第88話 妖精女王エーデルフィア
《妖精の里》
おいおい……なんで妖精女王に俺の正体がバレてんだよ。こういう展開は勘弁してほしい。めっちゃ話し辛いんですけど?
つか、戦闘イベントにならないよね? あんなお淑やかそうなキャラに見えて、ゴリゴリのヤンキーキャラとかやめてほしい。いきなり、『何うちの聖竜を勝手に倒してくれとるんじゃワレェ!!』とか言って釘バット片手にキレだしたら俺泣いちゃうよ? もうバイオレンスなキャラはリリーナだけで十分なのだ。彼女に戦闘の意思がないことを願おう。俺は祈りながら、重い口を開いた。
「妖精女王よ。俺を待っ……」
「エーデルフィアでございます」
あれあれー? ここでセリフを被せるの? ちょっとやめてほしいんだけど? おっとりそうに見えて、かなりの早口で話せるんですね。あの話を進めたいんですが?
「妖精女王……」
「エーデルフィアでございますっ」
おい、マジか? 今のちょっと怒気を感じたんだが気のせいだよね? 俺の勘違いだよね? 貴女は優しい妖精の女王だよね?
というかこれ、名前で呼べってことなのか? いやでも、さすがに一族の長たる者にそう気軽に呼べないって。エリーと違ってこの人真面目そうだもの。無理無理。
「タイ……」
「エーデルフィアでございます。気軽にフィアちゃんとお呼びください」
はい無理ー。名前で呼ばないと話が進まないー。この人意外と頑固なのね。しかも満面の笑みなのに、彼女から感じるこの怒気の波動。ちょっとリリーナに通じるものがあるのは気のせいだろうか? やだ……ほんと怖いんですけど。
つか、フィアちゃんて……。略してきたよ。スッゲェにこにこしてらっしゃいますけど、もしかして笑いながら血の雨降らせる御方なのですか? うん、やべぇかるく想像できる。モーニングスターとか持たせたら笑顔で振り回しそうだ。もう無難にフィアちゃんでいこう。
「なぁ、フィアちゃん。なんで俺のこと知ってんの?」
「ふふっ……やっと私の名前を呼んでくれましたね。意外と恥ずかしがり屋なのかしら? でもそう呼んでくれて嬉しいですよ?」
言えない。フィアちゃんの怒気に気圧されたから呼んだなんて絶対言えない。
「では順を追って少し説明していきましょうか。なぜヨル様の来訪を知っていたか。そして私と聖竜レグナードとの関係を。まずは私が持つ固有スキルから説明しましょう」
色々とツッコミたいところだが、話が前に進んでくれるので黙って彼女の話しを聞くことにした。つか、『ヨル様』て。……まぁ、いいけどさ。
エーデルフィアの持つ固有スキル【精霊のお告げ】。聖女だけが持つ神聖スキル【神託】に近いスキルのようだ。発動するにも神託と同様に、いくつかの条件をクリアしていかなければならない。
ただ神託と大きく違うのは『全』と『個』の違いだ。【神託】とは世界に大きな変化をもたらす予兆などを授かる万人共通の予言である。それに対して【精霊のお告げ】とは彼女自身に降りかかる災難や、出会いなどを授かるものとなる。どちらかといえば彼女自身に対する未来視に近い。
エーデルフィアが妖精女王へと進化しておよそ300年。後天的に身に付けたスキルであるため、当初は使い方もわからずその日の運勢占い程度としか思っていなかった。そんなある日、森で一人彷徨う男を助けたことによりエーデルフィアの状況は一変する。
エーデルフィアの案内により、ラグリス大森林を無事脱出できた男であったが、実はその男、聖竜の加護を持つ『竜の勇者』だった。竜の勇者というのは、レグナードより『聖竜の咆哮』を授けられた者のことを指す。その力は人の形をしたドラゴンそのもの。万夫不当の英雄だ。
……しかし。
加護を受け取った者の魂はレグナードのものとなり、仮に勇者が死んでしまえばレグナード本体に吸収されてしまう。そう……輪廻の理から外れてしまうのだ。そして竜の勇者の記憶は、随時レグナードへと共有されるいわば呪いに近い加護。そしてその二人の出会いや彼女の力もレグナードが知ることとなる。
エーデルフィアの厄介な固有スキル。万が一彼女が、他の魔族の支配下に入ることになれば、自身の守護国の脅威になり得るかもしれない。そうなる前にレグナードは、聖護の加護を渡すという名目で、原初の妖精族ごとエーデルフィアを結界内に閉じ込めたのだ。そう彼女を集落ごと封印したのである。
