第70話 大罪の魔王 ヨルシア・ベルフェゴール
俺が目覚めると、涙で顔をグシャグシャにした三人が目の前にいた。
はは……、なんだエリーお前もか。
「ますたぁぁぁーー!!」
「ヨルシア様っ!!」
「このバカタレが!!」
もの凄い勢いで三人が俺に飛びついてくる。すると何かが決壊したかのようにさらに泣き始める。どうやらかなり心配をかけたようだ……。
「リリーナ、エリー、マリア……マジで助かった。ありがとうな。三人の声が聞こえなかったら戻ってこれなかったかもしれん。もう大丈夫だ」
泣きすぎて鼻水を垂らしたエリーが話しかけてくる。おいおい……神様、ボロボロじゃねーか。ほら、ハンカチで鼻をかめって。
「チーーーン!! ……はぁ、スッキリしたのじゃ。ヨルシアよ、どうやら無事に魔王へと覚醒したようじゃな」
「あぁ、そうみたいだな。エリーありがとう。つか、かなり無茶したみたいだな。大丈夫なのか?」
「かっかっかっか! お主が無事なら問題ないのじゃ!」
そう言うと、エリーが満面の笑みで俺を見上げてきたので、おもわず頭を優しく撫でてあげた。すると、それを見ていたリリーナとマリアの眼が恐ろしいこととなった。……まるで次は私みたいなガンを俺へと飛ばしてくるのだ。……恐ろしや。この身が魔王と化してもなお、どうやら俺にはあの二人からの威圧感をキャンセルする術はないようだ。
というか二人ともあのドラゴン倒さないと。マジで感謝してるけどさ、今の状況わかってる? めっちゃピンチなのよ?
ふと、辺りを見渡すと勇者に魔力を吸い取られ倒れている三人が目に入った。ガンを飛ばし続けている二人を無視して俺はその三人のもとへと近づいていく。
こいつらもあのバカを信じてここまでについてきたのにコレだもんな……。
カタリナだっけか? 裏切られて、そして傷ついて、それでもなおあのバカを想うってか。そんな大事そうにあいつの捨てたペンダントを握るなよ……。
……ほんと面倒くせえ。
俺は右手を三人の前へと掲げると、カタリナの傷が瞬時になくなり、二人の少女の顔色も良くなった。
……ちょっと待ってろ。あのバカぶん殴ってくるから。
俺はミッチーとレグナードが戦っている上空へと駆け上がった。
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「グギュルァァァァアーーー!!」
「うぉ、これもダメってかぁーー!?」
レグナードがその巨大な腕を薙ぎ払うと、結界ごとミッチーの身体を粉々に吹き飛ばした。その威力は辺獄の地に深い爪跡が残るほどだ。レグナードの溶けた純白の鱗は瞬時に再生し、その神々しい姿を取り戻す。
それに負けず劣らず、ミッチーの身体にも深闇が集まり一瞬で身体を形成する。するとレグナードが静かに唸った。
「……グルルルル」
「おっ? どうした? この何度でも復活するサンドバッグミチオ様に怖気づいたのか? てめえの攻撃なんて、オレの魔力が続く限り全て無駄なんだよ!!」
「……ミッチー。お前な? 名乗るならもっとカッコいい二つ名にしろよ? つか、サンドバッグミチオって……。どちらかというと可哀想な子になるぞ? あと、もう魔力ギリギリじゃねーか。次、喰らったらさすがにヤベーだろ?」
ミチオが振り返ると、そこには腕を前に組んだヨルシアが。
「よっ……ヨルシアさん!? 復活したんですね!! よかったぁ……。俺……、俺、信じて待ってたっすよ?」
「ミッチー、マジで時間稼いでくれてありがとうな! 助かったわ。もう大丈夫だ。後は俺に任せろ」
「わかりました!! でも、あいつほんと半端ないっすよ? 障壁の強度も防御力も軽くオレたちの想像を超えてきます!!」
「ミッチー、まぁ俺を信じろって! ……よっと」
