第84話 ドリュアス襲来
魔樹悪霊の身体が怒りで変化していく。その露出され魅力的だった肌に、木の鱗のようなものがビッシリと生え、その身体も幹のように太くなっていった。そして逆立った髪の毛は鋭い枝のように分かれていき、その枝先には紫色の葉が生い茂っていく。まるで大木のようなその姿。足元にある巨大な根は、触手のようにウネウネと獲物を探すように蠢いていた。
……おいおいおいおい。第二形態に変身するって聞いてないんですけど? つか、ザーボ〇さんよりもエグイ変身だな。マジでチェンジはできないのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、その太い幹に巨大な顔が浮かび上がる。それは、邪悪な老婆のようなような顔。妖しい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「愚かな人間……、大人しく私の術に嵌っていればよいものを。そうすれば苦しむこともなかったのよ? ほら、串刺しになりなさい? ……魔枝針刺!!」
ちょっ……、ババアっ!? 攻撃がめっちゃ鋭いんですけど!?
太い根の先が、まるで騎士が持つランスのような形状へと変化し次々と俺に襲い掛かってきた!! それをギリギリで躱していくが、あまりの攻撃密度に頬の薄皮が切れる。
……ちっ、守りは不利か。俺は腰の剣を抜き、それを一閃する。
――スパーーン!!
「……なっ!? 鋼鉄のように硬い私の根を斬るなんて!?」
抜いた剣の刀身は魔力を帯び白く輝くオーラを放っていた。うむ……、やはりよく斬れる。さすが俺が作っただけはあるな。ちなみにこの剣は、魔力を膨張させる超希少鉱石【ホワイトクロム】と、魔力を吸収する石【魔封石】を錬金して作り上げた魔剣だ。しかし、見た目は白銀の剣なので、知らない奴から見たら聖剣のように見えるかもしれん。巨匠ヨルシアこだわりの一振りだ。名前はそのまま【魔封剣ホワイトクロム】とした。
さて、悪いが試し斬りの相手になってもらうぞ? 俺は右手に魔力を集中すると、刀身を包んでいた白いオーラが膨張し、二メートル近い大剣を形成する。これが魔封剣ホワイトクロムの特殊能力【刀身拡張】だ。
「ぬぅ……小癪な人間めっ!! くらいなさい……魔樹撲殺槌!!」
すると、根っこの先がプックリと膨らみ、モーニングスターのような鉄球へと変化した。それが鞭のようにしなり、俺に叩きつけるように振り下ろされる。バックステップで避けるが、叩きつけられた地面は大きく窪んだ。
うげっ……、当たったら痛そうだ。いや、この身体だとミンチか? だったら、当たる前に斬るっ!
数十本の根っこが、俺目掛けて一斉に攻撃を始めた。それをカウンターで全て斬り落としていく。一本、また一本と薙ぎ払っていくと、根っこは勢いよくババアの背後へ飛んでいった。
うん、中々いい感じでスパスパと斬れるな。射程も長いし、この剣使いやすい。ただ、効果音でどこかのSF映画のように「ブゥオン」と鳴るのが気になるが。
「おい、ババア。残念だったな。これで終わりだっ!!」
ホワイトクロムを振りかぶり、ババアにトドメを刺そうとしたその時……最悪な事態は起きた。
「……豪雷爆撃破っ!!」
耳を劈くような轟音と共に、紫色の雷光が闇を切り裂いた。咄嗟に、竜闘気を纏いガードをするが、それでもアリエッタの雷撃は俺の防御を貫き直撃する。……くっ、痛ぇぇ。
「……魔岩断空剣っ!!」
俺が、地面に転がり痺れていると、間髪容れずにマリエッタが魔法を撃ち込んできた。軽くニ十メートルを超える岩の大剣。それが音速で放たれる。……マジかよっ!?
――ズドォォォォォォォォォーーーーンンっ!!
……あっ……あっぶねぇーーー!! ギリギリで躱せた……ほんっとギリッギリ!! つか、ちょっと髪の毛焦げてるしっ……。
振り返ると森の木々は、巨大な剣の衝突で薙ぎ倒され、射線上の地面は半円を描くように抉れていた。地面は摩擦熱で発火し、炎が辺りをゆらゆら照らしている。
「つか、おいっ!! 二人ともいきなりどうしたんだ? 反抗期にしてはちょっとやり過ぎじゃねーか?」
声を掛けるが、二人はピクリとも反応しなかった。よく見ると、その目は虚ろで焦点が合っていない。……もしかして操られているのか?
