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第67話 ラストブレイブ

 辺獄の大地を黒い一筋の閃光が横断する。

 迸る光と共に、その大地は抉れ深い傷跡を残した。


 それを上空から見ていたカタリナたちの顔が一気に青ざめる。抉れらた大地の先にいる者の名を知っているからだ。


「カノープス様っ!!」


 カタリナの悲鳴に近いような叫びが辺りに木霊する。遠目から見ても、その威力のほどがうかがい知れるからだ。カタリナたちは黒い閃光が消えた先へと向かうために辺獄の赤い空を疾駆した。





 カタリナたちが、粉塵が立ち昇る先へと到着すると、そこには上半身の鎧が剥がれ落ち、背中が大きく灼け爛れたカノープスがうつ伏せで気を失っていた。


「「ひぃ………」」


 アリエッタとマリエッタから小さく悲鳴が漏れる。傷のエグさで悲鳴を上げたのではなく、竜の闘気を纏った勇者相手に、ここまでの傷を負わせた相手に畏怖したのだ。


「カノープス様っ!! しっかりしてくださいませ!!」


 カタリナがカノープスの背中に両手を添えて、極光魔法の一つ【精霊癒光(フェアリーライト)】を唱え治療を始める。しかし、カノープスが纏っていた竜の闘気の残滓がまだ残っており、カタリナの思い通りに治療は進まなかった。


 額に汗を滲ませ、残り少ない魔力で必死に治療をするカタリナ。頼りにしていた勇者が瀕死になっている現実を受けとめられず、ただ棒立ちになる少女二人。


 そんな三人の前に転移で一人の男が現れた。


 その男は右腕が肩からゴッソリとなくなり、カノープスの神聖剣アスカロンが胴体の半分まで埋まっていた。魔族の心臓ともいえるコアにこそ直撃はしてはいないが、それでもかなりの致命傷を負っている状態。


 そう、ヨルシアの魔法が放たれるあの一瞬で、回避不能と判断した勇者は、逆にヨルシアに対し必殺一撃を叩き込んでいた。そんなダメージを負った身体を引きずりながらもヨルシアは三人に近づき話かけた。


「ごほっ、ごほっ……。いってぇ……、ははっ。痛いってレベルじゃねえか。マジでシャレになんねーわ。ていうか、お前らそいつの仲間だろ?」


 カタリナは治療に専念しているため、キッ……とヨルシアを睨むだけだったが、アリエッタとマリエッタは小刻みに震えながらヨルシアの問いに小さく頷いた。


「じゃあさ、もうお前ら見逃してやるから、そいつ連れて帰ってくんねーかな? マジで色々としんどいわ。つか、面倒くさい。そのかわり二度とこのダンジョンにこないって約束しろ。それが条件だ」


 ヨルシアの突拍子のない提案に三人は、時が止まるほど驚嘆していた。誰も返答をしてこなかったのでヨルシアはそのまま話を続ける。


「俺さ、別にあんたらと好きこのんで戦いたいわけじゃないんだよね。仮にだけど、もし自分の家に侵入者があらわれて、いきなり家族や友人を襲ってきたらあんたらならどうする?」

「ふざけたことを!! ここがそうだと言うつもりですか!?」


 ヨルシアの問いにカタリナが声を荒げて叫んだ。


「あぁ、そうだよ。その通りだ。あんたらが俺たちのことをどう考えてるかなんて俺にはわからない。だけど、少なくともこのダンジョンは俺の家であり、眷属は俺の家族だ。あんたらの価値観で理由もなく襲われ殺されるなら、俺はどんな手を使ってでも家族を守る。このまま引いてくれるなら命まではとらない。それでも抵抗するなら、ガラじゃないけど命をかけてでもここは守る。さぁ、どうする?」


 カタリナは何も言い返せなかった。目の前にいる男にはちゃんとした信念があり、そして自分たちと同じように誰かを思いやる心があるからだ。今まで相対したどの魔族とも違う不思議な悪魔。男の前でカタリナは押し黙ってしまった。すると……。


