第87話 妖精の里
夜空に輝く七色の光。煌めく鱗粉の尾を引きながら妖精たちは空を飛び回っていた。滅多に見ることができない原初の妖精たち。あまりの幻想的な風景に、俺がぼーっとそれを眺めているとアリエッタが興奮しながら声をかけてきた。
「ヨシュア様見てください! 妖精たちがあんなにたくさん飛んでますよ!」
「ねぇ、あーちゃん? 妖精は食べちゃダメよ?」
「食べないわよっ!! 妖精なんて食べたらお腹壊すでしょ!?」
アリエッタ……そうじゃない。そうじゃないぞ? そもそも妖精は食べる物ではない。
「まぁ、とにかく無事に妖精の里に入れただけ良しとしよう。というかケーシィ? 里に入るためには女王の許可が必要じゃなかったのか?」
「はい! だからこうして無事に入れたってことは女王様の許可がおりた証拠です! さすが勇者様です!!」
ということは、もしも許可が出ていなかったら、あのまま壁にぶつかって鳥の餌になってたということじゃねーか!! ケーシィのダメ妖精感がハンパない。
俺がどうツッコミを入れようか考えていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『ケーシィ……よくぞ戻りました。待っておりましたよ』
「あっ、女王様!?」
ケーシィがすぐに声の主に反応する。こいつが例の妖精女王なのか?
『ふふっ……相変わらず元気ね。じゃあ、そのまま勇者様たちを私のもとまで案内差し上げて? くれぐれも失礼のないようにね』
「かしこまりました! 任せてください! では勇者様、女王様がお呼びですので、私の後についてきてください!」
……なんか引っかかるな。まるで俺たちがここにくることがわかっていたかのような物言い。妖精女王……まさか敵じゃないよな?
若干不安になりながらも、俺たちはケーシィの後についていった。そして、妖精の里を歩くこと数十分。俺たちの目の前に一本の巨大なキノコが出現した。ちょっとした城くらいの大きさキノコ。その幹の中央部には城門のような扉があった。
俺たちが扉へ近づくと衛兵だろうか、鎧を身につけた妖精たちがその扉を開けてくれる。そして中へ入るとそこは室内庭園のようになっており、様々な花が所狭しと咲いていた。
「うわぁー、すごいきれーい。天井からも花が吊り下がってますよ! 花のいい香りがする」
「あーちゃん? この花は食べちゃダメよ? これは鑑賞するものだから」
「だからなんでマリは私をそんなに食いしん坊キャラにしたいわけ!? 私は食用の花しか食べないわよっ!!」
アリエッタ……今のは聞かなかったことにするわ……。できれば花は食べるのではなく愛でてほしい。
「勇者様、女王様の部屋は二階です! 奥にある階段から上がれます!」
「わかった。行こう」
そしてケーシィに連れられ俺たちは階段を上がると正面には重厚な扉が。……ここが女王の部屋か。さて、いよいよだな。この女王との謁見が吉とでるか凶とでるか。俺は観音開きの扉を押し開け中へと入る。すると、入ると同時に正面にいた女性にいきなり声をかけられた。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。私がこの里をまとめる妖精女王のエーデルフィアと申します。どうぞよしなに」
この人が妖精女王。見た目は俺の想像以上に若く、年齢さえ聞かなければアリエッタたちと同世代のようにも見える。肩口までの白金の髪、若干たれ目だが目元にあるほくろがとてもセクシーだ。白いマーメイドドレスを着用し、背中にはケーシィと同じ四枚の羽が。俺が、返事をしようとするとエーデルフィアが先に口を開く。
「貴方様が来るのを、ずっとお待ちしておりましたよ。竜の勇者ヨシュア様……いえ、それともこうお呼びした方がよろしでしょうか? 大罪の魔王ヨルシア・ベルフェゴール様」
なっ……正体がバレてる!? こいつ……!?
