第69話 魔王襲名の儀
「グギュルァァァァァァーー!!」
「……ほんとバケモノだな。でも残念。そっちには行かせない。お前の相手はオレだ!!」
レグナードは何度も何度もミチオを身体ごと吹き飛ばすが、それでも復活してくるこの男にイラだちを隠せずにいた。
そして初撃で葬り去った男の周辺にも巨大な魔力の波動が。レグナードはそれが気になり、この男に集中ができないでいた。そして隙が生まれミチオから魔法をくらうという悪循環。
「そろそろ、ダメージ入ってくんねーかな? これで入ってくんないと、マジで嫌になっちまうぞ? ……【麼腐陀腐麼死皇蝕】!!」
ミチオが放つ渾身の腐蝕魔法。聖竜レグナードの四方を強力な結界で包み、その大気中に腐蝕ガスを発生させる。レグナードが纏う防御障壁すら無効といわんばかりにその竜鱗を徐々に溶かしていった。そして、その結界によりレグナードの動きも制限する。まさに攻防一体の魔法である。
「ヨルシアさん……オレ待ってますからね? 早く戻ってきてくださいよ!!」
ミチオは地上に突如あらわれた立体複合魔法陣に目をやりそう呟いたのだった。
⌘
暗い……何も見えない……。
ここはどこだ? 俺は死んだのか?
いや、死んだにしてはおかしいな。意識がハッキリとし過ぎている。だが、あの傷で生きてる方もおかしい気もする……アレ? じゃあ結局死んでるってこと?
俺が軽いパニックに陥っていると、突然この暗闇の中に声が響き渡る。
『……よう! 気分はどうだい?』
聞いたことのない声だが、何故か懐かしい感じがした。
「誰だ?」
『ふふふ……そう警戒するなって』
「いや、するだろ? つか、マジでお前誰だよ?」
『質問に質問返しとは面倒くさい野郎だ。まぁ、別にいいが。俺の名前は【nj※twd】。……ちっ、なんだ制限かかるのか。……面倒くせぇ。どうやら名乗れないらしい。お前がテキトーに考えて呼んでくれ』
「いや、無理だし!! 知らないヤツの名前をテキトーに考えて呼ぶなんてどんな罰ゲームだよ!? つか、ここどこだよ? 俺は死んだのか!?」
『知らねぇーよ!! お前がどんな状況かなんて俺が知るわけがないだろ!! 俺もここに喚び出されたんだからな』
「喚び出された? 誰に?」
『ほんっっと、お前面倒くさいな? きっと俺を喚んだのはエルアリリーの嬢ちゃんだよ。まぁ、当の本人は俺を喚んだつもりなんてコレっぽっちもないだろうがな』
「いや、質問なんてしたくねーけど、今の状況がマジで理解できん。お前エリーと知り合いなのか?」
『エリーって、お前……。どんだけ親しいんだよ? まぁ、知り合いっていうか、俺が魔王やってた時代のツレの娘だ』
「は!? あんた魔王なのか!?」
『ふふふ……おうよ。当時最強と言われた七大魔王の一人だ。というか説明させんな! 面倒くせぇ』
「へぇ~、そんなすごい御方がなんでまたこんなとこに?」
『そんなの決まってんだろ? 大方、エルアリリーの嬢ちゃんが魔王襲名の儀でもやってんだろうな。ただ、かなり不完全な術式だ。これ、相当無理してる感じだな。何があった? ちょっとお前の記憶を見せてもらうぞ?』
すると突然、大量の魔力が俺の中に入ってきた。身体の中を触られているようで非常に不快である。しばらくすると、声の主がいきなり大きな声で笑い始めた。
『あっはっはっは!! こりゃ、お前とんだ災難だったな! 聖竜レグナードってか! たかが勇者の命だけでよくもまぁ、そんな奴が降臨したな』
「知ってるのか?」
『知ってるも何も、そいつ俺が最後に戦った面倒くせえドラゴンだ。しかも、三日三晩の激闘のすえ相討ちになっちまってな。その後、お互い神の一柱になったもんだからさらに面倒くせー。いやー、懐かしいなー、あのクソドラゴン。あいつ滅茶苦茶強ぇーだろ?』
「はぁ!? ちょ……ちょっと待て!! 色々まだ呑み込めていない。つか、あんた神様なの? さっき魔王やってたって言ってたじゃん!!」
『おう、そうだ。制限かかってるから俺の今の名前と魔王時代の名前は言えんがれっきとした神だ。おい小僧、俺のことをちゃんと敬えよ?』
「で、話は戻るけどそんな偉い神様がなんでここに?」
『お前スルーか? 神の話スルーか? 仮にも元魔王でもあるんだぞ? よくもまあそんな言葉遣いできるよな? ほんと無礼で面倒くさい奴』
「いや、ここであんたと問答やってる時間なんてないから! 早く戻ってあのドラゴン倒さねえとみんなやられちまう」
『まぁ、待てよ。焦るな。ここは時間の流れがない虚無の空間。そんなに急いだっていいことなんかねぇーよ。それより問題はお前に俺の力を引き継ぐ資格があるかってことだ。面倒くせーけど、それを見極めなければならん』
「なんだ神様? 俺に力くれんのか? だったらさっさと渡してくれよ。それで終わりじゃん」
『ほんとそれな! お前軽いわー。それに無礼だしー。つか、仲間の命なんて見捨てて引き篭ればいいじゃん。お前ニートになりたかったんだろ? あえて孤独の道をいく。かっこいいじゃねーか。それなら俺の力貸してやらんこともないけど?』