「カ、タ……リナ……。耳を……かすな。あ……いつは……敵だ」


 瀕死の重傷を負った勇者が目を覚ます。身体がボロボロになりながらも、その目に宿す闘志は少しも衰えていなかった。カタリナはハッと喜ぶが、それもつかの間。上空から聖なる監獄へと閉じ込めたあの三人の魔族が目の前に降り立ったのだ。


「なっ、ヨルシアさん死にそうじゃないっすか!?」

「マスター!? 酷い傷……待ってて!! 今、治すから!!」

「ヨルシア様っ!? なんてお姿に……、あなたがた!! 覚悟はできてるんでしょうねっ!!」


 戦闘態勢に入るミッチーとブチギレマリアをヨルシアは制止させた。


「マリア、ミッチー少し待ってくれ。まだこいつらと話したいんだ」


 すると勇者がプルプルと震える手からヨルシアに向けて闘気弾を放つと、それをマリアが片手で簡単に弾き飛ばす。その顔はヨルシアが止めていなければ、今にも勇者へと襲いかかりそうな形相だった。


「おいおい……。まだやんのかよ? もうやめようぜ? つかさ、お前のこの剣抜けないんだけど? これどーなってんの? 早く抜いてさっさと帰ってくんねーか?」


 勇者の顔にも怒りが滲む。治療をするカタリナの手を振り払い、震えながらも立ち上がった。


「貴様……。そんな……悪魔の戯言を……信じるとでも思うのか!?」

「信じるさ。俺のスキル【契約(コントラクト)】を使ってもいい。知ってるだろ? このスキルのことを」


 悪魔の【契約(コントラクト)】。お互いの魂を掛けて任意で結ぶ契約。ゆえにその効力は強く破ることはできない。悪魔が約束事を絶対に守ると言われる所以だ。


「お互いに手を出さない。そう、不可侵条約だ。お前とこれを結ぶのなら文句ないだろ? それに今まで通り三階層までは採取、採掘はやっていいからさ。だからもう帰れ」

「貴様っ……、愚弄す……ゲホッ、ゴホッ……」


 勇者の口から黒い血の塊が吐き出される。内臓をやられているせいか上手く話せない。カタリナは勇者に寄り添い治療を続けた。


 そして、治療しながらもカタリナは瞬時にこの【契約】のメリットを理解した。物凄く、いや、自分たちにとって良すぎる条件である。魔王級の種族が住んでいるダンジョンを効率良く無力化し、さらにノーリスクで今まで通りに採取、採掘を行って利益を出すこともできる。


 ……悪くない。むしろこちらが追い込まれているのにもかかわらず相手からの妥協案。カタリナはチラリと勇者の方を見る。


 カタリナが勇者の守護者となり十数年。未だかつてここまで傷つき弱りきった勇者を見たことがあっただろうか? 強く、気高く、正義の塊と言っても過言ではない勇者。その勇者が目の前で今にも倒れそうなのだ。五歳年下の勇者を、幼少の頃から弟のように見てきたカタリナにとって、その姿は酷く心を締め付ける。


 結局最後にカタリナを動かしたのは、勇者への慈愛の心だった。ボロボロに傷ついた勇者を助けたい。その一心でカタリナはヨルシアの返答に応じた。


「本当にその条件を呑めば見逃してもらえるのですね?」

「あぁ、約束しよう。だからもうマジでお前らここにくるなよ?」

「………わかりました。その条件を呑みます。今後、お互い不可侵ということで、もう終わりに……」


 カタリナが最後まで言い切る前に言葉は止まった。



「な……んで……?」



 カタリナが振り返ると、そこには鬼の形相でカタリナを睨む勇者がいた。その手には血濡れた短剣を持ち、カタリナの背中を深く刺していた。



「最後の……最後で……、お前が……俺をぉぉ……裏切るなよっ!!」



 ――勇者たるもの見返りを求めてはならない。



 呪いに近いこの言葉。自分の正義が絶対と信じているカノープスにとって、カタリナがとった行動はもはや裏切りでしかなかった。


「かっ……カノー……プス……様……ちが……い……」

「もういい……裏切り者がしゃべるな。 【有終之闘法(ラストブレイブ)】ぅぅう!!」


 勇者の身体から青白い闘気が立ち昇る。そしてその闘気がカタリナの身体を包んだ。


 ――【有終之闘法(ラストブレイブ)