俺がグッと腹に魔力を込めると周囲に魔素の嵐が吹き荒れ、背中に三対六翼の黒翼が顕現した。
おおっ!? なんか羽が増えてる! なんじゃこりゃ!? 魔力の圧も以前とは比較にもならないほど濃いな……。
するとヨルシアの六枚の黒翼を見たレグナードが、恐ろしいほどの殺気を放ち始めた。そして、先ほどのように大きく口を開き魔力を収束させた。すると大気は震え、辺りにキュィィィン……という甲高い音が鳴り響く。
「グルァァァァァァアーーー!!」
恐ろしい咆哮とともに吐き出したのは竜王の神炎。すべてを灰燼と帰す竜の炎だ。それは回避不能なほどの攻撃範囲を持ち、その咆哮は天まで届く。
「まったく、いきなりそんなもんぶっ放すなよ? うちのダンジョン壊れんだろ。面倒くせぇ」
ヨルシアがそう呟くと、レグナードが吐き出した竜の炎は瞬時に霧散した。いや、ごっそりとそのエネルギーごと消えたと言ったほうが正しい。
その気になれば国を簡単に吹き飛ばすほどの威力があるレグナードの竜王の神炎。それをいともたやすくかき消したヨルシア。
必殺の一撃をふさがれた? 普通ならば何が起きたかもわからず驚愕するものだ。しかし、レグナードは冷静だった。なぜならば、この現象には身に覚えがあったからだ。そして遠い記憶を思い出す。かつて、自身と相打ちになった、あの忌々しい大罪の魔王ベルフェゴールのことを。
「グギュルァァァァーア!!」
レグナードはすぐさま頭を切り替えた。世にはびこるどの災厄よりも危険な男。この悪魔はここで確実に葬らなければ。決意の咆哮と共にその翼に聖なる魔力を纏うレグナード。白き四枚の翼を羽ばたかせ、そこから恐ろしいほどの密度を持つ数万もの魔法の弾丸を撃ち出した。
「だから、面倒くせえって!」
ヨルシアが右手を前に出し、そう呟くと空を埋め尽くす魔法の弾丸が一瞬にして消え去った。
「……!?」
「おい、クソドラゴン。お前、このスキルのこと知ってんだろ? そんなことしたって無駄だぞ? 今の俺は【面倒くさい】のフィーバータイムだ! どんな攻撃がこようが、全て消し去る自信がある。ましてや完全召喚されてないお前が俺に抗うことなんてもうできない。お前も理解してんだろ? 詰んだって」
どうやら俺の言葉が気に入らなかったらしく、その強靭な腕を力任せに振りかぶり、それを俺に向けて薙ぎ払ってきた。
「おいおい、飛び道具が通用しないから物理攻撃ってか。無駄って言ってんのになー。……面倒くせえ」
ヨルシアの眼前まで迫った聖竜の巨大な爪。しかし、ヨルシアが一言呟いただけで、レグナードは攻撃を仕掛ける前の位置まで巻き戻される。あまりの突拍子もない出来事に、レグナードは自身に起きた現象を理解できずにいた。遥か昔に戦った大罪の魔王でさえ、時間ごと巻き戻すなんて芸当はしなかったからだ。
この悪魔、何かがおかしい!? 竜神であるレグナードに戦慄が走る。
「ははっ……、こりゃズルいわ。確かに最強だわ。もう誰にも負ける気がしねぇ」
すると俺の頭に直接、声が響きわたる。
『憎き大罪の悪魔よ……。確かに今の我の攻撃ではお主には通じぬ。だが、しかしその大罪スキルだけでは我は倒せぬぞ?』
「いや、どうだろうな?」
俺が右手を前に伸ばし魔力を集中させる。
「封神剣!!」
俺がそう口にすると、右手に一本の剣が顕現する。それはあの勇者が手にしていた聖剣のように刀身が透明の美しい長剣だった。
しかも黒を基調とした柄や鍔には精緻な意匠が施され、刀身の真ん中には金色の古代文字が刻まれていた。そして、俺の魔力を纏うと、まるで生きているかの如く、鼓動を打ち熱を帯び始める。
『神……殺しの……剣だと!? 神具を取り込み、あまつさえ堕天させたというのか!? ……お主、いったい何者なのだっ!?』
何者? そんなの決まってるだろ?
