第76話 独立都市国家 ウィンクード
城のテラスへ転移すると、眼下には街路を真っ黒に埋めるほど大勢の人がうごめいていた。
正直、引くくらい人間がいる。これきっと、ウィンクードの人口(3千人)の倍以上はいるな……やべぇ、人がアリのようだ。
外壁の方へと目をやると、恐ろしく長い列ができている。みな入国審査待ちのようだ。続々とウィンクードへと人が雪崩れ込んでくる。
俺の想像以上に、この建国宣言は注目されているようだ。まぁ、注目度が高いだけにチラホラとよからぬことを考えている輩もいるようだが。
そして、特に目につくのは獣人たちだ。きっと西から流れてきた難民だろう。ミスリルウォークより東に位置するレグナード王国に対し、西の砂漠地帯に位置するジプシール連邦。獣人たちが支配する地域だ。内戦が多く、毎年多くの難民が出る。そして、その難民たちが資金難で奴隷落ちとなり、レグナード王国へと売られていくのだ。世知辛い世の中である。
そんな難民にも数日前に希望の光ができた。それがウィンクードだ。種族問わず国民募集中。このお触書に難民が食いつかないわけがなかった。もちろんジプシール連邦も黙っていないと思うが、今はそんなの関係ねえ。外交問題になった時に対処すればいい。
それにしても獣人か。ハングリー精神旺盛の彼らが、この国にどういう影響をもたらすか楽しみである。吉と出るか、凶と出るか。
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「マスター、ミチオさんの演説10分前となりました」
「なぁ、リリーナ? いまさらだけど、クソ面倒くさいよなこれ?」
「ほんと今更ですね? 良かったら気合いお入れしましょうか?」
――ジャキンっ!!
爪剣の腹に反射したリリーナの真顔が写る。あの、リリーナさん? 真顔すぎて超引くんですけど? えっ、何? 俺のこと本気で斬ろうとしてる?
「い、いや、結構です……。つかジョーダン、ジョーダン!! リリーナ真に受けすぎぃー。ほら、その顔怖いからもうやめろって。めでたい席なんだからさー。なっ?」
「マスター? 次、ふざけたら千切りにしますからね?」
た、助かった……。ぽろっと本音が出てしまう癖は直さないとな。特にリリーナの前では危険だ。
すると中央広場にトランペットの音が鳴り響く。式典開始のファンファーレだ。
「とにかくマスター!! 式典が始まりましたので、民衆の前ではちゃんとしっかりしてください!! 魔王の威厳に関わりますから!!」
リリーナ? 俺に魔王の威厳を求めるのは間違ってるような気がする。サボりたがりな魔王なんて聞いたことねーだろ?
「にしても、何事もなく無事終わるかな?」
「どういう意味でしょうか?」
「まぁ、始まればわかるよ。ミッチーも気付いているようだし。俺たちはミッチーがヘマしないよう後ろから見ていようぜ」
「わかりました。では、マスターも国民の前で恥をかかないようヘマをしないでくださいね」
リリーナがジト目で俺を見てくる。
Oh……まさかのブーメラン。
つか、そういえば俺って、よく考えたらこんな多くの人の前に立つのって初めてだな。
そんな風に考えたらなんか緊張してきたんだけど。
やばい……なんか急に吐き気が……。
きっ、気持ち悪い……あかん、ゲロるっ!!
「オロロロロロ…………」
「ちょ……ちょっと、マスターっ!? 大丈夫ですか!?」
こうして、俺のゲロと共にミッチーの建国宣言は始まった。
⌘
ミッチーがテラスに立つと、眼下の中央広場から物凄い歓声が沸き上がった。
人の声とは凄い。歓声が地鳴りのように続くのだ。あんなところでミッチーは緊張せずに喋れんのか?
ん? ミッチーの口のまわりになにかついてんな? あれ今朝食ったキャベツだ。……ミッチーも吐いたのか。
すると、ミッチーの正面に拡声の魔法陣が浮かびあがる。
どうやら演説が始まるようだ。周囲のざわめきが落ち着き、次第に静かになっていった。ミッチー? さすがに演説しながら吐くなよ?
