第71話 カノープスの最後
更新再開です♪
ストックの都合上、週2~3のペースとなりそうですm(_ _)m
「俺は……負け……た……のか……」
目を覚ましたカノープスが絞り出すように呟いた。その渇いた唇は喋るたびにヒビが入っていく。
「あぁ……。そうだな」
「……カタ……リナ……たちは?」
「生きてるよ。心配すんな」
「そう……か。悪魔のお前……が……助けて……くれたのか。……すま……ん」
「いや、俺に謝るんじゃねーよ!! つか、らしくねーし!! それに謝るんなら本人に言え。ちょっと待ってろ……面倒くせぇ」
ヨルシアがカノープスへと右手をかざし、その身体に事象のキャンセルかけようとするが、一向にその傷は消えなかった。すると、魔力の波動を感じたカノープスが……。
「何を……しようと……無駄……だ。俺の……命は……もう……尽きる。回復……魔法で……は治らんさ。それ……に……敵に情けを……かける……など甘すぎ……る」
「……うるせえよ」
それでも俺は【怠惰】のスキルで、事象のキャンセルを試みるがやはり発動しない。
クソ……。万能な能力かと思いきや、とんだ欠点があったな。命尽きる者に関しては、なんの意味をなさないのか。
あの三人は幸い間に合いはしたが、あと少しでも遅れていたら同じように事象のキャンセルはできなかったんだな。
「マスター!?」
振り向くとそこには、慌てて駆けつけてきたリリーナたちと、そして目を覚ましたカタリナと少女二人が立っていた。
「カノー……プス……様? ……カノープス様っ!!」
悲鳴に近い声を上げ、カタリナがカノープスのもとへと駆け寄ってきた。
「……カタ……リナ……か? そこに……いる……のか?」
「はい!! おります、ここにおります……。あぁ……なんてお姿に……」
塵と化すカノープスを見るカタリナの表情は、唇が細かく震え、もはや血の気が引き過ぎて真っ青になっていた。
「カタ……リナ……、す……まな……かった。俺は……」
「カノープスさまっ!! それ以上おっしゃらないでください!! もういいんです……もう、……いいんです」
謝罪させ未練を残させたくない。カタリナはカノープスを、少しでも安寧に逝かせてやりたくて全てを受け入れた。自身のカノープスへの想いすら押し殺して。
ただ、言葉にできないその感情が、カタリナの目尻から溢れ出す。その清らかな雫は、カノープスのヒビ割れた身体へと一滴、一滴と注がれた。まるで枯れた大地に恵みの雨が降るかのように。
「おい……クソ……悪魔。一つ……聞かせろ……」
「なんだよクソ勇者?」
「お前は……、世界を……どう……したいの……だ?」
「は? 世界? なんの話してんだよ? 意味わかんねーよ」
「魔王と……なり、得た……その……凶悪な力を、何も……知らぬ……民へと……むけるのか?」
「だからやらねーよ。最初にも言ったが、俺は世界征服や戦争といったことには全く興味がないから! というか、できれば平和に暮らしたい。だが、お前らが再びこのダンジョンを襲ってくるのなら、俺は容赦はしないぞ? ここを守るために、その力を躊躇なく使う」
「ふっ……は……はは。おかしな……悪魔め。誰かを……守る……ために……戦うか。人は……それ……を……勇者と呼ぶ」
「勇者? お前がそれを口にするのか?」
「俺は……勇者であろうと……するばかりに……使命に……囚われ……過ぎた」
……そうか。こいつはこいつで常に正しくあろうとしていたんだな。いき過ぎた言動もあったが、それは自分自身への戒めでもあったのかもしれない。……マジで重いヤツ。いや、不器用なだけか。
「お前はまた随分と重いもん背負ってたんだな? そんな誰かを不幸にする正義なんて俺には背負えないね。でもな……、無理だからこそ、俺はそいつらと共に歩く」
「ふ……は、はは! ほん……と、ムカつ……く……悪魔だな。……なぁ? 死者の……妄言と……思って聞いてくれ」
「なんだ?」
そう言うとカノープスの身体が、足から徐々に崩れ落ちていった。
「カタ……リ……ナたちを……守って……やって……くれないか? 俺が……死んだら……逆臣扱い……される。お前に……受ける……メリットは……ないが……」
なんだ。完璧な俺様主義な野郎かと思ったが、ちゃんと仲間を気遣いできる心はあるんじゃねーか。しかし、また面倒くさいことを言いやがって……。
あぁーー、もう!! つか、こんなの受けるしかねーじゃん!!
