第85話 相棒
魔樹悪霊の放った渾身の一撃。
直撃した大地には、見上げるほど大きな闇の巨木が突き刺さっていた。それはまるでヨシュアを弔う墓標のよう。アリエッタとマリエッタの無表情な顔からは、ポロポロと涙がこぼれていた。
「ふふふ……、あっけない。自信満々で助けると言っておいてこれとは。ほんと口だけの男ねぇ。あらあら、小娘たち。そんなに泣かなくていいのよ? すぐにあの男と同じ場所に送ってあげるから」
ヨシュアに斬られた魔樹悪霊の根が、勢いよく再生し、その矛先をアリエッタとマリエッタへと向ける。
「それにしてもあなたたちは運が悪いわね。今、このラグリスの森では魔物たちによる勢力争いが始まっているの。みんな力をつけようと積極的に冒険者狩りをしててね。まぁ、かくいう私もそうなんだけど。そんな中、飛び込んできちゃうなんてほんと馬鹿を通り越して呆れちゃうわ。さぁ、あなたたちもあの男のように私の養分となりなさい」
「……させねぇよ」
声がしたのと同時に、魔樹悪霊の鋭く尖った枝や根は、一瞬のうちに黒い四枚の円刃により斬り刻まれてしまった。魔樹悪霊は苦悶の表情を浮かべながら攻撃した相手を睨みつける。鋼鉄より固いこの身体を切り裂く闇の魔術を使う相手。記憶を辿るがこのラグリスの森にはそんな奴は存在しない。まさか新手の敵対勢力か?
しかし魔樹悪霊の考えとは裏腹に、眼前に現れたのはさっき魔法で殺したはずの男だった。
「なっ……なぜ生きてるの!? 私の魔法は直撃したはずよ!? それよりも、その姿……あなた悪魔じゃない!? どういうことっ!?」
「それが何か問題あるのか? とりあえず、まず先にその二人は返してもらうぞ? ……面倒くせぇ」
ヨルシアが手をかざすと、二人は気を失い、糸の切れた人形のように力なく崩れ落ちる。しかし、地面へと倒れ込む前にヨシュアが空間転移で現れ、小柄な二人の身体を支えた。そして両脇に抱えると、再び空間転移でヨルシアの隣へと移動する。
「なっ……あなたは!? 同じ顔が二人っ!? しかも傷まで治ってるじゃないっ!! ……あああああああ、もうっ!! なんなの!? 何が起きてるの? 気が狂いそう!!」
あまりの不可解な状況に魔樹悪霊が顔を顰めながら叫んだ。それもそのはず。助けられた本人でさえ、なぜヨルシアここにいるか全く状況を理解できていなかった。
「おいおい、ヨシュアさんや。なんで俺がここにいんのって顔すんなや。こちとらぐっすり寝てたのに、お前が死にかけてるせいで慌てて飛んできたんだからな?」
「いや、それはマジすまんかった……ほんとに。じゃあ、ヨルシアがここにいるのは記憶の共有のせいなのか? 気絶したのほんの一瞬だぜ? それでも記憶が繋がるんだな。でも、そのおかげで命拾いしたわ。つか、空間転移使ったのか?」
「そっ! お前の魔核を座標にして飛んできた。俺って、魔力だけは超多いだろ? これくらいの距離だったら空間転移で飛べるみたいだわ。にしても、ほんとギリギリだったな」
俺と俺がグダグタ話してると、なぜかババアがいきなりキレだした。絶賛血圧上昇中である。
「あんたたち!! いい加減にしなさいよっ!? 随分、余裕なようだけどまだ終わってないのよ!! きなさいっ、子供たち!!」
魔樹悪霊がそう叫ぶと、林の間からワラワラと魔物たちが集まってくる。あっという間に俺たちのまわりを、巨大な触手を持つ魔物たちが取り囲んだ。……暴食虫である。その息や魔法は人を惑わせたり、状態異常を引き起こしたりする森の殺し屋。それがざっと五百体以上もの数が集まってきたのだ。
つかこいつらの息、生ゴミのような臭いがするんだけど? 凄まじく臭ぇぇ!! 歯磨きしろやぁぁ!!