「私がこの世界に召喚され幾星霜……。実に様々なことがあった。理不尽なこの世界のルールに打ちひしがれ、何度も何度も心を折られては立ち上がり私はこの場にいる。……諸君らに問いたい。弱さは罪なのか? 学がないことは罪なのか?」
おぉ……ミッチーどした? 入りがめっちゃ真面目じゃん。俺より王様っぽいぞ。
「諸君らに問う。生まれた種族が異なれば、それは全て敵なのか? この世界には数多の生きとし生けるものがいる。そして、その数だけ様々な生き方の可能性がある。人族だ、獣人族だ、魔族だ、それだけで敵対するのは、その可能性を潰しているだけの愚策としか思えない!!」
ミッチーの声が外壁の向う側まで響き渡る。拡声魔法って便利だな。使い手が少なく、世に普及していない魔法の一つだ。実に勿体ない。声が大きいというだけで説得力は増すからな。
「戦争や抗争が多いこの世界。弱き者は蹂躙され、強き者だけが生き残る。貧しさに嘆き、空腹に苦しみ、金のために家族を売る。しかし、それでも必死に生きようともがく者。……そういう者たちが蔓延するこの世界は病気なのだ。これは当たり前ではない!! 異常なのだっ!!」
静寂が辺りを包み込み、ミッチーの声が木霊する。みな真剣に話を聞いているようだ。
「しかし、私はこの地にきて一つの可能性を垣間見た。それは……ダンジョンだ。世間では魔物の巣窟、人類の敵、悪の城、様々な呼び名がある。しかし、果たしてそうなのだろうか? よく考えてほしい。ダンジョン内で採取できる貴重な植物、鉱石、そして……食料のことを。全て資源なのだ!! もし、これが安全に採取可能であるならば、ダンジョンの主と手を組みたいとは思わないか?」
民衆から一際、大きな歓声が上がる。そらそうか。一部の冒険者たちしか入れない未踏の地。そこに力なき者でも入れるなら、誰だって入りたいはず。だって金になるからね!
「だから私はその可能性にかけ、ダンジョンの主である大罪の魔王との謁見に見事成功した!!」
ミッチーの台詞に辺りは騒然とした。しかし、それは怒号や悲鳴ではなく、歓喜の声や拍手であった。
「そしてダンジョン解放の約束まで取り決めたのだ!! 魔族と言っても敵ではない。話し合えば、お互い通じ合え……」
「でたらめなことを!! この逆賊がっ!! もうよい、斬り捨てろっ!!」
話の途中でレグナードからやってきた貴族の一人が抜剣してそう叫ぶ。突如、中央広場が阿鼻叫喚の渦に包まれた。
やれやれ……やはりか。邪魔者どもめ。数としては50人程度だが、護衛の騎士や魔道士たちは中々強そうだな。魔道士の飛翔魔法で、騎士たちが次々とミッチーめがけて突撃してくる。
「王国を裏切りあまつさえ魔族と手を組んだ逆賊を討て!!」
あの貴族のボンボンほんと面倒くさい。
しゃーない、俺が鎮圧するか……。
俺はゆっくりと広場上空を浮遊闊歩し、腹にグッと力を込める。
――魔王覇気
燃え上がる炎のような黒紫色のオーラが俺を包む。
すると、それを見た騎士や魔道士たちが、その場で恐怖に固まり空中で静止する。
そして、ギロリと貴族のボンボンを睨むと、一瞬にして泡を噴いて気絶した。
おぉ……これは超便利スキルだな。一切、手を出さずに片が付く。とりあえず襲い掛かってきた奴らは拘束するか。
俺がパチンと指を鳴らすと、騎士たちの足元に魔法陣が浮かび上がり、黒い鉄鎖がそれぞれの身体に巻き付いた。深淵魔法の一つ【黒縄縛牢】。拘束の魔法だ。並みの術者では解除不能。逃げれまい。そして、そのまま強制転移でスライムさんの家に放り込んだ。彼らにはスライムさんと戯れてもらおうか。ネバネバの刑である。
まだ何人か敵意を持った奴がいるが、力の差を感じたのか行動に移してこない。軟弱者め。しかも足が小鹿のように震えてるじゃないか。とりあえずこいつらの顔は覚えておこう。あとで牛面乙女たちのお土産にでもするか。
俺の魔王覇気にあてられたのか、広場は然り、ウィンクード中が静まり返る。恐ろしく不気味な光景だ。全員が俺を見上げている。
やっべ……注目されすぎておなら出そう。これ、やり過ぎたか? 俺が冷や汗たらたらでテラスへと戻ると、ミッチーが口を開いた。
「諸君、紹介しよう!! 彼があのダンジョンを統べる大罪の魔王ベルフェゴール殿だ!! 我らの味方である!! その力は万夫不当!! 彼一人で、あのレグナード王国にも対抗できるほどの力を持つ!!」
ミッチーのセリフに民衆がどよつく。まぁ、あながち反応は間違っていない。ミッチー? 言い過ぎのような気が……。
「そして、ベルフェゴール殿は約束してくれた。共に歩もうと!! この意味がわかるであろうか? 力をもたない者でもダンジョンへと入れるのだ!! 諸君、これはチャンスだ! 転機なのだ! これより我々で一つの在り方を作ろうではないか。異なる種族でも手を取り合って生きていけるということを」
ミッチーの言葉に歓声と拍手が沸き上がる。彼の示したその道に可能性を抱いたのか、中には跪いている者までいた。
「ミチオ・T・ウィンクードの名において、ここに独立都市国家ウィンクードの建国を宣言する!!」
その宣言がされるのと同時に、熱狂した群衆が咆哮を上げる。こうして、この世界に他種族が混在する国家が初めて建国されることとなった。
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この一週間、少しバタバタしておりました。更新遅れて申し訳ございません。
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