第83話 アリエッタとマリエッタ
ケーシィに案内され、森を進んでいくと、ちょっとした広場のような場所へと到着した。広場の中央には綺麗な池もあり、確かにここならテントが張れそうだ。
「よし、じゃあ今日はここでキャンプするぞー。今、荷物出すからちょっと待ってな」
俺は三人にそう告げると、空間収納からキャンプ道具を取り出した。こうして旅すると分かるのだが、空間収納って超便利。ポーションや、食料、寝具などをしまっておける。空間魔法を使える術者が重宝される理由がよく分かった。といっても、かなり希少な魔法素質のようだから、使える奴は滅多にいないのだが。
「おーい、アリエッタ、マリエッター。テント張るから手伝ってくれー」
「はーい!」
「はいですぅー」
アリエッタとマリエッタがテントを広げているうちに、俺は黙々とペグ(杭)を地面へ打っていく。それにしても、あの二人なんか楽しそうだな。
「なぁ、お前ら? 今まで野宿するとき、どうしてたんだ?」
「普通に、地面で寝てましたよー。マントを地面に敷いてその上で寝ます」
「雑魚寝ですー」
えっ? 思いのほか超ワイルド。思春期の女子がそんなんでいいのか!?
「カノープス様は無駄を省くというか、いつも最短の行動で動かれていたので、道中のことはさほど気にされていませんでした。だから、ヨシュア様との旅は、色んな発見があってとっても楽しいです♪ 休憩の時もおやつ食べられるし、夜はこうしてテントで寝られるし」
「楽しいですぅー。 愉快適悦?」
「うふふ、私も勇者様と一緒でとても楽しいですよー♪」
なるほど、あいつらしいな。しかし、そんな切羽詰まって旅して楽しいもんかね? 俺はタイムスケジュールぎりぎりの旅なんて真っ平ごめんだ。これくらいのグダグダ具合でちょうどいい。ストレスフリーで生きる。俺の人生の目標でもある。
さて、とりあえず夕食の準備でもするか。といっても、俺は見てるだけだが。昼食はシルキーたちがサンドイッチを作ってくれてたのでそれで済ませた。がしかし、夕食は自炊せねばならない。料理の知識が全くない俺が手出しすると、【シェフ・リリーナ】のような惨事になる可能性が高いので、ここは大人しく見学だ。アリエッタとマリエッタに任せよう。
「マリー、ヨシュア様に私たちの女子力見せつけてやるのよ!」
「そうね。あーちゃんのスズメの涙ほどしかない女子力を発揮するチャンスですぅー」
「マリーっ!! あんた、いつも一言よけいだからっ!!」
うん、アリエッタがプリプリしている。大丈夫だろうか? しかし、手際を見ているとリリーナのような地雷臭はしない。ちゃんと様になっている。二人は水を入れた寸胴鍋を火にかけ、肉や野菜を煮込んでいた。どうやらスープのようなものを作るようだ。うむ、スープ系の料理であれば、まず失敗はないだろう。だって煮込んで、調味料を入れるだけだぜ?
しかし、俺の予想に反して二人は調味料を入れるたびに首を傾げていた。
……おいおい、お前らマジか? もしかしてアレなの? シェフリリーナでもリスペクトしてんの? すると突然、アリエッタが両手に魔力を集中し始め、それと同時にマリエッタが地面に魔法陣を描き出す。
なっ……、こいつら……。鍋を錬金しようとしてやがる!! つか、なんの物質を作り出す気だっ!?(白目)
「二人とも、ストッ――プっ!! トォォプ!! ちょっと待て。マジでか? どうしてそうなる? 料理本に隠し味は錬金術ですって記載でもあんのか? なぁ、お嬢さんたち。一応聞くが何やろうとしてんだ?」
「えっ? これは……その……味付けのために錬金を……」
「あーちゃんが、味わかんないから錬金しちゃえーって」
「ちょっと、マリー!? そんなことバラさないでよ、もうっ!!」
あっ……味付けのために錬金? マジでイミフなんですけど? こいつら錬金術を何か万能なものと勘違いしていないか? そもそも、なぜ料理に錬金術が出てくるんだ!? リリーナかよっ!!
「……おい二人とも」
「はい!!」
「はいですぅー」
「……続きは俺が作るから、お前たちはケーシィと遊んでいなさい」
途中までは……、途中までは良い感じだったのに……。なぜ最後は地雷に変わるんだ。クソぉ……。
仕方ないので、味付けだけしてみることにした。スープを一口含んでみると、しょっぱ過ぎて塩の味しかしなかい。うん、これはもう調節不能だな。味付け以前の問題だ。残念ながらスープは捨てて煮込みなおそう。とりあえず周辺に散布っ!!
