考えられるだろうね」

「でも、なんで凧が僕の部屋の窓に張り付いていたんでしょう」

「おそらく、練習しているときに失敗して偶然貴佳くんの部屋の窓に引っかかってしまったんだろう。風向きの具合とか、凧を上手く揚げるのも色々難しいらしいから。アクシデントだったんだと思うよ。

 影を見たときに眼鏡をかけていなくて視界が悪かったのと、暗がりだった条件が重なって本物の人影みたいに映ったんだ。窓ガラスに何も痕跡が残っていなかったのも、紙やビニールなんかの軽い素材で作られた凧だったら納得だし、目が覚めた瞬間に聞いたガサガサという音の正体は、凧が窓に激突したときの衝撃音だと考えれば説明がつく」

「雨の日に人影がやって来なかったのは、雨だと凧揚げの練習ができなかったからなんですね」

「その通り。だからね、今日の夜から貴佳くんの部屋に幽霊が覗き見に来ることはないよ」

 貴佳は思い思いに空を漂う凧を見渡しながら、

「何だか、毎晩凧に怖がらされていたって思うと、ちょっと恥ずかしいです」

「そんなことはないさ。誰だって、正体が分からないものは怖いんだよ」

「そうですね――碓氷さん。これ、一緒に揚げてくれませんか」

 胸元で大事そうに抱えていた()()を、貴佳は頭の上に掲げた。碓氷は大きく伸びをすると、

「よし。じゃあ僕が凧を支えながら走って、タイミングを見て手を離そう」

「はい。凧を離すときは声をかけてくださいね」

 人の集団から少し外れたところで、二人は「せーのっ」の声と同時に駆け出した。中腰の姿勢でぎこちなく足を動かしていた碓氷は、やがて貴佳の名前を叫ぶと両手を上へ持ち上げる。貴佳は首をもたげて空を見上げながら、碓氷が立ち止まった位置からどんどん遠ざがるように走り続けた。

 紙で作られた猪の凧が、青空の中で勢いよく駆けている。そのすぐ傍では、満面の笑みを浮かべた男の人形をした凧が、空飛ぶスーパーマンのように悠々と旋回していた。

今更だけど正月ネタでした。

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