隣を見るとヨシュアも臭いに悶絶していた。うん、これはいかん。早く処理をしよう。ここは危険だ。あの忌まわしき記憶が蘇る。
「ふふふ……、いい気味。今度こそなぶり殺しにしてあげるわ。ただ、そっちの悪魔。私の眷属になるなら、助けてあげないこともないわよ?」
「うるせぇタコ。こんな近所迷惑な生物を呼び出しやがって……。マスクをしろ、マスクを!! マジで息がくせぇんだよ!!」
「……殺す。殺す、殺す、殺す、殺す!! 子供たち、その悪魔から殺しなさい!! 無残に惨たらしく生きていることを後悔させるのよ!!」
……このババア。マスクを促しただけでキレんなよ。俺はヨシュアたちに結界を張り、迫りくるアティアグたちを牽制するかのように魔力を解放した。俺を中心に爆風が辺りに広がる。……うむ、臭いが消えた。
「なっ……なんなのその巨大な魔力は? くっ……、早く、早くやりなさい子供たち!! その男を殺すのよっ!!」
ただ魔樹悪霊の命令も虚しく、俺の魔力に気圧されたのか誰一人動きはしなかった。俺はさらに魔力を解放し、三対六翼の黒翼を顕現させる。
「悪いが一瞬で終わらすぞ? ……天魔光翼流星覇!!」
黒翼から放たれる魔法の弾丸は、漆黒の尾を引き次々と魔物たちに着弾していく。その一撃は大気は震わせ、大地も大きく抉る。着弾した魔物たちを瞬時に消滅させるまさに死の弾丸。全ての魔物たちが消え去るのに10秒と掛からなかった。ヨルシアとの圧倒的な力の差に魔樹悪霊は思わず悲鳴を上げた。
「ひぃぃぃー!? ありえない……ありえないわ。あっ……あなた、もしかして魔王なの!? こんなにも強い悪魔が、ラグリスの森の勢力争いに参加してるなんて聞いてないわよっ!?」
「いや、聞いてないも何も俺、その勢力争いってやつに参加なんかしてねーし。ただ、お前が俺の大事なもんに手を出すから潰すだけだ。なぁ、相棒?」
そう言って俺は黒翼をしまい、ヨシュアたちに張っていた結界を解いた。
「おっ、なんだ相棒。あいつのトドメ譲ってくれんのか? いいねぇ。じゃあ、遠慮なく。やられっぱなしじゃあカッコつかないからな」
そう言って俺は地面に転がる剣を拾った。まぁ、どっちが倒しても変わらないんだが、これは気持ちの問題だ。ちゃんと借りは返さないとな。
「覚えたてだ。いくぞ……【聖剣技】!!」
右手に握りしめた剣に、俺の闘気が集まっていく。まさか、俺がこの技を使えるようになるとはな……。それを見た魔樹悪霊も身体を再生させ咆哮を上げる。
「この私が……この私が、お前らのようなクソガキどもに負けるわけにはいかないんだよっ!! このラグリスの森に君臨するのはこの私なんだぁぁぁーー!! 死ねっ!! 魔棘死腐乱樹剣!!」
魔樹悪霊の再生した枝が一本の大剣を形成し、俺目がけて振り下ろされた。
「そんなに君臨したいんなら地獄で勝手にやってろ!! ……竜刃烈破ぁー!!」
魔封剣ホワイトクロムより放たれるは一筋の巨大な斬撃。それは魔樹悪霊の身体ごと魔核を綺麗に真っ二つとした。
「人のもんに手ぇーだすからこうなるんだよ。……眠れババア」
真っ二つとなった魔樹悪霊は、まるで化石のように石化し次第に灰と化した。それを見届けると、俺の身体が発光し脳内に声が響く。
【条件をクリアしました。《見習い勇者》から《竜の勇者》へとランクアップします】
あまりの出来事に思わず白目になってしまった。
本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
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