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第68話 聖竜レグナード

 白い雷光が何本も辺獄の空を迸る。

 そして大きな咆哮と共にソレは顕現した。


 純白の鱗に、七色に煌めく(たてがみ)。その四枚の大きな翼は鳥のような白い羽毛に包まれていた。そしてその身に宿すは正義の光。遥か昔よりこの地を守り、人々より崇められる存在。



 ――それが【聖竜レグナード】



 召喚者の魔力が足りず、完全召喚(・・・・)とはならなかったが、それでも体長50メートルを超える体躯の圧倒的威圧感にヨルシアたちは固唾をのんだ。



「なんだアレ……。反則だろ……?」



 ミッチーが悲哀の表情を滲ませ呟く。自身の魔力が巨大だからこそ、目の前にいるバケモノの力のが推し量れるのだ。そして、ヨルシアが叫んだ。


「マリア、リリーナ!! そこの倒れてる三人を治してやってくれ。ミッチー!! まだ、あいつは目覚めて(・・・・)いない!! 俺たちで今のうちにあのバケモノを倒すぞ! サポートを頼む!!」


 リリーナがヨルシアを止めようとしたが、あっという間にヨルシアはレグナードの眉間の辺りへと転移をする。まだ完全に目覚めきっていない今が、このバケモノを倒す唯一無二のチャンス。ヨルシアはそう判断し、残り少ない魔力を振り絞り深淵魔法を唱えた。


「お前なんつーバケモンになってんだよ……。そんな簡単に人間やめんなっての!! マジめんどくせぇな。もう一発喰らっとけ!! ……【暗黒破壊波動砲(ダークネビュラ)】ぁぁー!!」


 ヨルシア最強の深淵魔法。すべてを無に帰す闇の奔流。それがレグナードの眉間を撃ち抜く。


 しかしその闇の閃光は貫くどころか、毛の先にも触れることもできず、左右に二又に分かれ弾かれた。ヨルシアの魔力が少ないとはいえ、それをまだ目覚めてもいないレグナードが弾いているのだ。もはや悪夢でしかない。


「……なっ!?」


 ゆっくりと目を開ける聖竜レグナード。驚愕するヨルシアをまるで気にも留めす、レグナードは大きく口を開けた。そしてその尋常ではないほどの巨大な魔力を収束する。



 ――キュンッ!!



 レーザーにも似た一筋の閃光がヨルシアに放たれると、白い大地に一本の綺麗な溝が刻まれる。

 数秒後、置き去りにされた爆音と共にそこから火柱が立ち昇り辺獄の地を一瞬で焦土と化した。大地は赤く熱せられ、その地の底まで続くような深い溝は、まるで奈落へと繋がる入口のようだった。


 ヨルシアは左半身を縦に綺麗に切断され、そのまま目を見開きながら地上へと落ちていく。


 それを見たレグナードが歓喜の咆哮を上げた。




 ⌘




 やべぇ……、身体の感覚がない。


 俺、どうなってる?


 くそ、状況が把握できない。


 地面へと落下すんのは分かってんだけどな。


 あの白いドラゴンがどんどん小さくなってくし。


 ……ん?


 リリーナとマリアがこっちにきてる。


 なんだあいつ。また泣いてんのか?


 リリーナって性格の割に泣き虫なんだよな。


 ……って、マリア。お前もか!?


 二人で受け止めてくれるのは嬉しいけど、なぜに泣く!?


 おっ、ミッチー? 


 めっちゃくちゃ怒ってんな?


 そんなに怒ってどうした?


 珍しいじゃん……って、そっちに行くな!!


 今の見てたろ?


 そのドラゴン半端ないから無理だって!!


 めっちゃ強いから逃げろ!!


 ほら、言わんこっちゃない……。


 ミッチーも身体吹き飛ばされてんじゃんっ!!


 あっ、でもすぐ再生するんだ。


 まじで不死身だな。


 俺もすぐ治ったらいいのに。


 つか、これ治るのか?


 身体半分ないんだけど?


 聖剣も刺さったままだし。


 それにしても周りのスピード遅過ぎない?


 ……って、あれ?


 もしかして、これ走馬燈か?? 


 やべぇ、よく考えたら周りの音も聞こえないじゃん!!


 これマジのやつか!?


 はっ? まさか俺、死ぬの!?


 って、このダメージで生きてる方が不思議だよな。


 リリーナとマリアの顔が近い。


 お前ら涙で顔がグシャグシャじゃねーか。


 回復スキル使ってくれてるけど何も感じないわ……。


 二人とも守ってやれなくてごめんな。


 もう、俺のことはいいからエリー連れて早く逃げろ。


 アレ(・・)は無理だ。


 俺たちじゃ倒せんわ。


 それにしても寒いな。


 まわりも暗くなってきたし。


 あーー、クッソ!!