「……わかった。後は全て任せろ。悪いようにはしない」
「なっ!? マスター!! 正気ですか!?」
リリーナが目を大きく見開いて驚いていた。これ後で説教されるパターンのヤツだな。すまんね、リリーナ。だけど……、仲間を想う気持ちは俺にもよくわかるんだ。
「お前の背負ってた正義ならいらんが、お前が本当に守りたかったもんなら、ここを守るついでに守ってやるよ。だから安心して、もう逝け」
するとカノープスはホッとしたのか、少しその表情は安らかになった。
「ふん……、器が……大きい……のか、バカ……なのか、……わか……らんやつ……だ。カタ……リナ?」
「……はい、……ここにおります。……ずっとお傍におりますよ?」
そうカタリナが、声を震わせながら返事をした。
「カタ……リナ。お前には……苦労を……かけっぱなし……だったな」
「……はい。でも、もう慣れました。カノープス様の癇癪は小さな子供と同じですから」
「なんだ……それ……。くっくっく……勇者の俺が……子供扱いだった……とはな」
「ふふっ、そうですね」
「……なぁ、カタリナ?」
「はい? なんですか、カノープス様?」
「俺の分まで……生きて……くれ。そして……俺の…代わりに……この世界を……見届けて……ほしい……」
「……はい!! あなたが守ろうとした世界は……私がちゃんと見届けますから……、今はもうゆっくりと……お休みになってください……」
「あ……りが……とう。次は……天から……お前を見守る……星となろう…………さらばだ」
そうカノープスがカタリナに笑いかけると、身体が全て崩れ出し完全に塵と化した。そして一陣の風が吹き、カノープスの灰となった身体は、天へと目掛け風と共に舞っていく。まるで愛しき女性に別れを告げるかのように。
「カノープスさまぁぁーーー!!」
そして辺獄の地にどこからか聞こえてくる祈りの声が、いつまでもそこに残響していた。
⌘
《4階層》
「ぬぅ……まさか。ゴブリン如きにここまでいいようにされるとはなぁ」
「コーニール殿! 後先考えている場合ではない!! 一気に決めますぞ!!」
ポールとコーニールが闘気を剣に集中させ、必殺の一撃をゴブリダに放とうとした次の瞬間……。
勇者の掛けた【超突猛身】が突如として消え去った。
「――なっ!?」
「――ふぐぅ!?」
自身の力を引き出す勇者の加護。解除時にかかるリバウンドの負荷も半端ない。思わず敵を目の前にして片膝をついてしまうほどだ。そして、悪いことは重なるもので膝をつく二人のもとへと、伝令の騎士がやってきた。今にも倒れそうな身体を押して、必死の形相で叫ぶ。
「でっ……伝令!! 部隊後方より、二体のミノタウロスが出現っ!! そっ……それにより……後方部隊……ぜっ……全滅です!!」
そう伝令の騎士が叫ぶと力尽きたのか、その場で足から崩れ落ちる。しかし、負の連鎖はこれで終わらなかった。次々と伝令役の騎士たちがポールとコーニールがいる部屋へとやってきたのだ。
「伝令!! 右翼部隊……、全滅!! 要因は不明!! 敵が確認できません!!」
「同じく左翼部隊全滅!! こちらも要因は不明……しかし、敵は一体です。戦闘になった瞬間に次々と倒れていきます」
ポールとコーニールはお互い吃驚し天を仰いだ。原因は部隊が全滅したことではない。勇者が死んだことにだ。あのレグナード王国の三勇者最強のカノープス。竜の加護を持ち聖竜に愛された男とまで称された人物。その男がここのダンジョンマスターに敗れ……そして死んだのだ。
勇者の加護というものは、解除されることはあっても消え去ることはなくステータスボードに履歴として残るのだ。共に戦ったという証拠が。二人が片膝をついたとき、開いたステータスボードには、その履歴すら残っていなかった。これが何を意味するのか? それは勇者の死亡である。
状況としては最悪の一言。加護が強制抹消されたうえに、その反動でまともに動かない身体。二人が死を覚悟した瞬間、目の前に立つゴブリンから思わぬ提案をされる。
「このまま、おとなしく投降するのであれば捕虜として扱おう。まだ、戦闘の意思があるのであればこの場で斬り捨てる。悪いが考えさせる時間はない。さぁ、返答は如何に?」
捕虜? このゴブリンは本当にそう言ったのか? 信じられない気持ちが半分、部下を守りたい気持ちが半分。二人はゴブリダの提案にすがるしかなかった。
「……投降しよう。こちらにもう戦闘の意思はない」
「ポール殿に同じく。こちらも投降しよう。だから部下の命は助けてやってほしい」
二人は武器を捨て、両手を上へと掲げた。その姿を見たゴブリダも魔剣を鞘へと納め返答する。
「了解した。では、こちらも戦闘は停止しよう。しかし、しばらくは牢の中で過ごしてもらうぞ?」
そう言うと、ゴブリダはシャーリーを通じてゴブリンたちに指示を出す。加護が切れ、倒れ込む騎士たちを次々と拘束し五階層に新設された牢獄へと投獄した。これから行われるレグナード王国への交渉武器にするために……。
こうしてダンジョンが誕生して以来、最大級のダンジョン防衛戦の幕は閉じた。
今回のダンジョン被害
・重傷 蛙人族 56名
・死亡 悪鬼族 285名
鬼人族 37名
魔蝦蟇 5体
鬼牛蛙 3体
あけましておめでとうございます!
本年もよろしくお願い致しますm(_ _)m
またサクっと更新していきますので、暇つぶしがてらお付き合い頂ければと思います♪
作者は新年早々風邪をひきましてすでに瀕死です。
皆さまも体調管理にはお気をつけくださいませ(。-`ω-)