その後、エーデルフィアが自身の能力を把握するが時すでに遅し。レグナードの本来の目的に気付くも、最早どうすることもできなかった。
そしてレグナードの封印結界は、その中に存在する者から微量ながら魔素も搾取する。それにより原初の妖精族は年を追うごとに弱っていった。そして結界内が次第に魔素不足に陥り、衰弱してしまう妖精が出始めた頃にそれは起こる。
――聖竜レグナードの討伐。
エーデルフィアはすぐさま【精霊のお告げ】で未来を占い、ヨルシアの魔王覚醒を知ることとなった。そしてお告げ通りにケーシィをウィンクードへと向かわせ、ヨシュアを自身の集落へと招いたのである。
「……なるほど。だいたいの事情はわかった。それでフィアちゃんはこれからどうするんだ? 俺のダンジョンでよければ歓迎はするけど眷属には入ってもらうぞ?」
「はい、是非ヨル様のダンジョンでお世話になりたく思います。これからは私も妻の一員としてサポートさせていただきますね」
ん? ツマ? ツマって何よ? なんでフィアちゃんはこうも満面の笑みで俺に語り掛けるのだろう。すると隣で大人しく話を聞いていた双子姉妹がフィアちゃんに牙を剥く。
「ちょ……ちょっとあなた!! いきなり何言ってんのよ!? まだ知り合ったばかりでしょ? それにいきなり結婚なんてできるわけがないじゃない!! そんなことは絶対にさせないわ!!」
「むぅーー、ダメですぅー。渡さない!」
アリエッタとマリエッタが俺の両腕にしがみ付きながらそう叫ぶ。
「お二人とも大丈夫ですよ? 私がお嫁にいくのはヨルシア様の方ですから。そちらは取りません。安心してください」
エーデルフィアの言葉になぜかホッとする双子姉妹。つか、ちょっと待て。お嫁ってなんだ? は? よっ……嫁ぇーー!?
何度も俺の脳内HDDを再生するが、検索ワードに『妻』『結婚』『お嫁』の三つが必ず引っ掛かってくる。おかしいな……現在の状況を整理すると、俺は初対面の人に結婚を申し込まれている。これはなんなのだろう? 新手の詐欺なのか? それにそんなに簡単に結婚ってしていいものだっけ? あれ? でも待てよ。そもそも俺ってリリーナと結婚したんだっけかな? いつの間にかリリーナが正妻になってたんだよね。それに乗じてマリアが第二夫人と化してるし。でも今更「俺たちっていつ結婚しましたっけ?」なんてリリーナに聞いたら、間違いなく俺は勇者に倒される前にリリーナに倒されるだろう。それに勝手に嫁を増やしても討伐対象となる未来が俺にも視える。
……うむ、触らぬ神に祟りなし。
結論……リリーナは正妻でマリアは第二夫人、ついでにエリーは駄女神。そしてフィアちゃんのことは一時保留にしよう。
「あの……フィアちゃん? ちょっと俺の脳内処理レベルが絶望的に足りないんで、結婚という儀式は一時保留にしてダンジョンに持ち帰ってもいい? それにちょうど暇してる神様もいるし、次のレベルアップまでのお告げを聞くにはもってこいだなー……ははっ」
ダメだ……断り文句が全く出てこない。それに頭がバグりかけてる。しかも脳内ログのアラートメッセージが全て赤文字で「リリーナニオコラレル」で埋め尽くされているし。……マジでどうしよう?
「もしかしてヨル様はリリーナ様たちのことを心配されていますか? それなら大丈夫ですよ? 四人で仲良くやっていける未来が私には視えてますから! それにどのルートを辿っても私がヨル様のお嫁さんになることは運命ですのでこれは変えられません。ですのでこれから末永くよろしくお願いしますねヨル様?」
そっかぁ……フィアちゃん自分の未来占えるんだっけ。おかしいな……俺の選べる選択肢が【結婚してリリーナに怒られます】か【結婚してリリーナに殴られます】の二つしかないような気がするんだけど? 何かがおかしい。しかし、それでも呑み込むしかないようだ。そもそも結婚とは何なのだろうな?
白い灰になりつつも、こうして俺に新しい嫁(?)が増えた。
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