 仲間の力を吸収して自身の力へと変換する勇者スキル。本来の使い方であれば仲間と力を合わせて自信を強化をする技なのだが、使い方を間違えれば仲間の命を奪ってしまう諸刃の技。

 それをカノープスは瀕死のカタリナに対して容赦なく掛け続けた。……その愛憎を込めて。ずっと最後まで支えてくれると信じていた者の裏切り行為。到底彼には許せるものではなかった。


 そして、その凶行は後ろに控える魔導少女(マジカルスター)たちに及ぶ。カノープスは手のひらを二人へと向けスキルを発動させる。


「お前らの力もさっさと寄越せぇぇ!!」

「「きゃあっ!?」」


 先程のリリーナたちとの戦いで消耗しきった身体に、強制的なドレインがかかる。たまらず二人は地面へと膝をつき踠き苦しみ始めた。



「か……カノープス……様。お……やめ……ください」

「く……苦しい……ですぅ………」



 二人が苦悶の表情を浮かべるが決してやめようとしないカノープス。その顔には狂気が滲み仲間の命すら顧みない様子だった。みるみるカノープスへと魔力が集まっていく。



「……お前ぇ!! 仲間をなんだと思ってるんだっ!!」



 ヨルシアの背中に羽が少なくなった黒翼が顕現する。しかし、それは自身の魔力が尽きかけていることの証明でしかなかったが、そんなこともお構い無しに残り少ない魔力を左手に集めていく。


 そして、左腕を振りかぶり勇者の顔面へと拳を全力で叩き込んだ。


 ……が、しかしヨルシアの拳は勇者の障壁を破れずに止まられてしまう。バチバチと魔力がぶつかる音が辺りに広がる。だが、防がれてもなおヨルシアは叫ぶのをやめなかった。


「お前は、仲間を犠牲にしてまでそんなに戦いたいのかよっ!?」


 喜怒哀楽の【怒】が抜けているような性格のヨルシア。そのヨルシアが勇者に対してキレた。


「悪魔が何を偉そうにほざくっ!? 裏切り者を処罰しただけだ。それよりも貴様も既に限界ではないか。安心しろ……すぐに貴様らも殺してやるっ!!」


 カノープスがそう言うと、右手に闘気を纏いヨルシアを殴り返した。ただ、体力がないせいか足元がふらつき膝をつく。そして一呼吸置き、身につけてペンダントを引き千切り、天へと掲げた。


「偉大なる聖竜レグナードよ!! 古の盟約に従い顕現せよっ!! 捧げるは我の命!! 災禍を払い、悪を滅ぼせ!!」


 ペンダントから空へと向かい一筋の聖なる光が伸びる。すると辺獄に広がる真っ赤な空が、綺麗な白い雲の広がる空へとガラリと変わった。その雲の隙間から光の柱が出現しカノープスを包み込んだ。


「くっくっく……終わり……だ……クソ悪魔。お前ら……全員……道連れ……にして……やるよ。ははっ……はーはっはっはっはーー!!」


 そう言い残すとカノープスは光の球体となり、そのまま空へと昇っていった。


 恐ろしいほどの魔力が光の球体に集まっていく。辺獄の地に地鳴りが起こり、魔素の嵐が吹き荒れた。空は真っ二つに割れ、カノープスを包む球体が徐々に大きくなっていった。


 そして、その光は次第に大きな竜の形へと変わり、けたたましい咆哮と共に神々しい姿を見せる。




 ――グギュルァァァァァァァアーーー!!!




 俺のダンジョンに竜神の一柱【聖竜 レグナード】が降臨した。




本日もデビダンを最後まで読んでいただき誠にありがとうございます(。-`ω-)

感想、ご指摘、ブックマーク、評価、誤字報告をいただきました読者の皆様。心より御礼申し上げます。

三章が思った以上に長くなってしまった。まだまだ続きます。

よろしくどうぞ♪


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