外伝 デビダンⅡ発売記念ショートストーリー
ファマトとのダンジョンバトルから数日が経ったある日……。
事件は突如として起こる。
「ヨルシアよ、妾は海に行きたいのじゃ!!」
「……はっ?」
洗面所で歯を磨いていたら、エリーがいきなりとんでもないこと言い出した。
「うーみーに、いーきーたーいーのーじゃっ!!」
「いや、そんな大きな声出さなくても言葉の意味は理解してるって。というか、エリーいきなりどうしたんだ?」
「これを見よっ!!」
そういうとエリーは一枚のチラシを取り出した。
おいおい……これ魔界ツアー旅行の応募チラシじゃねーか。えーっと、何々。一等が魔界高級リゾート「アビス」への一泊二日六名様ご招待券? おぉ、大盤振る舞いだな。あそこって一泊するのに給料三か月分が軽く飛ぶんだよなー。選ばれし金持ちしか行けないリゾートホテル。
それが「アビス」!!
「当たったのじゃっ!!」
「……ぶふっ!!」
エリーが腰に手を当てながら、褒めろと言わんばかりに胸を張っている。
というかこいつ、いつの間に応募なんてしてたんだよ。
つか、マジで当たったの旅行券?
俺がチラシを持ってプルプル震えているとリリーナも洗面所へとやってきた。
「どうかしたんですかマスター?」
するとエリーは、俺の前に出てリリーナにもチラシをこれでもかと見せる。
「おぉ、リリーナか。ちょうど良いところに! これを見よ!!」
「わぁ、これアビス旅行の応募チラシですね。どうかしたんですか?」
「当たったのじゃっ!!」
「……ぶふっ!!」
リリーナとまさかの同じリアクション。
ちょっと恥ずかしいんだけど? つか、あいつ俺たちの反応を見て楽しんでやがる。だが、リリーナと俺とでは決定的に違うのもがあった。リリーナは意外と嬉しそうなのである。
「エリー様、すごーい! 本当に当てたんですか?」
「うむ! ヨルシアの名前を魔界ハガキに書いて送ってやったのじゃ! ただ一枚だとハズレる可能性が高いと思っての! 側近の魔人を呼んで、そやつの固有スキルでハガキを大量にコピーして送ってやったわ!!」
一体、こいつは側近に何させているのだろうか? 職権乱用というやつだな。貴重な固有スキルをそんなことに使っていいのか?
「ちなみに666万枚送ってやったのじゃ!!」
「……バカなんじゃないの!?」
本当にこいつは側近に何をさせてるんだ!? というか、俺どんだけ旅行行きたいの? もはや集計係への嫌がらせに近い。普通、応募総数って二百万枚くらいだろ? なのに666万枚って……。手にとるハガキ全てに俺の名前が書いてあるんだろうな。もはや軽い悪夢である。集計するだけでノイローゼになりそうだ。
しかし、旅行かぁ……。うん、めんどくせぇな。上手く断りたい。とりあえずリリーナに振ってみるか。
「なぁ、エリー? 旅行もいいけど、このダンジョンを留守にするわけにはいかんだろ? そうだよなリリーナ?」
「えっ!? べっ……別に、いっ……一泊二日くらいならいいんじゃないですか? それにほら! 休暇は必要ですし!! ねっ、マスター旅行に行きましょう!!」
まっ……まさか、リリーナが裏切るとは……!? いつもあれだけ仕事しろとうるさいリリーナが、アビス旅行に惹かれるなんて……。おそるべし魔界高級リゾート。
「はぁ……、リリーナがそう言うのなら仕方ないか。でも、残りの三人は誰を連れていくんだ?」
「いつも頑張ってるゴブリダさんとルルちゃんは決定ですね。六人目は親睦を深めるためにパケロさんとかどうですか?」
「妾は誰でも良いぞ? 海に行ければの!」
まぁ、確かにそんなとこか。
「わかった。じゃあ、そのメンバーを誘うか。リリーナ、みんなに声を掛けておいてくれ。バカンス行くぞってな。ところでエリーは泳げるのか?」
「……えっ? 泳ぐ?」
場を深い沈黙が包んだ。
⌘
ところ変わってここは二階層にある地底湖。
まさかのエリーのカナヅチが判明し、急遽エリーの遊泳訓練を行うことになった。しかし、それだけではやる気が出ないというエリーの意味のわからない我儘もあり、背後には南国の砂浜を模ったハリボテを設置した。貴重なダンジョンポイントがこんなことの為に消費するとは。
俺は海パンとビーチサンダルを履き、先に準備体操を始める。すると、水着に着替えたリリーナたちがやってきた。
「ヨルシアー! 待たせたのう!」
「マスター? ルルちゃんやゴブリダさんもカナヅチらしいので、遊泳訓練に参加したいそうです」
「あっ……あの、ご主人様、よろしくお願いします」
「主様ぁーっ!! 不肖ゴブリダ、訓練に参加させていただきます!!」
「ケロっ♪」
おいおい、目の錯覚だろうか? 三人ほど水着がおかしい。
白いオフショルダーの水着を着たエリー。フリルのようなスカートが意外と可愛い……じゃなくて、こいつは練習する気があるのだろうか? ここにグラビア撮影をしにきているわけではない。なぜ競泳用の水着を着ないのだ? 隣のリリーナのせいか?