 死にたくねぇ……。


 最後の最後にこんなこと思うって、面倒くさいって言ってる割に、俺って意外と頑張るヤツだったんだな……。







「マスター、ますたぁ、まずだぁぁぁ!! お願いだから目を開けてよ!! 死んじゃやだよぉぉ!!」

「なんで治らないんですのっ!! なんで、なんで、なんでぇ!! ヨルシア様、目を開けてくださいまし!!」


 リリーナとマリアの悲痛な叫びが辺りに響き渡る。すでに先程のレグナードの攻撃でヨルシアはコアの大部分を破壊されてしまっていた。もう手遅れ(・・・)なのだ。


 二人も頭ではそれを分かってはいるものの、心がそれを受け入れない。

 

「お願い……、おいてっちゃ……やだぁ」

「絶対、死なせません!! リリーナさん、もっと魔力を!! もっと……ま……りょくを……いやぁぁぁぁ!!」


 諦めたくない……。諦められない。


 しかし、認めたくないその残酷な現実がすぐそこまできてしまっている。悪魔が完全に死ぬとき、その身体は白い灰と化す。ヨルシアの身体も徐々に灰と化してきたのだ。そんな絶望的な状況に、おもわず二人の手が止まってしまう。


 するとそんな二人を見兼ねたように、後ろから近づいてくる人物が一人。


「なんじゃ、お主らもう諦めてしまうのか?」


 固まる二人に声を掛けたのはマスタールームで待機してるはずのエリーだった。


「エリーさま……なんで……ここに……」

「ヨルシア様が……ヨルシア様の怪我が……治りませんの……魔力の流出が止まらないんです。もう……、もう……」


 思わずマリアが口を紡ぐ。


「二人とも綺麗な顔が台無しじゃぞ? ヨルシアが見たらなんと言うかの? ほら、早く泣き止むのじゃ。後は妾に任せよ」

「……エリー……さま? 何を……なされるおつもりですか?」


 何かを決意したかのようなエリーの表情。

 リリーナの問いにエリーは口を開く。


「この場にて【魔王襲名の儀】を執り行う!!」



 ――【魔王襲名の儀】



 それはエリーの居城、暗黒宮殿にあるパンドラの間にて執り行う闇の神事。

 かつて魔王の称号を得た、歴代の魔王たちの中から適合する名前を対象者に与える儀式となる。

 名前を得るのと同時に、完全適合する対象者はその魔王のスキルや魔法を受け継ぐ覚醒魔王となる。

 ゆえに魔王襲名の条件を得ても、儀式を通して資格なしと判断されれば魔王名を得るが、強力なスキルや魔法を受け継ぐことはできない。それとは逆に強すぎて、その者の名前が魔王として襲名されるケースもある。


「この場でこやつを新たな魔王として覚醒させる。進化のエネルギーがあればこやつを死の淵から呼び戻すこともできよう。しかし、問題はヨルシアは魔王になることを望んでおらんかった。こやつの心がそれを受け入れるかじゃな。まぁ、受け入れなかったら殴ってでもこやつを魔王にするだけじゃがのう」

「ほんとですか!? ではエリー様!! さっそくパンドラの間へと転移を……」

 

 マリアがそう口にしようとすると、エリーがそれを遮るように話し始めた。


「無駄じゃ。転移してもすぐにパンドラの間は使えぬ。妾の魔力を祭壇に貯めておらぬからのう。祭壇を起動しようとしても最低でも一週間は必要じゃ。それにもはや移動する時間すら惜しい。この場で執り行うぞ」


 エリーがそう口にすると立体複合魔法陣がヨルシアを取り囲む。それを見たリリーナが慌てた口調でエリーを止め(・・)に入った。

 

「エリー様、おやめください!! パンドラの間で正式な手順で儀式を執り行わないと、マスターとエリー様の魂がリンク(・・・)してしまいます。万が一……万が一、失敗でもしたらエリー様は……、エリー様は……」


 リリーナの目尻から涙が溢れだす。


 死ぬかもしれない……。そう口に出したいが、ヨルシアを助けたいのも事実。

 しかし、万が一失敗してエリーの命を犠牲にしても良いのだろうか? そんな葛藤がリリーナの心の中に巡り処理できない感情が涙として溢れ出した。


「二人ともそう心配するでない。妾がそうしたいのじゃ。おぬしらもヨルシアのためにならその命を使わぬか? 愛する男を待っているだけが女ではない。そうじゃろう?」


 エリーが冗談めかしてそう言うが、二人の表情は真剣そのものだった。


「それに、こやつをこんなところで死なせてなるものか。リリーナ、マリア、妾の魔力だけでは足りぬ。二人とも手伝ってくれるか?」

「「はいっ!!」」


 そして、ヨルシアを包む立体複合魔法陣に三人の巨大な魔力が送り込まれる。


 こうして辺獄の地にて【魔王襲名の儀】が開始された。




本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます(。-`ω-)

感想、ご指摘、ブックマーク、評価、誤字報告をいただきました読者の皆様。心より御礼申し上げます。

明日も更新します!魔王襲名の儀です!

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