「ふふふっ……どうやら気付いたようね。そう、この小娘たちは既に私の操り人形。あなたには効かなかったけど、この三人はすんなり術に嵌ってくれたわ」
……んっ、三人? よく見ると隅の方でケーシィが、超ハイテンションでヒゲダンスを全力で踊らされていた。このシリアスな場面で一人あんなことをさせられてるのか。可哀そうに……。しかも自分で音楽を口ずさんでるし。……扱いが不憫すぎる。
つか、そんなこと考えてる場合ではない! まずはこの二人にかけられている術を解かないと!
「おいっ!! 二人とも目を覚ませ!!」
「……風刃鎌鼬!」
「……魔鋼丸弾!」
姉妹から放たれるのは、詠唱破棄の風の刃と鉄の弾丸。ノータイムで魔法を撃たれるのはマジで厄介。
「……吸え、ホワイトクロム!!」
剣を一振りすると、眼前まで迫った魔法は全てホワイトクロムに吸収された。魔封石の魔力吸収の能力である。とりあえず、二人の魔法をこれで打ち消し時間を稼ぐしかな……
「ふふふ……そんなもの使わせないわ。これを見なさい」
ババアが悪い笑みを浮かべて俺に語り掛ける。すると、アリエッタとマリエッタは鋭く尖った木の枝を喉元に突きつけていた。
「早くその剣を捨てなさい。じゃないとこの子たちを殺すわ。あなたが反撃しても殺すし、攻撃を防御しても殺す。ふふっ……仲間の命と自分の命。あなたはどっちを選ぶのかしらねぇ?」
まぁ、こういう外道ならそうくるよな。つか、選ぶまでもねえよ。俺は、すぐさまホワイトクロムをババアの前まで投げ捨てた。
「おい、言う通りに剣を捨てたぞ? 二人を離……ぶふっ!!」
離せと言おうとしたが、岩石弾が俺に直撃し、数メートルほどぶっ飛ばされた。痛っつー……。この身体、骨がブルーミスリルでできているから頑丈なんだけど、ダメージや疲労は蓄積されていく。魔核を破壊されない限り死なないが、ダメージが溜まれば気絶もする。その前になんとかしないと……。俺がゆっくりと立ち上がると、それを見たババアが嬉しそうに話す。
「ふふふ……馬鹿ね。解放するわけがないじゃない。この二人を使ってあなたをなぶり殺しにするわ」
「ふん、馬鹿はお前だ。そいつらの魔法で俺は殺れん!! おい、聞こえてんだろ二人とも? 大丈夫だ。俺はお前たちの魔法では絶対に死なん!! だから安心しろ、すぐ助けてやる!!」
そうなのだ。二人とも操られているが意識はある。だから、さっきもアリエッタは魔法の出力を落としたり、マリエッタは攻撃の軌道を逸らしたりしていた。どうにかして二人の催眠を解ければまだチャンスはある。それに早く解いてやらねぇと二人の心にトラウマを刻むことになりかねん。既に虚ろな目からポタポタと涙が溢れている。あのババァ……、ぜってぇー許さん。
「そんな強がりすぐに消し去ってやるわ。やりなさいっ!!」
「……紫電雷撃破」
「……黒鋼瀑衝」
アリエッタの雷撃で左肩を撃ち抜かれたと思ったら、すぐさまどデカい鉄の塊が俺を押しつぶそうと空から降ってきた。それを、なんとか避けるが次々と二人からの追撃がくる。
くっそ……、まじやべぇぇぇ。助けてやるって言ったものの打開策が何一つ思い浮かばん。とりあえず避け続けるしかない。すると、マリエッタがある呪文を唱える。
「……巨人ノ手」
マリエッタが唱えたのは拘束魔法だった。地面から岩石でできた手が出現し俺の両足を握り掴む。そして、隣のアリエッタの両手には巨大な雷撃の塊が。
……げっ、やばい。もしかしてこれ詰んだか?
「……天雷破」
――ピシャァァァァァーーーーン!!
アリエッタの放った魔法が直撃し、気がつけば辺り一面黒焦げになっていた。大の字で地面に転がる俺。その身体から、プスプスと白い煙が立ち上り、肉が焼ける嫌な臭いが辺りに広がっていた。くっそ……、一瞬マジで意識が飛んだんだけど? つか、腕とか文字通り炭と化してるし。
なんとか立ち上がるものの、もはや余力などなし。これは超ヤバい。俺のことはどうでもいいが、なんとかしてあの二人を助けなければ。俺が死んだら次はあいつらだ。
それに泣いてる女をほったらかしにするのは男の恥っ!!
「ふふふ……、いい気味ね。死なないって言ったわりに、もう死にそうじゃない。最後は私がトドメを刺してあげる。さぁ、砕け散りなさい……圧殺巨大魔木倒!!」
魔樹悪霊が呪文を唱えると、俺の頭上から全長三十メートルを超える大木が、もの凄い勢いで落下してきた。
あ・の・B・B・A!!
土煙と轟音が辺りに広がり、ラグリスの森に激震が奔った。
本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
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