こうして思いもよらない先手を打たれ、妖精女王エーデルフィアとの会談が始まった。
⌘
そして場所は変わり……
《地底魔城 マスタールーム》
俺は今、とてつもない窮地に立たされている。ラグリスの森から帰った途端、リリーナ、エリー、マリアの三人に囲まれずっと取り調べを受けているのだ。……しかも正座で。これマジで酷くないか? 魔王に対する仕打ちではない。魔王が正座って……ありえないだろ? それに足が痺れすぎてそろそろ爆発しそうなんだが。
「で、マスター? その魔樹悪霊は本当にこのラグリスの森で勢力争いをしていると言っていたんですね?」
「おっ……おう! 言ってた、言ってた。しかもかなり大規模っぽい。つーか、それよりもリリーナさん? そっ……そろそろ足崩していいか? もうぼちぼち足が爆発しそうなんだが?」
「ダーメーでーす!! これはマスターの反省のためでもあるんですよ! そもそも、なんで一人で外に出るんですか!? ほんと信じらんないっ!!」
「だっ……だから、ヨシュアがやられそうだったって、何度も……」
「だからと言って一人で行くことはないじゃないですか!! もし万が一、マスターの身に何かあったらどうするんですかーー!!」
ひぃぃぃぃ!? リリーナさん、めっちゃガチギレなんですけど? 久しぶり過ぎてめっちゃ怖い。
「まぁまぁ、リリーナ落ち着くのじゃ。そんなことよりも、勢力争いをしておる中心魔族どもの動向が心配じゃのう」
「そうですわ、エリー様の言う通りよ。きっとヨルシア様の魔力を探知した魔族や魔物はいるはずです。もしあの魔樹悪霊が、他の魔族たちと派閥を組んでいたのなら少々厄介なことになりますわね」
おっ、エリーとマリアが話題を逸らしてくれた。二人ともあざっーす!
「確かにそうね。でも、今回のマスターの行動は……」
――【魔界LINEです】
リリーナの説教が続くかと思いきや、ダンジョンコアにメールが届いた。本部からだろうか? リリーナが、やれやれといった表情でメールを確認する。しかし、メールを確認すると、みるみるうちにその表情は変わっていった。
「…………嘘」
リリーナが真顔で呟いたセリフで俺は全てを悟った。ふぅー……、まずは落ち着け。最悪なことを予想しよう。そうすればそれ以下はないはず。うん、ナイスポジティブシンキング。まぁ、一番最悪なことは魔王の総会に呼び出されて責任を追及されたり、もしくは強制的に派閥に所属しろとか言われることか? しかも今回は結果として勇者と協力して森の魔物倒しちゃったしなー。頼む……これ以下はありませんように!!
「マスター……大変です……。いえ、もう最悪です。……このラグリスの森を拠点としている魔物の主、およびダンジョンマスターより、うちのダンジョンへ向けて連名で宣戦布告を出されました……。これはダンジョンバトルではありません……戦争ですっ!!」
ふふっ……あったよ……。それより遥か上があったよ……。いきなり戦争って……。そんなのありなのか!? ははっ……もうやだ。
「ちょ……ちょっとマスター!? 白目剥いて笑っている場合じゃないです!! これ本部に対してうちが勇者と協力してラグリスの森を牛耳ろうとしてるとまで書かれてるんですよ!? まるでうちが悪者みたいにっ!! 許せない!!」
おや、リリーナさん? 怒ってる?
「リリーナよ? 本部の担当は誰じゃった? そっちは妾がなんとかしよう。よくまぁ、妾の居城にこのようなメールを送れたものじゃ」
……居城?
いやいやエリーさん? 何言ってるんですか? それにそんな悪い笑みを浮かべて何やるおつもりで?
「お二人とも。少し落ち着いてくださいまし。まずは戦争準備からですわ! わたくしたちに喧嘩を売った愚か者にお仕置きをしませんとね」
マリアさん!? 止めようとしたんじゃないの!? まさかの煽り!?
「それでマスターはどうするんですか!?」
「ヨルシアよ、こういう手合いは初めが肝心じゃぞ?」
「わたくしたちはいつでも戦えますわ」
なんで三人ともやる気満々なの? それともこれは殺る気の方なのか?
しかし、それにしてもこれは非常にまずい。自分でまいた種とはいえ、全面戦争なんてもってのほかだ。せっかく作った支配地域も下手すりゃ巻き込まれる。なんとかごめんなさいで済ませてくれないだろうか……。
こうしてラグリスの森を巻き込んだ勢力争いは、ヨルシアが加入することによって更に激化していった。
本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
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