「ただのダンジョンマスターだよっ!!」
俺は魔力を全開にし、一足でレグナードの懐へと飛び込む。そして、大罪スキル【怠惰】でレグナードが張っている全ての防御障壁を消し去った。
『なっ!?』
そして、封神剣を一振り、二振りとするとレグナードの強固な鱗をまるでバターのように切り裂いていった。聖竜が斬撃の嵐に飲み込まれる。すると背中の六枚の黒翼が、俺の意思とは関係なくその翼を拡げ、上翼二翼からホーミングレーザーのように魔力の弾丸を撃ち出した。
次々と着弾する魔力の弾丸。炸裂しレグナードの皮膚を大きく抉る。どうやら俺の黒翼は下段の一対が防御障壁の翼、中段の一対が周囲の魔素を吸収し、それを魔力に還元する翼、そして最後に上段の一対が、吸収したその魔力を撃ち出す攻撃用の翼のようだ。その攻撃能力も非常に高く、レグナードにダメージを軽々入れるほどだ。
「おい、クソドラゴン。もう諦めろ。今のお前じゃあ俺には勝てねぇよ」
『口惜しや……。憎き大罪の悪魔よ。久々の聖なる贄につられ出てこれたと思えば相手がお主とはな……。完全召喚さえされていれば、貴様なぞにしてやられることはなかったものを。しかし、我の贄はまだたくさんおる。次は複数の贄を……』
「は? お前、バカだろ? 次なんてあるはずがない。誰がお前みたいな危ない奴を放置するか」
俺は封神剣に全力で魔力を集中させると、甲高い音と共にその刀身が輝き始めた。
「封神剣……乾坤封獄励起!!」
上段に構えた封神剣に金色の稲妻が迸り、レグナードのまわりには封印の術式が展開された。そして……。
『バカなっ!? 神を倒すなどできるわけが……』
「勝手に思ってろっ! もう、お前は二度と出てくるんじゃねぇーー!! 封神……魔煌一閃!!」
――グギュルァァァァアーー!!
振り下ろすは断罪の一撃。それはレグナードの巨躯を中心から綺麗に真っ二つとした。
断末魔の悲鳴とも思える、その咆哮と共にレグナードの身体は光の粒子と化した。そして光の粒子は、流れる星の川のように、キラキラとヨルシアの持つ封神剣へと吸収されていく。
全ての粒子を吸収し終わると、封神剣の柄頭に新たに咆哮する竜の彫刻が出現したが、ヨルシアの目に映ったのは白い灰と化したカノープスの姿だった。
そして、カノープスはそのままガクっと体勢を崩し、地上へと落下していった。
別に助けようとか、そういうつもりではなかったのだが、考える前に身体が勝手に反応するからしょうがない。俺は空を駆けるようにして、落下するカノープスに追いついた。
そしてカノープスの右腕を掴むが、掴んだ瞬間、その腕が砕け散り灰となり辺りに霧散する。
なっ!? マジか!?
俺は慌てて魔力のベッドを形成し、繊細に受け止めるが、それでも魔力面に触れている背中から、細かい皸が嫌な音を立てて入っていく。
そして、地上に降り立つと同時にカノープスが目覚めた。
本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます(。-`ω-)
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年末年始のため、少し更新が遅れます。
本年はデビダンを読んでいただいた、読者の皆様には感謝しかありません。
このような拙作を見つけて頂き誠にありがとうございます。
来年からも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
良いお年を!!(*´з`)