「ああ、そうだ。……ニートになりたい。俺の夢だ。でもな、そんな夢のために仲間を見捨てることは俺にはできない。それに今も俺のために必死にダンジョンを守ろうとしてくれんだよ!!」
『バカか? よく考えろ? 元は赤の他人じゃねーか。しかも血縁でもないんだろ? だったらそんなやつらとは縁切っちまえよ。面倒くせえ。見捨てて始めからやり直せ。そうすれば俺の力を貸してやる。とびきり強力なヤツをな』
「じゃあ……悪いけどいらねえわ! 仲間を守れないのならどんなに強い力もらったって無意味だし。つか、むしろいらん。ということでこれで話は終わりだな。もう戻ろうぜ」
『くくくく……あーーーはっはっは!! あくまでも仲間のためか。合理主義者かと思ったんだが、意外と青臭せーんだな。ほんと面倒くせえ奴!!』
「うるせー。仕方ないだろ?」
『仕方ない? 何がだ?』
「俺のへなちょこな夢よりもあいつらの方が好きになっちまったんだ。ダンジョンニートにはなりたいけど、そこにあいつらがいなきゃ嫌なんだよ。逃げることはいつでもできる。だけどな、今しかできないことを目の前にして逃げるなんて真っ平ごめんだわ」
『あーーーはっはっは!! 面倒くせぇー!! マジで面倒くせぇよお前!!』
「うるせえよ。自分でもそう思い始めてるんだからほっといてくれ」
『はぁーー……笑った。でも、その面倒くさい性格が気に入った!! よし、いいだろう。俺の力くれてやる。全部持っていきやがれクソ野郎』
そういうと、俺の中に恐ろしいほどの魔力が流れこんできた。
なっ……なんつー魔力!? 身体が引き千切られそうだ……魔力の圧が半端ねえ……。これ耐えられるのか? 進化の時の比じゃねえ!!
「こっ、これ……は?」
『言ったろ? 全部やるって。いいかよく聞け? 俺のスキルは面倒くさいことに生物の命を奪ったりはできない。しかし、お前が面倒くせえと思った事象を全て取り消すことができる超素晴らしいスキルだ。考えても仕方ねえから直感で使え。お前は最強の【面倒くさい】を手に入れたんだ」
「ス……キ……ル?」
『そうだ。あと、どうやらお前に俺の名前を名乗る資格ができたようだ。おめでとさん、新たなる魔王よ』
「……魔……王? ……俺が?」
『あっはっはっはーー!! 小僧、良かったな! これでお前も聖女の信託に引っかかって、念願のニートの夢はさらに遠のいたわけだ。ざまぁ!!』
「う……るせ…‥え……」
『まぁ、その、なんだ。……面倒くせえが気張れよ。そして忘れるな。今の気持ちを。お前の魂にちゃんと刻み込んで、その一歩を踏み出せ。それに面倒くさいから世界は楽しい。いいか? これよりお前の名は……』
――【大罪の魔王 怠惰のベルフェゴール】
すると、この真っ暗な空間の先に一筋の光が見えた。それが徐々に大きく輝いていく。
『俺の大罪スキル【怠惰】を使ってドラゴンなんぞに負けるんじゃねーぞコンチクショー!! これ、最強のスキルだかんな? 他の奴らに負けたら承知しねえから!! いいな? もし負けたら………』
暖かい光が見えたと思ったら声の主が遠のいていった。
最後のほうは何を言ってるかわかんなかったな……。
それにしてもなんて心地よく癒される光なんだろう。
光の中からリリーナやマリア、エリーの声が聞こえる。
俺を呼んでるのか?
……そうだ、あいつらを守らないと。
こんなところでグダグダしてるヒマなんてない!!
だからこんな面倒くさい闇は晴れやがれっ!!
⌘
「エリー様!? マスターの身体が!?」
「ヨルシア様はどうなったんですの?」
「二人とも安心せい。どうやらぎりぎり間に合ったようじゃ。見ておれ」
ヨルシアの身体が闇に包まれ、失った身体の部位を形成し始めた。そして、闇が晴れると身体が元通りとなり、魔法陣とヨルシアを包む魔力が金色に輝き始めた。
身体に深く突き刺さった神聖剣アスカロンは光の粒子となり、そのままヨルシアの身体へと取り込まれていく。右手の甲に刻まれるは大罪の紋章。左手のエルアリリーの紋章と共に光り輝いた。
そして、新たに耳の上より後頭部へと流れるように伸びる黒く太い角。そして最後にヨルシアの背中に大きく魔王の紋章が刻み込まれた。
怠惰の大罪が失われ数千年。
受け継がれし伝説と共に、虚無より舞い戻りしその悪魔は魔王へと覚醒を果す。
――混沌より生まれ出づるその者は
――煌々たる金光を放ち
――常闇長夜を照らす大日輪の如き存在と成るだろう
――その者、象徴たる位階を【混沌の君】と示す者なり
――幾世幾世と限り無き正しき王であると崇め信じ
――幸い給え守り給えと……恐み恐みも白す。
ここに大罪の魔王……怠惰のヨルシア・ベルフェゴールが誕生した。
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