俺は寸胴鍋に水を入れなおし、再び煮込みなおす。それでもなお、具材に染み込んだ大量の塩の呪いが俺に襲い掛かる。うん、しょっぱい……。薄めてダメなら、足してみるか。……具材を。
と、いうことで芋や、よくわからん草が余っていたので鍋に投入した。そして、待つこと10分……。
鍋の蓋を開けると、ホカホカに煮込まれた野菜が、良い感じの色になり湯気を発していた。うむ、見た目は旨そうだ。どれ、一口……あれ、案外いけるかも。塩辛さが中和されている!! おぉ……、さすが俺!! センスの塊やん。逆境に強い!!
「おーい、お前らー、飯ができたぞーー」
三人を呼ぶと、トタタタと走ってこちらに向かってきた。そして、それぞれの皿に料理をよそってあげる。半分にしか切っていないキャベツや、丸ごと投入した芋。そして一口サイズの謎の肉。ほぼ、煮込むことしかしていない謎のスープだ。
「……っ!? おいひぃ!? ヨシュア様、おいひぃです……ハフハフ」
「野菜がトロトロ……、旨し……ハフハフ」
「勇者様ぁー、おイモさん美味しいですね!」
しかし、見た目に反して味は良かった。なんとかなったな。料理って面倒くさいけど、こうして喜んで食べてくれるのなら作ったかいがあるというものだ。
⌘
食事の片付けが終わる頃には、辺りはすっかり暗くなった。新しくたき火を用意して夜に備える。見張りは交代ですることになったので、先に女子三人を休ませることにした。寝る前に【浄化】を掛けてやり床につかせる。
しばらくテントの中で、女子トークが繰り広げられていたが、次第に静かになっていき、それは寝息と変わる。辺りが静かになった途端、ぱちぱちと火が燃える音が大きくなったような気がした。
あの双子姉妹、実力はあるがまだまだ子供なんだよな。しっかりしているようでしていない。
ちなみに彼女たちの父親は、なんと王国貴族らしい。一度も会ったことがないから知らないとは言ってたが。そして母親は、父親の屋敷のメイド。そして、父親と情交を重ね妊娠が発覚した途端、金を渡され母親は捨てられたらしい。……マジで父親クズだな。それからしばらくして二人が生まれ、魔導学院に入学したのと同時に母親は病で死んでしまった。
二人が俺に甘えてきたりするのは寂しさの表れなのかもしれない。もし、王国と交渉する際に、父親が使者として来たら何発か殴ってやろう。あっ……、でもそうすると戦争になるのか? じゃあ闇討ちだな。とにかく殴るっ!! 俺は決めたのだ。
⌘
どれくらい時間が経ったのだろうか?
独りでぼーっと火を見ていると……なんかこう……、死にたくなるな……。うん……、死にたい……。死んで貝になりたい……。でもシジミは嫌だ……、せめてアサリにして……。そう、俺はピューッと潮を吹く貝になるのだ……。
……って、アレ? なんかおかしいっ!? たき火見てたら、いきなり超ナーバスになったんだけど!? イカン、イカン死んじゃだめだ!! つか、貝って!?
「あらあら、これはビックリ。まさか、私の術が解けちゃうなんて」
「……誰だ!?」
急に前面より、声がしたので俺はすぐさま身構え迎撃態勢をとる。
すると闇より現れたのは、ダークブラウンのロングヘアーをした半裸の女だった。何故に水着? しかもあれ葉っぱか? パレオとか草やん……。
「新米冒険者さん、ようこそ魔樹悪霊の森へ。席料は、あなたの命でかまわないわよ? ……クスっ」
つか、やっぱり敵ですか……。俺、女難の相でも持ってんのかな?
「やれやれ……、ぼったくりもいいとこだな。しかも高ぇーよ!!」
「いい女には、それだけの価値があるの」
「そうか。じゃあ、悪いが俺の命では釣り合わんな。今も二人ほど、お前よりも上玉を抱えてるんでね。だからチェンジだ。帰れババア」
「……こっ……の……童貞がっ!! 楽ニ死ネルト思ウナヨッ!!」
やっべ!? あおり過ぎた。ガチキレじゃんっ!! 髪が逆立ち昆布のようになってるし……。
こうして、魔樹悪霊との深夜の戦いが始まった。
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