あいつもあいつでフォルダーネックの黒い水着を着ているのだが、布の面積が極端に少ない。バカなのだろうか? 波に煽られたら一発ポロりである。それを見た俺が爆死する未来しか見えない。あとで着替えてもらおう。
それに比べルルはいい子だな。ちゃんと学校指定の競泳用の水着を着用している。しかし、その道のプロの方がルルを見たらと思うとゾッとする。うん、彼女だけは全力で守ってあげよう。
ケロ君は……。あっ、普段着ですねー。そういえば彼はいつもそのまま水に入っていたな。あまり気にしないのだろうか。
それに引き換えこいつは……。
おい、ゴブリダ!! なぜ、赤のブーメラン!? しかもそれエナメル素材じゃないか!! 一歩間違えば逮捕されるやつだぞ? まさかと思うがルルに頼んで作ってもらったんじゃないよな? 無駄に筋肉ついているせいか暑苦しさが倍増してやがる。
「ヨルシアよ、さっそく泳ぐ練習をするのじゃ!」
俺が脳内でツッコミをしていると透明な浮き輪を腰に装着したエリーが話しかけてきた。
つか、そんな浮き輪どこにあったんだ? 俺が浮き輪をつつくともの凄くプニプニしていた。
……はっ!?
もしや……。これ……スライムさんなのか?? いや、スライムさんだっ!! よく見たら、全員スライムさんの浮き輪を持ってやがる!! なっ……なんてことにスライムさんを使うんだ!? こいつらには血も涙もないのか!?
「マスターも一緒に湖に入りましょうよー!」
呑気にスライムさんの浮き輪の上で、くつろいでいるリリーナが声を掛けてきた。エリーやルルは浮き輪を使ってバタ足をしている。ケロ君は……水の上を走っているな。何をしているのだろう? ゴブリダは……陸で腕立てを高速でフンフンしてやがる。何をしにきたのだろう?
うん、こんな状況で練習など無理だ。やめるに限る! 仕方ない、俺も楽しむか!
すると、それを察したリリーナが。
「ほら、マスター何やってるんですか? みんな待ってますよ?」
そう言ってリリーナが俺の手を引いて湖へと向かう。
「あぁ、すまんすまん。というか、俺もそのスライムさん浮き輪使いたいんだが?」
「だーめーでーす。これは私のなんで」
そういうとリリーナは浮き輪を両手で胸のあたりに抱える。どうやら貸してくれないらしい。
「いいじゃん、ちょっとだけだから。ちょっとだけだからさ」
どこかダメなセリフであるが、本当にちょっとだけプニプニの浮き輪で浮かんでみたいだけなのだ。
「だーめーでーすぅー」
リリーナのあまりにも大人げない言い方に俺はムキになり、無理やり奪おうと浮き輪に手を伸ばす。
しかし、そこで悲劇が起きる……。
あれだけ警戒していたフォルダーネックの水着。リリーナが浮き輪を捕られまいと、俺の右手を避けたのだが、避けた方向が悪かった。ちょうど俺の右手に、リリーナの水着が引っ掛かり首元から水着がほどけてしまた。……ご開帳されるのは大きなプニプニ。そう、立派な乳神様がご降臨なされてしまったのだ。
「きゃっ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
両手で乳神様を隠すリリーナ。俺は顔を横にすぐに向けるが時すでに遅し。リリーナの右手に氷の魔力が集まっていくのがわかる。まさかこのパターンでくるとは……。
「おっ……おのれはなにさらしとんじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「しゅっ、瞬〇殺ぅぅーー!?(氷) なんか久しぶりぃーー!!」
リリーナに吹き飛ばされ氷漬けになった俺。彼女のツッコミが日々進化している。暗転フルボッコ(氷)とは……。
あーぁ……ダンジョンの中に氷柱が出来ちゃったよ……。でも、意外と氷の迷宮っていいかもな……。そんなことを考えながら俺は意識を手放した。
そして翌日……。
肝心のアビス旅行だが、エリーの不正が発覚して無くなった。側近がゲロったのだ。エリーは魔界本部へと強制送還され、きついお灸を据えられた。
つか、どこに六六六万枚もハガキを送るやつがいるんだよ。これに懲りてエリーに反省をしてほしいが……。
「次はゲヘナ温泉旅行に応募するのじゃ!」
エリーはまったく懲りてなかった。
こうして俺の日常は慌ただしく過ぎていく。
ダンジョンニートの夢ははるか遠い。
皆様、お久しぶりです。
作者のバージョンFです。
デビダンⅡの二巻が本日発売されました!
それに伴い、1巻で出す予定だったSSを改稿して、こちらにUPさせて頂きました。
本編もボチボチですが、更新してまいりますので、ゆっくりとお付き合い頂けましたら幸いです。
ちなみにデビダンコミカライズもします。
こうご期待!
どうぞよろしく(。-`ω-)




